ル・グロ・オルテイユ『図書館司書くん』
2024年8月8日。世田谷パブリックシアターの”シアタートラム”は、こどもたちの笑い声で溢れた。カナダ・ケベック州から初来日した”ル・グロ・オルテイユ”の公演初日のことだ。出演者はイポリットただ1人。彼が開館間近の準備を整える図書館司書を演じる。1人、といっても、舞台の袖から彼を叱責する上司の声が聞こえるし、彼が夢中になって本を読んでいるときは、ナレーターがしっかりと私たちにも読み聞かせてくれるから、まったくの1人ではないのだろう。マルセル・マルソーのような動きの美しさはあるけれど、しんと静まり返っているわけではない。が〜まるちょばのパフォーマンスがあえていえば近いのかもしれない。が、イポリットは彼以外の何者でもない。カエデの葉っぱ色のベストを着て赤い靴を履いた、ケベックのほのぼのとした空気を夏休みまっさかりの子供たちに運んできてくれた。
パントマイム、ポールダンス、アクロバット、ジャグリング……1つの舞台の中ではじける技の数々。手品と違って種も仕掛けもない。そこにあるのは、肉体を極限にまで鍛え上げたパフォーマーの努力とセンスだけ。どれもこれも軽やかに、愉快に演じるイポリット。何よりも嬉しいのは、わずかなセリフをすべて日本語で演じていることだ。
「バンソウコウ」「ナンパ」「ザンネン」……意訳か誤訳か、正しすぎる訳か、慣れない発音で一言ひとこと発しているさまもまた、芸となって光る。
ステージそのものが素敵だった、それだけではない。
静かな図書館が、実は夢でいっぱいの場所であること。
地味に見える図書館司書が、実はとってもわくわくする仕事だということ。
そのことに気づいた子供たち(そして大人たち)はきっと、これからの人生がもっともっと豊かになっていくに違いないと思う。
【演出】マリー=エレーヌ・ダムール
【出演】イポリット
【声の出演+日本語指導】山積隆之介
(2024年8月8日撮影)
ル・グロ・オルテイユ『図書館司書くん』
は、2024年8月8日から8月10日まで、
世田谷パブリックシアターで上演されました。
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