フランスの郊外にある団地(= バンリュー/ Banlieue)に住む人々の、ほのぼのとした心の通い合いが描かれるこの映画の中で、もっともシュールで、もっともピュアな存在が、このエピソードに登場する宇宙飛行士です。
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『アスファルト』その3(原題:Asphalte)
バンリューで繰り広げられる異なる3つの物語の、もっともインパクトが強いのが、アルジェリア系移民のマダム・ハミダ(タサディット・マンディ)と、宇宙飛行士・ジョン・マッケンジー(マイケル・ピット)のエピソード。
宇宙からアメリカのNASAに帰還するはずだったロケットが、なぜかフランス郊外の団地に着陸してしまう。自分がどこにいるかもわからず、「電話を貸してほしい」とドアを叩くと、そこで現れたのがマダム・ハミダだった。
ジョンがNASAに電話にかけると、機械的な声が「認証コードは?」と問う。そのときにジョンの表情と、ロマンチックな認証コードが、とてもチャーミング。電話口で流れるNASAの保留音に、クスリと笑ってしまう。
フランス語がわからないジョンと、英語がわからないマダム・ハミダ……ジェスチャーを交え、どうにかこうにかコミュニケーションをとり、数日間の不思議な同居生活が始まった。マダム・ハミダは、長い間留守にしている息子の服をジョンに貸し、息子の部屋をジョンに案内する。手料理のクスクスをふるまうマダム・ハミダと、大きな澄んだ目で彼女の事情を知ろうとするジョン。少しずつ、少しずつ、心が通じあっていく過程が、ああこれが「切ないコメディ」なのかなと、思った。
© 2015 La Camera Deluxe - Maje Productions - Single Man Productions - Jack Stern Productions - Emotions Films UK - Movie Pictures - Film Factory |
マダム・ハミダはきっと、別れた後もずっと幸せな気持ちで暮らすことができる人のような気がする。「別れたことを悲しむ」より「出会えたことを喜ぶ」ことができる人だと思う。きっと彼女は、ヘリコプターが去った後も淡々としていて、ジョンからもらった記念の品を見るたびに微笑むことができる、そんな人なのかなと。
アメリカとフランス。この2つの国がこんなふうにほのぼのとした関係でいてくれたら、世界の争いや貧困は、もっと少なくなるのではないかなと、そんな希望を描きながら見終えた。
淡々と流れるピアノ曲、ヘリコプターの音、そして最後のシーンで映し出される「魔の音」の正体……映像も詩的だけれど、「音」の使い方がもっと詩的で、今でもずっと心に余韻が残っている。
『アスファルト』その2
監督: サミュエル・ベンシェトリ
脚本:サミュエル・ベンシェトリ
出演:イザベル・ユペール ジュール・ベンシェトリ
バレリア・ブルーニ・テデスキ ギュスタブ・ケルバン
マイケル・ピット タサディット・マンディ ほか
配給:ミモザフィルムズ
2015年/原題: Asphalte/100分/フランス語
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