2017年9月3日日曜日

『禅と骨』 (Zen and Bones)

『禅と骨』 (Zen and Bones
(監督:中村高寛)

 なんというはじけかた! 
 戦争の犠牲者としてつらい生活を強いられ、戦後の人生を着実に積み上げ、悟りの境地にたどりついたのであろうと思われるこの人が、76歳という齢で突然「映画をつくるぞ!」と宣言するのだから。この人、というのはヘンリ・ミトワ(Henry Mittwer) さんのこと。映画出演をしたことはあるものの、映画に関してはまったくの素人。かといって、世間知らずのおじいさんというわけではない。世界遺産に登録されている京都嵐山・天龍寺の禅僧として人望を集め、著作も手がけたほどの文化人だ。


©大丈夫・人人FILMS

 しかし、この破天荒な言動の意味も、ミトワさんの人生を追ってみるとわかるような気がしてくる。
 ミトワさんが映画化を切望したのは、菊池寛原作の『赤い靴はいてた女の子』。
 ミトワさんが横浜出身であること、映画会社につとめる米国人と父と、新橋の芸者として活躍した日本人の母の間に生まれたこと、戦時中、米国の日系人強制収容所での生活を強いられたこと・・・・・・ 酔狂な禅僧を追うドキュメンタリーは、コメディタッチの笑いで溢れているけれど、ミトワさんの人生には、第二次世界大戦という歴史がどっしりと横たわっている。
 
©大丈夫・人人FILMS


 この映画のキーワードとして忘れてはならないのが「ヨコハマ」。
 横浜にゆかりのない人が見ても存分に楽しめるけれど、横浜をよく知る人が見たら、喜怒哀楽が倍増するのではないだろうか。

  今は廃校となってしまった『セント・ジョセフ・カレッジ(Saint Joseph College)』に通うミトワさんのために、きつ〜い坂道を上ってお弁当を届けに行くお母さん。そして、ミトワさんのお母さん役を地元出身の余貴美子さんが演じているところ。ああ、そうなんだよな。そうなんだ、とうなずきたくなるシーンがちりばめられている。古きよき横浜だけではない。関東大震災直後のミトワ家の写真には、つらい真実が刻まれている。当時、「朝鮮人」と呼ばれた在日コリアンたちが受けた仕打ちを考えると胸に複雑な思いがよぎる。

 そんな、光と影の歴史の中で、ミトワさんのような「はじける人たち」を輩出し続けた「ヨコハマ」の魅力が、この映画にはつまっている。

 山下公園がうつるラストシーンには爆笑する。でも、笑い転げるのと同じぐらい、ハマッ子・ミトワさんの純粋さに涙が止まらなくなる。


©大丈夫・人人FILMS




9月2日(土)より、ポレポレ東中野、キネカ大森、横浜ニューテアトルほか全国順次公開
配給:トランスフォーマー


<本ブログ内リンク>

★「ヨコハマ」、そして「ドキュメンタリー映画」と言えば、この作品もぜひ!
『毎日がアルツハイマー2
http://filmsandmusiconmymind.blogspot.jp/2015/07/blog-post_14.html

★「禅」を世界に広めた、鈴木大拙さんのドキュメンタリー映画。
この人もお茶目な人だった。

『A ZEN LIFE』
http://filmsandmusiconmymind.blogspot.jp/2015/07/a-zen-life.html



<公式サイト>
禅と骨 Zen and Bones
http://www.transformer.co.jp/m/zenandbones/

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