2024年11月22日金曜日

「リュミエール!リュミエール!」(原題:Lumière! The Adventure Continues)

 



今日、2024年11月22日。世界最速、日本でこの映画の公開が始まります。


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「リュミエール!リュミエール!」(原題:Lumière! The Adventure Continues

 ーティエリー・フレモー監督、リュミエールを語るー


 2024111日、東京・日比谷。

 映画館は第37回東京国際映画祭に訪れた人々で賑わっている。

 映画の父と呼ばれるリュミエール兄弟の作品を最新の技術で修復した「リュミエール!リュミエール!」(原題:Lumière! The Adventure Continues)は、前作「リュミエール!」の続編で、この日がジャパンプレミア。

 上映後には監督とナレーションをつとめたティエリー・フレモー氏が登壇し、観客の熱い思いにこたえた。19世紀末から20世紀初頭。映画の草創期を生きた偉大なシネアスト、ジョルジュ・メリエスとリュミエール兄弟について、フレモー氏は「リュミエールはロッセリーニ、メリエスはフェリーニ」とたとえる。「リュミエールはヌーヴェルヴァーグへと続き、メリエスはハリウッドへと続いていったといえるでしょう」。

 リュミエールの映画に流れるものは、”Le réalisme”,” le naturalisme”と語るフレモー氏。「シンプルな中にある力強い何かが私たちに訴えかけてくるのです」。 ありのままの姿をありのままに描いていく、それがリュミエール作品の精神なのだろう。



© Institut Lumière 2024.



 その精神は日本のシネアストたちに確かに受け継がれている。「リュミエール!リュミエール!」では、小津映画を見ているような、懐かしい日本の家族たちに出会える。そして今「是枝、濱口へと続いているように思います」


 ケンカをして泣きじゃくる子供、大海原を進む船、岩に当たっては砕ける波、どこにでもある風景がむしょうに愛おしく見える。私たちはきっと、シネマトグラフ(cinématographe)を通して、リュミエールたちの愛をみているのだろう。




第37回東京国際映画祭で来日した、ティエリー・フレモー氏

(2024年11月1日撮影)

©︎Mika Tanaka








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本国フランスでは、125日から公開が始まります。




<本ブログ内リンク>


「リュミエール!」 その1

https://filmsandmusiconmymind.blogspot.com/2017/11/lumiere.html




「リュミエール!」 その2

https://filmsandmusiconmymind.blogspot.com/2017/11/lumiere-2.html



『リュミエール!』(Lumière ! ) その3 

https://filmsandmusiconmymind.blogspot.com/2017/11/lumiere_6.html



<公式サイト>


「リュミエール!リュミエール!」

https://gaga.ne.jp/lumiere2/


2024年10月29日火曜日

フランス人の目がとらえた、山田洋次監督("Le Japon vu par Yamada Yogi" )

 フランス人の目がとらえた、山田洋次監督


 2024年9月、山田洋次監督の評伝が、大月書店から発売された。タイトルは、『山田洋次が見てきた日本』(原題:Le Japon vu par Yamada Yogi)。作者は、フランス出身のジャーナリスト、クロード・ルブラン氏(Claude Leblanc)。ルブラン氏が日本に滞在していた40年程前、映画館で見た「男はつらいよ」シリーズに夢中になり、寅さんの旅路をなぞりながら日本の地理や文化を学んだそうだ。山田洋次監督もまた、マルセル・パニョルやジャック・タチといった、フランスの映画人から多くを学んだ人だ。クロード・ルブラン氏が1年をかけて書き上げた本書は、山田洋次監督は映画を愛する多くのフランス人に読まれ、パリ日本文化会館で上映された山田洋次監督の特集は異例のロングランとなった。


2024年11月2日と11月3日の「寅さんサミット2024」では、クロード・ルブラン氏のサイン会が予定されている。両日とも13:00-14:00。(本書は会場での購入も可能)。








<本ブログ内リンク>

『ぼくの伯父さん』(Mon Oncle) --Monsieur Hulot と寅次郎―

https://filmsandmusiconmymind.blogspot.com/2016/09/mon-oncle-monsieur-hulot.html


<関連サイト>


【大月書店通信】第188号(2024/9/30)

『山田洋次が見てきた日本』が紹介されています

https://note.com/otsukishoten/n/nba6eff91b24f



「寅さんサミット2024」公式サイト

https://torasan-summit.jp/

2024年10月8日火曜日

『ベル・エポック―美しき時代 パリに集った芸術家たち』(Belle Époque)


                                     美術館前のロビー。パネルの奥では本展の解説動画が流れている。


 ベル・エポック(Belle Époque)、日本語に訳すと「美しき時代」。

 館内に入ると、エリック・サティーのピアノが聞こえてくる。右手には当時ブルジョワの小さな女の子が着用していたドレスが展示されている。そんな華やかさを目にしながら左へ進むと、レモンを右手に持った少年の絵が目に飛び込む。パリの孤児を描いた「小さなレモン売り」(フェルナン・ペレーズ/1890年)だ。その隣では、扇子を広げた娼婦が、まっすぐにこちらを見ている。

 ミッシェル・オスロ監督の映画『ディリリとパリの時間旅行』(原題:Dilili a Paris)にインスパイアされたこの企画展は、映画がそうであったように、ベル・エポックの時代の光と影の両面を私たちに見せてくれる。「道化師の画家」ジョルジュ・ルオーをはじめ、当時の画家たちが描く道化師たちの哀愁を帯びた表情に心惹かれるのは、仮面をつけて生きなければならない現代社会の私たちとも通じる何かがあるからなのだろうか。朗読や影絵芝居の再現映像もある。ゆっくりと館内を歩いているうちに、ここが21世紀の東京であることを一瞬忘れてしまいそうになる。時間と空間を超えるという感覚は、このことかもしれない



<本ブログ内リンク>

『ディリリとパリの時間旅行』(Dilili à Paris

https://filmsandmusiconmymind.blogspot.com/2019/08/dilili-paris.html



<公式サイト>


パナソニック汐留美術館

https://panasonic.co.jp/ew/museum/


会期:2024105日(土)~ 1215日(日)


2024年8月15日木曜日

『リッチランド』(原題:Richland/ 2023年アメリカ)

  

今日は815日。「全国戦没者追悼式」の中継で、戦後生まれが9割となったことを知りました。ちょうど今、この映画が上映されています。

 

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『リッチランド』(原題:Richland/ 2023年アメリカ)



キノコ雲は我が町の誇り

 

その「町」とは、原子爆弾をつくるために生まれた町、「リッチランド」。

アメリカ、ワシントン州南部の静かな町の地元高校には、Rという文字の後ろにキノコ雲が壁いっぱいに描かれている。フットボールチームの名前はリッチランド・ボマーズだ。

核燃料生産拠点となった「ハンフォード・サイト」で働く人々のためのベッドタウンとしてつくられたリッチランドは、現在は閉鎖された原子炉の浄化を担う人々が暮らす町となった。住民たちの誇りと不安、被爆3世のアーティスト・川野ゆきよさんとの交流……叙事詩を詠む詩人のようにカメラを静かに回すのは、アイリーン・ルスティック監督。チャウシェスク政権下のルーマニアから亡命した両親を持つ、英国生まれボストン育ちの米国人1世だ。



                                            ©︎2023 KOMSOMOL FILMS LLC



この映画を見て、ふと気づいた。自分が「被爆国で育った者」という立場でスクリーンの前に座っていたという事実だ。私自身は戦争を体験していないし、被爆したわけでもない。しかし、毎年8月になると必ず戦争について考える機会が訪れた。高校の夏休みの宿題では「原発はなぜこわいか」を読み、レポートを提出した。地元の百貨店で開催されていた原爆展に、ふらりと立ち寄ったこともある。

日本では戦後生まれが9割になったという。

でも、自分の心に灯された光が、「平和」という言葉を決して忘れることはない。

被爆国で育った自分だからできることを大切にしたいと思う。



            ©︎2023 KOMSOMOL FILMS LLC


 

 

<本ブログ内リンク>

 

『核などいらねぇ』忌野清志郎 その1 (2015811日の記事)

https://filmsandmusiconmymind.blogspot.com/2015/08/blog-post.html

 

 

講談師が語る平和 『はだしのゲン』ほか(2016815日の記事)

https://filmsandmusiconmymind.blogspot.com/2016/08/blog-post.html

 

 

<公式サイト>

 

「リッチランド」

https://richland-movie.com/#modal

 

全国順次公開中

配給:ノンデライコ

2024年8月14日水曜日

映画『風が吹くとき』(原題:When the Wind Blows / 1986年英)

 映画『風が吹くとき』(原題:When the Wind Blows / 1986年英)

 

 年月を重ねた夫と妻が肩を寄せ合う。

そんな本の表紙の背景に描かれているのはキノコ雲だ。この本を初めて手にしたのはいつのことだったろう。さりげない日常が淡々と流れる中、ラジオが突然、戦争の始まりを告げる。音のないはずの漫画から、確かに聞こえてくるのだ。警告、叫び、鎮魂……本との出会いを忘れることはなかった。

 そして今、40年近い歳月を経て映画版と出会う。

 ダイヤル式の電話やラジオを見ていると、時代の変化を実感する。その一方、40年近く経って、何が変わったというのだろう。世界情勢は一見変わったようにもみえるが、根っこにある問題はまったく変わっておらず、緊張感はさらに増しているように思える。

 

自分はいったい何をしてきたのだろう。

少しでも平和に生きることができる世の中にしようと、努力してきたのだろうか。

これからを生きる子供たちのために、“戦後という言葉をずっと守り続けることができたのだろうか。

 

                                                                         ©︎ MCMLXXXVI



 原作は、レイモンド・ブリッグズ。「さむがりやのサンタ」や「スノーマン」で知られるイギリス出身の作家だ。1982年に描かれた温かいタッチの漫画をアニメーションへと展開させたのは、崎に住む親族を原爆で亡くした経験を持つ日系アメリカ人のジミー・T・ムラカミ。音楽はロジャー・ウォーターズ、元ピンクフロイドのメンバーだ。そしてデヴィッド・ボウイが主題歌を歌う。日本の私たちには、大島渚監督によるさらに豪華な吹き替え版が。夫のジムの声を森繁久彌が、妻のヒルダの声を加藤治子が担う。

 

イギリスの郊外に住む夫婦にとって、ヒロシマやナガサキが「遠い国の話」であるように、21世紀を生きる私たちにとって、ヒロシマやナガサキ、第五福竜丸は「遠い昔の話」となってしまうのだろうか。30年以上前にやり残した宿題を、今からでも始めることはできるだろうか。

 

 

 

<本ブログ内リンク>

 

 

原作『風が吹くとき』(When the Wind Blows)

http://filmsandmusiconmymind.blogspot.jp/2015/08/when-wind-blows.html

 

 

ナガサキを想う『あの夏の日』

http://filmsandmusiconmymind.blogspot.jp/2015/08/on-that-sumer-day.html

 

 

『長崎の郵便配達』(英題:The Postman from Nagasaki

https://filmsandmusiconmymind.blogspot.com/2022/08/the-postman-from-nagasaki.html



<公式サイト>


『風が吹くとき』(日本語吹替版)

https://child-film.com/kazega_fukutoki/#modal


8月2日(金)より新宿武蔵野館ほか全国順次公開





2024年8月10日土曜日

ル・グロ・オルテイユ『図書館司書くん』 ("Le Bibliothécaire" / Le Gros Orteil)

ル・グロ・オルテイユ『図書館司書くん』

 

202488日。世田谷パブリックシアターのシアタートラムは、こどもたちの笑い声で溢れた。カナダ・ケベック州から初来日したル・グロ・オルテイユの公演初日のことだ。出演者はイポリットただ1人。彼が開館間近の準備を整える図書館司書を演じる。1人、といっても、舞台の袖から彼を叱責する上司の声が聞こえるし、彼が夢中になって本を読んでいるときは、ナレーターがしっかりと私たちにも読み聞かせてくれるから、まったくの1人ではないのだろう。マルセル・マルソーのような動きの美しさはあるけれど、しんと静まり返っているわけではない。が〜まるちょばのパフォーマンスがあえていえば近いのかもしれない。が、イポリットは彼以外の何者でもない。カエデの葉っぱ色のベストを着て赤い靴を履いた、ケベックのほのぼのとした空気を夏休みまっさかりの子供たちに運んできてくれた。

 パントマイム、ポールダンス、アクロバット、ジャグリング……1つの舞台の中ではじける技の数々。手品と違って種も仕掛けもない。そこにあるのは、肉体を極限にまで鍛え上げたパフォーマーの努力とセンスだけ。どれもこれも軽やかに、愉快に演じるイポリット。何よりも嬉しいのは、わずかなセリフをすべて日本語で演じていることだ。

「バンソウコウ」「ナンパ」「ザンネン」……意訳か誤訳か、正しすぎる訳か、慣れない発音で一言ひとこと発しているさまもまた、芸となって光る。

ステージそのものが素敵だった、それだけではない。

 

静かな図書館が、実は夢でいっぱいの場所であること。

地味に見える図書館司書が、実はとってもわくわくする仕事だということ。

 

そのことに気づいた子供たち(そして大人たち)はきっと、これからの人生がもっともっと豊かになっていくに違いないと思う。

 

 

【演出】マリー=エレーヌ・ダムール
【出演】イポリット
【声の出演+日本語指導】山積隆之介



シアタートラムの前でポーズを取るイポリットさん

(2024年8月8日撮影)




 

 

ル・グロ・オルテイユ『図書館司書くん』

は、202488日から810日まで、

世田谷パブリックシアターで上演されました。

https://setagaya-pt.jp/stage/15679/

2024年8月7日水曜日

『ボレロ 永遠の旋律』(原題:BOLERO)

  

オリンピック開催地のフランスから、豪華な映画の贈り物が届きました。

 

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『ボレロ 永遠の旋律』(原題:BOLERO

監督:アンヌ・フォンティーヌ(Anne FONTAINE


© 2023 CINÉ-@ - CINÉFRANCE STUDIOS - F COMME FILM - 
SND - FRANCE 2 CINÉMA - ARTÉMIS PRODUCTIONS

 

映画の冒頭、さまざまな『ボレロ』が流れる。

スタンダードなクラシックのオーケストラから始まり、ジャズ、マリアッチ……アフリカの子供たちも歌っている。

 穏やかに始まり、リズムもメロディもシンプル。単調な心地よさに身を委ねているうちに、気づくと大きな波に飲み込まれる……モーリス・ラヴェルの『ボレロ』はそんな曲だ。甘美でうっとりとするようにも聞こえる一方で、「工場の機械からインスピレーションを得た」と作曲者自身は語るように、無機質な感じもする。国を超え時代を超え、聴く人やそのときの状況によって自由自在に姿を変える。だからこそ「15分ごとに世界のどこかで演奏される」と言われるほどの名曲となったのだろう。

2025年は、フランスを代表する作曲家の1人、モーリス・ラヴェルの生誕150周年。アンヌ・フォンティーヌ監督は、ラヴェルの伝記映画を『ボレロの誕生秘話』という形で取り組む。原案となったのは、マルセル・マルナによる評伝 Maurice Ravel(未邦訳。フォンティーヌ監督のしなやかな想像力がラヴェルの音色と重なり合う。

ラヴェルの理解者であるピアニストにエマニュエル・ドゥヴォス、『ボレロ』の官能的な一面を引き出したダンサーにジャンヌ・バリバール、ラヴェルが恋慕うミューズにドリア・ティリエ……個性の違う粒揃いの女優たち。そして主人公のラヴェルにラファエル・ペルソナ。彼はラヴェルを演じるために体重を落とし、ピアニストや指揮者としての身のこなしを体に叩き込んだ。サウンドトラックでピアノを担当したアレクサンドル・タローが、評論家の役として出演し、元パリ・オペラ座のエトワール、フランソワ・アリュがエネルギッシュに『ボレロ』を踊る。豪華な配役だけではない。『ボレロ』を作曲するシーンは、ラヴェル本人が実際に暮らしていたル・ヴェルヴェデール” で撮影された。暗い映画館の中で、美しさと豊かさで心がいっぱいに満たされる2時間。こんな素敵な日があってもいい。

 

 

<公式サイト>

『ボレロ 永遠の旋律』

https://gaga.ne.jp/bolero