2021年2月16日火曜日

『モンテッソーリ 子どもの家』( 原題:Le maître est l’enfant)

映画を観ることは、心に栄養を摂ること。 コロナ禍であっても、映画館に足を運ぶことは不要不急の外出ではないと思います。映画に出演するこどもたちの無垢な表情とつたないけれど真剣な動きを見ていたら、ギスギスした心がほぐれていきます。

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『モンテッソーリ 子どもの家』( 原題:Le maître est l’enfant) 


© DANS LE SENS DE LA VIE 2017  


 1870年に生まれたマリア・モンテッソーリ。イタリア初の女性医学博士となり、3回の戦争を経験した彼女は、こどもの持つ可能性にとてつもなく大きな信頼を寄せる。「こどもは、大人がこどもに与える以上のことを私たちに与えてくれる。こどもは師、私はこどもの弟子となろう」これが彼女の精神だ。1936年のヨーロッパ平和会議では「紛争回避は政治の仕事、そして平和構築は教育の仕事だ」と述べた。モンテッソーリの精神を受け継ぎ、そのメソッドを実践する教育者たちを取材し、そのもとで学ぶこどもたちのありのままの姿を映したのがこの映画。舞台は、モンテッソーリ教育を取り入れた世界最古の場所と言われる、北フランスのとある幼稚園だ。

 こども1人ひとりと真剣に向き合う大人たち。ある子と話し合っているとき、他の子が先生に声をかけると「この子と話しているから終わるまで待っていて」とこたえるシーンが印象に残る。モンテッソーリ教育はこどものためだけのものではないのだと感じた。携帯電話、SNS、オンライン会議……面と向き合って、1対1でじっくりと話すことがめっきり少なくなった。でも、太古の昔から、「言語」というものが生まれる前から、人は1対1のコミュニケーションを求めていたのではないかと思う。そんな対話が復活したら、世の中はもう少し穏やかで住みやすくなるのではないだろうか。



© DANS LE SENS DE LA VIE 2017  


2021年2月19日(金)新宿ピカデリー、イオンシネマほか全国公開


 

 

監督・撮影・録音:アレクサンドル・ムロ

日本語吹替:本上まなみ/向井 理

2017年/105分


配給:スターサンズ、イオンエンターテイメント


<本ブログ内リンク>


フランスは、こどもの姿を自然にとらえた素晴らしいドキュメンタリー映画の宝庫です。


『子どもが教えてくれたこと』( Et les mistrals gagnants)

https://filmsandmusiconmymind.blogspot.com/2018/07/et-les-mistrals-gagnants.html




<公式サイト>

『モンテッソーリ 子どもの家』

https://montessori-movie.jp








2021年1月17日日曜日

『43年後のアイ・ラヴ・ユー』(原題:Remember Me)

   緊急時代宣言の中、不要不急の外出を控えるようにと呼びかけられています。

 果たして、映画鑑賞は不要不急でしょうか?

 私は違うと思います。体に栄養が必要なように、心にも栄養が必要です。映画はその役割を担っています。心が荒んでしまいがちな今だからこそ、なおさら映画館に足を運んでほしいと私は思います。1人ひとりがマスクと手洗いといった予防対策を心がけ、映画館側が消毒と換気、席と席の間の十分な距離を徹底していれば、リスクは極めて少ない場所です。同じ作品に興味を持ち、同じ場所に集い、同じ時間を共有する……たとえ会話を交わすことがなくても上映中の間、私たちはきっと孤独ではありません。

 

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『43年後のアイ・ラヴ・ユー』(原題:Remember Me)

監督・脚本:マーティン・ロセテ


(c)2019 CREATE ENTERTAINMENT, LAZONA, KAMEL FILMS, 

TORNADO FILMS AIE, FCOMME FILM . All rights reserved. 


 

 妻に先立たれた1人の老人がいる。名前はクロード(ブルース・ダーン)。娘と孫が彼を気遣い、気のおけない友人もいる。まあまあ楽しい余生を送っている。

 あるとき、クロードは許されざる恋に燃えた昔の恋人リリィ(カロリーヌ・シオル)がアルツハイマーの患者のための施設に入ったことを知り、大胆な行動に出る……ガーシュウィンの音楽(エンブレイサブル・ユー)、シェイクスピアの『冬物語』、かぐわしいユリの香り。リリィの記憶を呼びさまそうと、次々とトリガーを用意するクロード。元演劇評論家と元女優の間には、過去にどんなドラマがあったのだろう。43年という歳月を経てなお愛されるリリィのなんとかわいらしこと。プリント柄のワンピース姿の似合う彼女を見ていると、若さだけが美しさのすべてではないことに気づかされる。クスクスと笑えるさわやかなコメディに、いつしか涙ぐんでしまっている自分がいた。

 

 

<本ブログ内リンク>

リリィ役のカロリーヌ・シオルさん出演作

『ジュリーと恋と靴工場』(Sur quel pied danser )

https://filmsandmusiconmymind.blogspot.com/2017/09/sur-quel-pied-danser.html

 

<公式サイト>

『43年後のアイ・ラヴ・ユー』

https://movies.shochiku.co.jp/43love/


1月15日(金)新宿ピカデリー、角川シネマ有楽町、ヒューマントラストシネマ渋谷公開



(c)2019 CREATE ENTERTAINMENT, LAZONA, KAMEL FILMS, 

TORNADO FILMS AIE, FCOMME FILM . All rights reserved. 



2020年12月10日木曜日

フランス映画祭の思い出 その1 『愛しのベイビー』(Mon Bébé)

 フランス映画祭2020が今日、12月10日から横浜で始まりました。

例年のようにフランスから監督や俳優の人たちが来日することはありませんが、6月に予定されていた映画祭が中止になることなく、年内に開催されたことに感謝です。コロナ禍を油断してはなりませんが、換気、手洗い、マスクを徹底すれば、映画館は比較的安全な場所かと思います。観客のみなさま、Bonne projection!

 

 

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フランス映画祭の思い出 その1

 

フランス映画祭2019上映作品

『愛しのベイビー』(Mon Bébé)

 

−リサ・アズエロス監督とタイス・アレサンドラさんに会う−

 

 

 ああ、なんて可愛い赤ちゃんだろう。子供が誕生するシーンでさえメルヘンのような映像になるのは、女性の映画監督だからというより、リサ・アズエロス監督だからと表現する方が正しいのかもしれない。どうしたらこんな可愛くて愛情に溢れた映像をさらりと撮れてしまうのだろうか。

「何も特別なテクニックがあるわけではありません。赤ちゃんはそれだけで宝石(のように貴重で大切な存在)ですから」と答えるリサ監督の表情は静かで穏やかで、そばにいるとふわふわした綿菓子の中にいるような心地よい気分になってくる。

 子供と一緒に見ようと録画したものの、一緒に見られる機会を逃し続けているテレビ番組があったり、撮りためておいた子供の写真をそっくりなくして、発狂寸前になって泣きじゃくることがあったり…… フランスも日本も、子に捧げる母の愛というのは、大きな違いはないのだろう。

 


リサ・アズエロス監督(左)とタイス・アレサンドラさん(右)
2019年6月22日撮影


 リサ・アズエロスといえば、母親は『太陽がいっぱい』の出演で知られる女優のマリー・ラフォレ。偉大な女優の娘として生きる中、葛藤はあったのだろうか?

「もちろんありました」

 彼女は、初めから映画の世界に身を置いていたわけではない。1年間、金融業界で働いたこともあった。「でも、私はやはり芸術家だと気づいて」、リサ監督の今のキャリアがある。

 

 末娘のジャードを演じたタイス・アレサンドラさんはリサ監督の実の娘さん。彼女もまた、母と同じ映画の世界で生きている。ジャードと同じように、お母さんの愛をいっぱいに受けて成長したのだろう。その無邪気な人柄に、ほのぼのとした気持ちになる。

「日本といえば、ミヤザキ!ミヤザキの映画が大好きです。モノノケ、ナウシカ、チヒロ、トトロ、ぜーんぶ好き!」

 タイスさんの子供時代の思い出とともにある宮崎アニメの数々。何度もなんどもくり返し見ていたそうだ。そんなふうに話す彼女の話をそばでうなずくのは、映画監督という立場を離れた、1人の母親ーーリサお母さんだ。

 

 フランス映画祭2019で上映されたこの作品、日本での配給はまだ決まっていない。

映画を見る暇もなく生活しているシングル・マザーの人たちに見ていただけたらと心から願っている。

 

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 2019年6月に行ったこの取材の数ヶ月後の11月、リサ監督のご母堂マリー・ラフォレさんが他界されたことを知りました。母から子へ、そして孫へ……彼女の映画人としてのDNAが受け継がれていくことの素晴らしさを、この映画を通して感じます。

 

 

<本ブログ内リンク>

 

リサ・アズエロス監督作品

『ダリダ あまい囁き』(Dalida)

https://filmsandmusiconmymind.blogspot.com/2018/05/dalida.html

 

 

 

<公式サイト>

 

フランス映画祭2020

https://www.unifrance.jp/festival/2020/

 

 

愛しのベイビー (Mon Bébé)

https://www.unifrance.jp/festival/2019/films/1167/

 

 コロナ禍を油断してはなりませんが、換気、手洗い、マスクを徹底すれば、映画館は比較的安全な場所かと思います。観客のみなさま、Bon projection!

の

 

<本ブログ内リンク>

 

リサ・アズエロス監督作品

『ダリダ あまい囁き』(Dalida)

https://filmsandmusiconmymind.blogspot.com/2018/05/dalida.html

 

 

 

<公式サイト>

 

フランス映画祭2020

https://www.unifrance.jp/festival/2020/



フランス映画祭のポスターが掲げられる2020年12月の横浜、みなとみらい





2020年12月1日火曜日

再)『ばるぼら』(英題:Tezuka’s Barbara)


11月20日から上映が始まった『ばるぼら』。

昨年(2019年)の東京国際映画祭で上映されたときには、まさか1年後がこんなことになっているとは誰が想像したでしょうか?

映画祭で「こういう時代だからこそ、肉体の触れ合いを見せる映画を撮りたかった」と語った手塚眞監督の言葉が、今となってずしりと重く心に響きます。

コロナ禍もソーシャルディスタンスも無縁なこの映画で、しばしの間、自由な心で羽ばたいてみるのもよいかもしれません。

1年前の手塚眞監督の言葉を再掲載します。

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再)『ばるぼら』(英題:Tezuka’s Barbara)  
原作:手塚治虫
監督:手塚眞


  手塚眞監督が『ばるぼら』に出会ったのは10歳の頃。大人向けのコミック誌向けに連載されていたこのマンガは、小学生の眞少年にとって『鉄腕アトム』や『ブラックジャック』以上のインパクトを与えた。そして、映像の世界でキャリアを積み、選んだ題材がこの作品だった。自分の体の中に流れている手塚治虫のDNA……自分の体を流れる血潮、父から受け継いだ血の騒ぐまま、自然に撮り終えた本作には、手塚マンガ独特の空気がすみずみにまで漂う。昭和の芸術が、令和になって不死鳥のようによみがえったかのように。
 デジタル化が進み、人との交流も機械をを介して行うことが当たり前の時代となった。「エロティックという言葉をネガティブに捉える人もいらっしゃいますが、僕にとっては、エロティックは人と人とが交流することなんです。こういう時代だからこそ、肉体の触れ合いを見せる映画を撮りたかった」。戦争という時代をくぐりぬけた後、手塚治虫はエロティシズムを"自由"の証のひとつとして描いた。そして手塚眞監督が描く21世紀のエロティシズムは、枯渇した私たちの心を潤してくれる"癒し"を意味するのかもしれない。


第32回東京国際映画祭で観客の質問に答える手塚眞監督
(2019年11月3日撮影)



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<本ブログ内リンク>

この映画のラストシーンに、手塚治虫少年が登場します。
第31回東京国際映画祭 速報その3 『漫画誕生』(The Manga Master)

<公式サイト>
『ばるぼら』



2020年11月18日水曜日

『家なき子 希望の歌声』(原題:Remi sans famille, 2018年仏)

『家なき子 希望の歌声』(原題:Remi sans famille, 2018年仏)


© 2018 JERICO –TF1 DROITS AUDIOVISUELS –
TF1 FILMS PRODUCTION –NEXUS FACTORY -UMEDIA

 

 監督は、アントワーヌ・ブロシエ。

 彼は、日本版アニメーションの『家なき子』を見て育った世代だ。1977年、日本テレビ開局25周年記念作品としてお茶の間に登場した同名の立体アニメーション(東京ムービー新社、現:トムスエンタテインメント制作)は、故郷のフランスでも放送され、多くの人の涙を誘った。ブロシエ監督いわく「このアニメが最も原作に忠実」という。プロットだけでなく、レミの帽子の飾りやジョリクールの衣装といった細部をはっきりと描いたアートディクションも素晴らしいと。監督の賛辞を知ったら、たまらなく嬉しくて、名作アニメの最盛期を知っている自分が誇らしくなった。

 アニメで全51話となる長編を、いったいどのようにコンパクトにまとめ上げるのか、好奇心いっぱいの気持ちで見ていたら、子供時代の旧友に再会したような懐かしさで胸がいっぱい、見終わる頃には涙ぐんでしまっていた。登場人物たち1人ひとりの愛や思いに、これまでいったい何回泣かされてきたことだろう。農民の暮らし、旅芸人の孤独、財産をめぐる争い、母の愛、友情、家族…… このフランスの児童文学は、私にそれは多くのことを教えてくれた。この物語からもっとも大切な言葉をひとつだけあげてくれと言われたら、私は迷うことなくヴィタリス親方の「前へ進め」という言葉を選ぶ。109分の中に凝縮された『家なき子』には、マチヤやアーサー、アキャン家の人々は登場しないけれど、「前へ進め」の精神はしっかりと、くっきりと描かれている。そして、大人となったレミを演じるジャック・ペランの慈愛に満ちた表情のなんとあたたかいこと。心の中で眠っていたさまざまな感情を呼び起こしてくれる名作に、ありがとうと伝えたい。


© 2018 JERICO –TF1 DROITS AUDIOVISUELS –
TF1 FILMS PRODUCTION –NEXUS FACTORY -UMEDIA

 

原作:エクトール・アンリ・マロ

監督・脚本:アントワーヌ・ブロシエ
出演:マロム・パキン ダニエル・オートゥイユ ジャック・ペラン ヴィルジニー・ルドワイヤン リュディヴィーヌ・サニエ ジョナサン・ザッカイ アルバン・マソン ほか


<本ブログ内リンク>

ジャック・ペラン出演作

『ニュー・シネマ・パラダイス』( Nuovo Cinema Paradiso )

https://filmsandmusiconmymind.blogspot.com/2015/10/nuovo-cinema-paradiso.html

 

<公式サイト>

『家なき子 希望の歌声』

http://ienakiko-movie.com


11月20日(金)よりYEBISU GARDEN CINEMA、109シネマズ二子玉川ほか全国ロードショー

2020年8月22日土曜日

映画が教えてくれる、海からの贈り物 (Gift From the Sea through the films)

 映画が教えてくれる、海からの贈り物 
(Gift From the Sea through the films) 

昨日から4Kデジタル修復版の上映が始まった『海の上のピアニスト』
(原題: La leggenda del pianista sull'oceano)で要となるエピソードの1つが「初めて海を見たときの感動」だ。船で育ち、一度も船から下りたことのない主人公1900(ナインティーン・ハンドレッド)が、突然「陸に上がってみたい」と宣言する。親友のマックスは驚く。海ならいつだって目の前にあるじゃないか、なぜ?と。1900は答える。陸から海を見たい。海の声を聞いてみたい。人生は壮大だと叫ぶ海の声を。地に足をつけないとその声は聞こえないから、と。
 海とは何と力強く、美しい存在か。海を身近に知る人にも、海を一度も見たことがない人にも、その存在はかけがえのないものだ。
 
 上映中の映画『ファヒム パリが見た奇跡』(原題:Fahim)でも、バングラデシュからフランスに逃れた少年ファヒムが海を初めて目にし、心が釘付けになるシーンがある。海とは、”自由”の象徴なのかもしれない。
 ファヒムは本国のチェス大会でのチャンピオン。彼の並外れた才能を見抜き、フランスでの大会出場を後押しするシルヴァンを演じているのがジェラール・ドパルデューだ。彼を知らない映画ファンはほとんどいないと思うけれど、彼の出演作品のひとつ『さよなら、モンペール』(原題: Mon père, ce héros)を知っている人はどれぐらいいるだろう。(後にハリウッドリメイクされ、ドパルデューはそこでも同じ役を演じた)。この映画の舞台はモーリシャス。ストーリーの面白さはもちろんのこと、海の青さと美しさに心洗われ、映像ごしに癒されたひとときを今でも忘れない。
 そのモーリシャスの海が、汚染にさらされている。
 誰かが故意に行ったことではないだろう。しかし、海を汚す原因になった船のオーナーは、日本の会社だ。いや、国がどうだのと言う以前に、なぜこのような事故が起きたのか、知る責任と権利はあると思う。事故に至った原因のひとつが、私たちが貪欲に追求してきた物質的な豊かさなのだとしたら……直接モーリシャスに行かなくても、大金を寄附することができなくても、私たち1人ひとりにできることを見つけるのはそれほど大変ではないのではないだろうか。

©️Mika Tanaka 




<本ブログ内リンク>
『海の上のピアニスト』4Kデジタル修復版&イタリア完全版
(原題: La leggenda del pianista sull'oceano)


<公式サイト>

『ファヒム パリが見た奇跡』(原題:Fahim)
原題:Fahim/2019年/107分
配給:東京テアトル/STAR CHANNEL MOVIES 
8/14(金)ヒューマントラストシネマ有楽町 ほか全国公開


『海の上のピアニスト』4Kデジタル修復版&イタリア完全版
(原題: La leggenda del pianista sull'oceano)
8月21日(金)よりYEBISU GARDEN CINEMA、
角川シネマ有楽町、アップリンク吉祥寺ほか全国順次公開
配給:シンカ

2020年8月21日金曜日

『海の上のピアニスト』4Kデジタル修復版&イタリア完全版 (原題: La leggenda del pianista sull'oceano)

  ダイヤモンド・プリンセス(DIAMOND PRINCESS)、わかしお(WAKASHIO)……
 2020年が明けてから、船をめぐる悲しいニュースが私たちの耳に入ってきます。これ以上、海の上で悲劇が起こりませんよう。
 
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『海の上のピアニスト』4Kデジタル修復版&イタリア完全版
(原題: La leggenda del pianista sull'oceano)
監督・脚本:ジュゼッペ・トルナトーレ
原作:アレッサンドロ・バリッコ


© 1998 MEDUSA



 「イカれた世紀の最初の年、最初の月」に、船の機関士に拾われた男の子の赤ちゃん。彼は、1900(ナインティーン・ハンドレッド)と呼ばれ、船の乗組員たちの間で育った。ヴァージニアン号という巨大なゆりかごは、彼の成長と共に、彼の劇場へと変貌していく。彼の奏でるピアノの音は、バンドの演奏からどんどんはみ出し、鍵盤の上を舞う蝶のようにはばたく。3等食堂の片隅に置かれたアップライトピアノで演奏するときは、アメリカに向かう移民たちの心を癒す。

 一度も陸に上がったことがないのに、世界中を旅したのではないかと思うほど、彼の心には美しい数々の景色がファイリングされている。そのずばぬけた才能と豊かすぎる感性に寄り添うのは、のちにバンドミュージシャンとして乗船するトランペット奏者のマックスだ。嵐の夜、船酔いでフラフラになったマックスに声をかけた1900は、嵐の中を泳ぐようにストッパーを外したグランドピアノで演奏しながら、マックスと意気投合していく。
 陸に上がればその演奏でほしいものは何でも手に入れられるのに……
 1900が選んだ生き方、それは本当に彼を幸せにしたのだろうか?それとも、彼はただ臆病だっただけなのだろうか?

 20世紀の終わり頃、今から20年ほど前に初めてこの映画を観たときは、ずっとそう考えていた。彼の生き方がはがゆくてたまらなかった。そして今、170分の完全版を観て、そのときには見えなかったあることに気づいた。
 20世紀はイカれた世紀だった、確かにそうだった。戦争に次ぐ戦争、多くの人が無駄に命を落とした。
 そんなとき、1900は何をしていたか。
 彼はピアノを弾いていた。8歳になって初めてピアノを触れた瞬間から、彼はずっと神様からのメッセージを音楽にして、届け続けていた。長い船旅に退屈する人たちに刺激を与え、新天地へ向かう不安を抱える人たちには希望を与え、そして戦争で傷ついた人たちの心に光を灯していた。最後の最後まで。限りある命の灯が消えかける中、彼の音楽がどれだけ人の心を救ったことか。
 この映画と再会して、気づいた。1900は、自分の命や才能を無駄にしたのではなく、十二分に生き抜いたのだということを。

© 1998 MEDUSA
  

 幸せの形は人それぞれ。長く生きることも、大金持ちになることも、それが幸せのゴールとは限らない。1900はそんなことにはまったく興味を示さなかった。ただ、ひとつだけ思うことがある。彼はやっぱりさびしかったんじゃないか。誰かが強引に彼を陸に上げていたら、彼にはもう一つの人生があったんじゃないかと。船が港に着き、多くの人が下船していく中、1900が船から知らない人に電話をかけまくるシーンが、今でも心から離れない。

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この映画の作曲を手がけたエンニオ・モリコーネ氏(Ennio Morricone)が、先月の7月6日、天に召されました。映像に溢れ出る詩情にぴたりと寄り添う彼の音楽を、これからも決して忘れることはないでしょう。
 
  

<本ブログ内リンク>
ジュゼッペ・トルナトーレ監督作品
『ニュー・シネマ・パラダイス』( Nuovo Cinema Paradiso )


<公式サイト>
『海の上のピアニスト』4Kデジタル修復版&イタリア完全版

8月21日(金)よりYEBISU GARDEN CINEMA、
角川シネマ有楽町、アップリンク吉祥寺ほか全国順次公開
配給:シンカ