2026年6月19日金曜日

『急に具合が悪くなる』(英題:All of Suden)

  第79回カンヌ国際映画祭で話題となった作品の1つ『急に具合が悪くなる』。

今日から日本での上映が始まりました。


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『急に具合が悪くなる』(英題:All of Suden) 


 介護施設長として現場で奮闘するマリー=ルー(ヴィルジニー・エフィラ)と、末期がんで余命半年と告げられた舞台演出家の真理(岡本多緒)。主人公を演じる2人が第79回カンヌ国際映画祭で女優賞に輝き、大きな話題を呼んだ。

 国も違う、仕事も違う。接点がまったくなかった2人の女性がパリを訪れた自閉症の青年をきっかけに知り合い、ひと晩語り明かすことで絆を深めていく。「友情」とは少し違う気がする。しかし、フランス語の »amitié » という単語なら、すんなりとはまる気がするのだ。


 マリー=ルーが施設で取り入れている「ユマニチュード」は、1979年に誕生したフランス初のケアのメソッド。医療や介護の現場で、1人ひとりの尊厳や権利を守りながらケアを実践するという精神で、イヴ・ジネストとロゼット・マレスコッティという二人の人物によって開発された。

 真理がパリで発表した舞台「Da vicino nessuno è normale. 近づいてみれば、誰もまともな者はいない」に登場するフランコ・バザーリアは、イタリアの精神病院廃絶のために尽力した人物。

イタリアでは1978年に「バザーリア法」という法律が制定され、精神医療に大きな影響を及ぼした。


 認知症、精神病、自閉症、がん……この映画では、医療や福祉の現場で耳にするさまざまな言葉が「自由と平等」という言葉に包まれていくようで、映画を身終える頃には、胸のあたりがあたたかくなっていた。

 

 どんな状況の人であっても、生きている限り、尊厳を持ち続けることができる社会であってほしいと願う。



        

          © 2026 Cinéfrance Studios – Arte France Cinéma – Office Shirous – Bitters End – Heimatfilm –           Tarantula –Gapbusters – Same Player – Soudain JPN Partners




監督:濱口竜介

脚本:濱口竜介 ルディムナ玲亜

原作:宮野真生子・磯野真穂著『急に具合が悪くなる』(晶文社)

出演:ヴィルジニー・エフィラ 岡本多緒 長塚京三 黒崎煌代 ほか

フランス=日本=ドイツ=ベルギー合作/196/

配給:ビターズ・エンド


<公式サイト>

『急に具合が悪くなる』

 www.bitters.co.jp/soudain





2026年6月17日水曜日

『ボタニスト・植物を愛する少年』(英題:The Botanist) 『OXANA/裸の革命家・オクサナ』(英題:OXANA)

 『ボタニスト・植物を愛する少年』(英題:The Botanist

OXANA/裸の革命家・オクサナ』(英題:OXANA)



日々のニュース報道を見てもよくわからない。 

ドキュメンタリーを見るのはつらい。

そんな人でも、映画を観ることで世界を知ることはできるのではないだろうか。


今、国内で上映されている2作品を紹介したい。


『ボタニスト・植物を愛する少年』

舞台となるのは、中国・新疆(しんきょう)ウイグル地区の村。植物を愛するカザフ族の少年アルシンは、漢民族の少女メイユーに恋をする。どこまでも広がる草原と澄み切った青い空の下、子供たちの瑞々しい感性がはじける。


OXANA/裸の革命家・オクサナ』は、実在するウクライナ出身の芸術家であり活動家である、オクサナ・シャチコの人生に着想を得た映画。

2002年、ウクライナ西部フメリニツキー。アルコール依存症の父とそれを献身的に支える母のもと、イコン画を描きながら家計を支えていたオクサナは、理不尽な状況から逃れようと家を出る。やがて、フェミニストの活動団体 FEMENを結成、花冠を頭に飾り上半身を脱ぎ捨てて、女性の権利と自由のために立ち上がる。

 過激であることは、決して「強い」ということと一致するわけではない。1人の女性としての感性が、社会の波に飲まれ壊されていく過程が痛々しい。


地球は大きいのだろうか。小さいのだろうか。

いずれにしても、この星に生きる人間の感性に大きな違いはないと思う。

嬉しければ笑顔になる、悲しいと涙が出る。誰だって幸せになりたいし、誰かの役に立ちたいと思っていることにかわりはないのではないか。


2本の映画はそんなことを教えてくれる。





<公式サイト>


『ボタニスト 植物を愛する少年』

https://www.reallylikefilms.com/botanist


監督:ジン・イー


配給:リアリーライクフィルムズ



OXANA/裸の革命家・オクサナ』

https://cinema.starcat.co.jp/oxana/


監督:シャルレーヌ・ファヴィエ

配給:スターキャットアルバトロス・フィルム

2026年6月14日日曜日

『ヴィヴァルディと私』(原題:PRIMAVERA)

 『ヴィヴァルディと私』(原題:PRIMAVERA

監督・脚本:ダミアーノ・ミキレット


舞台はヴェネツィアに実在した孤児のための施設、ピエタ院。

1人の少女がキャンドルの灯りをたよりに、手紙を書いている。

「お母様……

彼女は毎晩、待ち続ける人へ手紙を書く。渡すことのない手紙を。

自分がどこから来たのか、なぜ存在しているのか、彼女は知る術を持たない。

彼女の名はチェチリア。自由と愛を渇望する少女だ。

やがて、ピエタ院に1人のヴァイオリン教師が赴任する。アントニオ・ヴィヴァルディと名乗るその人は、チェチリアが類稀なヴァイオリンの才能を秘めていることを見抜き、熱心に指導する。厳しくも充実した稽古の時間は、チェチリアに自信と心の自由を与えていく。理想的に見える師弟の関係は、あることがきっかけで思わぬ方向へと向かう……

ヴィヴァルディの美しい旋律にのって、愛と自由を渇望する人間の情念が描かれていく。18世紀初頭、女性の地位がいかに低かったか、そして孤児として生きることがどれだけ困難であったかを痛感する。300年ほどの時を経て、状況はある程度改善されただろうか。そうかもしれない。

ただ、変わらないこともある。親を知らない子供は、時代が変わったからといってその苦痛から解放されるわけではないという事実だ。

チェチリアのような苦しみを抱える子供が1人でも多く救われる時代でありますように。



             ©︎2025 INDIGO FILM, WARNER BROS. ENTERTAINMENT ITALIA, 
             MOANA FILMS




<公式サイト>


『ヴィヴァルディと私』

https://vivaldi.ayapro.ne.jp/


現在上映中


配給:彩プロ


2026年6月7日日曜日

『ママと神さまとシルヴィ・バルタン』(原題:Ma mère, Dieu et Sylvie Vartan)



『ママと神さまとシルヴィ・バルタン』
原題:Ma mère, Dieu et Sylvie Vartan)

 彼女は、太陽のような人。

 彼に生まれながらの病気があることを告げられても、決してあきらめない。

 その道にくわしい医師の噂を聞けば訪れ、神に祈りを捧げ、家で大切に見守り続けていた。歩けないことを理由に、彼が学校でいじめられることがないように……彼女の名はエステル。1963年、パリ13区の公営住宅で6人兄弟の末っ子として生まれたロランは、出征直後に「内反足」の診断を受ける。歩行を助けるための器具なしに歩くことはできない病気だ。母エステルの決断はこうだ。歩行器具をつけてしまったら一生普通に歩くことはできなくなるから、歩行器具なしで歩ける方法を探し出そうと。

 原作は、ロラン・ペレーズによる自伝的小説。シルヴィ・バルタン自身が本人役で出演している。彼女の数々のヒット曲に合わせて描かれる家族の物語は、心あたたまる美談ばかりではない。ロランの成長に伴い、エステルの行動は「母の愛」から「過干渉」へと変化していく。感謝と恨みと情と……本人たちにとってはとんでもないことだらけなのに笑えてしまうのは、やはり根底には愛があるからなのだろう。会話がない、交流がない、ケンカもない。それよりも、みっともなくてもぶつかって傷つきながら生きていく家族の方がずっといい。



         


          © 2024 GAUMONT – EGÉRIE PRODUCTIONS – 9492-2663 QUÉBEC INC. 

         (FILIALE DE CHRISTAL FILMS PRODUCTIONS INC.) – AMAZON MGM STUDIO





監督・脚本:ケン・スコット

原作: ロラン・ペレーズ

出演:レイラ・ベクティ、ジョナタン・コエン、ジョセフィーヌ・ジャピ、

   シルヴィ・バルタン


2024年|フランス・カナダ|102分|

配給:クロックワークス


<公式サイト>

https://klockworx.com/mamakami_movie



2026年4月29日水曜日

『ARCO/アルコ』 (2025年フランス)

 


ARCO/アルコ』  2025年フランス)

監督:ユーゴ・ビヤンヴニュ

製作:フェリックス・ド・ジブリ

   ソフィー・マス

   ナタリー・ポートマン



『やぶにらみの暴君』。

子供の頃、雑誌で目にした映画のタイトルだ。どんな内容の記事に書かれていたのか覚えてはいないけれど、それがフランスのアニメーションであること、自分が生まれる前に上映されて多くのアニメーション作家に影響を与えたことは、はっきりと覚えている。

 監督はポール・グリモー。この映画を思い出させてくれたのが、ユーゴ・ビヤンヴニュ監督だ。監督はこんな言葉を残している。


「高畑勲監督と宮﨑駿監督の作品に見られる人間の複雑な心理や高低差のある舞台には、ポール・グリモー監督『やぶにらみの暴君』の影響があります。(中略)るで浮世絵がジャポニスムの流行を生んだように、長い時間をかけて日仏相互のクリエイター間で影響が循環しているように思います」

(《ARCO 》プレス資料より抜粋)

 かつて、ユーゴ少年に大きな影響を与えたものの1つが、ジブリ作品だった。そして、ジブリ作品の中核であった高畑勲監督と宮﨑駿監督が影響を受けたのが、フランスのアニメーションだった。なんて美しくて、なんて優しい循環だろう。アイガモ農法のように、ヤギの草刈隊のように……こんな風に循環していけば、地球が傷つくことも少なくなるし、人と人とがぶつかり合うこともないだろうに、と思う。


ARCO/アルコ』は、手描きのセルアニメーション。詳しい人であれば、それがどれだけ時間や予算がかかる大変な作業かわかるだろう。1000個のデコレーションケーキを、工場の流れ作業ではなくパティシエが1つずつ作り上げていく、と例えれば少しわかりやすくなるかもしれない。

少女と少年の時空を超えた交流、滅びゆく地球、家族の愛……あたたかみのある手描きのタッチに包まれる心地よさをどうぞ。



                       ©2025 Remembers / mountainA / France 3 CINEMA



<本ブログ内リンク>


フランスの名作アニメ、ここにも。

『ディリリとパリの時間旅行』(Dilili à Paris)


https://filmsandmusiconmymind.blogspot.com/2019/08/dilili-paris.html




<公式サイト>

ARCO/アルコ』 

https://arco-movie.jp


配給:AMGエンタテインメント ハーク