2020年8月21日金曜日

『海の上のピアニスト』4Kデジタル修復版&イタリア完全版 (原題: La leggenda del pianista sull'oceano)

  ダイヤモンド・プリンセス(DIAMOND PRINCESS)、わかしお(WAKASHIO)……
 2020年が明けてから、船をめぐる悲しいニュースが私たちの耳に入ってきます。これ以上、海の上で悲劇が起こりませんよう。
 
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『海の上のピアニスト』4Kデジタル修復版&イタリア完全版
(原題: La leggenda del pianista sull'oceano
監督・脚本:ジュゼッペ・トルナトーレ
原作:アレッサンドロ・バリッコ


© 1998 MEDUSA



 「イカれた世紀の最初の年、最初の月」に、船の機関士に拾われた男の子の赤ちゃん。彼は、1900(ナインティーン・ハンドレッド)と呼ばれ、船の乗組員たちの間で育った。ヴァージニアン号という巨大なゆりかごは、彼の成長と共に、彼の劇場へと変貌していく。彼の奏でるピアノの音は、バンドの演奏からどんどんはみ出し、鍵盤の上を舞う蝶のようにはばたく。3等食堂の片隅に置かれたアップライトピアノで演奏するときは、アメリカに向かう移民たちの心を癒す。

 一度も陸に上がったことがないのに、世界中を旅したのではないかと思うほど、彼の心には美しい数々の景色がファイリングされている。そのずばぬけた才能と豊かすぎる感性に寄り添うのは、のちにバンドミュージシャンとして乗船するトランペット奏者のマックスだ。嵐の夜、船酔いでフラフラになったマックスに声をかけた1900は、嵐の中を泳ぐようにストッパーを外したグランドピアノで演奏しながら、マックスと意気投合していく。
 陸に上がればその演奏でほしいものは何でも手に入れられるのに……
 1900が選んだ生き方、それは本当に彼を幸せにしたのだろうか?それとも、彼はただ臆病だっただけなのだろうか?

 20世紀の終わり頃、今から20年ほど前に初めてこの映画を観たときは、ずっとそう考えていた。彼の生き方がはがゆくてたまらなかった。そして今、170分の完全版を観て、そのときには見えなかったあることに気づいた。
 20世紀はイカれた世紀だった、確かにそうだった。戦争に次ぐ戦争、多くの人が無駄に命を落とした。
 そんなとき、1900は何をしていたか。
 彼はピアノを弾いていた。8歳になって初めてピアノを触れた瞬間から、彼はずっと神様からのメッセージを音楽にして、届け続けていた。長い船旅に退屈する人たちに刺激を与え、新天地へ向かう不安を抱える人たちには希望を与え、そして戦争で傷ついた人たちの心に光を灯していた。最後の最後まで。限りある命の灯が消えかける中、彼の音楽がどれだけ人の心を救ったことか。
 この映画と再会して、気づいた。1900は、自分の命や才能を無駄にしたのではなく、十二分に生き抜いたのだということを。

© 1998 MEDUSA
  

 幸せの形は人それぞれ。長く生きることも、大金持ちになることも、それが幸せのゴールとは限らない。1900はそんなことにはまったく興味を示さなかった。ただ、ひとつだけ思うことがある。彼はやっぱりさびしかったんじゃないか。誰かが強引に彼を陸に上げていたら、彼にはもう一つの人生があったんじゃないかと。船が港に着き、多くの人が下船していく中、1900が船から知らない人に電話をかけまくるシーンが、今でも心から離れない。

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この映画の作曲を手がけたエンニオ・モリコーネ氏(Ennio Morricone)が、先月の7月6日、天に召されました。映像に溢れ出る詩情にぴたりと寄り添う彼の音楽を、これからも決して忘れることはないでしょう。
 
  

<本ブログ内リンク>
ジュゼッペ・トルナトーレ監督作品
『ニュー・シネマ・パラダイス』( Nuovo Cinema Paradiso )


<公式サイト>
『海の上のピアニスト』4Kデジタル修復版&イタリア完全版

821()よりYEBISU GARDEN CINEMA
角川シネマ有楽町、アップリンク吉祥寺ほか全国順次公開
配給:シンカ



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