2016年9月24日土曜日

『モードとインテリアの20世紀展 - ポワレからシャネル、サンローランまで -』(Iwami Art Museum Collection)

『モードとインテリアの20世紀展 - ポワレからシャネル、サンローランまで -

花模様のオーガンジーのガーデンドレス(ポール・ポワレ)
簡素で優雅な黒のリトル・ブラック・ドレス(ガブルエル・シャネル)。
近未来的なエナメルのスーツ(アンドレ・クレージュ)。

まるで、パリ・コレクションのようなきらびやかさを再現したかのような展示は、島根県立石見美術館の協力により、実現した。静寂な日本の地方都市・石見に、国内屈指のモードコレクションが収蔵されているのは、世界に誇る日本のデザイナー、森英恵(ハナエ・モリ)の出身地であることに由来する。

※主催者の許可を得て撮影しています。


菊模様の鮮やかなピンクのホステス・ガウン(森英恵)を目にすると、2つの喜びで胸がいっぱいになる。
世界に誇るモードが日本から発信されたということの喜び。
そして、その大胆なデザインが、実は、日本が培ってきた文化への「愛」に溢れているということの喜び。

この展示会のもうひとつ魅力は、インテリアの再現。
華々しいファッションが誕生した時代のインテリア(アール・ヌーヴォーやアール・デコなど)を、服と並べ、絵や写真などで再現しているところだ。
ベルエポック、ジャズエイジ、世界恐慌と大戦、そしてミッドセンチュリー……
20世紀ファッションとインテリアの移ろいを見ていると、まるでタイムマシンで旅をしているような楽しさを感じる。

<公式サイト>

パナソニック 汐留ミュージアム
 http://panasonic.co.jp/es/museum/









チェコ・ヌーヴェルバーグ『ひなぎく』その5  (原題:Sedmikrásky)


917日から、東京・ユジク阿佐ケ谷で上映が始まったチェコ映画『ひなぎく』は、三連休の間、満席の状態が続きました。
930日で上映は終わりますが、急きょ、1127日から129日、同じくユジク阿佐ケ谷で、アンコールレイト上映されることが決まりました。
自由でありそうでなかなか自由になれない今の時代だからこそ、この映画が多くの人に支持されるのでしょうか。
ぜひ、これからを生きる若い人たちに見ていただきたいと思います。

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チェコ・ヌーヴェルバーグ『ひなぎく』その5
(原題:Sedmikrásky/チェコ・スロヴァキア/1966/75分)
監督:ヴェラ・ヒティロヴァー(Věra Chytilová


©State Cinematography Fund


 1950年代。チェコは、旧ソ連の社会主義陣営の中にあり、少しでも抵抗すると「死刑」という道が待っていた。
 しかし、1962年頃から、ヒティロヴァーをはじめとする若い世代たちが出現。その抑圧から逃れようとする力が芸術を開花させる。その中のひとつが、 1966年の映画『ひなぎく』だ。
 1968年、「人間の顔をした社会主義」をめざす「プラハの春」という改革が始まるが、「チェコ事件」と呼ばれるソ連の軍事介入により、はかなく終わりを告げる。100人以上の死者も出たチェコ事件では、国民はその手に武器を持たず、花を持っていたそうだ。非暴力抵抗だ。
ベルリンの壁が崩壊する30年ほど前の時代のできごとだ。
映画『ひなぎく』が世に出て、もうすぐ50年が経とうとしている。私たちはこの時代より自由になっているだろうか?より成熟した社会に生きているだろうか?
過ちをくり返してはいけないと思う。
そして、時代を逆行してもいけないと思う。
映画に出てくる、お茶目な2人のマリエが、私たちにウインクしながら、そんなことを教えてくれている。

©State Cinematography Fund


<公式サイト>
映画『ひなぎく』
(※上映に関する最新の情報が、逐次掲載されます)


<本ブログ内リンク>

『ひなぎく その1』

『ひなぎく その2


『ひなぎく その3

『ひなぎく その4

 


2016年9月20日火曜日

『ぼくの伯父さん』(Mon Oncle) --Monsieur Hulot と寅次郎--

「忙しい」とは「心を亡くす」と書くと、誰かが言っていました。
忙しい日々に追われ、気づくとリオのパラリンピックが閉会し、「したコメ」こと、今年で9回目になった、したまちコメディ映画祭in台東が閉幕していました……
今年のしたコメのオープニング作品のタイトルは『ぼくのおじさん』だったのですね。
元祖『ぼくの伯父さん』は、フランスから届けられました。
(2014年に執筆した記事を、再掲載します)


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『ぼくの伯父さん』
--Monsieur Hulot と寅次郎--

(c)  Les Films de Mon Oncle - Specta Films C.E.P.E.C.

『ぼくの伯父さん』(Mon Oncle)より


  タチの映画を愛し、オマージュを捧げた偉大な映画監督が、この日本に存在する。
 山田洋次監督……代表作として忘れてはならないのが『男はつらいよ』だ。このシリーズは、「ひとりの俳優が演じたもっとも長い映画シリーズ」として、1983年のギネスブックにも認定された、国民的人気映画。主演の渥美清さんは、シリーズ全49作(特別篇を含む)で、主人公の車寅次郎、通称「寅さん」を好演した。
この寅さんの構想のもとになっているのが、ジャック・タチ演じるユロ氏(Monsieur Hulot)だ。タチを愛するファンの一部の人たち(あるいは多くの人たち)は、既にこのことに気づいていると思う。 
 シリーズ42作めにあたる『男はつらいよ ぼくの伯父さん』。
このタイトルのとおり、本作は『ぼくの伯父さん』、そして『ぼくの伯父さんの休暇』へのオマージュだ。42作目以降は、寅次郎と甥の満男(吉岡秀隆)との関係に焦点が当てられて、ユロ氏のファンであれば、寅さんがいかにユロ氏の流れを次いでいるかがよくわかると思う。

 「タチが好き」と言いそうな人、「寅さんが好き」と言いそうな人。この2人を想像してみよう。
 2人の年齢、服装、好きな場所、好きな食べ物、好きな音楽…… どうやら大きなギャップがありそうな予感がする。でも、ジャック・タチと山田洋次監督の素敵な関係を聞いてみると、違った考えに行き着く。どんなに感性が違っていそうな人同士でも、本音でぶつかりあってみたら、案外仲良くやっていけるんじゃないかな、と。そう考えると、とてもゆるやかな心持ちになれる。

 この、先入観から解き放たれたゆるやかさを大切にしよう。ユロ氏がそうであったように、そして寅さんがそうであったように。


(c)  Les Films de Mon Oncle - Specta Films C.E.P.E.C.

『ぼくの伯父さんの休暇』Les Vacances de Monsieur Hulot)より

※「男はつらいよ」がタチ作品のオマージュであるという事実は、20094月にいただいた、山田洋次監督のコメントに基づいています。山田監督への質疑は、松竹株式会社のご担当者を経由して行いました。本記事は、松竹株式会社の方のご了承を得た上で掲載いたしました。


※本記事は、「寅さんはタチがヒントになっているはず」という映画評論家・坂尻昌平氏の助言から、執筆が始まりました。坂尻氏の、タチ作品への深い知識とご敬愛に、あらためて感謝の意を表します。



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テロが街を爆破しようとも、うそやごまかしが横行していようとも、この世にコメディが存在する限り、「希望」もまた存在するのだということを信じて……


<本ブログ内リンク>

『プレイ・タイム』( Play Time)  その1
--タチヴィルと横浜みなとみらい21--
http://filmsandmusiconmymind.blogspot.jp/2015/08/play-time.html