この映画を観て、昨年亡くなった女優・オリヴィア・ハッセーさんのことを思い出していました。
彼女もまた、10代の頃に『ロミオとジュリエット』(1968年、監督:フランコ・ゼフィレッリ)で主演を演じ、望まない裸体を撮影されました。ジュリエット役の彼女の美しさに心奪われたものの、乳房があらわになるシーンに驚き、子供心になぜか違和感を持ったのを今でも覚えています。2022年になって、彼女とロミオ役のレナード・ホワイティングさんが映画を制作したパラマウント・スタジオを訴えたと知り、長年の違和感の謎がやっと解けました。
誰かの犠牲のもとに成り立つ芸術はあってはならない。私はそう信じます。
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『タンゴの後で』(原題:AINDA ESTOU AQUI 2024年、ブラジル/ フランス)
監督·脚本: ジェシカ・パルー
『ラストタンゴ・イン・パリ』というタイトルは知っていた。
といっても、観たことはなかったし、あらすじを知っているわけでもなかった。
やがて、その映画が巨匠と呼ばれるベルナルド·ベルトルッチ監督の作品であることを知り、芸術的に高い評価を受けていることを知ることになる。その一方で、この映画によって俳優たちの人生が大きく狂っていったことも。
『ラストタンゴ・イン・パリ』が初主演となり、一気にトップスターとなったマリア・シュナイダーは、撮影中の暴力的な扱いによって長い苦しみを背負うことになる。
マリアが俳優を志すことになったいきさつ、『ラストタンゴ・イン・パリ』の撮影と衝撃の事件、薬物依存から俳優として立ち直るまでの過程を描くのが、この『タンゴの後で』だ。マリアを演じるのは、アナマリア・ヴァルトロメイ。そして加害者の1人となるマーロン·ブランド役はマット·ディロン。原作は、マリアの従姉妹にあたるヴァネッサ・シュナイダーの著書。(映画の中で、子供時代のヴァネッサが登場するシーンがある)。
パワハラ、セクハラ、ミソジニー……芸術至上主義という大義のもとで、どれだけ多くの人が虐げられてきたのだろう。アップで映し出されたマリアの涙を見ながら数多くのいけにえとなった人たちのことを思った。撮影当時のマリアは19歳。「マリアの本物の涙、本物の屈辱がほしかった」という理由で、ベルトルッチ監督が仕掛けたことは、決して許されるはずがない。
映画が撮影されたのは1970年代。今から50年以上も前のことだ。映画業界に限らず、多くの女性が社会で理不尽な思いをしていた時代だった。21世紀となり「#MeToo」という言葉が生まれ、広がり、やっと、告発が尊重され始めてきた。周囲の理解がまったくなかった1970年代に声を上げたマリア·シュナイダー。彼女には、屈辱をなかったこととし、ベルトルッチ監督に感謝しながら大スターとなったことを受け入れる道もあったのかもしれない。しかし、彼女は自分の尊厳を守る道を選んだ。どちらの道を選んでも、苦しみはついてまわる。自分の尊厳を守るために告発したとき、彼女の新しい苦しみが始まったのではないだろうか。その勇気を理解してもらえない苦しみ、軽視される苦しみ……だから、彼女に心を許せるパートナーが現れて、枕元に朝の明るい光が差し込むシーンを見ると、ほっとした気持ちになる。
<本ブログ内リンク>
映画業界の権力勾配による被害がここにも……
『アシスタント』(原題:The Assistant)
https://filmsandmusiconmymind.blogspot.com/2023/06/the-assistant.html
<公式サイト>
タンゴの後で
https://transformer.co.jp/m/afterthetango/
配給:トランスフォーマー
© LES FILMS DE MINA / STUDIO CANAL / MOTEUR S’IL VOUS PLAIT / FIN AOUT
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