2015年10月26日月曜日

『イパネマの娘』(Garota de Ipanema)


家族の入院中、病室をいやしてくれた1曲は、ジョアンとアストラッド、2人が交互に歌う『イパネマの娘』でした。

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『イパネマの娘』
(ポルトガル語:"Garota de Ipanema"、英語:"The Girl from Ipanema"
 
 アストラッド・ジルベルトが軽やかに歌う英語版が有名だけど、
この曲の誕生秘話を聞くたびに胸がいたむのは、私だけだろうか。

幼い頃からショーロやサンバなど、ブラジルの音楽を聴いて育った青年ジョアン・ジルベルト(João Gilberto)。
彼は、来る日も来る日も、ギターを奏でる手を休めず、新しい音楽を模索していた。この日々が、後にパーカッションのような演奏とささやくように歌うスタイルを確立し、「ボサノバ」という1ジャンルを築くこととなる。
 ジョアンは、後にピアニストのアントニオ・カルロス・ジョビン(Antônio Carlos Jobim)、詩人のヴィニシウス・ヂ・モラエス(Vinicius de Moraes)と出会う。3人は、ブラジル・リオデジャネイロのイパネマ海岸でよく一緒に飲み、音楽への熱い思いを語り合った。そんなとき、生まれた曲が『イパネマの娘』だった。
 その後、ジョアンはアントニオ・カルロス・ジョビンと共にアメリカに渡る。ジャズサックス奏者のスタン・ゲッツ(Stan Getz)とのレコーディングを行うためだ。

レコーディング曲の中に、もちろん『イパネマの娘』もあった。
そのときに起きたことが偶然なのか必然なのか、それはわからない。

ジョアンのポルトガル語でレコーディングされた『イパネマの娘』には、英語の訳詞もあった。それを、ジョアンの奥方であったアストラッドが、英語版をさらりと歌ってみた。ジョアンは、英語が話せなかったからだ。ちょっとした余興で録ったはずのテイクが、後にシングルカットの『イパネマの娘』として、世に出る。そして、大ヒットとなる。1960年代の出来事だ。

『イパネマの娘』は、ジョアンがポルトガル語で歌うことになっていた曲だ。
でも、アストラッドが英語で歌ったから、ボサノバというジャンルが、これだけ多くの人の間に広がったのはまぎれもない事実だ。

ジョアンは、英語版『イパネマの娘』を、どう感じていたのだろう。
屈辱的な思いだったのだろうか。とはいえ、大ヒットによって、ボサノバの創始者であるジョアンの地位がゆるぎないものになったのも事実だ。
ジョアンが今、どういう思いでいるのか。
それはわからない。私にはわからない。

私は、ポルトガル語を話せない。
でも、ジョアンが歌うポルトガル語の響きと訳を読むと、いつも切なくて苦しくて、たまらない気持ちになる。
恋って、なんてはかなくて、なんて孤独なんだろう。美というものは、なんて神聖なものだんだろう……と。
 
私とボサノバとの出会いは、アストラッドの英語版。彼女の淡々とした歌声は、いつも私の生活の片隅にあった。

それでも、『イパネマの娘』で、ジョアン歌うポルトガル語に心つかまれてから、時折複雑な気持ちを抱くようになった。ポルトガル語で歌う彼の”Garota de Ipanema"には、そんなほろ苦さがある。

 ジョアンが私に教えてくれたのは、音楽の素晴らしさだけじゃなかった。
「人生」や「運命」といった、自分たちの手には負えないものの存在も、教えてくれた
ジョアン・ジルベルトに会いたいと、いつからか思うようになった。
私が探し続けている問いの答えを、もしからしたら、彼は持っているかもしれない。

(2014年、ジョアン・ジルベルトの83歳の誕生日に寄せた記事より改稿)

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2人の歌声は、心と体が弱っているときに、すうっと体にしみ込んでいくスープのよう。
そう、どちらか1人ではだめなのです。


さらに言えば、アントニオ・カルロス・ジョビンのピアノ、スタン・ゲッツのサックスなどすべての奏者の音、それを支えたスタッフ、作詞に携わったヴィニシウス・ヂ・モラエスら、関わったすべての人たちがあって、初めて『イパネマの娘』は伝説の名曲となり得たのだと思うのです。

<本ブログ内リンク>

『ひなぎく』その2 —ひなぎくとバラの花ー
(アストラッド・ジルベルトの紹介をしています)
http://filmsandmusiconmymind.blogspot.jp/2015/10/sedmikrasky2.html

2015年10月25日日曜日

『ひなぎく』(Sedmikrasky) その2

『ひなぎく』(Sedmikrasky) その2

-- ひなぎくとバラの花--



監督:ヴェラ・ヒティロヴァー(Vera Chitirova)
©State Cinematography Fund
【配給】チェスキー・ケー


 映画『ひなぎく』(原題:Sedmikrasky/チェコ・スロヴァキア/1966/75)の主人公は、2人の女の子。花冠をちょこんと頭に乗せたブロンドボブのマリエ1、そしてブルネットの髪をウサギさんの耳のようなおさげにしたマリエ2だ。

 ウサちゃん髪のマリエ2の表情が、たまらなく、いい。大きな目が、人生を謳歌するがごとく、大胆に動く。寄り目、流し目、うつろな目。連動して動く大きな口も、またいい。うわっ、コイツ、なんてしたたかなんだ!と言いたくなるような、ねっとりした意地の悪い表情。でも「これは映画、アートなの。だからコレでイイの」と解説されているようで、つい納得してしまう。
 それにしても、マリエ2を見ていると、なぜか初めて見る他人には思えない。前にどこかで会ったような、友人の誰かに似ているような???

監督:ヴェラ・ヒティロヴァー(Vera Chitirova)
©State Cinematography Fund
【配給】チェスキー・ケー

  彼女の顔をよおく観察して気がついた。そうだ、ブラジルのシンガー、アストラッド・ジルベルト(Astrud Gilberto)にどことなく似ているのだ。ボサノヴァの名曲『イパネマの娘』(原題:Garota de Ipanema、英題:The Girl from Ipanema)の大ヒットで、一躍有名になったアストラッド。彼女の名前は知らずとも、おそらく多くの人が彼女の歌を耳にしたことがあると思う。

アストラッドには、陽だまりのようなぬくもりが似合うような気がする。彼女の歌う“And Roses and Roses”は、その歌い方や声がバラの花びらの質感や香りを相まって、とても心地よい気分になれる。
秋空の青がきれいな季節。だいぶ涼しくなってきたけれど、ひなたぼっこのチャンスはもう少し残っていそう……


監督:ヴェラ・ヒティロヴァー(Vera Chitirova)
©State Cinematography Fund
【配給】チェスキー・ケー


<本ブログ内リンク>
『ひなぎく』 その1
http://filmsandmusiconmymind.blogspot.jp/2015/10/sedmikrasky.html

<公式サイト>

映画『ひなぎく』  



<上映のお知らせ>

ユジク阿佐ヶ谷

11/28()12/11()レイトショー20:30〜 
料金:1,000円(ラピュタの半券で800円)
*昼の上映は『クーキー』、チェコアニメ(クルテク、アマールカ、ポヤル短篇、
ぼくらと遊ぼう!、『バヤヤ』『真夏の夜の夢』、コウツキー短篇、パヴラートヴァー短篇)



2015年10月24日土曜日

『幸福の黄色いハンカチ』 (The Yellow Handkerchief)


28回東京国際映画祭が、開催されています。
追悼特集『高倉健と生きた時代』では、もうすぐ一周忌を迎える高倉健さん出演のなつかしい名画の上映も。
明日(10/24)に上映される、この作品をご紹介します。

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『幸福の黄色いハンカチ』 (監督:山田洋次/ 1977年日本)


(c)「幸福の黄色いハンカチ」監督/山田洋次(c)1977.2010松竹株式会社


 高倉健さんが演じたのは、愛する妻との小さなすれ違いがもとで、人を殺めてしまった男。彼は刑期を終えるとき、妻に便りを書く。もしもまだ自分のことを待っていてくれるのなら、目印として、家の前に黄色いハンカチを下げてくれ、と。
 
 原作は、アメリカのジャーナリスト、ピート・ハミル(Pete Hamill)の『黄色いリボン』。作品には、こんなメッセージが込められている。

「人は、たとえ過ちを犯してしまっても、すべてを失うわけではない」。
 
 国によって微妙な違いはあるけれど、黄色いリボンには、「愛する人が無事に帰ってきますように」という思いがあるという。2014年、韓国のフェリー・セウォル号の沈没事故のときも、韓国で「黄色いリボン」を用いたキャンペーンが行われたと聞いた。

 このあたたかいメッセージにあふれた作品は、日本に渡り『幸福の黄色いハンカチ』として失敗と挫折を経験した多くの人を励ました。そして次は再びアメリカに戻り、『イエロー・ハンカチーフ』(The Yellow Handkerchief/2008年米)としてよみがえる。

 国が変わっても、人が変わっても、この作品はあたたかい。こどもたちが大好きな「イエロー」という色彩のように。



<関連サイト>
28回東京国際映画祭

http://2015.tiff-jp.net/ja/

東京国際映画祭 追悼特集『高倉健と生きた時代』に関するお知らせ
※『幸せの黄色いハンカチ』は、10月24日(日)10:20より上映開始。

※『幸せの黄色いハンカチ』で高倉健さんの妻役を演じた倍賞千恵子さんの舞台挨拶が、明日『遥かなる山の呼び声』(同日13:20より上映)の上映後に行われる予定です。


 倍賞千恵子さん




2015年10月21日水曜日

『ニュー・シネマ・パラダイス』( Nuovo Cinema Paradiso )


28回東京国際映画祭が、明日1022日から始まります。
顔ぶれ豊かなドキュメンタリー作品の中の1作『シーズンズ 2万年の地球旅行』(原題:Les Saisons)の製作に、ジャック・ペラン(Jacques Perrin)の名がありました。
この映画のことをふと思い出しました。

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ニュー・シネマ・パラダイス(原題:Nuovo Cinema Paradiso/1989/伊)
映画を愛することは人生を愛すること

「夢」と「愛」は両立するのだろうか?
 自分の仕事への夢と、愛する人との生活。この2つは両立できるのか、できないのか。
もしもどちらか1つしか選ぶことができなかったら、あなたならどうするだろうか?
 この問いを本作に投げかけたのは、撮影当時30代前半だったジュゼッペ・トルナトーレ(Giuseppe Tornatore)監督だ。
サルヴァトーレ(ジャック・ペラン/Jacques Perrin)は、映画監督として大成功をおさめながらも、いつも何かが欠けているような満たされない思いを抱えて生きていた。その理由が故郷の回想シーンで語られていく。
 サルヴァトーレが育ったのはシチリア島の小さな村。映画が大好きで、映画館・パラダイス座の映写技師アルフレード(フィリップ・ノワレ/Philippe Noiret)を父親のように慕っていた。はきちれそうな好奇心、限りない可能性を持つやんちゃな少年を、アルフレードは誰よりも深く理解する。いつしかサルヴァトーレはたくましい青年へと成長していく。



「人にはそれぞれの運命がある」。失恋の痛手に苦しむサルヴァトーレにアルフレードは「村を出ろ」と告げる。「お前は若い。私たちを、すべてを忘れろ。ノスタルジーに惑わされるな……何をするにしても心から打ち込め。子供の頃、映写室に夢中になったように」
 学校に通うことができなかったアルフレードに待っていたのは、狭い映写室で単調な作業を繰り返す生活だった。しかしそこで目にする映画から、いつも大きな夢と愛をもらっていた。彼は、映画が届けてくれた数々の贈り物をひとつ残らずサルヴァトーレに手渡し、前途溢れる青年の背中を押す。血が通っていなくとも、2人はある意味で本当の父子だった……
 日本で初めて劇場公開されたのは198912月。銀座の小さな映画館、「シネスイッチ銀座」に長蛇の列ができ、多くの人が涙をぬぐいながら帰路に着いた。40週におよぶ連続上映、驚異的な興行成績をおさめ、そのトップの記録は2015年10月現在、いまだ更新されていない。
 このとき上映されたのは「劇場公開版」の124分のバージョンだが、今は、50分程のシーンが再現されたオリジナル版(175分)をDVD等で観ることが可能だ。サルヴァトーレの恋人だったエレナとの後日談が収録されている。成熟したエレナを演じるのは『禁じられた遊び』(Jeux interdits)の子役であり、『ラ・ブーム』(La Boum)でソフィー・マルソー(Sophie Marceau)演じる主人公の母親を演じた、ブリジット・フォッセー(Brigitte Fossey)
 自分がアルフレードの立場だったらどういう行動を取るか、どんな助言をするか、想像しながら観てほしい。映画が終わってからも登場人物たちの人生は続き、そして私たちの人生も続いていく。ひとつひとつ、選択と決断を繰り返しながら……




ニュー・シネマ・パラダイス
Blu-rayDVD発売中
Blu-ray2,500/DVD1,800円(税抜)
発売元:アスミック・エース
販売元:KADOKAWA 角川書店

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