2018年12月13日木曜日

『セルジオ&セルゲイ 宇宙からハロー!』(Sergio and Sergei)

 ストラスブールのクリスマス市で銃撃事件が起きました。パリの黄色いベスト運動の報道が流れた矢先に。アメリカと中国の関係も危うく、世界中が不寛容な方向へ流れて行っているような気がします。
「それでも」と、私は思うのです。人が命を落とすことなく共存する道がどこかにあるのではと。
 キューバから届けられたこの映画には、そのヒントがぎゅっと詰まっています。


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セルジオ&セルゲイ 宇宙からハロー!』(原題:Sergio and Sergei)


©2017 MEDIAPRO - RTV Commercial - ICAIC

 宇宙飛行士が地球から飛び立つ。憧れと誇りを携えて。
 そしてあるとき、宇宙空間で突然告げられる。自分の祖国がなくなったことを……

 なあんだ、映画の話か、と思うなかれ。こんなことがかつて本当に起こった。199112月のことだ。ソビエト社会主義共和国連邦(ソ連)は崩壊し、ひとつの時代が終わりを告げた。そして、ソ連の宇宙飛行士が宇宙ステーションに取り残された。彼の名はセルゲイ・クリカレフ。この映画は、この実在の人物をモデルにつくられた。監督はキューバのエルネスト・ダラナス・セラーノ。

 ソ連に留学し、マルクス主義を学んだセルジオ。大学で教鞭を取っているが、ベルリンの壁崩壊をきっかけに、苦しい道のりが始まる。今の仕事で同居する母と娘を養うことができるのか……そんな彼の救いとなるのがアマチュア無線だ。ニューヨークの無線仲間と祖国では知り得ない情報を得ながら、生きる術を探している。
 そんなセルジオに、あるとき宇宙から交信が……ロシア語で語り合いながら、宇宙飛行士のセルゲイと意気投合するセルジオ。この交信は、いつ途切れてしまうだろう。そんな不安の中で、彼らは一瞬一瞬を大切に語り続ける。
 ソ連という祖国を失い、宇宙で迷子になったセルゲイ。彼を何とか地球に里帰りさせようと、セルジオは名案(奇策?)を思いつく。

©2017 MEDIAPRO - RTV Commercial - ICAIC


 宇宙に取り残される恐怖、生活の糧がなくなる恐怖。セルジオもセルゲイも、どんなにつらく孤独だったろう。そんな題材を、セラーノ監督は軽くて後味のよいコメディへと変換させてしまった。深刻に考えず、笑って観られる映画だけれど、根底に流れるテーマの深さにはっとさせられる。
 コカ・コーラをおいしそうに飲むセルゲイの姿に、私たちが平和に暮らせる術が隠されているような気がする。


©2017 MEDIAPRO - RTV Commercial - ICAIC
  

<本ブログ内リンク>

 宇宙飛行士が出演する映画って、何て詩的で切ないんだろう、と思う。
この映画に出演するのは、アメリカの宇宙飛行士。

『アスファルト』その3(原題:Asphalte

 
<公式サイト>
セルジオ&セルゲイ 宇宙からハロー!』



121()より新宿武蔵野ほか全国順次公開


2018年11月25日日曜日

『エリック・クラプトン〜12小節の人生〜』 (Eric Clapton: Life in 12 Bars)

 映画は、B.B.キングへの追悼を述べるシーンから始まります。
 3ヶ月程前(2018816)に他界した、アレサ・フランクリンとのエピソードも語られます。

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『エリック・クラプトン〜12小節の人生〜』
(原題:Eric Clapton: Life in 12 Bars

「僕のお母さんになってくれる?」
 初めて会った実の母親に、少年が尋ねる。
「それはできない……」
 母は少年にそう答える。

 その少年があなただったら、どう感じるだろう?
 
 両親に愛され、幸せな日々を送っていたと思っていた少年エリックは、ある日、事実を知らされる。自分の両親と思っていたのは実は祖父母で、母親は別にいて、海の向こうの国で別の家庭を築いていたと知る。
 
 少年エリックがラジオから流れるブルースに惹かれ、ブルースギターの道に進んでいく道のりの起点にあったのは、そんな生い立ちだった。

© BUSHBRANCH FILMS LTD 2017

  
 心に痛みを抱えないミュージシャンは、果たしているのだろうか?
 誰もが心の痛みとひきかえに、名曲を紡ぎ出しているような気がする。

 少年時代の苦しみは、どれだけ癒されたのだろうか。
 癒される前に、最愛の息子を事故で失い、彼の苦しみは上書きされてしまったのだろうか。

 それでも、クラプトンは生きている。挫折だらけの人生を放り投げずに生きている。
彼が「今」奏でるギターの音色を、ソファにもたれて聞きたくなった。

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『ブルース・ブラザース2000 に出演していたクラプトンは、「ブルース修行中の若造」(本当は若造じゃないけど)といった出で立ちが印象的でした。

<本ブログ内リンク>

この人のこども時代も、痛い……
『核などいらねぇ』忌野清志郎 その1 


<公式サイト>
『エリック・クラプトン〜12小節の人生〜』

■タイトル:『エリック・クラプトン~12小節の人生~』
■配給:ポニーキャニオン/STAR CHANNEL MOVIES

1123日(祝・金)TOHOシネマズ シャンテほか全国ロードショー