2016年8月30日火曜日

『アンナとアントワーヌ 愛の前奏曲』(Un + une)


『アンナとアントワーヌ 愛の前奏曲』(原題:Un+ une

この映画は、「愛」で溢れている。

舞台はインド。
貧しい青年が宝石店を襲うシーンから始まる。
あるとき、映画監督が、刑務所で服役中の青年を訪れ、「君たちの物語を映画にしたい」と言う。タイトルは『ジュリエットとロミオ』。ボリウッド版の『ロミオとジュリエット』だ。
ここに、ひとつめの「愛」がある。

この、『ジュリエットとロミオ』の映画音楽を手がけることになったのが、アントワーヌ(ジャン・デュジャルダン)だ。彼は、ひどい頭痛とともに、フランス・パリからインド・ニューデリーへと向かう。
現地では大歓迎されたアントワーヌは、晩餐会で、フランス大使の妻アンナ(エルザ・ジルベルスタイン)と出会う。ちょっと小難しいインド思想を語るアンナに少しずつ惹かれるアントワーヌ。アンナも彼のことが気になってしょうがない。
アンナには、有能で優しい夫(クリストファー・ランバート)がいて、アントワーヌには、才能あふれるピアニストのアリス(アリス・ポル)がいる。愛に満たされているはずの2人の男女が、戸惑いながらも運命の流れに身をまかせていく過程を、愛おしく描く、クロード・ルルーシュ監督。

「私は映画のもつ力が人の心を2時間で変えられると信じている」。

この映画を最後まで見た人なら、きっとルルーシュ監督のこの言葉の意味が理解できるんじゃないかと思う。

「この世の怖さを痛いほど分かっていても、私は世界を愛している。だから多くの人にも愛してほしい。悪いニュースがいいニュースを凌駕している世の中で、映画を1本作る度に、どうしたら人々がこの世の中を、より好きになってくれるかを考えてきた」(ルルーシュ監督の言葉/プレス資料より)。

彼が愛する、「人生」と「映画」。だから、この映画は、最初から最後まで至るところにたくさんの「愛」がある。

主人公のアンナとアントワーヌの「愛」。『ジュリエットとロミオ』のモデルとなった2人の「愛」。ルルーシュ監督自身の「愛」。そして、「アンマ」と呼ばれる、実在のインドの聖者シュリー・マーター・アムリターナンダマイー・デーヴィさんの「愛」。

ただ微笑んで、抱きしめてくれる……それだけで人は癒され、力を取り戻し、勇気を出すことができる。だったら、学校で、家庭で、オフィスで、私たちも、毎日の生活に取り入れてみることはできないものだろうか。

© 2015 Les Films 13 - Davis Films - JD Prod - France 2 Cinéma  
9.3(土)よりBunkamuraル・シネマ他全国ロードショ―



<本ブログ内リンク>

フランス映画祭2016が始まる
(アンナとアントワーヌの紹介をしています)
http://filmsandmusiconmymind.blogspot.jp/2016/06/2016_22.html



監督・原案・脚本:クロード・ルルーシュ 
脚本協力:ヴァレリー・ペラン 
音楽:フランシス・レイ 
出演:ジャン・デュジャルダン エルザ・ジルベルスタイン
クリストファー・ランバート アリス・ポル

2015年/フランス/シネスコ/5.1ch デジタル/114
配給:ファントム・フィルム/宣伝:メゾン、ファントム・フィルム
公式サイト anna-movie.jp  


  


 

『アスファルト』その3(Asphalte)

フランスの郊外にある団地(= バンリュー/ Banlieue)に住む人々の、ほのぼのとした心の通い合いが描かれるこの映画の中で、もっともシュールで、もっともピュアな存在が、このエピソードに登場する宇宙飛行士です。

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『アスファルト』その3(原題:Asphalte

バンリューで繰り広げられる異なる3つの物語の、もっともインパクトが強いのが、アルジェリア系移民のマダム・ハミダ(タサディット・マンディ)と、宇宙飛行士・ジョン・マッケンジー(マイケル・ピット)のエピソード。

宇宙からアメリカのNASAに帰還するはずだったロケットが、なぜかフランス郊外の団地に着陸してしまう。自分がどこにいるかもわからず、「電話を貸してほしい」とドアを叩くと、そこで現れたのがマダム・ハミダだった。
ジョンがNASAに電話にかけると、機械的な声が「認証コードは?」と問う。そのときにジョンの表情と、ロマンチックな認証コードが、とてもチャーミング。電話口で流れるNASAの保留音に、クスリと笑ってしまう。

フランス語がわからないジョンと、英語がわからないマダム・ハミダ……ジェスチャーを交え、どうにかこうにかコミュニケーションをとり、数日間の不思議な同居生活が始まった。マダム・ハミダは、長い間留守にしている息子の服をジョンに貸し、息子の部屋をジョンに案内する。手料理のクスクスをふるまうマダム・ハミダと、大きな澄んだ目で彼女の事情を知ろうとするジョン。少しずつ、少しずつ、心が通じあっていく過程が、ああこれが「切ないコメディ」なのかなと、思った。

© 2015 La Camera Deluxe - Maje Productions - Single Man Productions -
Jack Stern Productions - Emotions Films UK - Movie Pictures - Film Facto
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マダム・ハミダはきっと、別れた後もずっと幸せな気持ちで暮らすことができる人のような気がする。「別れたことを悲しむ」より「出会えたことを喜ぶ」ことができる人だと思う。きっと彼女は、ヘリコプターが去った後も淡々としていて、ジョンからもらった記念の品を見るたびに微笑むことができる、そんな人なのかなと。

アメリカとフランス。この2つの国がこんなふうにほのぼのとした関係でいてくれたら、世界の争いや貧困は、もっと少なくなるのではないかなと、そんな希望を描きながら見終えた。


淡々と流れるピアノ曲、ヘリコプターの音、そして最後のシーンで映し出される「魔の音」の正体……映像も詩的だけれど、「音」の使い方がもっと詩的で、今でもずっと心に余韻が残っている。


『アスファルト』その1
http://filmsandmusiconmymind.blogspot.jp/2016/08/asphalte.html

『アスファルト』その2
http://filmsandmusiconmymind.blogspot.jp/2016/08/2asphalte.html


<公式サイト>

アスファルト


/3(土)、ヒューマントラストシネマ有楽町ほか全国順次ロードショー

監督: サミュエル・ベンシェトリ
脚本:サミュエル・ベンシェトリ
出演:イザベル・ユペール ジュール・ベンシェトリ
   バレリア・ブルーニ・テデスキ ギュスタブ・ケルバン 
   マイケル・ピット タサディット・マンディ ほか
配給:ミモザフィルムズ    
2015年/原題:      Asphalte100分/フランス語













『アスファルト』その2(Asphalte)

『アスファルト』その2(原題:Asphalte

フランスの郊外のマンション(= バンリュー/ Banlieue)。
マンションの住民が渋い表情で団地の一室に集まっている。エレベーターを交換するための話し合いのためだ。
エレベーターはトラブル続き。「ボタンを押したらやけどを負う」ほどなのだから、「交換しよう」という思いの切実さも半端じゃない。決して生活が豊かではない住民たちでも、費用負担はやむを得ないと、ほぼ全員が「交換すること」に賛成の意を示した。ただひとり、スタンコヴィッチ(ギュスタブ・ケルバン)をのぞいて。
ああ、民主主義の国、フランスらしい始まりだな……そんなふうに思いながら見ていると、思った通り、住民たちは全員一致でフランスらしい結論を出していた。
ついてない男を地でいくスタンコヴィッチだけれど、「塞翁が馬」のような展開が、素敵な出会いを用意してくれていた。

ここで、キーになるのが、映画『マディソン郡の橋』(The Bridges of Madison County)

クリント・イーストウッドとメリル・ストリープのフランス語の吹き替えがすてき。


© 2015 La Camera Deluxe - Maje Productions - Single Man Productions - 
Jack Stern Productions - Emotions Films UK - Movie Pictures - Film Factory

/3(土)、ヒューマントラストシネマ有楽町ほか全国順次ロードショー


<本ブログ内リンク>

アスファルト その1(女優とティーンエイジャー)
http://filmsandmusiconmymind.blogspot.jp/2016/08/asphalte.html


<公式サイト>

アスファルト

監督: サミュエル・ベンシェトリ
脚本:サミュエル・ベンシェトリ
出演:イザベル・ユペール ジュール・ベンシェトリ
   バレリア・ブルーニ・テデスキ ギュスタブ・ケルバン 
   マイケル・ピット タサディット・マンディ ほか
配給:ミモザフィルムズ    
2015年/原題:      Asphalte100分/フランス語