2016年1月31日日曜日

『愛しき人生のつくりかた』(Les souvenir)

沖縄の初雪に驚くような冬も後少し、もう少しで立春です。
冷えきった体を温めるように、この映画で心をほんのり温めてはいかが。
子供時代の、「ほんの小さな心残り」が、実は人生にとってとても大切なものだということに気づかせてくれる映画です。

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『愛しき人生のつくりかた』(原題:Les souvenir/ 2015年・フランス)


© 2013 Nolita cinema – TF1 Droits Audiovisuels – UGC Images – 
Les films du Monsieur – Exodus – Nolita invest


長く連れ添った夫に先立たれたおばあちゃん、マドレーヌ(アニー・コルディ)。
妻とのぎこちない関係に戸惑う、定年退職したばかりのおやじ、ミシェル(ミシェル・ブラン)。
そして、夜勤のアルバイトをしながら、小説家への夢を見る大学生のロマン(マチュー・スピノジ)。
世代は違うが、迷いながらそれぞれの人生を生きる3人。マドレーヌは、息子のミシェルに素直になれないものの、孫のロマンには心を開ける。彼女が抱えているのは、「孤独」というより「心残り」だ。家族に説得され、しぶしぶと老人ホームに入るが、あるときこつ然と姿を消す。行き先は家族にも見当がつかない。家族が大騒ぎする中、ロマンのもとに、マドレーヌからの1枚の絵葉書が……
舞台はパリと、そしてノルマンディーのエトルタ(Etretat)。描かれる風景も素敵だけれど、人々のふれあいはもっと素敵。

画家して再出発に挑む老紳士との交流がうれしい……

 © 2013 Nolita cinema – TF1 Droits Audiovisuels – UGC Images – 
Les films du Monsieur – Exodus – Nolita invest


「どうすれば運命の人をみつけられますか?」

旅の途中で立ち寄った売店の主人に真面目顔で訪ねるミシェル。そのときの主人の答えのなんてかっこいいこと! 



テンポのよい会話が心地よくて、くすりと笑ったりハハっと笑ったり……そして気づくと、まるで温泉から出てきたときのように、ほっぺたがほんのりと桃色になって、心がふんんわりと柔らかくなっている自分に気づく。


主題歌は、フランソワ・トリュフォー監督の『夜霧の恋人たち』でも使われた“Que reste-t-il de nos amours ?”(邦題:『残されし恋には』)。トリュフォーを知らない人も、リュフォーが大好きな人も、ぜひ。


 © 2013 Nolita cinema – TF1 Droits Audiovisuels – UGC Images – 
Les films du Monsieur – Exodus – Nolita invest


監督:ジャン=ポール・ルーヴ
出演:アニー・コルディ、ミシェル・ブラン、シャンタル・ロビー、マチュー・スピノジ ほか

<公式サイト>
『愛しき人生のつくりかた』

2016年1月20日水曜日

『Lyin' Eyes』(いつわりの瞳)

デビッド・ボウイ(David Bowie)に続いて、グレン・フライ(Glenn Frey)他界の知らせ。
20世紀の音楽が、少しずつ「リアルタイム」から「歴史」へと変わっていくような気がします。

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Lyin' Eyes』(いつわりの瞳)

何かに落ち込んで、自分の気持ちをどうしていいかわからず、途方にくれているとき。
この曲を聴くと、なんだかほっとしてた。
『ホテル・カリフォルニア』も、ドン・ヘンリーの声も大好きだけど、口ずさむ頻度が多いのは、この歌の方かもしれない。

痛切な歌詞とは相反するような、あたたかいサウンドに心いやされる。挫折も、人間の愚かさも、この曲がふわりと包み込んでくれる。「諦念」と表現すればいいのか、「優しさ」と言ってよいのか、私にはまだ答えが出ないのだけれど。

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21世紀に生きる若者たちの心をいやす名曲が、少しでも多く生まれますよう。

20世紀と同じように……

2016年1月17日日曜日

映画『ありがとう』、そして『生きてりゃいいさ』(河島英五)

1995年1月17日の阪神・淡路大震災から、21年が経ちました。
このとき生まれたばかりの赤ちゃんが、もうすっかり大人になっていることを思うと、時が矢のように過ぎたことを痛感します。

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映画『ありがとう』(2006/日本)
そして『生きてりゃいいさ』(河島英五)


60代にさしかかる直前にプロテストを合格し、多くの人に希望を与えたプロゴルファーの古市忠夫さん。
街の写真屋さんだった古市さんが、なぜ、プロゴルファーといういばらの道を選択したのか、映画はそのことを私たちに教えてくれる。

阪神・淡路大震災がどんな被害を人々に与えたのか、人々の心に何を残したのか……
ドキュメンタリーが苦手な人でも、この映画なら構えることなく見ることができるのではないかと思う。

エンディングで流れる、河島英五さんの『生きてりゃいいさ』に泣いてしまう。

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今でも癒えない苦しみを抱える人たちがいることを、忘れずにいたいと思います。

2016年1月7日木曜日

『あの頃エッフェル塔の下で』(Trois souvenirs de ma jeunesse)

パリにオフィスを構えるシャルリ・エブド紙がテロリストたちに襲撃されてから、1月7日でちょうど1年が経ちます。
そして、2ヶ月ほど前に起きた1113日の同時多発テロ。
テロの直後に行われたフランスの選挙の結果をどのように読み解くか、人それぞれ……。私はその結果に、希望を感じています。

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『あの頃エッフェル塔の下で』(原題:Trois souvenirs de ma jeunesse)

体の痛み、心の痛み……痛みを感じないで生きている人は、世の中にどれぐらいいるだろう。

この映画の主人公、ポ—ル・デダリュス(マチュー・アマルリック)もそのひとりだった。

©JEAN-CLAUDE LOTHER - WHY NOT PRODUCTIONS

「痛みは何も感じなかった」
ポールは、父親から殴られても、無感覚だった少年時代を振り返る。
人類学者として活躍する彼は、研究のため、定住せず、世界各地を転々とする生活を続けていた。あるとき、数十年ぶりに故郷のフランスに帰国することになるが、空港に着くと、情報局の召喚状が待ち受けていた。「ポ—ル・デダリュスにスパイ疑惑がかけられている」という。

その事件が、長い間封印していたポールの記憶を呼び覚ましていく。

母の死、父との確執、大叔母との暮らし、親友とのソ連旅行、偽装パスポート……そして、身を焦がすような恋人とのやるせない思い出がよみがえったとき、彼は、「無感覚」から目覚め、彩り豊かな感情を取り戻す。
どんなに殴られても決して痛みを感じることのなかったポール。その彼が、命がけで1人の女性を愛し、喜びと苦悩を味わった歴史、それは確かに存在したのだ。


©JEAN-CLAUDE LOTHER - WHY NOT PRODUCTIONS
配給:セテラ・インターナショナル
12月よりBunkamuraル・シネマほか全国順次公開

監督は『そして僕は恋をする』のアルノー・デプレシャン。このとき主人公を演じたマチュー・アマルリックが、ふたたび同じ「ポール・デダリュス」という名で主人公を演じる。恋人の名前がおなじくエステルであることからも、デプレシャン監督の強い思いがうかがわれる。

ネットもスマホもない時代、手書きで愛をしたためるポールとエステルから、時代の片隅に置き忘れた何かを教わりたい。



<公式サイト>
『あの頃エッフェル塔の下で』

http://www.cetera.co.jp/eiffel/

68回カンヌ国際映画祭監督週間 SACD賞受賞
監督・脚本:アルノー・デプレシャン 『そして僕は恋をする』『クリスマス・ストーリー』
出演:カンタン・ドルメール、ルー・ロワ=ルコリネ、マチュー・アマルリックほか
原題:Trois souvenirs de ma jeunesse/英題:My golden days/ 2015/フランス/仏語・ロシア語/123/
日本語字幕:寺尾次郎/後援:フランス大使館、アンステチュ・フランセ日本
配給・宣伝:セテラ・インターナショナル R15+  ©JEAN-CLAUDE LOTHER - WHY NOT PRODUCTIONS