春と秋がなく、四季から二季へと移り変わろうとする1年が終わろうとしています。
神社の大切な木が伐採され、人々の憩いだったいちょう並木が失われようとする中、本当に守るべきものが何なのか、多くの人が気づき始め
ているのではないでしょうか。
12月22日に公開が始まったこの映画の主人公・平山は、命の芽吹きを愛おしむ人です。そして”KOMOREBI”(木漏れ日)を深く愛する人です。
彼のような生き方を貫くのが難しくても、彼の優しさをほんの少しでもなぞろうとする人が増えれば、変わりゆく地球も少しずつ救われていくのではないでしょうか。そう信じながら年を越したいと思います。
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『PERFECT DAYS』
(監督:ヴィム・ヴェンダース 2023年 / 日本)
「影踏み、しましょうか?」
初対面の2人の大人が夜、影を踏み合っている姿のなんと微笑ましいこと……そこには、消えゆく命という悲しみがある。そして、その悲しみを癒そうとする優しさがある。
ヴィム・ヴェンダース監督がこの映画の主人公に選んだ名前は「平山」。小津安二郎監督を敬愛する彼にとって、この名前には特別な意味がある。『東京物語』を知る人はその理由を容易に推測できることだろう。
平山(役所広司)はトイレの清掃員。毎朝、大好きな曲を録り集めたカセットテープを聴きながら清掃場所へと向かう。仕事を終えると銭湯へ。お気に入りの飲み屋で食事をし、寝る前にはテレビもラジオもない部屋で読書を楽しむ。劇中の会話は少ない。それゆえ、登場人物の発するひと言ひと言がくっきりとした跡を残す。
« The House of the Rising Sun »(朝日のあたる家)をうたう居酒屋のおかみ(石川さゆり)、ときおり平山の前に現れるホームレスのダンサー(田中泯)、久しぶりに会う姪っ子(中野有紗)……登場人物ひとりひとりの存在感。そこに漂う余韻。日本文化に心を寄せるヴィム・ヴェンダース監督の「間」(ま) の取り方に心地よさを覚える。
ヴェンダース監督が愛した”KOMOREBI”(木漏れ日)という日本語。そこには、木があって葉があって風があって音がある。そしてそこにあるもうひとつの「何か」に、どうか気づいてほしい。
2023年/124分/日本
監督 : ヴィム・ヴェンダース
脚本 : ヴィム・ヴェンダース、 高崎卓馬
出演 : 役所広司 柄本時生 中野有紗 アオイヤマダ 麻生祐未、
石川さゆり、田中泯 三浦友和
<公式サイト>
『PERFECT DAYS』