2016年2月25日木曜日

第87回アカデミー賞を振り返る その2

第87回(2015年)アカデミー賞を振り返る その2

〜ジュリー・アンドリュースからレディーガガへ〜
 
 第87回アカデミー賞授賞式。
 真っ白なドレスに身を包んだレディー・ガガが歌ったのは、映画『サウンド・オブ・ミュージック』のメドレー。『サウンド・オブ・ミュージック』〜『私のお気に入り』〜『エーデルワイス』〜『すべての山に登れ』と、澄んだ山の空気を抜ける風のように、彼女の声が会場に響き渡った。本作の主人公・マリアをジュリー・アンドリュースが演じたのは、ちょうど今のレディーガガの年の頃だったのを思い出す。
 歌が終わると、プレゼンターとして登場したのが、ジュリー・アンドリュース。次の世代に思いを託すようにガガと熱いハグを交わすシーンで、ほろりとなってしまった。
 
 今年(2015年)は『サウンド・オブ・ミュージック』の製作50周年にあたる。オーストリアを舞台に家族の絆を描いたミュージカルは多くの人の心をつかむ。そして、第38回アカデミー賞5部門受賞の栄誉に輝いた。

 あれから50年。
 反戦の思いを清潔感あふれる映像で表現した名作は、21世紀の私たちになお、多くを語る。「家族の絆」を渇望する人々の心と、それを育んでいく姿。だからこの映画はいつ観ても、あたたかい愛にあふれている。

そんな『サウンド・オブ・ミュージック』のナンバーをレディーガガが歌ったことが、授賞式により深みのある色を添えたような気がした。いじめ、LGBT、貧困、レイプ……ガガもまた、虐げられた人たちへまなざしを向けるひとりだから。




<本ブログ内リンク>

『サウンド・オブ・ミュージック』その1
http://filmsandmusiconmymind.blogspot.jp/2016/02/sound-of-music.html

第87回アカデミー賞を振り返る その1
『虐げられた人たちへのまなざし』

http://filmsandmusiconmymind.blogspot.jp/2016/02/872015.html

『サウンド・オブ・ミュージック』( The Sound of Music)

第88回アカデミー賞受賞式が、2016年2月28日(現地時間)に始まります。
昨年(2015年)の受賞式では、ジュリー・アンドリュースがステージでのびやかな歌声を届けてくれました。『サウンド・オブ・ミュージック』受賞から、ちょうど50年が経った節目の式でした。

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『サウンド・オブ・ミュージック』( 原題:The Sound of Music) その1
家族そろって観たい、ミュージカルの最高峰
〜第38回(1965年)米アカデミー賞作品賞、監督賞他、計5門受賞〜

 1938年、オーストリア・ザルツブルク。アルプスの山々を背景にのびのびと歌うマリア(ジュリー・アンドリュース)の登場で物語は幕を開ける。表題曲をはじめ、「私のお気に入り」、「ドレミの歌」、「エーデルワイス」、「すべての山に登れ」等々、全編を彩る歌の数々は映画を知らない人でもどこかで耳にしたことがあることだろう。

 マリアの爽やかな笑顔と清潔な歌声、無邪気でやんちゃな子供たち、潔く信念を貫く父親ゲオルク(クリストファー・プラマー)の存在は、『家族』とはいったい何かを改めて思い起こさせてくれる。
 7人の子供たちを、ゲオルクは彼なりの方法で愛し、育てようとしていた。規律を重んじ、制服を着せ、笛の合図とともに集合、整列させるというそのやり方に、家庭教師としてやってきたマリアは物怖じせずに抗議する。 戸惑うゲオルク。

 彼の留守中、マリアは子供たちに手作りの遊び着を着せ、野山に連れ出すと子供たちは水を得た魚のように元気に遊び出す。もっと父親に注目してもらいたいという子供たちの願いを知ったマリアは、歌を教えようと思い立つ。次々に歌を覚える子供たち。仕事から戻ったゲオルクは家中に響き渡る天使たちの歌声に一瞬にして魅了されてしまう。
 修道院という枠にはまることが苦手で、問題を起こしてはシスターたちの手を焼かせていたお転婆娘、マリア。彼女は修道院の外に飛び出すことで自分の本当の居場所を手に入れるのだ。

 この映画は実話に基づいている。マリアは孤児であった。彼女が幼くして母親を失ったトラップ一家の子供たちとたちまち意気投合しお互いを信じ合うことができたのは、ごく自然のことのように感じられる。彼らの出会いは、心の片隅に満たされない思いを抱える者同士が天から授かったかけがえのない贈り物だったのではないだろうか。生涯を通じ信心深かったトラップ一家の紋章には、ラテン語で「どんな困難にも負けるな」と書かれていたと伝えられている。

第87回アカデミー賞(2015年)を振り返る その1

第88回アカデミー賞授賞式が2016年2月28日(現地時間)に始まります。
ノミネート発表の際には、さまざまな批判が飛び交いました。候補者に人種的な偏りがある、LGBTをテーマにした作品は評価が低いなど……
これらの批判が的を得ているのかいないのか、私にはまだわかりません。はっきりしているのは、アカデミー賞が、米国社会の、あるいは地球全体のさまざまな問題を映し出しているということです。そんなことを考えながら、昨年のアカデミー賞受賞式を振り返っています。

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第87回アカデミー賞を振り返る その1


 第87回アカデミー賞授賞式が終わった。
 その華やかさとコントラストを奏でるように、こんなキーワードが浮き彫りにされた。

「虐げられた人たちへのまなざし」だ。

 ALS(筋萎縮性側索硬化症)、アルツハイマー、アスペルガー、同性愛者、PTSD、移民、黒人、ユダヤ人……ノミネート作品、受賞作品、受賞者やプレゼンターたちのスピーチには、社会への熱い思いが凝縮されていた。少数派(マイノリティ)と呼ばれる人たち、社会的弱者として扱われる人たちへのまなざしが感じられた。

 「女性にも平等の権利を」と力強い言葉でスピーチを締めくくった、パトリシア・アークエット。民主主義の侵害に異議を唱えたローラ・ポイトラス監督、キング牧師らの遺志を継いで「行進を続けます」と語ったコモン&ジョン・レジェンド、自殺未遂の体験を語り「君の居場所もここにある、君は変わり者のままでいいんだ」とメッセージを発信したグレアム・ムーア。「私たちが本当に求めている社会ができることを」と願ったメキシコ出身のアレハンドロ・ゴンサレス・イニャリトゥ監督。


 「どのような立場の人間であっても平等にあつかわれるべき」というデモクラシー(民主主義)の精神が溢れていた数々のスピーチ。まだ、世界は捨てたもんじゃないんだ、そんなふうに思わせてくれた。

2016年2月16日火曜日

『ザ・テノール〜真実の物語〜』(The Tenor Lirico Spinto)

NHK連続テレビ小説『あさが来た』で、オペラの楽曲をアカペラで歌う青年が……
この映画でも流れていたのを思い出しました。
上映スケジュールが随時更新されていますので、お近くで上映されるようでしたらぜひ。

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『ザ・テノール〜真実の物語〜』(原題:The Tenor Lirico Spinto/2014年/日韓合作)


 韓国出身のテノール歌手、ベー・チェチョル(ユ・ジテ)が、彼を招聘した音楽プロデューサーの沢田幸司(伊勢谷友介)に向かって尋ねる。なぜ、この仕事を始めたのか、と。沢田は答える。死にたいと思うほどつらかったこども時代、音楽を聴くことで自分の心を癒していたと。

“The music save a young boy’s life.”
(音楽がひとりの少年の命を救ったんだね)

 チェチョルは沢田をみつめ、優しく微笑む。バックでは、沢田のアシスタントの美咲(北乃きい)が、”LASCIA CH'IO PIANGA”(私を泣かせてください 歌劇『リナルド』より)をギターの弾き語りで歌っている。

 リリコ・スピント(Lirico Spinto)と呼ばれる類いまれな声質で世界的なオペラ歌手としての名声をほしいままにしていたチェチョルを、病魔が襲う。甲状腺がんだ。手術によって命を取り留めたが、その代償は大きかった。歌だけでなく、日常会話すらままならない状況となった彼を支えたのが、彼の家族であり、親友の沢田たちであった。周囲の人々の尽力によって、彼は心を取り戻し、声を取り戻す。そして、再び舞台に立てるようになるのだ。
 
 チェチョルと「日本」には深いつながりがある。彼のご尊父は大阪で生まれ、彼の舞台復帰に尽力したのは日本の沢田たちであり、彼の声を回復するための手術を行ったのが、声帯回復手術においての世界第一人者である、一色信彦医師だ。
 
 映画では、それぞれの登場人物に深いドラマがあり、誰もが主人公になり得る魅力がある。チェチョルを支える妻ユニ(チャ・イェリョン)が、終盤で「敵に塩を送る」かのように発する言葉に、夫や音楽への愛を感じるし、一見オペラの世界にはそぐわないと思えそうな美咲(北乃きい)をすぐに採用してしまう沢田に、懐の大きさを感じる。

 そしてこの映画に実名で登場した、一色信彦先生。既に揺るがない名声を持つ世界的医師が、大きなリスクを抱えながらも手術に挑む姿……そこからも、深いドラマが生まれそうだ。

 チェチョルが再び舞台に立ったとき、彼が観客の前で歌ったのは、”アメイジング・グレイス(Amazing Grace)”だ。クリスチャンであるチェチョルを支えたのは、家族や親友たちであるとともに、彼自身の”信仰”であった。

<公式サイト>

『ザ・テノール〜真実の物語〜』

 http://the-tenor.com

※  公式サイトには、ベー・チェチョルさんご本人のインタビューの動画が掲載されています。美しいイタリア語でこたえるチェチョルさんの"Poco a poco"(ポコアポコ 少しずつ)という言葉の響きが印象的。

ヴォイス・ファクトリイ株式会社
http://voicefactory.jp

※  ヴォイス・ファクトリイは、伊勢谷友介さんが演じた「沢田幸司」のモデルとなった、輪嶋東太郎(わじまとうたろう)さんによる会社です。


京都ボイスセンター
http://web.kyoto-inet.or.jp/people/isshiki/isshiki-profile.html

※  一色信彦先生が、院長をつとめていたクリニックです。
(現在はクローズ中ですが、サイト上にて診察できるクリニックが紹介されています)