2022年12月31日土曜日

『フランス映画祭2022横浜』を終えて(Festival du film français au Japon 2022)

コロナ禍が完全に収束したわけではありませんが、「何気ない日常」が少しずつ戻ってきている気配を感じる映画祭でした。

  

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『フランス映画祭2022横浜』を終えて(Festival du film français au Japon 2022



        



新型コロナウイルスのパンデミックから約3年。開催時期をずらし、規模を縮小しながらも横浜で開催を続けてきたフランス映画祭は、202212月、クリスマスのイルミネーションの輝くなか、フランスからの来日ゲストたちを3年ぶりに迎えた。

 オープニングセレモニーで登壇したゲストたち、今回は華やかさよりも親しみやすさが感じられて心癒された。

『幻滅』のバンジャマン・ヴォワザンは茶目っ気たっぷり、『あのこと』でほとんど笑わなかったアナマリア・ヴァルトロメイの笑顔はさわやか、『EIFFEL(原題)』のロマン・デュリスの開会宣言の言葉を聞いた瞬間、目に見えないステキな何かが動き出した気がした。



        

            ©Les Films du Tambour de Soie

 


 心に残ったことが2つある。

1つは、上映作品の複数にシングルマザーが出演していたこと。短編アニメーションにも心を病む母親が登場する。シングルマザーではないが、『あのこと』では命を落とす覚悟で中絶に挑む大学生の姿がある。これは何を意味するのか……日本で制作される映画は、これだけの頻度で女性の生きづらさを描いているだろうか。

                       

そしてもう1つ。今回は、短編長編あわせて7作のストップ・モーションアニメーションが上映されたこと。長編『イヌとイタリア人、お断り!』は、約9年の歳月をかけて制作されたという。アラン・ウゲット監督は、実写のドキュメンタリーも制作するが、祖父の代から受け継いだハンドクラフトの技を活かし、自身のファミリーヒストリーをアニメーションという手法で取り組んだ。膨大な予算や時間を可能な限りコンパクトにし、それでもクオリティを落とすことなく完成させた。


                アラン・ウゲット監督(2022年12月1日撮影)                                   


 


アニメーションは「まだまだ過小評価されています」と語ったマチュー・クートワプロデューサー。彼が連れてきた人形は、予算を抑えるため、本編で1人何役もこなす名優として活躍した。小さな可愛らしい体に大きな夢がぎゅっとつまっているようだった。

映画祭最終日の124日には、趣ある建物(旧第一銀行横浜支店)で「ようこそ、フランスのストップモーション・アニメーションの世界へ 」というマスタークラスのイベントが開催された。映画本編だけでなく、制作者や出演者たちと間近に交流できる時間が戻ってきてくれたことが嬉しい。



             マチュー・クートワプロデューサーが手に取るのは

                                                      「イヌとイタリア人、お断り!」の名役者

                  (2022年12月4日撮影)


 

<本ブログ内リンク>

 

フランス映画祭2021を終えて

https://filmsandmusiconmymind.blogspot.com/2021/11/2021-festival-du-film-francais-au-japon.html



 

<公式サイト>

 

フランス映画祭2022 横浜(2022121日〜124日)

https://unifrance.jp/festival/2022/



 

※ 本映画祭で上映された『EIFFEL(原題)』は、202333日より、

『エッフェル塔 創造者の愛』というタイトルで全国公開されます。

 

『エッフェル塔 創造者の愛』

https://eiffel-movie.jp

 



 

 

 

2022年12月30日金曜日

『ピエール・エテックス レトロスペク ティブ』(Pierre Étaix)

『ピエール・エテックス レトロスペク ティブ』

                   © 1965 - CAPAC


 

 パリの郊外だろうか。団地から1人の若い女性が自転車で会社へと向かう。自動車が行き交う道路を颯爽と、風を切って走る。バックに流れる音楽が、サーカスが始まる直前のワクワク感を感じさせてくれる……カラー長編『大恋愛』の1シーンだ。ほんの少し登場する本当にさりげないシーンだけれど、ピエール・エテックスのきらきらした感性は、こんな細部に宿るのだと感じる。

 第一次世界大戦から戻り結婚し、10年経った頃。仕事も妻との生活も充実しているが、どこか満たされない。さまざまな人がさまざまな妄想をくり広げ、映画はコミカルに展開していく。シングルベッドが車のように道路を走り出す妄想シーンは、一人ひとりの人生や人間模様を象徴するかのよう。『大恋愛』上映時には、短編『幸福な結婚記念日』が併映される。恋する女性を思うとき、ピエール・エテックス演じる主人公は最も輝きを放つような気がする。

モノクロ長編『ヨーヨー』もまた、主人公が1人の女性への思慕を募らせるシーンから始まる映画だ。彼の一途なまなざしに、道化師(クラウン)の哀愁が重なる。



                   © 1965 - CAPAC




 

<本ブログ内リンク>

 

この映画の助監督となったことが、エテックスの映画進出へのきっかけとなりました。

『ぼくの伯父さん』(Mon Oncle) --Monsieur Hulot と寅次郎--

https://filmsandmusiconmymind.blogspot.com/2016/09/mon-oncle-monsieur-hulot.html

 

 

この映画のイオセリアーニ監督も、ピエール・エテックスに賛辞を送っていました。

『皆さま、ごきげんよう』

https://filmsandmusiconmymind.blogspot.com/2016/12/chant-dhiver.html

 

 

<公式サイト>

『ピエール・エテックス レトロスペクティブ』
http://www.zaziefilms.com/etaix/

配給:ザジフィルムズ

『ラ・ブーム 40周年記念デジタル・リマスター版』(La boum)


 

ヴィックを演じるソフィー・マルソーのクルクルと移り変わる表情が魅力的。私がいちばん印象に残ったのは、パパとママが別居することを知らされたヴィックの不安そうな表情です。

 

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『ラ・ブーム 40周年記念デジタル・リマスター版』




                © 1980 Gaumont

 

この映画が日本で初公開されたのは、19823月。

映画雑誌の人気投票では、主演のソフィー・マルソーがたちまちトップに。街じゅうで主題歌の”Reality”(邦題:愛のファンタジー)が流れていた。若者文化にソニーのウォークマンが加わり、社会全体に勢いがあった。バブルのようなきらびやかさとは少し違う、ふわふわとした期待感に満たされていた時代だった。リアルタイムで知る世代にとっては、懐かしさがぎゅっとつまったタイムカプセルのような映画かもしれない。

 

 では、今を生きる若者たちは、この映画を観て何を思うのだろう…

この映画が放つきらめきが、今の時代にあるだろうか。今の若者たちは、ワクワクしているだろうか。十分に悩んでいるだろうか。両親に相談できないことをこっそりと打ち明けられる人がいるだろうか。

 今の10代、20代の人たちにこそこの映画を観てほしい。そして、どんなことを感じるか教えてほしい。もし、あなたたちがこの映画を観て、リアルタイム世代と同じようなキュンキュンする気持ちを持つことがあるのなら、きっと私たちの未来は明るいと思う。今の世の中には無関心怒りの感情ばかりが目立つけれど、私たちの胸の中にはもっともっと素敵な感情が眠っている。この映画には、そんな豊かな感情を目覚めさせる力があるような気がする。



                 © 1980 Gaumont



 

<本ブログ内リンク>

 

ソフィー・マルソーは、その後俳優として活躍するだけでなく、映画監督も手がけるようになりました。2008年のフランス映画祭では、団長として来日。そのときのようすについてふれています。

 

フランス映画祭2016が始まる

https://filmsandmusiconmymind.blogspot.com/2016/06/2016_22.html

 

『ラ・ブーム』の少し前のアメリカ映画(舞台はフランス・イタリア)

この映画も、10代の少年少女とそれを見守る大人たちの関係を描いています

再)『リトル・ロマンス』

https://filmsandmusiconmymind.blogspot.com/2015/11/a-little-romance.html

 

 

<公式サイト>

映画『ラ・ブーム』『ラ・ブーム2』公式サイト

https://www.finefilms.co.jp/laboum/


 

配給:ファインフィルムズ 

 

 

<Credit>


© 1980 Gaumont

2022年12月2日金曜日

『ジェラール・フィリップ 生誕100年映画祭』その3 

 『ジェラール・フィリップ 生誕100年映画祭』その3 

 スタンダール作品を演じる女優たち


© 1947 SND (Groupe M6) – DISCINA

 

 今回の映画祭で上映されるスタンダール原作の2作、『パルムの僧院』(Le Chatreuse de Parme)と『赤と黒』(Le Rouge et le Noir)。ジェラール・フィリップ演じる主人公はもちろんだが、共演する女優たちにも注目したい。

 

 『パルムの僧院』で、サンセヴェリナ公爵夫人を演じるマリア・カザレス(Maria Casares)。ファブリス(ジェラール・フィリップ)を守るために彼女は選びたくなかった方法を選択する。少し下に目線を向けたときの表情、憂いを含んだ微笑み……艶やかな美しさは幸福とは遠いところにあるのだろうか。本作より少し前に製作された『天井桟敷の人々』 Les enfants du Paradis)でも、マリア・カザレス演じる女性は、求める人からの愛を得ることができず苦しんでいたことを思い出す。


©1954 Gaumont - Documento Films

  

『赤と黒』では、ジュリヤン(ジェラール・フィリップ)と恋に落ちるレナル夫人を演じたダニエル・ダリュー(Danielle Darrieux)。ためらいながらも、恋しくてたまらなくなって、靴音を立てないように裸足になってジュリヤンの部屋まで向かう仕草。ドアの前でそのドアを叩くことも開けることもできないでいる恥じらい、”嫉妬”という感情にもて遊ばれる迷いと苦しみ……『パルムの僧院』のモノクロの映像では、登場人物たちの”表情”が印象的だが、『赤と黒』では、色彩豊かな映像の中で見る彼らの”動き”が余韻を残す。

 

 そして、2作に共通するのが、もう1人の女優だ。『パルムの僧院』のマリア・カザレスを”漆黒の宝石”と表現するなら、クレリアを演じるルネ・フォールは”純白の花“だ。『赤と黒』では、侯爵の令嬢マチルドを演じるアントネッラ・ドゥアルディは、清楚で従順なレナル夫人とは対照的、奔放で気丈な魅力を放つ。

 

 フランス文学に造形が深く、映画への物足りなさを感じる人も少なくないかもしれない。そうであったとしても、賛否両論、多くを語り、議論できることそのものが、幸せな営みではないだろうか。原作の素晴らしさ、映画の素晴らしさ(あるいは物足りなさかもしれない)、そして俳優たちの美しさに満たされながら、あたたかな冬を過ごしたいと思う。

 

<本ブログ内リンク>

 

 

『ジェラール・フィリップ 生誕100年映画祭』その1

いい夫婦の日に寄す

https://filmsandmusiconmymind.blogspot.com/2022/11/1001-gerard-philipe-100ans.html


 

『ジェラール・フィリップ 生誕100年映画祭』その2

 罪を犯す若者たち、その後ろ姿…

https://filmsandmusiconmymind.blogspot.com/2022/11/1002.html

 


 

<公式サイト>

『ジェラール・フィリップ 生誕100年映画祭』

http://www.cetera.co.jp/gerardphilipe/


『パルムの僧院』と『赤と黒』は、2K デジタル・リマスター版が上映されます。

 

配給:セテラ・インターナショナル