2015年8月3日月曜日

『キャプテン・フィリップス』(CAPTAIN PHILLIPS)

調布飛行場を発ったばかりの飛行機が住宅街に墜落したのが、726日。
空の悲劇から1週間も経たずに、海の悲劇が起きました。

本州と北海道を結ぶカーフェリー、「さんふらわあだいせつ」の火災が起きたのは、7月31日。4日経った今でも、火災は続いています。
乗組員の1人(二等航海士・織田邦彦さん)は、行方不明のまま、帰らぬ姿となってみつかりました。

乗客の命を守ろうと、最後まで冷静さをなくさずに動いた「さんふらわあだいせつ」の乗組員の皆様に敬意を。
そして、織田邦彦さんとご家族の皆様のために祈りを捧げます。

人が、誇りと責任を持って行う仕事のすべては、尊い存在です。
「船乗り」という仕事も、間違いなくそのひとつです。

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『キャプテン・フィリップス』(原題:CAPTAIN PHILLIPS

 20094月。コンテナ船・マースク・アラバマ(米国船籍、船長:リチャード・フィリップス)が、インド洋ソマリア沖で海賊に襲撃された。4年を経た今でも、海運に携わる多くの読者が記憶に留めている事件ではないだろうか。

 オバマ大統領の指令により、海軍特殊部隊ネイビーシールズ(Navy SEALs)が救出作戦を実行、人質となったフィリップス船長は無事に保護されたが、引き換えに失われたいくつかの命があった。

 映画の監督は、英国で生まれ、海運関係者であった父を持つポール・グリーングラス。物語のほとんどは海の上で展開される。登場する船は、マースク・アラバマ(撮影に使用されたのはマースク・アレクサンダー)、その救命艇と、米駆逐艦・ベインブリッジ(撮影に使用されたのはトラクスタン)。経験者でなくともエンタテインメントとして楽しめる映画だが、海上勤務の経験がある人は、カメラがとらえる船の揺れ、乗組員たちの会話など、思わずうなずきたくなるシーンに出会える。




 乗船の日、妻が運転する車で空港まで向かう途中にトム・ハンクス演じるフィリップス船長が交わす会話は、社会情勢や息子の将来についてといった、ごくありふれた内容だ。どこにでもいるような、ごく普通の船乗りとして乗船した彼が、どのような行動を取り、どのように生き延びたのか。彼の立場を自分に置き換えながら見ていくうちに、まるで自分がマースク・アラバマに乗船しているかのような気持ちになる。
海賊役には、ソマリア出身の新人たちが配役され、プロの俳優ではなく米軍の衛生兵がトム・ハンクスと共演するシーンも。撮影の舞台となった船、マースク・アレクサンダーを操船した本当の船乗りたちと間近に接することができたスタッフやキャストたちは、彼らから多くを学んだという。
 
 事件が起きた2009年は、商業船が武装することはなく、マースク・アラバマはほとんど無防備の状態で海賊に襲われた。「これはビジネスだ」と言い切るソマリア人たちに対し、船長はどのように応じたのか。派手な演出や強いヒーロー像に頼ることなく、監督はドキュメンタリーを撮るような目線で本作を完成させた。

 事件から帰還したフィリップス船長は、今でも船乗りとして、乗船勤務を続けている。その後ろ姿に、「船長とはいかなる存在か」という答えがあるのかもしれない。

 

201312月、『日本海事新聞』に掲載した記事を改稿)




キャプテン・フィリップス
発売中 ¥2,381(税抜)
発売・販売元:ソニー・ピクチャーズ エンタテインメント


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