映画の中のエドガルドをじっと観察してください。
浮かび上がるのは、「ストックホルム症候群」という言葉です。
実在した彼の生涯を知ると、私は胸が苦しくなってしまいます。
キリスト教徒か否か、宗教を信仰しているか否かで、この映画の見方が大きく変わってくるような気がします。
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『エドガルド・モルターラ ある少年の数奇な運命』
(原題:Rapito / 2023年/ イタリア・フランス・ドイツ)
7歳を迎えようとする少年がいる。彼の名はエドガルド(エネア・サラ)。ユダヤ教徒の父と母、兄弟に囲まれて暮らしている。穏やかな幸せを感じるごく普通の家庭に見える。
1858年のイタリア・ボローニャ。ごく普通の少年エドガルドが、ある夜、突然連れ去られてしまう。そして連れていかれた先に待っていたのは、当時のローマ教皇、ピウス9世(パオロ・ピエロボン)だった。 愛する息子を取り戻そうと、半狂乱になって闘う父モモロ(ファウスト・ルッソ・アレジ)と母マリアンナ(バルバラ・ロンキ)。その愛を上回る不条理が、エドガルドを決して家族の元へ返そうとはしない。成長期の最も大切な時期を、彼はローマ教皇の支配下で過ごし、エドガルドは笑顔をなくしていく。そして、青年となったエドガルド(レオナルド・マルテーゼ)がとった行動とは……
映画の主人公、エドガルド・モルターラは実在の人物。ローマ教皇による連れ去り事件も本当にあった事件だ。そしてそれは古代や中世ではなく、19世紀、今から約166年程前のことと知ると、人間のあまりの愚かさに悲しみと怒りが込み上げてくる。
教会とは、何なのか? 教会にとって「家族」とは、取るに足らない存在なのか?
人を救うための宗教が、人を苦しめることになる。その矛盾はどこからやってくるのか?
かつて宗教の名のもとに、戦争が行われたことがある。そして今、日本では「宗教2世」という言葉が生まれ、宗教虐待が問題視されるようになった。
それでは、宗教を禁止すれば問題は解決するのか?
残念ながら、それでは解決にならないことを、エドガルドのその後の生き様が証明している。
映画を見終わった後も、ずっと心から消えない。7歳の少年が母親に「帰りたい」と泣き叫ぶ声と、その涙が。あのときから、彼の心の時計は止まってしまったかのようだ。あの子を救ってあげたい、と思った。
監督:マルコ・ベロッキオ
脚本:マルコ・ベロッキオ、スザンナ・ニッキャレッリ
出演:パオロ・ピエロボン、ファウスト・ルッソ・アレジ、バルバラ・ロンキ、エネア・サラ、
レオナルド・マルテーゼ
2023/イタリア語/134分
配給:ファインフィルムズ
4月26日(金)よりYEBISU GARDEN CINEMA、新宿シネマカリテ、ヒューマントラストシネマ有楽町他にてロードショー