2026年6月14日日曜日

『ヴィヴァルディと私』(原題:PRIMAVERA)

 『ヴィヴァルディと私』(原題:PRIMAVERA

監督・脚本:ダミアーノ・ミキレット


舞台はヴェネツィアに実在した孤児のための施設、ピエタ院。

1人の少女がキャンドルの灯りをたよりに、手紙を書いている。

「お母様……

彼女は毎晩、待ち続ける人へ手紙を書く。渡すことのない手紙を。

自分がどこから来たのか、なぜ存在しているのか、彼女は知る術を持たない。

彼女の名はチェチリア。自由と愛を渇望する少女だ。

やがて、ピエタ院に1人のヴァイオリン教師が赴任する。アントニオ・ヴィヴァルディと名乗るその人は、チェチリアが類稀なヴァイオリンの才能を秘めていることを見抜き、熱心に指導する。厳しくも充実した稽古の時間は、チェチリアに自信と心の自由を与えていく。理想的に見える師弟の関係は、あることがきっかけで思わぬ方向へと向かう……

ヴィヴァルディの美しい旋律にのって、愛と自由を渇望する人間の情念が描かれていく。18世紀初頭、女性の地位がいかに低かったか、そして孤児として生きることがどれだけ困難であったかを痛感する。300年ほどの時を経て、状況はある程度改善されただろうか。そうかもしれない。

ただ、変わらないこともある。親を知らない子供は、時代が変わったからといってその苦痛から解放されるわけではないという事実だ。

チェチリアのような苦しみを抱える子供が1人でも多く救われる時代でありますように。



             ©︎2025 INDIGO FILM, WARNER BROS. ENTERTAINMENT ITALIA, 
             MOANA FILMS




<公式サイト>


『ヴィヴァルディと私』

https://vivaldi.ayapro.ne.jp/


現在上映中


配給:彩プロ


2026年6月7日日曜日

『ママと神さまとシルヴィ・バルタン』(原題:Ma mère, Dieu et Sylvie Vartan)



『ママと神さまとシルヴィ・バルタン』
原題:Ma mère, Dieu et Sylvie Vartan)

 彼女は、太陽のような人。

 彼に生まれながらの病気があることを告げられても、決してあきらめない。

 その道にくわしい医師の噂を聞けば訪れ、神に祈りを捧げ、家で大切に見守り続けていた。歩けないことを理由に、彼が学校でいじめられることがないように……彼女の名はエステル。1963年、パリ13区の公営住宅で6人兄弟の末っ子として生まれたロランは、出征直後に「内反足」の診断を受ける。歩行を助けるための器具なしに歩くことはできない病気だ。母エステルの決断はこうだ。歩行器具をつけてしまったら一生普通に歩くことはできなくなるから、歩行器具なしで歩ける方法を探し出そうと。

 原作は、ロラン・ペレーズによる自伝的小説。シルヴィ・バルタン自身が本人役で出演している。彼女の数々のヒット曲に合わせて描かれる家族の物語は、心あたたまる美談ばかりではない。ロランの成長に伴い、エステルの行動は「母の愛」から「過干渉」へと変化していく。感謝と恨みと情と……本人たちにとってはとんでもないことだらけなのに笑えてしまうのは、やはり根底には愛があるからなのだろう。会話がない、交流がない、ケンカもない。それよりも、みっともなくてもぶつかって傷つきながら生きていく家族の方がずっといい。



         


          © 2024 GAUMONT – EGÉRIE PRODUCTIONS – 9492-2663 QUÉBEC INC. 

         (FILIALE DE CHRISTAL FILMS PRODUCTIONS INC.) – AMAZON MGM STUDIO





監督・脚本:ケン・スコット

原作: ロラン・ペレーズ

出演:レイラ・ベクティ、ジョナタン・コエン、ジョセフィーヌ・ジャピ、

   シルヴィ・バルタン


2024年|フランス・カナダ|102分|

配給:クロックワークス


<公式サイト>

https://klockworx.com/mamakami_movie



2026年4月29日水曜日

『ARCO/アルコ』 (2025年フランス)

 


ARCO/アルコ』  2025年フランス)

監督:ユーゴ・ビヤンヴニュ

製作:フェリックス・ド・ジブリ

   ソフィー・マス

   ナタリー・ポートマン



『やぶにらみの暴君』。

子供の頃、雑誌で目にした映画のタイトルだ。どんな内容の記事に書かれていたのか覚えてはいないけれど、それがフランスのアニメーションであること、自分が生まれる前に上映されて多くのアニメーション作家に影響を与えたことは、はっきりと覚えている。

 監督はポール・グリモー。この映画を思い出させてくれたのが、ユーゴ・ビヤンヴニュ監督だ。監督はこんな言葉を残している。


「高畑勲監督と宮﨑駿監督の作品に見られる人間の複雑な心理や高低差のある舞台には、ポール・グリモー監督『やぶにらみの暴君』の影響があります。(中略)るで浮世絵がジャポニスムの流行を生んだように、長い時間をかけて日仏相互のクリエイター間で影響が循環しているように思います」

(《ARCO 》プレス資料より抜粋)

 かつて、ユーゴ少年に大きな影響を与えたものの1つが、ジブリ作品だった。そして、ジブリ作品の中核であった高畑勲監督と宮﨑駿監督が影響を受けたのが、フランスのアニメーションだった。なんて美しくて、なんて優しい循環だろう。アイガモ農法のように、ヤギの草刈隊のように……こんな風に循環していけば、地球が傷つくことも少なくなるし、人と人とがぶつかり合うこともないだろうに、と思う。


ARCO/アルコ』は、手描きのセルアニメーション。詳しい人であれば、それがどれだけ時間や予算がかかる大変な作業かわかるだろう。1000個のデコレーションケーキを、工場の流れ作業ではなくパティシエが1つずつ作り上げていく、と例えれば少しわかりやすくなるかもしれない。

少女と少年の時空を超えた交流、滅びゆく地球、家族の愛……あたたかみのある手描きのタッチに包まれる心地よさをどうぞ。



                       ©2025 Remembers / mountainA / France 3 CINEMA



<本ブログ内リンク>


フランスの名作アニメ、ここにも。

『ディリリとパリの時間旅行』(Dilili à Paris)


https://filmsandmusiconmymind.blogspot.com/2019/08/dilili-paris.html




<公式サイト>

ARCO/アルコ』 

https://arco-movie.jp


配給:AMGエンタテインメント ハーク 









2026年4月16日木曜日

EEPMON展:デジタルアートが生み出す無限の世界 



今から3ヶ月ほど前に開催された、ダボス会議(世界経済フォーラム年次総会)が開催されてから、3ヶ月の月日が流れました。カナダのカーニー首相の演説が注目を浴びたことを覚えていらっしゃる方も少なくないと思います。ちょうどその頃、カナダ大使館の方から伺った話が印象に残っています。カーニー首相は、自国を「多元主義社会」(Pluralistic society)という言葉で表現されていたのだそうです。「多様性」(Diveresity) という言葉は、日本でもだいぶ馴染みのある言葉になってきた感があります。しかし「多元性」(Plurality) という言葉を聞く機会はまだ少ないのが現状です。

 カナダという国が持つ大きな可能性が「多元性」という言葉に秘められていることを、体で感じることができるのが、この展覧会です。


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EEPMON展:デジタルアートが生み出す無限の世界 


 なぜか、訪れるととても元気になれる。

 カナダ大使館の地下2階にある、高円宮記念ギャラリーで開催されている、EEPMON展。

EEPMON(イープモン)はアーティスト名。彼は中国をルーツに持ち、オタワで学んだ。

入口で孫悟空のような可愛いサルが迎えてくれるのは、彼が申年生まれだから。育った街を愛しているから、ルーツを大切にすることもできるのだろう。今回の作品は、渋谷と新宿を訪れたときのひらめきがモチーフとなって生まれた。東洋と西洋の文化を軽やかに行き来しながら紡ぎ出すEEPMONのデジタルアートは、明るさに満ちている。第二次世界大戦が終わり、21世紀となった今でも、この世界では戦争が続いている。でも、私たちには未来があって希望がある。そのことに気づかせてくれる時間を大切にしたい。



2026年1月 
高円宮記念ギャラリーにて撮影
 (c)Mika Tanaka



<展覧会概要>
 
EEPMON展:デジタルアートが生み出す無限の世界 
 
2026年5月12日(火) まで
10:00〜17:30(最終入場 17:00)
休館日:土曜日、日曜日 
(4月29日・5月6日は開館、5月4日・5月5日は閉館)


場所:カナダ大使館高円宮記念ギャラリー 
(東京都港区赤坂7-3-38 地下鉄「青山一丁目」駅より徒歩5分)
入場: 無料 
 
政府発行の写真付身分証明書(運転免許証、パスポート等)を持参のこと。


  
<カナダ大使館高円宮記念ギャラリーの公式サイト>


<カーニー首相の演説について>

カナダ大使館公式サイトで、ダボス会議での演説(日本語訳)の全文が記載されています。

「原則と現実 - カナダの進む道」
世界経済フォーラム年次総会 マーク・カーニー首相演説
(2026年1月20日 スイス、ダボス)



2026年3月8日日曜日

『ナースコール』(原題:HELDIN /英題:Late Shift)

 


3月8日は国際女性デー。

懸命に生きる女性の姿が、ここにも。

3月6日から、日本で公開が始まりました。


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『ナースコール』(原題:HELDIN /英題:Late Shift)


 舞台となるのは、スイスの州立病院。看護師のフロリア・リント(レオニー・ベネシュ)が働く外科病棟の患者たちは、年齢も出身もさまざまだ。遠く離れた国の家族を思いながら孤独を嘆く人もいれば、ベッドで付き添う家族たちに感謝しつつも対応に疲れる人もいる。フロリアが出勤すると、3人チームの1人が病欠であることを知らされる。ただでさえ忙しい中、次から次へと仕事が舞い込んでくる。ナースコールに応えるだけではない。忘れ物の問い合わせの電話も取らなければならないし、患者の心を鎮めるために歌を歌うこともある。思わぬ失敗をし、追い詰められたフロリアはとんでもない行動に出てしまう…… 

 監督、脚本は、女性の映画監督、ペトラ・フォルペ。ドイツの看護師マデリン・カルベラージュによる『問題は職業ではなく環境』に出会い、看護師たちを称える思いでこの映画を完成させた。キャスティングにこだわり、蘇生チームには本物の医師や看護師を起用した。

 主人公はフロリアだが、患者1人ひとりの人生に思いを馳せたとき、映画の奥行きの深さにはっとさせられる。膵がんの診断を受けた7号室のセヴェリン(ユルク・ブリュス)がもらした本音が、今でも忘れられない。


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 看護師不足は日本やスイスにとどまりません。

WHOによると、2030年までに地球上で1300万人の看護師が不足すると予測されています。




                                                  © 2025 Zodiac Pictures Ltd / MMC Zodiac GmbH




『ナースコール』

監督・脚本:ペトラ・フォルペ

2025年/スイス・ドイツ/92分/5.1ch/原題:HELDIN /英題:Late Shift

配給:スターキャットアルバトロス・フィルム

後援:在日スイス大使館




公式サイト


『ナースコール』

https://nursecall-movie.com/