2025年9月15日月曜日

『男と女 -クロニクルズ-』(Un grand cadeau du Claude Lelouch)

 今日は敬老の日。

2019年の『男と女 人生最良の日々』を撮り終えた頃、クロード・ルルーシュ監督は81歳、主演のジャン=ルイ・トランティニャンは88歳、アヌーク・エーメは87歳でした。

記憶を失いかけ、車椅子の生活になっても恋はできる。

後悔があってもやり直すことができる。

そんなことを教えてくれる映画です。


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『男と女 -クロニクルズ-  

監督:クロード·ルルーシュ


 限られた少ない予算で製作した1966年の『男と女』(原題:Un homme et une femme)。そして、高齢となった主演俳優2人の体調を気遣いながらスピーディーに撮影を行った2019年の『男と女 人生最良の日々』(原題:Les plus belles annees d'une vie)。数々の制限を強みに変え、クロード・ルルーシュ監督は恋人たちの出会いと晩年を美しく描き切った。

 アンヌ役のアヌーク·エーメ、ジャン·ルイ役のジャン=ルイ·トランティニャンはもちろんのこと、2人の子供たちも同じ俳優が演じている。

「こんなこと、日本(の映画)でありえますか!?」と、フランス映画祭2019の上映で岸恵子さんがはずむ声で語っていたのがなつかしい。

 『男と女 人生最良の日々』で印象に残っているのは、早朝のパリを車で飛ばすシーン。愛する人に会うために。パリの街並みがドライバーの目線で流れる、それだけなのになぜこんなにも切なくて愛おしいのだろう。映画の魔法に心吸い寄せられたのを今でも覚えている。この映像は、同監督による短編ドキュメンタリー『ランデヴー』(原題:C'etait un rendez-vous、1976年)から再編集したもの。今回の特集上映で『男と女』の上映とセットで『ランデヴー』を観ることができるのがとても嬉しい。


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ジャン=ルイ・トランティニャンは、2022年、天に召されました。

最後の最後まで、俳優として生きた人でした。



<本ブログ内リンク>

フランス映画祭2019を終えて

https://filmsandmusiconmymind.blogspot.com/2019/07/2019.html


<公式サイト>

『男と女 -クロニクルズ-


https://www.manandwoman-chronicles.com/


2025年9月13日土曜日

『ファンファーレ!ふたつの音』 (原題:En fanfare )

  モーリス・ラヴェルの人生を描いた映画『ボレロ 永遠の旋律』が、2024年日本で公開されました。そして同年日本公開の『パリのちいさなオーケストラ』でも、感動的なラストを飾りました。この『ファンファーレ!ふたつの音』でも「ボレロ」の旋律が希望と救いを届けれくれます。


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『ファンファーレ!ふたつの音』 (原題:En fanfare  2024年 フランス)

監督·脚本: エマニュエル·クールコル 



               © 2024 – AGAT Films & Cie – France 2 Cinéma 


 幸せって、何だろう?

映画を観ながら、そんなことを考えた。

ティボ(バンジャマン·ラヴェルネ)とジミー(ピエール·ロタン)。

2人は自分たちが兄弟だと知ることで、前よりも幸せになったのだろうか?

知らないままでいた方が、幸せだったのだろうか?

映画は、世界で活躍する指揮者となったティボ(バンジャマン·ラヴェルネ)が仕事中に倒れるところから始まる。白血病だ。骨髄移植のため、妹と自分のDNA検査をしたとき、自分が養子であり、実の弟がいることを知る。フランス北部の小さな町で暮らすジミー(ピエール·ロタン)だ。

 実の母と暮らしていたジミーは5歳の頃孤児となり、知人の夫婦の元で育った。離婚した妻との間に娘が1人、学生食堂の厨房で働き、地元の吹奏楽団でトロンボーンを吹くジミー。ティボは生きるために、骨髄移植のためにジミーを訪ねることに。

 まったく違う環境で育ち、違う道へ進んだ兄弟の共通点、それが「音楽」だ。ジミーは絶対音感を持ちながら、その才能を開花させきれずに大人になっていた。ティボは、名声を手に入れるためにきっと多くのことを犠牲にした。ある日突然知ってしまった「兄弟」という関係は、幸せが何かを考える引き金でもあった。

「マシュマロのように柔らかすぎる、心地よいだけの映画には抵抗がある」と語るエマニュエル・クールコル監督は、その言葉の通り決して甘くはない結末を用意する。だから、映画が終わってからも登場人物たちの人生が続いていくようなリアリティがある。

 最後まで映画を観てこう感じた。

「知る」ことは決して不幸ではないということ。

兄弟の絆は、悩み苦しむ以上の何かを届けてくれるということ。

クラシックの名曲の数々、ため息の出るようなジャズ、人生の喜びや悲しみを歌い上げるダリダやシャルル·アズナヴール。そして、ラストシーンのラヴェル……ティボもジミーも大丈夫。彼らにあるのは血のつながりだけではない。「音楽」というもっと確かな絆があるから。

 







<本ブログ内リンク>

『ボレロ 永遠の旋律』(原題:BOLERO)

https://filmsandmusiconmymind.blogspot.com/2024/08/bolero.html




<公式サイト>

『ファンファーレ!ふたつの音』

https://movies.shochiku.co.jp/enfanfare/



配給:松竹



2025年9月7日日曜日

『タンゴの後で』(原題:AINDA ESTOU AQUI )

 この映画を観て、昨年亡くなった女優・オリヴィア・ハッセーさんのことを思い出していました。

彼女もまた、10代の頃に『ロミオとジュリエット』(1968年、監督:フランコ・ゼフィレッリ)で主演を演じ、望まない裸体を撮影されました。ジュリエット役の彼女の美しさに心奪われたものの、乳房があらわになるシーンに驚き、子供心になぜか違和感を持ったのを今でも覚えています。2022年になって、彼女とロミオ役のレナード・ホワイティングさんが映画を制作したパラマウント・スタジオを訴えたと知り、長年の違和感の謎がやっと解けました。


 誰かの犠牲のもとに成り立つ芸術はあってはならない。私はそう信じます。


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『タンゴの後で』(原題:AINDA ESTOU AQUI 2024年、ブラジル/ フランス)

監督·脚本: ジェシカ・パルー


 

『ラストタンゴ・イン・パリ』というタイトルは知っていた。

といっても、観たことはなかったし、あらすじを知っているわけでもなかった。

やがて、その映画が巨匠と呼ばれるベルナルド·ベルトルッチ監督の作品であることを知り、芸術的に高い評価を受けていることを知ることになる。その一方で、この映画によって俳優たちの人生が大きく狂っていったことも。


 『ラストタンゴ・イン・パリ』が初主演となり、一気にトップスターとなったマリア・シュナイダーは、撮影中の暴力的な扱いによって長い苦しみを背負うことになる。

マリアが俳優を志すことになったいきさつ、『ラストタンゴ・イン・パリ』の撮影と衝撃の事件、薬物依存から俳優として立ち直るまでの過程を描くのが、この『タンゴの後で』だ。マリアを演じるのは、アナマリア・ヴァルトロメイ。そして加害者の1人となるマーロン·ブランド役はマット·ディロン。原作は、マリアの従姉妹にあたるヴァネッサ・シュナイダーの著書。(映画の中で、子供時代のヴァネッサが登場するシーンがある)。

  パワハラ、セクハラ、ミソジニー……芸術至上主義という大義のもとで、どれだけ多くの人が虐げられてきたのだろう。アップで映し出されたマリアの涙を見ながら数多くのいけにえとなった人たちのことを思った。撮影当時のマリアは19歳。「マリアの本物の涙、本物の屈辱がほしかった」という理由で、ベルトルッチ監督が仕掛けたことは、決して許されるはずがない。



 映画が撮影されたのは1970年代。今から50年以上も前のことだ。映画業界に限らず、多くの女性が社会で理不尽な思いをしていた時代だった。21世紀となり「#MeToo」という言葉が生まれ、広がり、やっと、告発が尊重され始めてきた。周囲の理解がまったくなかった1970年代に声を上げたマリア·シュナイダー。彼女には、屈辱をなかったこととし、ベルトルッチ監督に感謝しながら大スターとなったことを受け入れる道もあったのかもしれない。しかし、彼女は自分の尊厳を守る道を選んだ。どちらの道を選んでも、苦しみはついてまわる。自分の尊厳を守るために告発したとき、彼女の新しい苦しみが始まったのではないだろうか。その勇気を理解してもらえない苦しみ、軽視される苦しみ……だから、彼女に心を許せるパートナーが現れて、枕元に朝の明るい光が差し込むシーンを見ると、ほっとした気持ちになる。





<本ブログ内リンク>


映画業界の権力勾配による被害がここにも……


『アシスタント』(原題:The Assistant)

https://filmsandmusiconmymind.blogspot.com/2023/06/the-assistant.html




<公式サイト>


タンゴの後で

https://transformer.co.jp/m/afterthetango/


配給:トランスフォーマー 


© LES FILMS DE MINA / STUDIO CANAL / MOTEUR S’IL VOUS PLAIT / FIN AOUT