今、超大型の台風が首都圏を通り過ぎています。
どうか、被害が少しでも小さいものでありますよう。
これ以上、命を落とす人がいませんよう。
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『ジョアン・ジルベルトを探して』(原題:Where Are You, Joao Gilberto?)その2
〜ジョルジュ・ガショ監督と会う〜
音楽は人を救うことができるのだろうか?
ずっとこのことについて考えていた。映画や音楽は人の心を救うことができるのだろうかと。
答えはイエスであり、ノーでもある。人にもよる。救いとは何かという定義によっても変わる。
©Gachot Films/Idéale Audience/Neos Film 2018 |
この映画の語り手として登場するマーク・フィッシャー(Marc Fischer) は、友人の家で耳にしたジョアン・ジルベルトの曲に心奪われる。このドイツ出身の青年がどんな悩みを抱え、何を求めていたのかはわからない。しかし、ジョアン本人に会おうとブラジルを実際に訪れるほどに、ボサノバは彼にとって心の支えであったようだ。
マークは何度もジョアンに会おうと試みる。近しい人を訪ね、入念に準備をした。しかし、ジョアンは謎をまとい、つかもうとするとその手をすり抜けた。ジョアンはまるでブラジルの空気の中にふわふわと漂っているような、亡霊のような存在だった。ジョアンと会うことがかなわなかったマークは、この体験を1冊の本にまとめた。そして著書が発売される1週間前に、自らその短い生涯を閉じた。2011年、マークが40歳のことだった。
映画では、マークの語りが途中からジョルジュ・ガショ監督に変わる。まるでリレーのように、マークが落としたバトンをガショ監督が拾い、ジョアン・ジルベルトという幻を探す旅を続けるのだ。
©Gachot Films/Idéale Audience/Neos Film 2018 |
「ボサノバは、ジョアンの音楽は、マークを救うことができたのでしょうか?」
その問いに、ガショ監督はこう答えた。
「ボサノバは彼を救わなかったと思います」。
ドイツ的な合理主義者だったマークがボサノバと出会ったことによって、彼の中にあった何かが崩壊してしまったのではないかと、ガショ監督は語る。
「彼の40年の人生は、決して安定したものではなかった。ヘミングウェイにも惹かれていましたし、うつの傾向もあったらしく、自殺願望は以前からあったようです」
ジョアンに出会えなかったことが、彼の自殺とどう結びつくのか、あるいは無関係なのか、それはわからない。しかし、ボサノバに心奪われた一人の青年は、“サウダージ”という、曖昧でとらえどころのない言葉に癒されたのではなく、欲しいものをつかまえることができないという苦しみを心に刻んでしまったのはまぎれもない事実だ。
音楽は、人を救うことができないのだろうか?
これだけはわかる。
ボサノバはマークを救うことができなかったかもしれない。しかし、この映画によって、マークは救われたのではないだろうか。
ガショ監督は、取材時に現地の人々から警告されたという。
「ジョアンには近づきすぎるな。マーク・フィッシャーと同じ道を辿ってしまわないように」
映画の中で、ガショ監督は途中からマークになりかわり、ジョアンを探す旅に出る。マークとの境目が曖昧になっていくにつれ、ガショ監督の不安も高まっていったという。
1本の映画を撮るのに、監督はどれだけの勇気と覚悟をするのだろう。ガショ監督もその勇気と覚悟を携えた英雄の一人だった。映画という魔方陣の中で、自らの魂を奪われることなく帰ってくることができたのだから。
“サウダージ”のゆらめきを映像にとどめ、現実世界に帰ってきたガショ監督。私は、この映画が無事に完成したことが、マークの魂を救ったのではないかと思わずにいられない。
ドイツ語で語るガショ監督に尋ねた。”サウダージ”を表現するのにふさわしいドイツ語はありますか?と。
サウダージ(saudade)……ジョルジュ・ガショ監督にとって、それは“sehnsucht (憧れ)” であり、 “wendern(さまよい歩く)”に等しい感覚だそうだ。
ジョルジュ・ガショ監督(2019年8月7日撮影)
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2019年10月10日の『世界メンタルヘルスデー』のテーマは”自殺予防”でした。
「死にたい」と書き込む人たち、どうか死なないでください。
気の利いた言葉でなくてごめんなさい。
生きていてください。
<本ブログ内リンク>
『ジョアン・ジルベルトを探して』 その1
ジョアン・ジルベルトへの思い その1
ジョアン・ジルベルト(João Gilberto)への思い その2
『イパネマの娘』(Garota de Ipanema)
<公式サイト>
『ジョアン・ジルベルトを探して』
配給:ミモザフィルムズ
全国順次公開中
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