2018年6月4日月曜日

『ファントム・スレッド』(Phantom Thread)


 この映画を観た後、『眺めのいい部屋』(”A Room with a View”)の、お茶目でイノセントなダニエル・デイ=ルイスに会いたくなりました。

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『ファントム・スレッド』(原題:Phantom Thread)

 舞台は1950年代のロンドン。
 冒頭で流れる音楽は”My Foolish Heart”(愚かなり我が心)だ。
 このとき、もし重厚なクラシック音楽が流れたら?
 それとも、テンポのはやいジャズだったら?
 あるいは、まったく音楽が流れなかったら?
 BGMによって、この映画はゴシックホラーにもなり得るし、ヒッチコック調のサスペンスにもなり得た。しかし、”My Foolish Heart”の優しいメロディが導く先には、妖しく甘美な恋愛映画があった。

©2017 Phantom Thread, LLC

 売れっ子のオートクチュールの仕立て屋、レイノルズ・ウッドコック。華麗なファッション界で賞賛を浴びるレイノルズは、自分がつくり上げた理想の日常の中で生きる。そして彼の恋人たちもまた、その日常の1アイテムとして、彼の日常の中で生きる。その小さな世界を乱さないよう、気遣いながら。しかし、アルマは違った。郊外のレストランでウェイトレスをしていた彼女は、若く、純粋で、健全かつ凶暴な野望を抱いていた。
 確固たる地位あるレイノルズが、未熟なアルマに翻弄されていくさまを見ていると、人間とは何と愚かな生き物だろうと思う。と同時に、人間の愛おしさが透けるように見えてくる。

 この映画を撮り終えた後、主演のダニエル・デイ=ルイスは、説明のできない悲しみに襲われている自分に気づき、俳優業の引退を決意したという。この映画の現場でいったい彼は何を感じ取ったのだろう。
 レイノルズを演じる彼の繊細な表情から、私たちはどんな答えをみつけられるだろう。



<本ブログ内リンク>

 ダニエル・デイ=ルイスは、かつてフィレンツェで靴職人をめざしていたことがあります。欧米人の靴への思いは、日本に住む私たちにははかり知れないものかもしれません。2017年に日本で公開されたのがこの映画です。

『ジュリーと恋と靴工場』(Sur quel pied danser )
http://filmsandmusiconmymind.blogspot.com/2017/09/sur-quel-pied-danser.html


<公式サイト>

『ファントム・スレッド』

監督・脚本:ポール・トーマス・アンダーソン
出演:ダニエル・デイ=ルイス ヴィッキー・クリープス
   レスリー・マンヴィル

音楽:ジョニー・グリーンウッド

2017 年/アメリカ/130 分/カラー/ビスタ ユニバーサル作品 配給:ビターズ・エンド/パルコ






2018年5月28日月曜日

『男と女、モントーク岬で』(Return to Montauk)

この映画を観ていたら、エドワード・ホッパーの絵をむしょうに見たくなりました。

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『男と女、モントーク岬で』(原題:Return to Montauk)

  明け方の港、夕暮れの商店街、湖のほとり、川縁の土手、満開の桜、炎天下のひまわり畑、雪の降りしきる修道院……
 この地球上に存在する、数えきれないほどの美しい景色。
 その景色はときとして「鍵」のように作用することがある。
 心の奥底に沈めたはずのパンドラの箱の鍵だ。
 自分の箱にぴたりと合う鍵(=景色)に遭遇すると、眠っていた感情が一気に呼び覚まされてしまう。涙がとめどもなく流れる人もいれば、甘酸っぱい心地よさに満たされる人もいる。

©Ziegler Film/Franziska Strauss

 モントーク (Montauk)。
 ネイティブ・アメリカンの言葉で「地の果て」を意味するこの場所もまた、人々の「鍵」となる景色のひとつなのだろう。
 ニューヨーク・マンハッタンから約180kmの距離にある、ロングアイランドの最東端にある岬、モントーク。そこで、かつて恋人同士だった2人が何十年かの歳月を経て再会する。そして、思い出の場所、モントークへ向かう。女の職業は弁護士。男の職業は小説家。クールでいなければ生きていけなかった女と、思い出と夢の中で自分の位置を探し続けた男。ぽつんとたたずむ灯台とどこまでも続く海岸線が、さりげなく2人の間にある真実のヴェールをはがしていく。

 人生は思っているほど長くはない。
 だから、こう思う。
 恥ずかしくてもいい、情けなくてもいい。過去の恋人の居場所を探し当て、門前払いされるのを覚悟で昔の出来事を掘り起こすような行動に出るような生き方もありじゃないだろうか。こんな無粋なことをして、自分の愚かさと浅はかさを知るのもいいんじゃないだろうか、と。

<本ブログ内リンク>

この映画観の主人公も小説家。そして、ある女性と再会します。

『ビフォア・サンセット』 (BEFORE SUNSET)


<公式サイト>

『男と女、モントーク岬で』

監督:フォルカー・シュレンドルフ
出演:ステラン・スカルスガルド ニーナ・ホス   
ドイツ・フランス・アイルランド映画/英語・フランス語/シネスコ/2017 年/106 分

配給:アルバトロス・フィルム

5月26日(土)、ヒューマントラストシネマ有楽町、新宿武蔵野館ほか全国ロードショー