2020年12月10日木曜日

フランス映画祭の思い出 その1 『愛しのベイビー』(Mon Bébé)

 フランス映画祭2020が今日、1210日から横浜で始まりました。

例年のようにフランスから監督や俳優の人たちが来日することはありませんが、6月に予定されていた映画祭が中止になることなく、年内に開催されたことに感謝です。コロナ禍を油断してはなりませんが、換気、手洗い、マスクを徹底すれば、映画館は比較的安全な場所かと思います。観客のみなさま、Bonne projection!

 

 

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フランス映画祭の思い出 その1

 

フランス映画祭2019上映作品

『愛しのベイビー』(Mon Bébé

 

−リサ・アズエロス監督とタイス・アレサンドラさんに会う−

 

 

 ああ、なんて可愛い赤ちゃんだろう。子供が誕生するシーンでさえメルヘンのような映像になるのは、女性の映画監督だからというより、リサ・アズエロス監督だからと表現する方が正しいのかもしれない。どうしたらこんな可愛くて愛情に溢れた映像をさらりと撮れてしまうのだろうか。

「何も特別なテクニックがあるわけではありません。赤ちゃんはそれだけで宝石(のように貴重で大切な存在)ですから」と答えるリサ監督の表情は静かで穏やかで、そばにいるとふわふわした綿菓子の中にいるような心地よい気分になってくる。

 子供と一緒に見ようと録画したものの、一緒に見られる機会を逃し続けているテレビ番組があったり、撮りためておいた子供の写真をそっくりなくして、発狂寸前になって泣きじゃくることがあったり…… フランスも日本も、子に捧げる母の愛というのは、大きな違いはないのだろう。

 


リサ・アズエロス監督(左)とタイス・アレサンドラさん(右)
2019年6月22日撮影


 リサ・アズエロスといえば、母親は『太陽がいっぱい』の出演で知られる女優のマリー・ラフォレ。偉大な女優の娘として生きる中、葛藤はあったのだろうか?

「もちろんありました」

 彼女は、初めから映画の世界に身を置いていたわけではない。1年間、金融業界で働いたこともあった。「でも、私はやはり芸術家だと気づいて」、リサ監督の今のキャリアがある。

 

 末娘のジャードを演じたタイス・アレサンドラさんはリサ監督の実の娘さん。彼女もまた、母と同じ映画の世界で生きている。ジャードと同じように、お母さんの愛をいっぱいに受けて成長したのだろう。その無邪気な人柄に、ほのぼのとした気持ちになる。

「日本といえば、ミヤザキ!ミヤザキの映画が大好きです。モノノケ、ナウシカ、チヒロ、トトロ、ぜーんぶ好き!」

 タイスさんの子供時代の思い出とともにある宮崎アニメの数々。何度もなんどもくり返し見ていたそうだ。そんなふうに話す彼女の話をそばでうなずくのは、映画監督という立場を離れた、1人の母親ーーリサお母さんだ。

 

 フランス映画祭2019で上映されたこの作品、日本での配給はまだ決まっていない。

映画を見る暇もなく生活しているシングル・マザーの人たちに見ていただけたらと心から願っている。

 

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 20196月に行ったこの取材の数ヶ月後の11月、リサ監督のご母堂マリー・ラフォレさんが他界されたことを知りました。母から子へ、そして孫へ……彼女の映画人としてのDNAが受け継がれていくことの素晴らしさを、この映画を通して感じます。

 

 

<本ブログ内リンク>

 

リサ・アズエロス監督作品

『ダリダ あまい囁き』(Dalida

https://filmsandmusiconmymind.blogspot.com/2018/05/dalida.html

 

 

 

<公式サイト>

 

フランス映画祭2020

https://www.unifrance.jp/festival/2020/

 

 

愛しのベイビー Mon Bébé

https://www.unifrance.jp/festival/2019/films/1167/

 

 コロナ禍を油断してはなりませんが、換気、手洗い、マスクを徹底すれば、映画館は比較的安全な場所かと思います。観客のみなさま、Bon projection!

 

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リサ・アズエロス監督作品

『ダリダ あまい囁き』(Dalida

https://filmsandmusiconmymind.blogspot.com/2018/05/dalida.html

 

 

 

<公式サイト>

 

フランス映画祭2020

https://www.unifrance.jp/festival/2020/



フランス映画祭のポスターが掲げられる2020年12月の横浜、みなとみらい





2020年12月1日火曜日

再)『ばるぼら』(英題:Tezuka’s Barbara)


11月20日から上映が始まった『ばるぼら』。

昨年(2019年)の東京国際映画祭で上映されたときには、まさか1年後がこんなことになっているとは誰が想像したでしょうか?

映画祭で「こういう時代だからこそ、肉体の触れ合いを見せる映画を撮りたかった」と語った手塚眞監督の言葉が、今となってずしりと重く心に響きます。

コロナ禍もソーシャルディスタンスも無縁なこの映画で、しばしの間、自由な心で羽ばたいてみるのもよいかもしれません。

1年前の手塚眞監督の言葉を再掲載します。

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再)『ばるぼら』(英題:Tezuka’s Barbara)  
原作:手塚治虫
監督:手塚眞


  手塚眞監督が『ばるぼら』に出会ったのは10歳の頃。大人向けのコミック誌向けに連載されていたこのマンガは、小学生の眞少年にとって『鉄腕アトム』や『ブラックジャック』以上のインパクトを与えた。そして、映像の世界でキャリアを積み、選んだ題材がこの作品だった。自分の体の中に流れている手塚治虫のDNA……自分の体を流れる血潮、父から受け継いだ血の騒ぐまま、自然に撮り終えた本作には、手塚マンガ独特の空気がすみずみにまで漂う。昭和の芸術が、令和になって不死鳥のようによみがえったかのように。
 デジタル化が進み、人との交流も機械をを介して行うことが当たり前の時代となった。「エロティックという言葉をネガティブに捉える人もいらっしゃいますが、僕にとっては、エロティックは人と人とが交流することなんです。こういう時代だからこそ、肉体の触れ合いを見せる映画を撮りたかった」。戦争という時代をくぐりぬけた後、手塚治虫はエロティシズムを"自由"の証のひとつとして描いた。そして手塚眞監督が描く21世紀のエロティシズムは、枯渇した私たちの心を潤してくれる"癒し"を意味するのかもしれない。


第32回東京国際映画祭で観客の質問に答える手塚眞監督
(2019年11月3日撮影)



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<本ブログ内リンク>

この映画のラストシーンに、手塚治虫少年が登場します。
31回東京国際映画祭 速報その『漫画誕生』(The Manga Master)

<公式サイト>
『ばるぼら』



2020年11月18日水曜日

『家なき子 希望の歌声』(原題:Remi sans famille, 2018年仏)

『家なき子 希望の歌声』(原題:Remi sans famille, 2018年仏)


© 2018 JERICO –TF1 DROITS AUDIOVISUELS –
TF1 FILMS PRODUCTION –NEXUS FACTORY -UMEDIA

 

 監督は、アントワーヌ・ブロシエ。

 彼は、日本版アニメーションの『家なき子』を見て育った世代だ。1977年、日本テレビ開局25周年記念作品としてお茶の間に登場した同名の立体アニメーション(東京ムービー新社、現:トムスエンタテインメント制作)は、故郷のフランスでも放送され、多くの人の涙を誘った。ブロシエ監督いわく「このアニメが最も原作に忠実」という。プロットだけでなく、レミの帽子の飾りやジョリクールの衣装といった細部をはっきりと描いたアートディクションも素晴らしいと。監督の賛辞を知ったら、たまらなく嬉しくて、名作アニメの最盛期を知っている自分が誇らしくなった。

 アニメで全51話となる長編を、いったいどのようにコンパクトにまとめ上げるのか、好奇心いっぱいの気持ちで見ていたら、子供時代の旧友に再会したような懐かしさで胸がいっぱい、見終わる頃には涙ぐんでしまっていた。登場人物たち1人ひとりの愛や思いに、これまでいったい何回泣かされてきたことだろう。農民の暮らし、旅芸人の孤独、財産をめぐる争い、母の愛、友情、家族…… このフランスの児童文学は、私にそれは多くのことを教えてくれた。この物語からもっとも大切な言葉をひとつだけあげてくれと言われたら、私は迷うことなくヴィタリス親方の「前へ進め」という言葉を選ぶ。109分の中に凝縮された『家なき子』には、マチヤやアーサー、アキャン家の人々は登場しないけれど、「前へ進め」の精神はしっかりと、くっきりと描かれている。そして、大人となったレミを演じるジャック・ペランの慈愛に満ちた表情のなんとあたたかいこと。心の中で眠っていたさまざまな感情を呼び起こしてくれる名作に、ありがとうと伝えたい。


© 2018 JERICO –TF1 DROITS AUDIOVISUELS –
TF1 FILMS PRODUCTION –NEXUS FACTORY -UMEDIA

 

原作:エクトール・アンリ・マロ

監督・脚本:アントワーヌ・ブロシエ
出演:マロム・パキン ダニエル・オートゥイユ ジャック・ペラン ヴィルジニー・ルドワイヤン リュディヴィーヌ・サニエ ジョナサン・ザッカイ アルバン・マソン ほか


<本ブログ内リンク>

ジャック・ペラン出演作

『ニュー・シネマ・パラダイス』( Nuovo Cinema Paradiso )

https://filmsandmusiconmymind.blogspot.com/2015/10/nuovo-cinema-paradiso.html

 

<公式サイト>

『家なき子 希望の歌声』

http://ienakiko-movie.com


1120()よりYEBISU GARDEN CINEMA109シネマズ二子玉川ほか全国ロードショー

2020年8月22日土曜日

映画が教えてくれる、海からの贈り物 (Gift From the Sea through the films)

 映画が教えてくれる、海からの贈り物 
(Gift From the Sea through the films) 

昨日から4Kデジタル修復版の上映が始まった『海の上のピアニスト』
(原題: La leggenda del pianista sull'oceano)で要となるエピソードの1つが「初めて海を見たときの感動」だ。船で育ち、一度も船から下りたことのない主人公1900(ナインティーン・ハンドレッド)が、突然「陸に上がってみたい」と宣言する。親友のマックスは驚く。海ならいつだって目の前にあるじゃないか、なぜ?と。1900は答える。陸から海を見たい。海の声を聞いてみたい。人生は壮大だと叫ぶ海の声を。地に足をつけないとその声は聞こえないから、と。
 海とは何と力強く、美しい存在か。海を身近に知る人にも、海を一度も見たことがない人にも、その存在はかけがえのないものだ。
 
 上映中の映画『ファヒム パリが見た奇跡』(原題:Fahim)でも、バングラデシュからフランスに逃れた少年ファヒムが海を初めて目にし、心が釘付けになるシーンがある。海とは、自由の象徴なのかもしれない。
 ファヒムは本国のチェス大会でのチャンピオン。彼の並外れた才能を見抜き、フランスでの大会出場を後押しするシルヴァンを演じているのがジェラール・ドパルデューだ。彼を知らない映画ファンはほとんどいないと思うけれど、彼の出演作品のひとつ『さよなら、モンペール』(原題: Mon père, ce héros)を知っている人はどれぐらいいるだろう。(後にハリウッドリメイクされ、ドパルデューはそこでも同じ役を演じた)。この映画の舞台はモーリシャス。ストーリーの面白さはもちろんのこと、海の青さと美しさに心洗われ、映像ごしに癒されたひとときを今でも忘れない。
 そのモーリシャスの海が、汚染にさらされている。
 誰かが故意に行ったことではないだろう。しかし、海を汚す原因になった船のオーナーは、日本の会社だ。いや、国がどうだのと言う以前に、なぜこのような事故が起きたのか、知る責任と権利はあると思う。事故に至った原因のひとつが、私たちが貪欲に追求してきた物質的な豊かさなのだとしたら……直接モーリシャスに行かなくても、大金を寄附することができなくても、私たち1人ひとりにできることを見つけるのはそれほど大変ではないのではないだろうか。

©️Mika Tanaka 




<本ブログ内リンク>
『海の上のピアニスト』4Kデジタル修復版&イタリア完全版
(原題: La leggenda del pianista sull'oceano


<公式サイト>

『ファヒム パリが見た奇跡』(原題:Fahim
原題:Fahim/2019/107
配給:東京テアトル/STAR CHANNEL MOVIES 
8/14()ヒューマントラストシネマ有楽町 ほか全国公開


『海の上のピアニスト』4Kデジタル修復版&イタリア完全版
(原題: La leggenda del pianista sull'oceano
821()よりYEBISU GARDEN CINEMA
角川シネマ有楽町、アップリンク吉祥寺ほか全国順次公開
配給:シンカ

2020年8月21日金曜日

『海の上のピアニスト』4Kデジタル修復版&イタリア完全版 (原題: La leggenda del pianista sull'oceano)

  ダイヤモンド・プリンセス(DIAMOND PRINCESS)、わかしお(WAKASHIO)……
 2020年が明けてから、船をめぐる悲しいニュースが私たちの耳に入ってきます。これ以上、海の上で悲劇が起こりませんよう。
 
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『海の上のピアニスト』4Kデジタル修復版&イタリア完全版
(原題: La leggenda del pianista sull'oceano
監督・脚本:ジュゼッペ・トルナトーレ
原作:アレッサンドロ・バリッコ


© 1998 MEDUSA



 「イカれた世紀の最初の年、最初の月」に、船の機関士に拾われた男の子の赤ちゃん。彼は、1900(ナインティーン・ハンドレッド)と呼ばれ、船の乗組員たちの間で育った。ヴァージニアン号という巨大なゆりかごは、彼の成長と共に、彼の劇場へと変貌していく。彼の奏でるピアノの音は、バンドの演奏からどんどんはみ出し、鍵盤の上を舞う蝶のようにはばたく。3等食堂の片隅に置かれたアップライトピアノで演奏するときは、アメリカに向かう移民たちの心を癒す。

 一度も陸に上がったことがないのに、世界中を旅したのではないかと思うほど、彼の心には美しい数々の景色がファイリングされている。そのずばぬけた才能と豊かすぎる感性に寄り添うのは、のちにバンドミュージシャンとして乗船するトランペット奏者のマックスだ。嵐の夜、船酔いでフラフラになったマックスに声をかけた1900は、嵐の中を泳ぐようにストッパーを外したグランドピアノで演奏しながら、マックスと意気投合していく。
 陸に上がればその演奏でほしいものは何でも手に入れられるのに……
 1900が選んだ生き方、それは本当に彼を幸せにしたのだろうか?それとも、彼はただ臆病だっただけなのだろうか?

 20世紀の終わり頃、今から20年ほど前に初めてこの映画を観たときは、ずっとそう考えていた。彼の生き方がはがゆくてたまらなかった。そして今、170分の完全版を観て、そのときには見えなかったあることに気づいた。
 20世紀はイカれた世紀だった、確かにそうだった。戦争に次ぐ戦争、多くの人が無駄に命を落とした。
 そんなとき、1900は何をしていたか。
 彼はピアノを弾いていた。8歳になって初めてピアノを触れた瞬間から、彼はずっと神様からのメッセージを音楽にして、届け続けていた。長い船旅に退屈する人たちに刺激を与え、新天地へ向かう不安を抱える人たちには希望を与え、そして戦争で傷ついた人たちの心に光を灯していた。最後の最後まで。限りある命の灯が消えかける中、彼の音楽がどれだけ人の心を救ったことか。
 この映画と再会して、気づいた。1900は、自分の命や才能を無駄にしたのではなく、十二分に生き抜いたのだということを。

© 1998 MEDUSA
  

 幸せの形は人それぞれ。長く生きることも、大金持ちになることも、それが幸せのゴールとは限らない。1900はそんなことにはまったく興味を示さなかった。ただ、ひとつだけ思うことがある。彼はやっぱりさびしかったんじゃないか。誰かが強引に彼を陸に上げていたら、彼にはもう一つの人生があったんじゃないかと。船が港に着き、多くの人が下船していく中、1900が船から知らない人に電話をかけまくるシーンが、今でも心から離れない。

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この映画の作曲を手がけたエンニオ・モリコーネ氏(Ennio Morricone)が、先月の7月6日、天に召されました。映像に溢れ出る詩情にぴたりと寄り添う彼の音楽を、これからも決して忘れることはないでしょう。
 
  

<本ブログ内リンク>
ジュゼッペ・トルナトーレ監督作品
『ニュー・シネマ・パラダイス』( Nuovo Cinema Paradiso )


<公式サイト>
『海の上のピアニスト』4Kデジタル修復版&イタリア完全版

821()よりYEBISU GARDEN CINEMA
角川シネマ有楽町、アップリンク吉祥寺ほか全国順次公開
配給:シンカ



2020年7月9日木曜日

『アンナ・カリーナ 君はおぼえているかい』 (原題:Anna Karina, souviens-toi)

 横浜で6月に開催されるはずだった「フランス映画祭」が延期になりました。コロナ禍はまだまだ私たちから日常の楽しみを奪い続けています。
 それでも、新型コロナウイルス感染予防の対策を取りながら映画館での上映が再開したことが救いです。
 74日から横浜シネマリンで、「宝石のいっぱいつまった宝石箱」のような映画の上映が始まりました。著作権上の決まりにより、本来であれば日本で上映することのできない本作ですが、プロデューサーの尽力によって「2020年限り」という条件で上映が許されました。

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アンナ・カリーナ生誕80周年記念
『アンナ・カリーナ 君はおぼえているかい』
(原題:Anna Karina, souviens-toi
監督:デニス・ベリー
プロデューサー:シリヴィー・ブレネ


© Les Films du Sillage – ARTE France – Ina 2017

  父は船乗り、母は19歳。
  父と会ったことはない。母は娘との接し方がわからない。それでも、祖父と祖母の愛情をいっぱいに受けた。
 1940922日生まれ。ナチ政権下のコペンハーゲンで育った少女は、4歳で祖母と死別してから、母とその恋人の元で暮らすことに。幼い頃から働き、14歳でエレベーターガールに雇われたこともある。稼いだお金で映画館に行くと、そこには感動があって憧れがあって、自分の居場所があった。ジャズも大好き、サッチモやベイシーを聴きながらスイングしていた。
 17歳になったアンナは電車を乗り継ぎ、そしてパリにたどり着く。
 ココ・シャネルにつけてもらった「アンナ・カリーナ(Anna Karina)」という芸名、吸い込まれそうなほど大きくてキラキラした目、映画と音楽が培った感性、祖母の愛と祖父の信念……お金も学歴もなかったけれど、アンナはもっと大切なものを持っていた。何より健気で純粋で、努力家だった。
 ジャン=リュック・ゴダールに見出され、セルジュ・ゲンズブールを歌い、ルキノ・ヴィスコンティやジョージ・キューカーの映画に出演したアンナ。華々しいキャリアとは対称的に、彼女のたたずまいにはそこはかとなく憂いが感じられる

 泣き叫ぶ修道女のアンナも、陽の光の下で奔放に歌うアンナも魅力的だけれど、アニエス・ヴァルダ監督の『5時から9時までのクレオ』でゴダールとチラリと共演したアンナが、私にはいちばん可愛くてステキに見える。ゴダールがもっとよくアンナを理解し寄り添っていたら、彼女はもっとはやく孤独から解放されていただろうに、と余計なことを考えてしまう。

© Les Films du Sillage – ARTE France – Ina 2017


 でも、別れがあったから新しい出会いもあった。この映画の監督は、彼女の最後のパートナー、デニス・ベリー。彼女はとうとう、探し続けていたものを彼の心の中にみつけたのだろう。
 この映画が日本で公開されるのを心待ちにしながら、アンナ・カリーナは20191214日、パリでその生涯を終えた。
 映画館へ足を運び、一期一会の人々と同じスクリーンの映像を見る……かつてアンナがそうして自分の心を癒したように、どうかこの映画であなたの心が癒されますように。


© Les Films du Sillage – ARTE France – Ina 2017


<本ブログ内リンク>

アニエス・ヴァルダをもっと知るための3本の映画


<公式サイト>
『アンナ・カリーナ 君はおぼえているかい』
配給:オンリー・ハーツ

2020年6月23日火曜日

“Reviens sur Terre Esther !” (フランス語の読み聞かせ)

地球に帰ってきて、エステル!
“Reviens sur Terre Esther !”  
フランス語の 読み聞かせ
  
 コロナ禍によって、社会の動きが大きく変わりました。
 ライブハウスや映画館が休業せざるを得なくなり、子供達は3ヶ月近く学校に通えず大切な学びの機会を失いました。一方で、オンラインを活用した新しい活動が試みられるようにもなりました。人は何かを失うときに、何か新しいものを得るのかもしれません。

 カナダ大使館の中にある「EH・ノーマン図書館」で行われている「子供向けカナダの図書を読む会」も、コロナ自粛の影響を受けてお休みが続いてきました。それでも、こうしてオンラインで届けてくれるセッションに、心温まります。
子供のいる人もいない人も、フランス語のわかる人もわからない人も、少しの間、
フランス語の読み聞かせにひたってみませんか?(日本語字幕つきです)

ここをクリック(24時間限定公開です)
日本時間で6月24日(水)午前11:00より、6月25日(木)午前11:00まで


タイトル: Reviens sur Terre Esther !」地球に帰ってきて、エステル! 
著者 :イラストレーター:Josée Bisaillon ジョゼ・ビザイオン
出版社:Nimbus Publishing(2019)

2020年6月21日日曜日

Fête de la Musique(フェット・ド・ラ・ミュージック)

移動自粛も緩和されましたが、まだまだ油断はできません。
身体的な制限は残りますが、心の翼を広げる自由があることに感謝。

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フェット・ド・ラ・ミュージック(音楽のまつり)

 6月21日は” Fête de la Musique”の日。1982年にフランスで始まったイベントだ。
 1年で最も日が長いこの時期、フランスじゅうが音楽で賑わう。人気ミュージシャンのコンサート、由緒あるホテルでの演奏会、私が初めて訪れたパリでは、通りがかりの人が加わって、街角で一斉に合唱する人たちがいた。

 いつしか日本でも”  Fête de la Musique”の活動が始まった。「音楽はすべての人のもの」という精神を踏襲し、イベントは入場無料で、プロ・アマを問わず出演できる。フランスの6月はからっとして空も青く花で溢れているが、日本はちょうど梅雨の真っ盛り。そのためか、イベントは6月21日の1日だけに限定されず、6月中のさまざまな日、さまざまな地域で行われている。

 毎年、この日が訪れるのが楽しみだった。
 今年はといえば、多くのイベントが中止される中、空は雨模様。
 残念な夏至の空を見上げながら、思いを馳せる。
 今まで出会ってきた大好きな音楽たちと、これから生まれようとする新しい音楽たちに向けて。


日本からヨーロッパに渡り、多くの人に幸せを届けた花、アジサイ。
 Fête de la Musiqueはフランスから日本に渡り、多くの人の心を潤している。


2020年6月16日火曜日

『ジョーズ2』(原題:Jaws 2 , 1978年米)

 この映画が、深夜の番組で放送されることを知りました。懐かしい。

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『ジョーズ2』(原題:Jaws 2 , 1978年米)

 この頃、アメリカは輝いていた。ハリウッド映画も輝いていた。映画は映画館で観るのが当たり前だった。映画館で見逃してしまったり、もう一度観たいと思う映画がテレビで放送されるのを楽しみにしていた。
 この映画を思い出しながら、懐かしい気持ちに浸っている。

『ジョーズ』も『ジョーズ2』も、私にとっては特別な映画だ。物をよく知らない子供だった自分にとって、エンタテインメント(娯楽)以上の存在だった。世にも恐ろしい巨大ザメを見ながら、人の命のはかなさだったり、人生だったりを考えずにはいられなかった。

 主人公、ブロディ保安官(ロイ・シャイダー)にはマイクとショーン、2人の息子がいる。兄のマイクが仲間たちとヨットで沖に出ようとすると、小さな弟ののショーン(マーク・ギルピン/Marc Gilpin)が連れて行ってとねだる。そして沖で悲劇が……前作で、砂浜で逃げ惑う人の波に驚いて泣いていた赤ちゃんが、ここでは今にもサメに食べられそうな自分の状態を知り、恐怖という感情を心に刻んでいる。子供の私にはこのシーンが、いまだに強烈に印象に残っている。
ショーンを助けようとした、確かマギーという名の女性がサメに襲われ、あっけなくスクリーンから消えてしまったとき、そのあっけなさがただただ切なかった。

(ネタバレでごめんなさい。記憶もおぼろなので内容が間違っていたらごめんなさい)

    映画のある人生って素晴らしい。
 映画と一緒に人生を歩んでいけることを、感謝します。
 映画館に多くの人が戻ってきますよう。

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 <本ブログ内リンク>

『ジョーズ』(原題:JAWS, 1975年米)——クイント船長と原子爆弾

2020年6月6日土曜日

再)シシリアン・ゴースト・ストーリー

109年もの歴史を刻んだ新潟県の映画館「高田世界館」で、『配給会社を救おう! 〜ミモザフィルムズ 特集!』の催しが今日6月6日(土)から始まりました。
上映作品の1つがこの映画です。
非情な題材でありながら全編に漂う詩情を、何と説明したらよいのでしょうか。
小説でも絵画でも音楽で表現しきれない悲しみと昇華を、「映画」という手法が私たちに届けてくれました。

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映画の中のこどもたち その10

『シシリアン・ゴースト・ストーリー』(原題:SICILIAN GHOST STORY


©2017 INDIGO FILM CRISTALDI PICS MACT PRODUCTIONS
 JPG FILMS VENTURA FIL
M

 大人は誰もわかってくれない……
 味方になってくれる大人と出会えない13歳の少女ルナ。
 ラブレターを渡したその日に、大好きな同級生ジュゼッペは姿を消してしまう。
 彼の叫びを受け止め、彼を救おうとルナは必死に働きかけるが、周囲の大人たちは、大人だけがわかる暗黙のルールに忠実で、ひたすら口を閉ざす。誰も何も言わない。ルナが納得のいく説明をする大人は誰もいない。
 髪を真っ青に染め、ちらしをばらまいて窮状を訴えるルナ。両親はルナの髪を丸刈りにする。ルナの髪は何もなかったようにまた伸びる。ルナの髪の長さが苦しみの時間を物語る。


©2017 INDIGO FILM CRISTALDI PICS MACT PRODUCTIONS
JPG FILMS VENTURA FILM

「海だ、海の匂いがする!」
 隠れ家を移動する途中、車のトランクに押し込められたジュゼッペが叫ぶ。海を見たいと懇願するが、目隠しを外された彼の目の前にはそっけない草っ原が広がるだけ。海は見えない。しかし……
 真実は目に見えないものかと痛感する瞬間だ。
 
 物理的に引き離されたルナとジュゼッペ。しかし、2人の心の距離を引き離すことは誰もできなかった。肉体を超えた次元で巡り会う二人の魂は、なんと美しいのだろう。大人の庇護なしには生きられないはずの十代の心は、なんと純粋で強いのだろう。

 起きてしまったおぞましい現実は、誰も変えることはできない。
 でも、ジュゼッペの魂がずっとシチリアをさまよっているとしたら?
 この映像詩を舞う天使・ルナが、ジュゼッペを天国へ導いてくれるかもしれない。
 そんなふうに私は思いたい。


©2017 INDIGO FILM CRISTALDI PICS MACT PRODUCTIONS 
JPG FILMS VENTURA FILM


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<本ブログ内リンク>

十代の子供たちを描く映像詩、ここにも
『エヴォリューション』(原題:Evolution)
http://filmsandmusiconmymind.blogspot.com/2016/11/evolution.html


<公式サイト>
シシリアン・ゴースト・ストーリー


監督・脚本:ファビオ・グラッサドニア、アントニオ・ピアッツァ
撮影:ルカ・ビガッツィ
出演:ユリア・イェドリコヴスカ
   ガエターノ・フェルナンデス
   ヴィンチェンツォ・アマート
   サビーネ・ティモテオ

2017/イタリア=フランス=スイス/イタリア語/123/カラー/シネスコ/5.1CH 
原題:SICILIAN GHOST STORY 字幕:岡本太郎 

■配給:ミモザフィルムズ