2017年5月17日水曜日

『アムール、愛の法廷』(L'hermine )

社会派の映画がこんなにもロマンチックになれるなんて、何と素敵なことでしょう!
自由と平等の国、そして愛の国、フランスからの贈り物です。
デンマーク出身の女優、シセ・バベット・クヌッセンの透明感ある演技が素敵。

***********************************
『アムール、愛の法廷』(原題:L'hermine)


舞台はフランス北部の町、サントメール。裁判長のミシェル・ラシーヌ(ファブリス・ルキーニ)は、自分にも他人にも厳しく、10年以上の判決が多かったことから、「10年判事」と揶揄されている。風邪で体調を崩しながらも、いつものように法廷に立つミシェル。そこには、幼い娘を蹴って死亡させた罪に問われる男が被告人として立っていた。体調のせいか、周囲にもわかるほどの苛立ちを見せていたミシェルだが、ある陪審員の名前が呼ばれたとき、表情が一変する。ディット・ロ ランサン=コトレ(シセ・バベット・クヌッセン)・・・・・・6年前、ミシェルが交通事故に遭ったときに病院で手当を受けた麻酔医で、それ以来、ミシェルがずっと思いを寄せている女性だったからだ。



© 2015 Gaumont / Albertine Productions / Cinéfrance 1888 / France 2 Cinéma


法廷での審理、休憩中の陪審員たち、ミシェルとディットの会話、彼らの日常生活。そんな何気ないシーンが、静かに降る雪のように、しんしんと積もっていく。そして、真実が見えず、陪審員たちが評決に戸惑っているとき、陪審員室を訪れたミシェルは、さりげなくこんな助言をする。「正義の目的は、真実の追及ではない」—— 陪審員として、どんな責任を負い、どんな決断を下すべきなのか。彼らの良心をめざめさせるミシェルの言葉は、ゆっくりと穏やかだけれど、そこにはフランスという国の本質が凝縮されている。自由と平等の精神は、こんな風に人々の心の片隅で熟成し続けるのだろうか。
堅物裁判長の心をつかんだディットは、天使のような優しさで法廷を包み込んでいく。『十二人の怒れる男』のような社会派の法廷劇と、熟年の男女のラブストーリー。この2つの調和を感じたときは、まるでかぐわしいワインを口に含んだときのようで、ほろ酔いの心地よい余韻がある。
「良心と信念に従って公正な票を投じてください。偏見のない誠実な視点と柔軟な考え方を持つことが大切です・・・・・・」。法廷で、ミシェルが陪審員に静かに語りかける。それをじっとみつめるディット。ファブリス・ルキーニは、この映画で第75回ヴェネチア国際映画祭男優賞を受賞、デンマーク出身のシセ・バベット・クヌッセンは、第41回セザール賞の助演女優賞に輝いた。

ときおり映し出させる法廷画家の絵もまた、印象的。「フランス映画を好きになってよかった」、そんな気分にさせてくれる1本。

<本ブログ内リンク>

フランス映画祭2015 その2 『ボヴァリー夫人とパン屋さん』トークショー

(ファブリス・ルキーニ主演作品)
http://filmsandmusiconmymind.blogspot.jp/2015/07/2015.html


クリスチャン・ヴァンサン監督
© 2015 Gaumont / Albertine Productions / Cinéfrance 1888 / France 2 Cinéma


監督: クリスチャン・ヴァンサン
脚本: クリスチャン・ヴァンサン
製作: シドニー・デュマ  マチュー・タロ
撮影: ローラン・ダイアン
出演: ファブリス・ルキーニ  シセ・バベット・クヌッセン
     ディット・ロランサン=コトレ  コリンヌ・マシエロ  ミカエル・アビブル
    ジェニファー・デッカー  ほか

2015/原題: L'hermine/フランス/ 98/日本語字幕:大城哲郎

配給:  ココロヲ・動かす・映画社○


2017年5月11日木曜日

『パーソナル・ショッパー』(Sigrid Bouaziz talks about the film "Personal Shopper"

シグリッド・ブアジズさん、『パーソナル・ショッパー』を語る。
Sigrid Bouaziz talks about the film "Personal Shopper"


「主役を演じるより脇役を演じる方が難しい」
そう言われることがよくある。
確かに、どんなに主人公が輝いていても、他の登場人物に魅力がなければ、映画に深みがなくなってしまい、見ていてもときめかないという体験をお持ちの人も多いのではないだろうか?

5 12日から上映が始まる『パーソナルショッパー』で、確かな存在感を放つ脇役の一人が、シグリッド・ブアジズさんだ。クリステン・スチュワートが演じる主人公・モウリーンの義理の姉・ララを演じる。双子の兄を亡くしたモウリーン。そして、彼女と共通の大切な人を亡くしたララ。映画は、モウリーンの悲しみを軸に展開されていくが、伴侶を亡くしたララもまた、スクリーンに映し出されないところで悲しみを抱えている。

Sigrid Bouazizさん(2017年4月19日撮影)© Mika Tanaka

脇役を演じる難しさはどこにあるのか———。「シナリオに書かれていない部分を自分で想像しなければならないところ」とシグリッドさんは語る。
「主役にも脇役にも同じように1つの人生があります。だから、登場シーンが少ない人物は、登場しない部分の生活を、自分の想像力で埋めていかなければなりません」。

複数の俳優たちが懸命な姿勢で役に取り組むからこそ、1本の映画にずしりとした重みが出るのだろう。
オリヴィエ・アサイヤス監督は、その重要な任務のひとつをシグリッドさんに委ねた。
彼女がこの映画を出演した経緯は?
「監督から直接依頼がありました。カフェでアサイヤス監督と会って、シナリオを読んだとき、その多様な要素にものすごく感動したんです!」。トラディショナルな要素と、新しいテクノロジーを駆使したモダンな要素とが混在し、絵に描いたような現代っ子が主人公として登場するが、彼女は「孤独」という普遍的な苦しみをまとっている。キラキラしたモードの世界と、幽霊といったオカルトの世界が混在しているところも面白い。

ホラーやモードを題材にしながらも、哲学的な結末を導き出していくアサイヤス監督。現場では俳優たちにどのように接しているのだろうか?
「とても穏やかな方です。自分の作品に信念を持っているからでしょうか。柔軟性があり、俳優に要求する内容はとてもシンプルです」
シグリッドさんもそんな監督のもとで、のびやかにララを演じた。
また、主演・クリステン・スチュワートが醸し出す力強いエネルギーもまた、彼女の演技に大きな影響を与えたに違いない。

静かで落ち着いた印象のシグリッドさんだが、心の中は演じることへの情熱でいっぱいだ。数年前に「自分はジャンヌ・ダルクだ」と思い込む人物を演じたと聞いたとき、彼女の役者としてのはかり知れない可能性を見た気がした。(日本未公開作“Jeanne”/ ブノワ・ジャコ監督作品)

アサイヤス監督は前作『アクトレス〜女たちの舞台〜』で脇を固めたクリステン・スチュワートを本作で主役に抜擢した。シグリッド・ブアジズさんが、アサイヤス監督の作品で主役を演じる日も、遠くはないかもしれない。


2017年5月1日月曜日

フランスの音楽"Délinquante"(デランカント)

Céline(セリーヌ)Claire(クレール)・・・・・・Cで始まる2人のパワフルな女性デュオ、Délinquante(デランカント)。
ソメイヨシノから八重桜へと、ピンクの色彩が鮮やかに移り変わる東京で、彼女たちが日本での初演奏を披露した。初日は、渋谷のサラヴァ東京(SARAVAH東京)。
アコーディオンの音が鳴り始めたとたん、胸がキュンとしめつけられるような感覚になる。
それはまるでタイムマシンのようで、音にあわせて感受性だけがこども時代にタイムスリップするような感じだ。「どうしてうまくいかないの?どうしてすれ違ってしまうの?」。アコーディオンの音色が、そんなふうに聞こえてくる。その音色に、セリーヌとクレールの深みのあるフランス語が重なっていく…… ああ、なんてメランコリック。
でも、その根っこにあるのは、人と人との関わりの中にある、「希望」や「救い」だ。
“Au bout du tunnel, il y a toujours la lumiére (トンネルが終わると、必ず光がみえる)というフランスのことわざを思い出す。彼女たちが信じる先には、いつだって光がある。


彼女たちの音楽はもちろん、くるくる変わる豊かな表情もすてき。セリームもクレールも、小さなこどもを育てる母親という一面を持っているからだろうか。パワフルで、あったかくて、どっしりとした余韻があって、アコーディオンの哀愁に浸った後に、ほっとした安堵感が残る。

クレール(左)とセリーヌ(右)。
(2017419SARAVAH東京にて撮影)



<公式サイト>

Délinquante(デランカント) フランス語


<本ブログ内リンク>

『パリが愛した写真家 ロベール・ドアノー 永遠の3秒』その2
監督によるトークショー


このトークショーで、ドアノーの孫娘であるドルディル監督が、「祖父がピエール・バルー氏と親交があり、日本を訪れる話が出たことがある」と語っていました。この、ピエール・バルー(Pierre Barouh)氏が立ち上げたのが、SARAVAH(サラヴァ)という、フランス最古のインディレーベルです。そして、その精神を受け継ぎ、出演者たちが思い切り冒険をしながら発表できる場として誕生したのが、”SARAVAH東京です。