2020年12月10日木曜日

フランス映画祭の思い出 その1 『愛しのベイビー』(Mon Bébé)

 フランス映画祭2020が今日、1210日から横浜で始まりました。

例年のようにフランスから監督や俳優の人たちが来日することはありませんが、6月に予定されていた映画祭が中止になることなく、年内に開催されたことに感謝です。コロナ禍を油断してはなりませんが、換気、手洗い、マスクを徹底すれば、映画館は比較的安全な場所かと思います。観客のみなさま、Bonne projection!

 

 

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フランス映画祭の思い出 その1

 

フランス映画祭2019上映作品

『愛しのベイビー』(Mon Bébé

 

−リサ・アズエロス監督とタイス・アレサンドラさんに会う−

 

 

 ああ、なんて可愛い赤ちゃんだろう。子供が誕生するシーンでさえメルヘンのような映像になるのは、女性の映画監督だからというより、リサ・アズエロス監督だからと表現する方が正しいのかもしれない。どうしたらこんな可愛くて愛情に溢れた映像をさらりと撮れてしまうのだろうか。

「何も特別なテクニックがあるわけではありません。赤ちゃんはそれだけで宝石(のように貴重で大切な存在)ですから」と答えるリサ監督の表情は静かで穏やかで、そばにいるとふわふわした綿菓子の中にいるような心地よい気分になってくる。

 子供と一緒に見ようと録画したものの、一緒に見られる機会を逃し続けているテレビ番組があったり、撮りためておいた子供の写真をそっくりなくして、発狂寸前になって泣きじゃくることがあったり…… フランスも日本も、子に捧げる母の愛というのは、大きな違いはないのだろう。

 


リサ・アズエロス監督(左)とタイス・アレサンドラさん(右)
2019年6月22日撮影


 リサ・アズエロスといえば、母親は『太陽がいっぱい』の出演で知られる女優のマリー・ラフォレ。偉大な女優の娘として生きる中、葛藤はあったのだろうか?

「もちろんありました」

 彼女は、初めから映画の世界に身を置いていたわけではない。1年間、金融業界で働いたこともあった。「でも、私はやはり芸術家だと気づいて」、リサ監督の今のキャリアがある。

 

 末娘のジャードを演じたタイス・アレサンドラさんはリサ監督の実の娘さん。彼女もまた、母と同じ映画の世界で生きている。ジャードと同じように、お母さんの愛をいっぱいに受けて成長したのだろう。その無邪気な人柄に、ほのぼのとした気持ちになる。

「日本といえば、ミヤザキ!ミヤザキの映画が大好きです。モノノケ、ナウシカ、チヒロ、トトロ、ぜーんぶ好き!」

 タイスさんの子供時代の思い出とともにある宮崎アニメの数々。何度もなんどもくり返し見ていたそうだ。そんなふうに話す彼女の話をそばでうなずくのは、映画監督という立場を離れた、1人の母親ーーリサお母さんだ。

 

 フランス映画祭2019で上映されたこの作品、日本での配給はまだ決まっていない。

映画を見る暇もなく生活しているシングル・マザーの人たちに見ていただけたらと心から願っている。

 

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 20196月に行ったこの取材の数ヶ月後の11月、リサ監督のご母堂マリー・ラフォレさんが他界されたことを知りました。母から子へ、そして孫へ……彼女の映画人としてのDNAが受け継がれていくことの素晴らしさを、この映画を通して感じます。

 

 

<本ブログ内リンク>

 

リサ・アズエロス監督作品

『ダリダ あまい囁き』(Dalida

https://filmsandmusiconmymind.blogspot.com/2018/05/dalida.html

 

 

 

<公式サイト>

 

フランス映画祭2020

https://www.unifrance.jp/festival/2020/

 

 

愛しのベイビー Mon Bébé

https://www.unifrance.jp/festival/2019/films/1167/

 

 コロナ禍を油断してはなりませんが、換気、手洗い、マスクを徹底すれば、映画館は比較的安全な場所かと思います。観客のみなさま、Bon projection!

 

<本ブログ内リンク>

 

リサ・アズエロス監督作品

『ダリダ あまい囁き』(Dalida

https://filmsandmusiconmymind.blogspot.com/2018/05/dalida.html

 

 

 

<公式サイト>

 

フランス映画祭2020

https://www.unifrance.jp/festival/2020/



フランス映画祭のポスターが掲げられる2020年12月の横浜、みなとみらい





2020年12月1日火曜日

再)『ばるぼら』(英題:Tezuka’s Barbara)


11月20日から上映が始まった『ばるぼら』。

昨年(2019年)の東京国際映画祭で上映されたときには、まさか1年後がこんなことになっているとは誰が想像したでしょうか?

映画祭で「こういう時代だからこそ、肉体の触れ合いを見せる映画を撮りたかった」と語った手塚眞監督の言葉が、今となってずしりと重く心に響きます。

コロナ禍もソーシャルディスタンスも無縁なこの映画で、しばしの間、自由な心で羽ばたいてみるのもよいかもしれません。

1年前の手塚眞監督の言葉を再掲載します。

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再)『ばるぼら』(英題:Tezuka’s Barbara)  
原作:手塚治虫
監督:手塚眞


  手塚眞監督が『ばるぼら』に出会ったのは10歳の頃。大人向けのコミック誌向けに連載されていたこのマンガは、小学生の眞少年にとって『鉄腕アトム』や『ブラックジャック』以上のインパクトを与えた。そして、映像の世界でキャリアを積み、選んだ題材がこの作品だった。自分の体の中に流れている手塚治虫のDNA……自分の体を流れる血潮、父から受け継いだ血の騒ぐまま、自然に撮り終えた本作には、手塚マンガ独特の空気がすみずみにまで漂う。昭和の芸術が、令和になって不死鳥のようによみがえったかのように。
 デジタル化が進み、人との交流も機械をを介して行うことが当たり前の時代となった。「エロティックという言葉をネガティブに捉える人もいらっしゃいますが、僕にとっては、エロティックは人と人とが交流することなんです。こういう時代だからこそ、肉体の触れ合いを見せる映画を撮りたかった」。戦争という時代をくぐりぬけた後、手塚治虫はエロティシズムを"自由"の証のひとつとして描いた。そして手塚眞監督が描く21世紀のエロティシズムは、枯渇した私たちの心を潤してくれる"癒し"を意味するのかもしれない。


第32回東京国際映画祭で観客の質問に答える手塚眞監督
(2019年11月3日撮影)



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<本ブログ内リンク>

この映画のラストシーンに、手塚治虫少年が登場します。
31回東京国際映画祭 速報その『漫画誕生』(The Manga Master)

<公式サイト>
『ばるぼら』