2018年6月16日土曜日

『それから』 (The Day After)

 南北首脳会談、米朝首脳会談と、朝鮮半島は今、世界史の教科書に乗りそうな転換期を迎えているようです。
 そんな中、韓国のホン・サンス監督の映画の上映が日本で始まりました。
『それから』、『夜の浜辺でひとり』、『正しい日 間違えた日』、主演はすべてキム・ミニ。
そして、714日にはキム・ミニがイザベル・ユペールと共演した『クレアのカメラ』の上映も始まります。

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『それから』 (The Day After

 それから…… 
 なんて詩的な響き!
 夏目漱石が小説のタイトルに使ったこの言葉は、妖精が媚薬をふりまいたかのような艶っぽさに溢れている。
 ホン・サンス監督の映画「それから」は、私たちの日常に溢れている光景だ。なのに「陳腐」ではなくて新鮮。「平凡」ではなくてきらきらしている。主演のキム・ミニは、道化と隠者をあっさりと、そしてしみじみと演じる。
 モノトーンの映像が香しく、ノスタルジックな雰囲気がいっぱいに漂う。


© 2017 Jeonwonsa Film Co. All Rights Reserved.
 
 韓国映画の豊かさを満喫しながら、韓国のことを考えた。

 今から38年前の1980年。
 ちょうど、クロード・ピノトー監督の『ラ・ブーム』が本国のフランスで公開された頃だろうか。ウォークマンのシーンが話題になり、ソフィー・マルソーが世界中で大ブレイク。日本では竹の子族だのハマトラだのという言葉が闊歩していた。そんな頃、韓国では「光州事件」が起き、多くの命が無惨に失われていた。
 そんな韓国が「民主化宣言」の発表にたどりついたのが、1987年。日本がバブル景気でうきうきし始めた頃、韓国はようやく長く暗いトンネルを抜け、光を見た。

 そして今はどうだろう。
 韓国の文化はものすごいスピードで世界を駆け抜け、確固たる地位を築いた。日本にも才能溢れる映画人がいるのだけれど、それでも、この映画を観ていると、「かなわないなあ」と感じてしまう何かがある。日本に住む私たちに足りない何かが。
 この映画がこんなに美しく、こんなにも愛おしい理由。
 それはきっと、韓国の人たちが「自由」を自分たちの力で勝ち取ったからじゃないだろうか。自由を勝ち取った人たちの間で育ったから、ホン・サンス監督は、こんなにもさりげなく、人生を愛おしむ映画を撮ってしまうことができるんじゃないだろうか。
 そんなことを思った。

 劇中で夏目漱石の本をちゃんと登場させるところも、すてき。


© 2017 Jeonwonsa Film Co. All Rights Reserved.
 


<公式サイト>
 
『それから』


監督・脚本:ホン・サンス
2017/韓国/91/モノクロ/ビスタ 原題:  英題:The Day After 
配給:クレストインターナショナル


69日(土)よりヒューマントラストシネマ有楽町、ヒューマントラストシネマ渋谷ほかにて全国順次ロードショー

2018年6月11日月曜日

『オンネリとアンネリのおうち』(Onneli ja Anneli)

 いくら親子とはいえ、世代が違えば、育つ環境も違う。自分たちのこども時代と同じ感覚で接していると、さまざまな食い違いが……
 いやいや、そんなことはないのです。
 どんなに時代が変わろうと、ものすごいスピードでテクノロジーが進歩しようと、こどもはいつだって好奇心が旺盛で、愛し愛されることを求めているのです。それだけは変わりません。あなたがこどもだった頃と同じように。

 もし、こどもとのコミュニケーションに自信をなくしてしまったら、親子で映画館へ出かけてみませんか? 観賞後の感想を話し合うとか、そんな気難しいことを考えなくてもよいのです。ほんのひととき、親子が同じ場所に視線を向けるということ、同じ物語を共有するということ、それこそが大事なことではないでしょうか。

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親子で映画館へ

『オンネリとアンネリのおうち』(原題:Onneli ja Anneli


© Zodiak Finland Oy 2014. All rights reserved.



 Kiitos !(キィトス)
 
 フィンランド語で「ありがとう」という意味。
 この響きの何と心地よいこと。

 離婚した両親のもとを行ったり来たりのアンネリと、9人兄弟の真ん中で孤立するオンネリ。幼児でもない、ティーンエイジャーでもない、微妙なお年頃をふわりふわりと漂う2人。まるでハンモックに揺られるように。
 そんな2人が思わぬ幸運を手にする。なぜって、2人は「正直者」だから。
 北欧の鮮やかな色彩、バラの香りがいっぱいに漂う庭、ゆったりと、のんびりと流れる時間…… 暗い箱の中で、観ている私たちは素敵な魔法をかけられる。

 世界中のこどもたちのために、私たち大人にできることは何か? 
 それが何なのか、映画は気づかせてくれます。


© Zodiak Finland Oy 2014. All rights reserved. 


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船戸結愛ちゃんが、天国で素敵な夏休みを過ごせますように。
いっぱいの愛に包まれますように。


<本ブログ内リンク>

親子で観たい映画の数々……

『リュミエール!』(Lumière ! )  その1


『ぼくの伯父さん』(Mon Oncle)


E.T.


ドラえもん『ぼく、桃太郎のなんなのさ』

<公式サイト>
『オンネリとアンネリのおうち』 


69()、YEBISU GARDEN CINEMAほか
全国ロードショー
配給:アット エンタテインメント

2018年6月4日月曜日

『ファントム・スレッド』(Phantom Thread)


 この映画を観た後、『眺めのいい部屋』(”A Room with a View”)の、お茶目でイノセントなダニエル・デイ=ルイスに会いたくなりました。

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『ファントム・スレッド』(原題:Phantom Thread

 舞台は1950年代のロンドン。
 冒頭で流れる音楽は”My Foolish Heart”(愚かなり我が心)だ。
 このとき、もし重厚なクラシック音楽が流れたら?
 それとも、テンポのはやいジャズだったら?
 あるいは、まったく音楽が流れなかったら?
 BGMによって、この映画はゴシックホラーにもなり得るし、ヒッチコック調のサスペンスにもなり得た。しかし、”My Foolish Heart”の優しいメロディが導く先には、妖しく甘美な恋愛映画があった。

©2017 Phantom Thread, LLC

 売れっ子のオートクチュールの仕立て屋、レイノルズ・ウッドコック。華麗なファッション界で賞賛を浴びるレイノルズは、自分がつくり上げた理想の日常の中で生きる。そして彼の恋人たちもまた、その日常の1アイテムとして、彼の日常の中で生きる。その小さな世界を乱さないよう、気遣いながら。しかし、アルマは違った。郊外のレストランでウェイトレスをしていた彼女は、若く、純粋で、健全かつ凶暴な野望を抱いていた。
 確固たる地位あるレイノルズが、未熟なアルマに翻弄されていくさまを見ていると、人間とは何と愚かな生き物だろうと思う。と同時に、人間の愛おしさが透けるように見えてくる。

 この映画を撮り終えた後、主演のダニエル・デイ=ルイスは、説明のできない悲しみに襲われている自分に気づき、俳優業の引退を決意したという。この映画の現場でいったい彼は何を感じ取ったのだろう。
 レイノルズを演じる彼の繊細な表情から、私たちはどんな答えをみつけられるだろう。



<本ブログ内リンク>

 ダニエル・デイ=ルイスは、かつてフィレンツェで靴職人をめざしていたことがあります。欧米人の靴への思いは、日本に住む私たちにははかり知れないものかもしれません。2017年に日本で公開されたのがこの映画です。

『ジュリーと恋と靴工場』(Sur quel pied danser )
http://filmsandmusiconmymind.blogspot.com/2017/09/sur-quel-pied-danser.html


<公式サイト>

『ファントム・スレッド』

監督・脚本:ポール・トーマス・アンダーソン
出演:ダニエル・デイ=ルイス ヴィッキー・クリープス
   レスリー・マンヴィル

音楽:ジョニー・グリーンウッド

2017 /アメリカ/130 /カラー/ビスタ ユニバーサル作品 配給:ビターズ・エンド/パルコ