2020年8月22日土曜日

映画が教えてくれる、海からの贈り物 (Gift From the Sea through the films)

 映画が教えてくれる、海からの贈り物 
(Gift From the Sea through the films) 

昨日から4Kデジタル修復版の上映が始まった『海の上のピアニスト』
(原題: La leggenda del pianista sull'oceano)で要となるエピソードの1つが「初めて海を見たときの感動」だ。船で育ち、一度も船から下りたことのない主人公1900(ナインティーン・ハンドレッド)が、突然「陸に上がってみたい」と宣言する。親友のマックスは驚く。海ならいつだって目の前にあるじゃないか、なぜ?と。1900は答える。陸から海を見たい。海の声を聞いてみたい。人生は壮大だと叫ぶ海の声を。地に足をつけないとその声は聞こえないから、と。
 海とは何と力強く、美しい存在か。海を身近に知る人にも、海を一度も見たことがない人にも、その存在はかけがえのないものだ。
 
 上映中の映画『ファヒム パリが見た奇跡』(原題:Fahim)でも、バングラデシュからフランスに逃れた少年ファヒムが海を初めて目にし、心が釘付けになるシーンがある。海とは、自由の象徴なのかもしれない。
 ファヒムは本国のチェス大会でのチャンピオン。彼の並外れた才能を見抜き、フランスでの大会出場を後押しするシルヴァンを演じているのがジェラール・ドパルデューだ。彼を知らない映画ファンはほとんどいないと思うけれど、彼の出演作品のひとつ『さよなら、モンペール』(原題: Mon père, ce héros)を知っている人はどれぐらいいるだろう。(後にハリウッドリメイクされ、ドパルデューはそこでも同じ役を演じた)。この映画の舞台はモーリシャス。ストーリーの面白さはもちろんのこと、海の青さと美しさに心洗われ、映像ごしに癒されたひとときを今でも忘れない。
 そのモーリシャスの海が、汚染にさらされている。
 誰かが故意に行ったことではないだろう。しかし、海を汚す原因になった船のオーナーは、日本の会社だ。いや、国がどうだのと言う以前に、なぜこのような事故が起きたのか、知る責任と権利はあると思う。事故に至った原因のひとつが、私たちが貪欲に追求してきた物質的な豊かさなのだとしたら……直接モーリシャスに行かなくても、大金を寄附することができなくても、私たち1人ひとりにできることを見つけるのはそれほど大変ではないのではないだろうか。

©️Mika Tanaka 




<本ブログ内リンク>
『海の上のピアニスト』4Kデジタル修復版&イタリア完全版
(原題: La leggenda del pianista sull'oceano


<公式サイト>

『ファヒム パリが見た奇跡』(原題:Fahim
原題:Fahim/2019/107
配給:東京テアトル/STAR CHANNEL MOVIES 
8/14()ヒューマントラストシネマ有楽町 ほか全国公開


『海の上のピアニスト』4Kデジタル修復版&イタリア完全版
(原題: La leggenda del pianista sull'oceano
821()よりYEBISU GARDEN CINEMA
角川シネマ有楽町、アップリンク吉祥寺ほか全国順次公開
配給:シンカ

2020年8月21日金曜日

『海の上のピアニスト』4Kデジタル修復版&イタリア完全版 (原題: La leggenda del pianista sull'oceano)

  ダイヤモンド・プリンセス(DIAMOND PRINCESS)、わかしお(WAKASHIO)……
 2020年が明けてから、船をめぐる悲しいニュースが私たちの耳に入ってきます。これ以上、海の上で悲劇が起こりませんよう。
 
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『海の上のピアニスト』4Kデジタル修復版&イタリア完全版
(原題: La leggenda del pianista sull'oceano
監督・脚本:ジュゼッペ・トルナトーレ
原作:アレッサンドロ・バリッコ


© 1998 MEDUSA



 「イカれた世紀の最初の年、最初の月」に、船の機関士に拾われた男の子の赤ちゃん。彼は、1900(ナインティーン・ハンドレッド)と呼ばれ、船の乗組員たちの間で育った。ヴァージニアン号という巨大なゆりかごは、彼の成長と共に、彼の劇場へと変貌していく。彼の奏でるピアノの音は、バンドの演奏からどんどんはみ出し、鍵盤の上を舞う蝶のようにはばたく。3等食堂の片隅に置かれたアップライトピアノで演奏するときは、アメリカに向かう移民たちの心を癒す。

 一度も陸に上がったことがないのに、世界中を旅したのではないかと思うほど、彼の心には美しい数々の景色がファイリングされている。そのずばぬけた才能と豊かすぎる感性に寄り添うのは、のちにバンドミュージシャンとして乗船するトランペット奏者のマックスだ。嵐の夜、船酔いでフラフラになったマックスに声をかけた1900は、嵐の中を泳ぐようにストッパーを外したグランドピアノで演奏しながら、マックスと意気投合していく。
 陸に上がればその演奏でほしいものは何でも手に入れられるのに……
 1900が選んだ生き方、それは本当に彼を幸せにしたのだろうか?それとも、彼はただ臆病だっただけなのだろうか?

 20世紀の終わり頃、今から20年ほど前に初めてこの映画を観たときは、ずっとそう考えていた。彼の生き方がはがゆくてたまらなかった。そして今、170分の完全版を観て、そのときには見えなかったあることに気づいた。
 20世紀はイカれた世紀だった、確かにそうだった。戦争に次ぐ戦争、多くの人が無駄に命を落とした。
 そんなとき、1900は何をしていたか。
 彼はピアノを弾いていた。8歳になって初めてピアノを触れた瞬間から、彼はずっと神様からのメッセージを音楽にして、届け続けていた。長い船旅に退屈する人たちに刺激を与え、新天地へ向かう不安を抱える人たちには希望を与え、そして戦争で傷ついた人たちの心に光を灯していた。最後の最後まで。限りある命の灯が消えかける中、彼の音楽がどれだけ人の心を救ったことか。
 この映画と再会して、気づいた。1900は、自分の命や才能を無駄にしたのではなく、十二分に生き抜いたのだということを。

© 1998 MEDUSA
  

 幸せの形は人それぞれ。長く生きることも、大金持ちになることも、それが幸せのゴールとは限らない。1900はそんなことにはまったく興味を示さなかった。ただ、ひとつだけ思うことがある。彼はやっぱりさびしかったんじゃないか。誰かが強引に彼を陸に上げていたら、彼にはもう一つの人生があったんじゃないかと。船が港に着き、多くの人が下船していく中、1900が船から知らない人に電話をかけまくるシーンが、今でも心から離れない。

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この映画の作曲を手がけたエンニオ・モリコーネ氏(Ennio Morricone)が、先月の7月6日、天に召されました。映像に溢れ出る詩情にぴたりと寄り添う彼の音楽を、これからも決して忘れることはないでしょう。
 
  

<本ブログ内リンク>
ジュゼッペ・トルナトーレ監督作品
『ニュー・シネマ・パラダイス』( Nuovo Cinema Paradiso )


<公式サイト>
『海の上のピアニスト』4Kデジタル修復版&イタリア完全版

821()よりYEBISU GARDEN CINEMA
角川シネマ有楽町、アップリンク吉祥寺ほか全国順次公開
配給:シンカ