2025年8月8日金曜日

『アイム・スティル・ヒア』(原題:AINDA ESTOU AQUI 2024年、ブラジル/ フランス)

 


第二次世界大戦が終わってから80年経った今でも、各地で遺骨の収集は続いています。 

行方不明の家族の遺骨を探し続ける人もいる一方、引き取り手がいない遺骨もあると聞きます。

戦争はまだ終わっていないことを痛感します。


8月8日(金)から日本で公開が始まったこの映画もまた、家族の安否がわからず苦悩する家族を描いています。


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『アイム・スティル・ヒア』(原題:AINDA ESTOU AQUI 2024年、ブラジル/ フランス)

 監督:ウォルター・サレス


 家族との死別。

それは耐え難い苦しみだ。

では、家族が行方不明となってしまうことの苦しみはどうなのだろう。

遺体がないということは、生きているかもしれないという、ひとすじの希望が残されているということなのか……この映画が語るのは、希望ではなかった。そこにあるのは、「長い苦しみ」にほかならない。

 舞台は1970年代のブラジル。エウニセは、元国会議員の夫、ルーベンス・パイヴァと5人の子供たちと幸せに暮らしていた。しかし、スイス大使誘拐事件をきっかけに、軍事政権が暴走を始める。軍に連行されたまま消息を絶った夫を探すエウニセ。大黒柱を失った一家の生活は困窮する。エウニセ自身も連行され、尋問を受ける。釈放されたとき、きっと彼女の心の中に何かの種が蒔かれたのだろう。それはやがて芽を出し、そして陽の光に向かって育ち始める。カメラが映し出すエウニセの表情はいつも静かだ。大声で主張するわけではない。涙を流すわけでもない。しかし、寡黙な表情から沸々と湧き上がる怒りがはっきりと伝わってくる。

 幼少期にパイヴァ一家との交流があったウォルター・サレス監督は、自身の記憶を辿り、過去の出来事を追い、実話に基づく本作を撮り上げた。

 

 エウニセにとって大切なことは何だったか。

 夫のルーベンスが生きているのか死んでいるのか知ること?

 それだけではないような気がするのだ。

 彼女が勝ち取ったものの尊さ、その重みを映画そのものから感じ取ってほしいと思う。



           ©2024 VideoFilmes/RT Features/Globoplay/Conspiração/MACT Productions/
                 ARTE France Cinéma





<本ブログ内リンク>


昨年の今頃に書いた記事を思い出しました。


映画『風が吹くとき』(原題:When the Wind Blows / 1986年英)

https://filmsandmusiconmymind.blogspot.com/2024/08/when-wind-blows-1986.html



<公式サイト>

アイム・スティル・ヒア

https://klockworx.com/movies/imstillhere/

2025年8月6日水曜日

『アリ・バユアジ 瞑想の行為』

  80年前の今日、8月6日、広島に原爆が投下されました。

 そして、私たちは80回目の終戦記念日を迎えようとしています。

 80年経ったはずなのに、世界のどこかでまだ争いは続いています。

 争いを”なくす”ためにどうしたらよいか、私はいまだに答えをみつけることはできません。

でも、アリ・バユアジさんの展示を見ていると、”なくす”ことではなく”つくる”ことによって何か道が開けるのではないか、悪循環が好循環に変わっていくのではないかと思うのです。


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 『アリ・バユアジ  瞑想の行為』

シリーズ「Weaving The Ocean (海を織る)」より



         

           ©︎Mika Tanaka



 青山一丁目から徒歩約5分ほど。

 赤坂郵便局を右に少し先を歩いた先に、カナダ大使館がある。

 1階で身分証を提示し、セキュリティチェックを行った後、長いエスカレーターを上る。上り切ったところが4階(ロビー階)。視界の先に東京タワーが見える。右側のガラス張りの入口に入り、エレベーターで地下2階まで下ったところに、高円宮記念ギャラリーがある。

  猛烈な暑さから解放される、涼やかな空間。海の底にいるような、誰かに抱かれているような安堵感が広がっていく……


 経済的な危機に陥るバリ島。そこに住む人たちを支援する目的で、アーティストであるアリ・バユアジは、コロナ禍の2020年、あるアートプロジェクトを立ち上げた。マングローブに絡まったプラスチックのロープを活用し、現地の人たちが工芸品を制作するというものだ。存在価値を失い、漂流し、ゴミとしてうとまれ、海の生物の命を奪う毒と呼ばれてしまうプラスチックが、丁寧な手作業によって、美しく愛おしいものに生まれ変わる……この循環の響きは、まるで仏教の曼荼羅(まんだら)のよう。

 仏教といえば、ここで展示されている大きな布の作品は、袈裟からインスピレーションを得たそうだ。使い古されるほどに味の出るデニムの質感、それは21世紀の「糞掃衣(ふんぞうえ)」なのだろうか。




                 ©︎ Mika Tanaka




<展覧会概要>

 

『アリ・バユアジ  瞑想の行為

 

2025年9月5日(金) まで

10:00~17:30(最終入場 17:00)
休館日:土曜日、日曜日 

場所:カナダ大使館高円宮記念ギャラリー 

(東京都港区赤坂7-3-38 地下鉄「青山一丁目」駅より徒歩5分)
入場: 無料 

 

政府発行の写真付身分証明書(運転免許証、パスポート等)を持参のこと。

 

                                                 ©︎Mika Tanaka



 

カナダ大使館高円宮記念ギャラリーの公式サイト

https://www.international.gc.ca/country-pays/japan-japon/galerie-prince_takamado-gallery.aspx?lang=jpn