2025年7月1日火曜日

『ルノワール』

 



 本編には、11歳の主人公フキが犯罪に巻き込まれるシーンがあります。

 加害者役、被害者役、どちらの役者にも相当のストレスがかかります。早川千絵監督は、インティマシー・コーディネーターの西山ももこさん、心理士の小林理恵さんと共に、入念な配慮を行ったそうです。このようなケアが業界にとって当たり前の時代となることを強く願います。

 

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『ルノワール』

監督:早川千絵



 映画が舞台 となるのは、1980年代の日本。高度経済成長期がひと段落し、バブル景気へと向かう頃だろうか。あれから40年近くの時が過ぎた。多くの変化があった。バブルがはじけ、就職氷河期という言葉が生まれ、電話は一家に1台から1人1台へと変わり、誰もが簡単にインターネットに接続できる時代になった。

 医療現場も変わった。本編の登場人物の台詞にあるように、この頃はがんの告知や余命宣告は、患者本人でなく家族に伝える時代だった(らしい)。しかし今は、本人に告知をするのが一般的ではないだろうか。

 日本の状況も世界の状況も大きく変わった40年。でも、と思う。表向きには発展を続けているはずの社会なのに、映画を見て、大切なところが進歩していないことに気づいた。

 人の心は普遍的。時代が変わっても人々孤独や寂しさを抱え続ける。それでも、そんな生きづらさが少しでも和らぐような社会へと向かっていくことができたはず、できるはずではないか。40年前、子供たち(大人も)の寂しさが行き着く先は伝言ダイヤルだった。そして今、伝言ダイヤルはSNSへと姿を変え、子供たちがさらされる危険はさらに大きくなった。

 主人公のフキは11歳。お父さんはがんで余命宣告を受けている。お母さんは、心にまったく余裕がない。死にゆく夫に寄り添い、子供を独りで育て上げなければならないプレッシャーを抱えながら職場に通うストレスは、どれほどのものだろうか。まだ親の庇護を必要とする年齢でありながら、それがかなわない状況……80年代というのは、社会全体が人の心に向き合うことをしなかった時代だったのかもしれない。現に、フキのような子供たちに寄り添う社会は、まだほど遠いところにある。 

 こんなふうに日本はまだまだ未熟な社会ではあるけれど、それでも、人と人とのダイレクトなつながりに希望があることを知る。英会話の先生がフキを抱きしめるシーンに、胸が締め付けられる。





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<本ブログ内リンク>


早川千絵監督も参加したオムニバス映画

『十年 Ten Years Japan

https://filmsandmusiconmymind.blogspot.com/2018/11/ten-years-japan.html



<コラボレーション企画>


映画『ルノワール』は、三菱一号館美術館『ルノワール×セザンヌモダンを拓いた 2 人の巨匠』との相互割引を実施しています。


映画の鑑賞券(半券)を提示すると、美術展の観覧料が割引(一般200円引き、大学生100円引き)となります。また、美術展の当日券を購入すると、映画の割引ポストカード(一般200円引き、大学生100円引き)が配布されます。


映画『ルノワール』

https://happinet-phantom.com/renoir/


配給:ハピネットファントム・スタジオ



『ルノワール×セザンヌモダンを拓いた 2 人の巨匠』

https://mimt.jp/ex/renoir-cezanne/