このドキュメンタリー映画の撮影には、約2年という時間がかかりました。その間にはイギリスの欧州連合離脱や新型コロナウイルスのパンデミックがありました。大きな波を乗り越え、今日（2023年5月27日）から日本での上映が始まります。
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『ぼくたちの哲学教室』
（原題：Young Plato）
ロシアによるウクライナ侵攻から、1年以上が経った。何かしなくちゃ、何ができるんだろうと考えながら、行動しながら、それでも大したことができずに時間だけが過ぎていく。ウクライナだけではない。スーダンをはじめ、今でも紛争が続く国がまだまだある。日本も、表面的な紛争はないけれど、問題はたくさんある。
自分は無力なのだろうか。そんな失望感にさいなまれる毎日……この映画を見ていると、そんな気持ちが少し和らぐ。そして、「自分にもできることがあるのだ」と思う力を取り戻す。
© Soilsiú Films, Aisling Productions, Clin d’oeil films,
Zadig Productions,MMXXI youngplato.jp
映画の舞台は、北アイルランドのベルファスト北部のアードイン。古くから紛争が繰り広げられてきた地域だ。2001年にも小学校の通学路でカトリック系住民とプロテスタント住民の対立による暴力的な事件が起こった。ホーリークロス男子小学校は、その地域の一画にある。
ケヴィン・マカリーヴィー先生は、エルヴィス・プレスリーが大好きな、破天荒な校長先生。やんちゃな小学生たちを前に哲学の授業を行う。
Think, Think, Respond ! (考えて、考えぬいて、そして答えるんだ！)
「どんな意見も価値がある」と繰り返すケヴィン先生。クラスメートに暴力をふるった児童がいたとしたら、「どうしてぼくはあの子に乱暴なことをしたんだろう？」と考えさせる。ケヴィン先生からは「暴力をふるうな」と言うことはない。この地でさまざまな暴力を目にしたケヴィン先生にとって、憎しみの連鎖を生み出さないための方法の1つが哲学の授業だ。
副校長であり、特別支援学級の責任者であるジャン・マリー・リール先生は言う。「勉強が苦手なこどもたちは、反体制派や麻薬の売人、組織犯罪などに狙われやすいのです」と。失業率が高いアードインという地域では、学歴が生命の危機に直結しかねない。だからこそ「自分の頭で考え、分析し、計画を立てる」という哲学の授業は生きていくためのスキルとしてとても重要な意味を持つのだと。
© Soilsiú Films, Aisling Productions, Clin d’oeil films,
Zadig Productions,MMXXI youngplato.jp
監督は、ナーサ・ニ・キアナン氏とデクラン・マッグラ氏。
北アイルランドの自殺率は非常に高く、特に1998年の停戦宣言以降に生まれた若者たちの自殺が多いと言われている。紛争によって受けた心の傷は、リアルタイムで紛争を体験した世代だけでなく、その後の世代にも受け継がれていることを知ったデクラン・マッグラ監督は、悩みながらも「映画が誰かを助けることができる」という信念を持ち続け、本作を撮り上げた。フェイクニュースや無差別暴力がこの世界で広がる中、「幼い頃から哲学や批判的思考を教えることが普通になれば、次の世代は人生をうまく切り抜け、よりよい選択をすることができるようになるかもしれません」と語るのは、ナーサ・ニ・キアナン監督。2人の教育者たちの信念をみつめる2人の監督のまなざしは、子育てや教育に携わる私たちにも「何かできることがある」という勇気を思い出させてくれる。
＜本ブログ内リンク＞
『モンテッソーリ 子どもの家』( 原題：Le maître est l’enfant)
https://filmsandmusiconmymind.blogspot.com/2021/02/le-maitre-est-lenfant.html
＜公式サイト＞
『ぼくたちの哲学教室』
監督:ナーサ・ニ・キアナン、デクラン・マッグラ
2021年/アイルランド・イギリス・ベルギー・フランス/英語/ 102分
配給 : doodler
