2017年12月8日金曜日

『アランフエスの麗しき日々』( Les beaux jours d'Aranjuez)

第30回東京国際映画祭の審査委員長として来日した俳優のトミー・リー・ジョーンズさん。
 「映画の定義とは?」との問いに、「お金です」と笑いながら答えたところがチャーミング。
 確かに、1作の映画を撮り終えて観客のもとに届くまでには、多くの資金が必要です。
 短期間、少人数、低予算でもこんな素敵な映画を完成させてしまったヴィム・ヴェンダース監督のことを、私は、魔法使いではないかと思ってしまうのです。


************************************************
『アランフエスの麗しき日々』(原題:Les beaux jours d'Aranjuez)


こんなに自由に、こんなに軽やかに1作の映画を撮ることができるなんて!
しがらみから解き放たれた映画は、すっきりとしていて、繊細で、斬新なのに懐かしい。  
ときに財源確保のために、ときに配給会社の気を引くために、映画監督は「自分の思い」以外の要素を映画にのせていかなければならない。でも、この映画は違う。「自分の思いを最後まで貫いて作り上げることができた初めての作品」と、ヴィム・ヴェンダース監督が語るように。


©2016-Alfama Films Production-Neue Road Movies

 ある夏の日。
 かつてサラ・ベルナールが住んだことのある、パリ郊外の家が舞台だ。
 部屋では作家らしき人物が、タイプライターの前で、愛と孤独に思いをめぐらせている。
 作家の視線の先には小さなテラスがあり、男女が何気ない会話を繰り広げる。静寂の中で木々がざわめき、庭師は黙々と自分の仕事をしている。この男女は、作家が創造した登場人物らしい。3Dカメラが、現実と創造のはざまを撮り続けていく。


©2016-Alfama Films Production-Neue Road Movies

 たった10日間という短い撮影期間で、いったいいくつの魔法が生まれただろうか。
 男女は意気投合するわけでもなく、言い争うこともなく、淡々と会話を続ける。それだけのことなのに、なぜこんなにも濃密な空間が生まれるんだろう。なんという信頼関係なんだろう。
 2人が共有しているのは、2人が発する言葉ではなくて、夏の匂いだったり、通り過ぎる飛行機や木々の葉擦れの音だったり、まるで止まっているかのようにぽっかりと浮かぶ時間の感覚なのかもしれない。


©2016-Alfama Films Production-Neue Road Movies



 部屋に置かれたジュークボックスから、ときおりBGMが流れる。冒頭の曲はルー・リードの『パーフェクト・デイ』だ。英語の歌とフランス語の会話とのコントラストが心地よい。映画がすすむにつれ、ジュークボックスの存在は大きくなり、ニック・ケイヴの『Into My Arms』が聞こえる頃、ヴェンダース監督は映画に素敵な魔法をかけてくれる。
 映画の最後を飾るセザンヌの絵画にヴェンダースが重ねた思いを、いつか聞いてみたいと思った。



©2016-Alfama Films Production-Neue Road Movies

<本ブログ内リンク>

ヴィム・ヴェンダース監督作品
『セバスチャン・サルガド / 地球へのラブレター』 (Le sel de la terre
http://filmsandmusiconmymind.blogspot.jp/2015/08/le-sel-de-la-terre.html


本作主演・レダ・カテブのもうひとつの主演映画
『永遠のジャンゴ』


監督の思いを大切にするため、低予算で完成させた映画
『メニルモンタン 2つの秋と3つの冬』(2 automnes 3 hivers

<公式サイト>
『アランフエスの麗しき日々』
http://aranjues.onlyhearts.co.jp




©2016-Alfama Films Production-Neue Road Movies
12月16日より、 YEBISU GARDEN CINEMAほか全国順次公開    

原作: ペーター・ハントケ
監督: ヴィム・ヴェンダース
出演: レダ・カティブ  ソフィー・セミン  イェンス・ハルツ  ニック・ケイブ  ほか

2017 年/フランス・ドイツ・ポルトガル/97 /
提供・配給: オンリー・ハーツ




0 件のコメント:

コメントを投稿