2016年12月12日月曜日

『皆さま、ごきげんよう』(Chant d'hiver )


『皆さま、ごきげんよう』(Chant d'hiver)

始まりは、パリの革命直後の時代。
貴族(リュファス)が、ギロチンにかけられる。
次に描かれるのは、戦車に乗った兵士たち。民家から金品を奪い、主人のいないテーブルで料理をむさぼる。そして血だらけの手を洗って、洗礼を受ける・・・・・・字面で表すとまるでバイオレンス映画だ。しかし、これらの心が重くなるシーンを、イオセリアーニ監督は、映像の魔術で、軽いタッチのコメディに変えていく。
そして、舞台は現代のパリへ。武器商人という、裏の顔を持つアパートの管理人(リュファス)と、骸骨集めが大好きな人類学者(アミラン・アミラナシュヴィリ)は、不思議な縁で結ばれている。この2人の悪友をメインに、滑稽で愛すべき群像劇が描かれる。
イオセリアーニ・ワールドには、世の中でまかりとおっている弱者への痛い仕打ちは存在しない。移民も、ホームレスも、この映画の中では、追いやられることなく、自分たちの役割や居場所をちゃんと持つ。ごっつい顔したごろつきのおじさん(トニー・ガトリフ)も、こつこつと材料を集め、小さな家を建てる男(マチュー・アマルリック)も、「えらい人」と呼ばれる人々と同じように人格を持ち、堂々と生きている。

原題「Chant d'hiver」は、「冬の歌」という意味。イオセリアーニ監督の出身、グルジア(ジョージア)の古い歌のタイトルだ。
♪冬が来た。空は曇り、花はしおれる。それでも歌を歌ったっていいじゃないか♪

「私が観客と共に作り上げたいのは、称賛ではなく、共に抱ける友情なんだ」とイオセリアーニ監督は語る。映画館を出て「楽しかったなあ、もうひとりきりじゃない、お祝いに一杯やるとしよう!」そんな気持ちになってもらいたいと。
「まるで牢獄のように見える壁にも、美しい異国の植物や綺麗な女の子で一杯の、まるで地上の楽園みたいな不思議な庭に通じる扉が開いている」
「幸福は、それに目を向ける時間がなければ、行き違ってしまう」
そんなイオセリアーニ監督の哲学を、この映画から存分に感じ取ろう。(Mika Tanaka)

監督:オタール・イオセリアーニ
脚本:オタール・イオセリアーニ
製作:マルティーヌ・マリニャック
出演:リュファス  アミラン・アミラナシュヴィリ  ピエール・エテックス  マチュー・アマルリック  
トニー・ガトリフ  マルティーヌ・マリニャック  ほか

2015/原題: Chant d'hiver/フランス=ジョージア/ 121/フランス語/カラー

配給・宣伝:ビターズ・エンド
http://www.bitters.co.jp/gokigenyou/

20161217日(土)より
岩波ホールほか、全国順次公開


<本ブログ内リンク>

(イオセリアーニ監督が敬愛する1人が、ジャック・タチ監督です)

『ぼくの伯父さん』(ジャック・タチ監督)
http://filmsandmusiconmymind.blogspot.jp/2016/09/mon-oncle-monsieur-hulot.html

『プレイ・タイム』その1(ジャック・タチ監督)

http://filmsandmusiconmymind.blogspot.jp/2015/08/play-time.html

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