2025年10月31日金曜日

『おいしい給食 炎の修学旅行』 (2025年日本)

2025年10月24日(金)から公開が始まりました。

season1のなつかしい登場人物との再会も楽しみです。

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『おいしい給食 炎の修学旅行』  2025年日本)

監督:綾部真弥 


 この人のお母さんはいったいどんな人だったのだろう……

 いつもそんなことを考えてしまう。

「この人」とは、甘利田幸男先生(市原隼人 )。母親のつくる食事がまずいという理由から、学校の給食が大好きになり、中学校の教師となった人。

自分の給食好きを誰にも知られてはいけないと、ひた隠しにしているつもり。でも、職員室の引き出しにしまった献立表を愛でる姿は同僚にしっかり目撃されているし、給食の時間になると校歌を歌いながら全身で喜びを表現してしまうから、クラスの生徒たちもちゃんと知っている。でも、そんなヘンな先生が普通に先生としていられる環境が嬉しい。


                                              2025「おいしい給食」製作委員会

                                           


 『おいしい給食 炎の修学旅行』  は、テレビドラマseason3の完結編の映画『劇場版 おいしい給食 Road to イカメシ』 に続く劇場版の第4弾。中学3年生となった粒来ケン(田澤泰粋)たちが修学旅行で訪れた青森と岩手。ご当地グルメにわくわくしつつ、他校の生徒や教師たちとのゴタゴタにハラハラ……いつもほがらかな粒来君、他人にこびることのない甘利田先生は、食べる楽しさを教えてくれるだけじゃない、それ以上に大切なことを私たちに気づかせてくれる。一緒に食べて「おいしい!」と言うだけで人は仲良くなれるということ。教育とは大人たちの管理のためではなく、子供たちの利益のためにあるということ。

 甘利田先生の決してぶれない態度は、強い信念でもある。

 いつも思う。ご母堂はどんな方法で、甘利田先生をこんなにも強い人に育て上げたのだろうと。おいしい料理をつくれなくてもいいんだ、大切なことはもっとほかにあるんだ、と斜めに励まされる。見終わると元気と笑いでいっぱいになる、爽やかな映画。





<公式サイト>

『おいしい給食 炎の修学旅行』  

https://oishi-kyushoku4-movie.com/


配給:AMGエンタテインメント




2025年10月18日土曜日

『ヒポクラテスの盲点』 (2025年日本)

 10月はピンクリボン月間。乳がんの早期発見、早期治療普及のため、さまざまなキャンペーンが世界中で開催されています。

自分の体を大切にするとことは、正しい知識を知ることから始まります。

今から4年前に始まった新型コロナウイルスワクチンに関する情報を、私たちはどれだけ正しく知ることができたでしょうか?接種するかしないかを、自分の意志で決めることができたでしょうか?地域によって、職場によって、環境によって、さまざまな違いがあったのではないかと思います。私の周りには、接種しないことを堂々と発言する人もいれば、職場の指示で接種せざるを得ない人もいました。接種したくないのにせざるを得ない状況に追い込まれ、死亡に至った人がいるという事実も耳に入りました。

問題は、ワクチンそのものではないと思うのです。日本という国が、自分の体に関することを自分で決めることができる社会となってくれることを願ってやみません。


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『ヒポクラテスの盲点』 2025年日本)

監督:大西 隼 



                                  (C)「ヒポクラテスの盲点」製作委員会 

 

“First, do no harm. “(何よりもまず、害をなすなかれ)


 医学の祖・ヒポクラテスが遺した言葉だ。新型コロナワクチンは、この言葉を遵守することができただろうか? 私たちに盲

点はなかっただろうか?

 

 多くの国で「ワクチン接種は2回から3 回まで」という考えが主流だった中、日本では7回目のブースター接種までが推奨されてきた。1 人当たりの接種回数は、世界第 1 (総接種回数 4 3600 万回)の日本は、世界最大の感染者数を記録する時期もあった国でもある。

 新型コロナワクチンを3回接種し、社内での職域接種の推進役をも担っていた大西隼監督は、とあるきっかけでSNS上でコロナワクチン論争を目にし、「本当のことを知りたい」という思いで映画の撮影を始める。大西監督はテレビマンユニオンのディレクター、プロデューサーであるほか、理学博士という肩書きも持つ。これを記録できるのは自分しかいないという使命もあった。

 コロナワクチンを推奨してきた機関や医師、コロナワクチンの被害者救済に奔走す る医師や科学者たち、コロナワクチンの被害者や家族。2年間にわたる取材には、さまざまな思いがあった。涙、怒り、悲しみ、簡単な言葉で表現しきれないこぼれてしまった「何か」が、映像から感じ取れる。

 データのトリック、忖度、同調圧力、ヒエラルキー……パンデミックは人間の醜い部分を剥き出しにする。ワクチンの登場によって、それがさらに助長されたような気がする。



「事実はグラデーションの集合」と語る大西監督。ワクチンを「善」か「悪」かで二分することなく、議論が日々更新されていくことが監督の願いであり、本作に登場する人たちの願いであると思う。これ以上の被害が生まれないために、私たちが議論を続けられる社会でありますよう。



        

              (C)「ヒポクラテスの盲点」製作委員会 

  


<公式サイト>


『ヒポクラテスの盲点』

https://hippocrates-movie.jp/




 


2025年10月2日木曜日

『誕生70周年記念 ミッフィー展』(Miffy)

『誕生70周年記念 ミッフィー展』(Miffy)



 1955年に「ちいさなうさこちゃん」が誕生してから、今年で70年。

 うさこちゃんは小さいうさこちゃんのままほとんど年を取らず、日本ではいつしかミッフィーとも呼ばれるようになり、こどもたちに寄り添ってきた。

 わかりやすいフォルム、少ない色彩、さりげないストーリー展開。シンプルな絵本が、どれだけ多くの人を癒し、魅了してきたことだろう。シンプルさの中に秘めるたディック・ブルーナさんの思いは、まるで俳句の世界のようだ。余計なものを削ぎ落とし、一筆一筆に魂を込め、やがて1冊の本に大きな力が宿される。

 ポスターカラーを使った彩色はやがて「ブルーナ・カラー」と呼ばれる紙を使う方法へと変わり、太い輪郭もまた、試行錯誤を重ねた結果のものだ。穏やかに語られるストーリーもまた、時代背景やこどもたちへの強いメッセージがかくされている。悪いことをしてまって後悔するうさこちゃん、だいすきなおばあちゃんが棺に眠り、涙を流すおじいちゃんを初めてみるうさこちゃん、仲良くなった転校生のためにクラスのみんなに提案をするうさこちゃん……心の中に眠る「こどもの頃の自分」が、今の自分に何かを話しかけてくるような気がする時間だ。

 ブルーナさんが『うさこちゃんとうみ』を原語(オランダ語)で読む映像は、20年ぶりの再公開。会ったことがないはず人なのに、なぜかとてもなつかしい。








******展覧会情報************ 


会場:そごう美術館

(横浜市西区高島2-18-1 そごう横浜店 6階)

会期:2025年9月13日(土)~ 11月4日(火) 

開館時間:10:00~20:00 (入館は閉館30分前まで)会期中無休

※そごう横浜店の営業時間に準じ、変更になる可能性あり。

入館料(税込):一般:1,800円/大学生・高校生:1,200円/中学生以下:無料

     ※障がい者手帳提示の場合は、付添者1名を含め無料 

   

問い合わせ:045-465-5515

そごう美術館ウェブサイト: https://www.sogo-seibu.jp/common/museum/ 

2025年10月1日水曜日

『ブラックバッグ』 (Black Bag 2025年米)

 私にとって忘れたくない日の1つが、9月21日です。

「国際平和デー」(International Day of Peace)と呼ばれるこの日は、2002年から正式な記念日として国連で提唱されるようになりました。世界のどこかで戦争は続いているけれど、せめてこの日だけは争わないでいよう、学校や会社や家庭でも、この日だけはケンカをしないで過ごそうよ、そんな思いが込められている日です。


9月26日から公開が始まった『ブラックバッグ』は、エンタテインメイトとして楽しめるミステリーサスペンスですが、登場人物の台詞を真剣に聞いていると「平和って何?」「幸せって何?」という疑問をつい、自分自身に投げかけてしまうのです。


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『ブラックバッグ』 Black Bag 2025年米)

監督:スティーブン·ソダーバーグ


アカデミー賞の監督賞候補にダブルノミネートされた『エリン·ブロコビッチ』、『トラフィック』が2000年。その翌年の2001年『オーシャンズ11』が大ヒットすると、その名はたちまち有名に。スティーブン·ソダーバーグ監督…… スタイリッシュな映像、軽やかな展開、すっきりとした飲み口のカクテルを口にしたときのような、彼の撮る映画にはそんな魅力が感じられる。軽やかでありながら、どこか切ない。『アウト·オブ·サイト』(1998年)を観ていたときは、ジャック(ジョージ·クルーニー)は銀行強盗のはずなのに、観ているうちに自分の知っている誰かのような気がしてきて、どうか死なないでほしいと願ってしまう自分がいた。



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新作映画のタイトル『ブラックバッグ』は、英国の諜報員ジョージ(マイケル·ファスベンダー)が担う機密任務の名前。国家を揺るがすレベルのプログラムを盗み出した内部の裏切り者を見つけ出すため、ジョージは最愛の妻·キャスリン(ケイト·ブランシェット)をも容疑者として調査しなければならなくなる。

ソダーバーグ監督の持ち味は変わらない。スタイリッシュな映像、軽やかな展開。血生ぐさいはずのシーンですら美しい。でもやはり、胸に切なさが残る。

容疑者が特定されたとき、裏切り者が言い放つひと言が痛い。人間というのはなんと愚かな存在か。愚かでも、いや、「愚かゆえ」だろうか。本気で平和を願いながら、平和とは真逆の選択をしてしまう。


エイターテインメントとして十分に楽しめるけれど、私にとっていつもソダーバーグ監督の映画は、切ない。



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<本ブログ内リンク>

「国際平和デー」を語るとき、忘れてはならない人がこの人。

ジェレミー・ギリーさんと会う その1

https://filmsandmusiconmymind.blogspot.com/2018/09/interview-with-jeremy-gilly.html



<公式サイト>


ブラックバッグ

https://www.universalpictures.jp/micro/black_bag


配給:パルコ ユニ バーサル映画  



2025年9月15日月曜日

『男と女 -クロニクルズ-』(Un grand cadeau du Claude Lelouch)

 今日は敬老の日。

2019年の『男と女 人生最良の日々』を撮り終えた頃、クロード・ルルーシュ監督は81歳、主演のジャン=ルイ・トランティニャンは88歳、アヌーク・エーメは87歳でした。

記憶を失いかけ、車椅子の生活になっても恋はできる。

後悔があってもやり直すことができる。

そんなことを教えてくれる映画です。


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『男と女 -クロニクルズ-  

監督:クロード·ルルーシュ


 限られた少ない予算で製作した1966年の『男と女』(原題:Un homme et une femme)。そして、高齢となった主演俳優2人の体調を気遣いながらスピーディーに撮影を行った2019年の『男と女 人生最良の日々』(原題:Les plus belles annees d'une vie)。数々の制限を強みに変え、クロード・ルルーシュ監督は恋人たちの出会いと晩年を美しく描き切った。

 アンヌ役のアヌーク·エーメ、ジャン·ルイ役のジャン=ルイ·トランティニャンはもちろんのこと、2人の子供たちも同じ俳優が演じている。

「こんなこと、日本(の映画)でありえますか!?」と、フランス映画祭2019の上映で岸恵子さんがはずむ声で語っていたのがなつかしい。

 『男と女 人生最良の日々』で印象に残っているのは、早朝のパリを車で飛ばすシーン。愛する人に会うために。パリの街並みがドライバーの目線で流れる、それだけなのになぜこんなにも切なくて愛おしいのだろう。映画の魔法に心吸い寄せられたのを今でも覚えている。この映像は、同監督による短編ドキュメンタリー『ランデヴー』(原題:C'etait un rendez-vous、1976年)から再編集したもの。今回の特集上映で『男と女』の上映とセットで『ランデヴー』を観ることができるのがとても嬉しい。


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ジャン=ルイ・トランティニャンは、2022年、天に召されました。

最後の最後まで、俳優として生きた人でした。



<本ブログ内リンク>

フランス映画祭2019を終えて

https://filmsandmusiconmymind.blogspot.com/2019/07/2019.html


<公式サイト>

『男と女 -クロニクルズ-


https://www.manandwoman-chronicles.com/