2022年9月19日月曜日

『エリザベス 女王陛下の微笑み』 <原題:Elizabeth: A Portrait in Part(s) >

 ロジャー・ミッシェル(Roger Michell)監督がこの世を去ったのが、2021922日。もうすぐ1年が経ちます。コロナ禍によって「映画の撮影ができない」という危機を「アーカイブ・ドキュメンタリーの制作」というチャンスに変えて生まれたのが、彼の遺作となった、この映画です。そして、映画の主人公、エリザベス女王もまた、202298日、天に召されました。

日本各地の映画館で本作の追悼上映が始まっています。

 

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『エリザベス 女王陛下の微笑み』 <原題:Elizabeth: A Portrait in Part(s) >

監督:ロジャー・ミッシェル 



(c)Elizabeth Productions Limited 2021


 

「君臨すれども統治せず」という言葉で知られるエリザベス女王。

私にとっては「(この世界を)共に生きてくれた人」だった。

お茶目で、おしゃれで、可愛くて……ああ、こんなおばあちゃんになりたいなと思わせてくれる人。歳を重ねることの楽しみを教えてくれた人。それが、この人だった。「女王陛下」という称号すらかすんでしまうくらい、「人」としての魅力に溢れていた。

そして、生涯をかけて1人の男性(フィリップ殿下)との愛を貫かれ、添い遂げられた。王冠ではない、宮殿ではない、女王の人生がきらきら輝いてみえるのは、「愛」の大きさゆえではないだろうか、そう思った。

 

『ノッティング・ヒルの恋人』(1999年)を撮ったロジャー・ミッシェル監督が切り取ったのは、ポップでユーモアに溢れ、ほんのり淡いピンク色のエリザベス女王の軌跡。

「死を悼む」というのは、「生を振り返る」ことでもあるのだと気づいた。


 

(c)Elizabeth Productions Limited 2021

 

<公式サイト>

『エリザベス 女王陛下の微笑み』 

https://www.star-ch.jp/starchannel-movies/ 


2021/イギリス/カラー/90/英語/5.1ch/ビスタ/日本語字幕:佐藤恵子/字幕監修:多賀幹子



2022年9月15日木曜日

『3つの鍵』 (原題: Tre piani )

 3つの鍵』  

(原題: Tre piani  2021年 イタリア・フランス)

監督・脚本:ナンニ・モレッティ 

 

 ここに3つの鍵がある。

 どこにでもありそうな、取り立てて変わったところのない鍵だ。古風でもないが新しくもない。

 この鍵を開け部屋の中に入ってみよう…… 

ローマの高級住宅街のアパート。同じ建物に3世帯の家族が住んでいる。

 1人の女性が門を開ける。生まれたばかりの赤ちゃんを抱っこしながら運ぶ荷物は重そうだ。部屋に戻ると誰もいない。大きな出産祝いが届いているだけ。夫と不仲の兄からだ。夫に電話をするが、贈り物は受け取りたくないと拒否される。

もうひとつの部屋には、厳格な裁判官の夫とひとり息子を案じる妻がいる。息子の過ちを受け入れようとする妻の表情は母親そのものだが、夫が父親の顔を見せることはない。

3つめの部屋。共働きの夫婦がいる。近所には、娘を実の孫のようにみてくれる老夫婦がいる。一見、何も問題もなさそうな家族だが、1台の車が自分たちの部屋に衝突するという事故をきっかけに、歯車が狂い始める。


© 2021 Sacher Film Fandango Le Pacte


 

完璧な家族なんていない。それはわかっている。頭でわかっているけれど、映画は頭でなく、私たちの心に訴えてくる。誰しも、自分の子供が大切なのだ。その大切な子供にできる限りのことをしたいと思っている。しかし、人という生き物は本能的に自分自身を守るようにできているのだろう。自分の心が壊れないために、自分の心を守るためにあらゆることをしようとする。そのことを突きつけられる。

 

それでも、ナンニ・モレッティ監督の目線には救いがある。情熱的な音楽に合わせて踊る人たちのパレードがアパートを通り過ぎるときの、登場人物たちの明るく開放的な表情のなんと爽やかなこと。裁判官の妻、ドーラ(マルゲリータ・ブイ)の選ぶ花柄のワンピースから垣間見える希望のかけらを、私たちも手に入れられるような気がする。 

 

<本ブログ内リンク>

 

家族や隣人を描いたイタリア映画がここにも。

 

『ナポリの隣人』 

https://filmsandmusiconmymind.blogspot.com/2019/03/la-tenerezza.html

 

 

マルゲリータ・ブイ 出演作品

『はじまりの街』

https://filmsandmusiconmymind.blogspot.com/2017/11/la-vita-possibile.html

 

 

 

<公式サイト>

『3つの鍵』 

child-film.com/3keys


 

2021年/119分/イタリア・フランス映画/原題:Tre piani/ 字幕:関口英子

後援:イタリア大使館/特別協力:イタリア文化会館/配給:チャイルド・フィルム 

 

 

原作:エシュコル・ネヴォ

出演:マルゲリータ・ブイ

リッカルド・スカマルチョ

アルバ・ロルヴァケル

ナンニ・モレッティ ほか

 


2022年8月28日日曜日

『ブライアン・ウィルソン 約束の旅路』 (原題:Brian Wilson: Long Promised Road )

  

年齢や病気は、仕事や音楽活動を断念する理由にはならない。

彼を見ると、そのことを痛感します。

 

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『ブライアン・ウィルソン 約束の旅路』  

(原題:Brian Wilson: Long Promised Road 2021年 アメリカ )

監督: ブレント・ウィルソン


2021TEXAS PET SOUNDS PRODUCTIONS, LLC



 

 大人も子供も、そして国や性別を超えてーーこんなに多くの人に知られ、愛されるサウンドがあるのだろうか。心に浮かぶのは、涼しげで優しい色合い。青空の下でアイスクリームを食べるときの嬉しい感触。生きていることが楽しくてたまらない高揚感……でも、それが「ザ・ビーチ・ボーイズ」の本質ではない。その素晴らしさはもっと深いところにあるのだと知る。

 

ブルース・スプリングスティーンも、エルトン・ジョンも、著名な音楽関係者たちが語る。「ザ・ビーチ・ボーイズ」のリーダーとして偉大な実績を残したブライアンウィルソン、その人のことを。  

音に音を重ね繊細な作業を積み重ねて完成したコーラスを「聖歌隊」にたとえ、まっすぐな視線を向け、敬意と確信をもった言葉で、彼らは私たちにブライアンのサウンドを解説する。

 

インタビュー嫌いで知られるブライアンだが、元ローリング・ストーン誌の編集者であるジェイソン・ファインの誠実さが、ブライアンの心を開かせる。“Good Vibrations “ , “I Get Around”……かつてのヒット曲を流しながら、カリフォルニアの海岸をドライブする二人の姿は、まるでロードムービーを見ているよう。

 

「ザ・ビーチ・ボーイズ」のリーダーとして活躍していた若き日のブライアンと、皺を刻み髪の白くなったブライアン。年を経て苦しみは増えたはずなのに、彼は変わっていないように見える。彼自身の心の奥底で何かが輝き続け、いまだ光を放っているように感じるのだ。心の病が大きな蓋をしていても、すきまから漏れるひとすじの光がその存在を伝えてくれる。

 

<本ブログ内リンク>

 

「ザ・ビーチ・ボーイズ」の時代は、ボサノヴァが世界中に広まった時代でもあります。

 

ジョアン・ジルベルト(João Gilberto)への思い  その2

https://filmsandmusiconmymind.blogspot.com/2019/07/joao-gilberto.html

 

<公式サイト>

『ブライアン・ウィルソン 約束の旅路』  

https://www.universalpictures.jp/micro/brian-wilson



配給: パルコ ユニバーサル映画

TOHOシネマズ シャンテ、渋谷ホワイトシネクイントほか 全国公開中


2022年8月24日水曜日

『失われた時の中で』(英題:Long Time Passing)

 『失われた時の中で』(英題:Long Time Passing 

監督・撮影 坂田雅子 



©️Joel Sackett


 

 グレッグ・デイビス。

 彼はベトナム戦争の帰還兵。ベトナムを離れてから、二度と母国のアメリカに戻ることはなかった。この映画の監督、坂田雅子さんと日本で出会い、フォトジャーナリストとして活動した。

「戦争のアクションは誰にだって撮れる。本当に難しいのは戦争に至るまでと、その後の人々 の生活を捉えることだ。その中に本当に意味のあることがあるんだ」

その言葉を残し、彼は病気によりこの世を去る。原因は、ベトナム戦争でアメリカが使用した「枯葉剤」かもしれない……夫君からバトンを受け取り、坂田雅子さんは枯葉剤をテーマにドキュメンタリーを撮ろうと決心する。55歳。映画製作に関してはまったくの初心者だった。海外へ渡り、ドキュメンタリー製作について一から学び、枯葉剤の取材を行い、作品を次々に発表、『失われた時を求めて』が3作目となる。

 ナレーションは坂田雅子さん自身の声。シャープで淡々とした語り口調だ。枯葉剤の被害者たちのありのままの姿、彼らの涙ではなく彼らの生活をとらえ、2世代、3世代と被害が続く現実を伝える。

 映画を観ながら気づく。ベトナム戦争とはいつのことだったろうか。終わっていたことのように思っていたけれど、何も終わっていない、今も続いているのだと。

そして思う。今では世界のさまざまな場所で戦争が続いている。ロシアがウクライナに侵攻してから、もう半年が過ぎた。自分を守るため、自分の家族を守るために私たちは何がなんでも戦争を終わらせなくてはいけない。自分勝手な言い方だとわかっているけれど、遠くの誰かのためではない、自分と大切な人たちのためなのだ。これ以上地球のどこかで争いがあってはならない。すでに始まっている戦争を終わらせるために、戦争が始まらないためにできることはどんなことでもしようと。ありきたりな言葉であっても、そのことを伝え続けたい。そんなことを思いながら、映画を見終えた。

「時は移り、場所は変わっても戦争はみな 同じ顔をしています」という監督の言葉を忘れまい。

 

 

<本ブログ内リンク>

 

『長崎の郵便配達』(英題:The Postman from Nagasaki

https://filmsandmusiconmymind.blogspot.com/2022/08/the-postman-from-nagasaki.html

 

 

<公式サイト>

『失われた時の中で』

http://www.masakosakata.com/longtimepassing.

 

 

 

2022 /日本/60 /日本語・英語・ベトナム語・フランス語/ドキュメンタリー ©2022 Masako Sakata 

配給・宣伝 リガード

2022年8月14日日曜日

『没後40年 ロミー・シュナイダー映画祭』(Romy Schneider)

『没後40 ロミー・シュナイダー映画祭』

 

 クールで端正な顔立ちが、笑ったときにくしゃっとなる瞬間。体格とは印象の違うやや高めの声……ロミー・シュナイダー。1938年、オーストリア生まれ。43年という短い生涯を女優として生きた。アラン・ドロン、ミシェル・ピコリ、イヴ・モンタン、ジャン =ルイ・トランティニャン。共演者たちから鬼気迫る演技を引き出し、自らも「役そのもの」を生き抜いた人だ。

『華麗なる女銀行家』と『サン・スーシの女』では、十代の少年たちと共演する。

愛息ダーヴィットとちょうど同じ年頃だ。『離愁』では、赤ちゃんに向ける瞬間のまなざしが演技とは思えない。あの慈愛に満ちた表情は「女優」ではなく「母親」のロミーだったのではないかと感じた。

もっと生きてほしかった。アヌーク・エーメやカトリーヌ・ドヌーヴのように、年を重ねても女優として生き続けてほしかった、と思う。




©︎1972 STUDIOCANAL


  

 『没後40 ロミー・シュナイダー映画祭』上映作品

 

『太陽が知っている 4Kデジタルリマスター版』監督:ジャック・ドレー

『マックスとリリー』監督:クロード・ソーテ  ※日本劇場初公開

『夕なぎ』 監督:クロード・ソーテ

『離愁 4Kデジタルリマスター版』監督:ピエール・グラニエ
『華麗なる女銀行家 4Kデジタルリマスター版』監督:フランシス・ジロー
『サン・スーシの女』監督:ジャック・ルーフィオ
『地獄』監督:セルジュ・ブロンベルグ、ルクサンドラ・メドレア※日本劇場初公開


 

<本ブログ内リンク>

 

『離愁』で共演したジャン =ルイ・トランティニャンの遺作となった『男と女 人生最良の日々』についての記事です。

 

フランス映画祭2019を終えて

https://filmsandmusiconmymind.blogspot.com/2019/07/2019.html


 

<公式サイト>


 『没後40 ロミー・シュナイダー映画祭』

http://romyfilmfes.jp

 

 

2022年8月6日土曜日

『長崎の郵便配達』(英題:The Postman from Nagasaki)

   86日は「広島原爆の日」です。

そして、この映画の上映も今日から始まりました。

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『長崎の郵便配達』(英題:The Postman from Nagasaki

監督:川瀬美香




©️The Postman from Nagasaki Film Partners 

 

 

 

ピーター・タウンゼンド。

 第二次世界大戦中、英国の空軍パイロットとして従軍し、イギリス国王の侍従武官を務め、「タウンゼンド大佐」と呼ばれたのが彼だ。その後、マーガレット王女と恋に落ち、破局。彼はその後世界一周の旅を出て、戦争被害に遭った子供たちについての執筆活動を始める。1978年、旅行先の長崎で「スミテル」と出会う。

 

谷口稜曄。

 背中一面に大やけどを追った少年――原爆について語られるとき、多くの人がこの写真を目にするのではないだろうか。その写真の少年が、この「スミテル」さんだ。長崎で被曝し、長い闘病生活を送った後、核廃絶運動に尽力した。

 

2人は出会いによって、1冊の本が生まれた。『ナガサキの郵便配達』(原題:The Postman of Nagasaki)だ。そして、この世を去った2人の思いを受け継ぐように、映画『長崎の郵便配達』が完成した。長崎を旅する語り手は、ピーター・タウンゼンドさんの娘であり、二児の母である女優のイザベル・タウンゼンドさん。父ピーターが長崎を訪れたときの足取りを静かに追う。

 

蝉時雨の中、長崎の坂を歩くイザベルさん。陽射しをうつした白いシャツが悲しいほどに眩しい。「娘として」父の思いを受け止めようと感性を研ぎ澄まし、「母として」子供たちに何を残せるかを思考する姿……1人ひとりの小さな祈りの積み重ねが、戦争のない世の中、核のない世界と結びつくのが遠い未来の話ではないことを、祈り続けようと思う。

 

 

 

<本ブログ内リンク>

 

 

この映画のモチーフとなった人が、ピーター・タウンゼンド氏です。

ローマの休日

https://filmsandmusiconmymind.blogspot.com/2016/06/roman-holiday.html

 

<公式サイト>

長崎の郵便配達

https://longride.jp/nagasaki-postman/

 

85日(金)シネスイッチ銀座ほか全国公開

2021/日本/日本語・英語・仏語/97/4K/カラー/2.0ch/日本語字幕:小川政弘 フランス語翻訳:松本卓也

配給:ロングライド 

2022年7月9日土曜日

『スージーQ』 (SUZI Q )

 『スージーQ』  (原題:SUZI Q 2019年オーストラリア )

監督・製作:リーアム・ファーメイジャー



©The Acme Film Company Pty Ltd 2019


 

 Susieではない。Suziだ。

 そして“Q”の頭文字が続く、そのインパクト。まず、名前がかっこいい。

かん高い声で歌いながら、低音のベースでがんがんせめていく。

そのアプローチがかっこいい。

あどけない顔と小柄な体、そこを皮のジャンプスーツでビシッとキメる。

そのギャップがかっこいい。



©The Acme Film Company Pty Ltd 2019

 

 ロックバンドのボーカリストという立場ではない。ガールズバンドのリーダーでもない。

屈強な男性たちをメンバーに携え、バンドを率いるその姿に、どれだけ多くの人が憧れたことか。ジョーン・ジェット、デボラ・ハリー、 シェリー・カーリー……同性のミュージシャンたちに愛されたことが、彼女のそのすごさを証明している。そう、スージーQ偉大な人なのではなく、スゴい人なのだと思う。

デビューしたのは1970年代。日本ではウーマン・リブ“というカタカナが闊歩し、フェミニストという言葉が(おそらく)誤用されながら広がっていた頃だ。スージーはそんな時代に乗せられたのか?そんな時代だから大ヒットしたのか?いやむしろ、そんな時代だから大変だったのだろうか……この映画を見ていると、彼女が受けたいくつかの試練がわかる。時代ゆえの試練もあれば、そうではない試練もあった。彼女が過去に受けた仕打ちに思い切り腹が立つ人もいるだろう。#Me tooや、ジェンダー平等という言葉が歩き出すずっと前にデビューしたスージー。彼女にとっては、自分が女性であることより、自分が自分であることが大切だった。だから、スゴいんだ。かっこいいんだ。そう思う。

 

年を重ねたスージーQ。映像越しだけれど、今の彼女に再会できて嬉しかった。好きなことを追い続けているんだと知って、また嬉しくなる。

ちょっとはにかんだ感じの笑顔、気どらないところ、繊細なところ……年を経ても彼女は変わらず、SuziQのままだ。

あなたのファンになってよかった!

 

出演スージー・クアトロ

ジョーン・ジェット

デボラ・ハリー

シェリー・カーリー

リタ・フォード

アリス・クーパー  ほか

 

2019 /オーストラリア/104 /ビスタ/ステレオ

提供:ジェットリンク

配給:アンプラグド

 

 

<公式サイト>

https://unpfilm.com/rockumentary2022/

 

 

<本ブログ内リンク>

 

私の中で、スージーQと同じぐらい切ない歌声で大好きなロックミュージシャンがこの人。

 

忌野清志郎 その1 『核などいらねぇ』

https://filmsandmusiconmymind.blogspot.com/2016/04/1.html

 

 

きっと、このライブハウスにもスージーQに憧れて彼女のようになりたいと思った出演者がいたのかな、と思う。

 

『上馬ガソリンアレイ』という時代 その2

https://filmsandmusiconmymind.blogspot.com/2015/07/blog-post_16.html