2017年6月26日月曜日

『フランス映画祭2017』を終えて 

フランス映画祭2017速報3

『フランス映画祭2017』を終えて



(フランス映画祭2017の会場に飾られた上映作品のポスター ©Mika Tanaka)



今年のフランス映画祭の上映作品で印象に残ったのは、赤ちゃんのパワー。そして、こどもという存在の偉大さ、愛おしさだった。
オープニング作品の『ルージュの手紙』(英題:The Midwife、原題:Sage femme)は、文字通り、助産師(Sage femme) が主人公。ついさっきまで羊水に浸かっていた赤ちゃんが、へその緒を切って泣き出す。そんなリアルな出産シーンが次々と出てくる。主人公クレール(カトリーヌ・フロ)が取り上げたかつての赤子が成長し、妊婦となってクレールの前に戻ってくるシーンに、思わずもらい泣きしてしまった。『あさがくるまえに』(Reparer les vivants)では、息子を失い泣き崩れる両親が、『エタニティ 永遠の花たちへ』(Éternité)では、赤ちゃんの誕生と家族の死が、機織りをしているかのように優しく、美しく描かれる。『愛を綴る女』(Mal de pierres)では、子を宿すことで、主人公は愛の証を確認した。『セザンヌと過ごした時間』(Cézanne et moi)では、子を持てない苦しみをセザンヌ(ギョーム・ガリエンヌ)に吐き捨てるように打ち明けるゾラ(ギョーム・カネ)が、『ロダン カミーユと永遠のアトリエ』(Rodin)では、芸術のために中絶をしながらも、子を持つことをあきらめきれないカミーユ(イジア・イジュラン)の苦悩が語られる。『パリは今夜も開演中』(Ouvert la nuit)に登場するお茶目なこどもたちが、作品にすてきなアクセントを与えてくれた。『ポリーナ、私を踊る』(Polina, danser sa vie)では、娘の生活を案じる父と母が切ない。
『エル ELLE』(Elle)には、主人公のミシェル(イザベル・ユペール)の心の奥底で、傷ついた10歳の少女の姿が見えた。冷酷な女社長であるミシェルが、死に行く小鳥を救おうとするシーンを、イザベル・ユペールさんは「もっとも印象に残っているシーン」と語っていた。


フランス映画祭2017で来日した、イザベル・ユペールさん
(2017年6月23日撮影 ©Mika Tanaka)

そして、『夜明けの祈り』(Les Innocente)…… 愛もなく宿った子が、おぞましい記憶と隣り合わせのはずの子が、その子たちが誕生するシーンの何とエネルギッシュなこと!自分の背負ったルーツをはじき飛ばすかのように、自分たちの生をまっとうしようとする、その力のなんと尊いこと。『夜明けの祈り』は、本映画祭12作品の中で、ベスト作品を観客自身が選ぶ、『エールフランス観客賞』に輝いた。

© 2015 MANDARIN CINÉMA AEROPLAN FILM / ANNA WLOCH

4日間にわたり、ほぼ満席の状態が続いたフランス映画祭2017。毎年、多くの人たちが会場を訪れ、映画に笑い、涙するのを見ていると、この国にはまだまだ希望があるじゃないか、と感じることができた。

※ 『夜明けの祈り』は、8月5日(土)より、ヒューマントラストシネマ有楽町、新宿武蔵野館ほかにて、全国公開予定

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フランス映画祭2017速報 1
ルー・ドゥ・ラージュさんと会う

フランス映画祭2017速報2
『夜明けの祈り』が始まる

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フランス映画祭2017


『夜明けの祈り』

2017年6月24日土曜日

『夜明けの祈り』(Les Innocentes)が始まる

昨日、623日は『沖縄慰霊の日』でした。
そして毎年、この時期に『フランス映画祭』が日本で開催されるようになって、25年目となりました。
戦争の悲惨さを語る映画がまたひとつ、フランスから日本へ届けられます。
今日、624日(土)に上映される『夜明けの祈り』です。

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フランス映画祭2017速報2
『夜明けの祈り』(Les Innocentes)が始まる

映画の舞台は、194512月、ソ連侵攻下のポーランド。
この頃のソ連軍はポーランドにとって「英雄」だった。
ドイツからポーランドを解放したからだ。
でも、英雄は裏の顔も持つ。
アジアのさまざまな地域で、日本軍がそう見られていたように。
ソ連軍がどんな蛮行を重ねたのか。
21世紀のヨーロッパでは、それを知る人は決して少なくない。
ソ連軍によって、レイプされた女性たち。その中には、神に仕える修道女たちもいた。
男性と交わらず、神に貞節を誓った彼女たちもまた犯された。
殺された者もいれば、妊娠した者もいた。
本当にあった話だ。
『夜明けの祈り』はこの史実をもとにつくられた。
そして、史実の中に、主人公・マチルド(ルー・ドゥ・ラージュ)のような人物も実在している。その名を、マドレーヌ・ポーリアックという。

「信仰の始まりは、子供のようなものです。父親が手を引いてくれる。しかしいつか、その手が離され、暗闇を迷子になる。十字架は喜びの背後に必ずあります」
シスター・マリア(アガタ・ブセク)がマチルドに語る台詞が心を打つ。

今日、フランス映画祭2017会場で、18:00から上映予定。上映後には、アンヌ・フォンティーヌ監督と、主演のルー・ドゥ・ラージュさんのトークが予定されている。

戦争で命を失った多くの人たちに、祈りをこめて……



(アンヌ・フォンティーヌ監督はフランス映画祭2015でも来日。写真は2015年来日時のもの。
このとき監督が手がけた作品は『ボヴァリー夫人とパン屋さん』だった)
©Mika Tanaka)


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昨日、映画祭で上映された『ELLE エル』の主演をつとめたイザベル・ユペールさんは、「いちばん印象に残っているシーンは?」という会場からの質問にこうこたえました。
「小鳥が死にそうなシーンです」
そんな小さな命でも救おうと尽くしていた主人公。ユペールさんは「命の大切さ」を、たったひとことで表現しました。
この言葉が623日という日に私たちに投げかけられたことに、とても大きな意味を感じます。



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フランス映画祭2017速報 1
ルー・ドゥ・ラージュさんと会う

フランス映画祭2015 その2 『ボヴァリー夫人とパン屋さん』トークショー
http://filmsandmusiconmymind.blogspot.jp/2015/07/2015.html

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フランス映画祭2017


『夜明けの祈り』

2017年6月22日木曜日

ルー・ドゥ・ラージュさんと会う (Rencontre avec une actrice, Lou de Laâge)

フランス映画祭2017速報 1


ルー・ドゥ・ラージュさんと会う
Rencontre avec une actrice, Lou de Laâge




(フランス映画祭2017のために来日した、ルー・ドゥ・ラージュさん)
(2017年6月22日撮影  ©Mika Tanaka) 

 フランス映画祭2017のオープニングセレモニーが、東京・有楽町朝日ホールでもうすぐ始まる。カトリーヌ・ドヌーヴ団長をはじめ、フランスから多くの俳優や監督たちが来日する。そのゲストの一人が、女優のルー・ドゥ・ラージュ(Lou de Laâge)さん 。ルーさんは、戦争がもたらす悲劇を描く『夜明けの祈り』(原題:Les innocentes)で、傷ついた女性たちの心に寄り添う医師・マチルドを演じる。映画は、194512月のポーランド。この国を解放したとされるソ連軍が、実際はどんな蛮行をくり返していたのかをあらわにする。
 ルーさんは、映画をこう語る。
「修道女たちは、ソ連兵に、2回、犯されます」と。
1つは、彼女たちの体。映画を見れば、一目瞭然だ。
では、もう1つとは?
誓いです。彼女たちは、神への誓いの気持ちを犯されてしまうのです」。
笑顔を交えながら軽やかに語るルーさん。でも彼女が語る言葉のひとつひとつから、芯の通った何かが見える。
この映画のテーマとなるのが「信仰」だ。
「信仰とは、24時間の疑念と1秒の希望です」
ルーさんは、映画の中でもっとも印象に残る言葉として、シスター・マリア(アガタ・ブゼク)が語るこの台詞を挙げた。
「人間という存在は、何か信じるものを心に持つことが必要だと思うんです。それがいったい何なのかわからなくても、それを探し続けることが、”生きる”っていうことではないでしょうか」

 この作品が映画祭で上映されるのは、624日(土)。ルー・ドゥ・ラージュさんは、624日(土)上映の『夜明けの祈り』上映後、アンヌ・フォンティーヌ監督とともにトークショーに登壇予定。映画は重く暗いけれど、「最後には希望があります」とルーさんは語る。映画を見終え、演技をしない柔らかな表情のルーさんが登壇するとき、きっと私たちの心にも光がさすような気がする。




(ルー・ドゥ・ラージュさん)

(2017年6月22日撮影  ©Mika Tanaka) 


 
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 ちょうど先週から日本公開された『世界にひとつの金メダル』(原題:Jappeloup)でも、ルー・ドゥ・ラージュ(Lou de Laâge)さんの力強い演技に出会えます。

<本ブログ内リンク>

『世界にひとつの金メダル』

<公式サイト>

フランス映画祭2017