2015年12月22日火曜日

ホワイト・クリスマス(White Christmas)

『ミケランジェロ・プロジェクト(The Monuments Men)』で監督・製作・脚本・主演をつとめるジョージ・クルーニー(George Clooney)の叔母にあたる、ローズマリー・クルーニー(Rosemary Clooney)の作品をご紹介します。

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映画『ホワイト・クリスマス』(原題:White Christmas/ 1954年米)

クリスマスの精神……
その本当の意味を思い起こさせてくれるミュージカル

 この映画にはオリジナルとなった作品がある。1942年の「スイングホテル」だ。このとき、ビング・クロスビーが『ホワイト・クリスマス』(作詞作曲:アーヴィング・バーリン)をうたい、大ヒットした。
 リメイク版となる本作は、戦場のシーンから始まる。
 兵士ボブ(ビング・クロスビー)が「ホワイト・クリスマス」を歌うと、そのときだけ、同士の心は安らぎ、戦いを忘れることができた。
 実際に、第二次世界大戦中、この歌が多くの兵士たちの心を支えた。優しいメロディと歌詞が家族や恋人たちと過ごすクリスマスを思い起こさせ、「必ず生きて帰ろう」と思う力の源となっていた。
ジョージ・ガーシュウィンに尊敬され、「アメリカのシューベルト」と讃えられたアーヴィング・バーリンによる心温まる曲の数々、それを歌と踊りで披露するスターたち…… パラマント・ピクチャーズが開発した「ヴィスタビジョン」という方式を採用した第1作でもあり、音と画像の美しさに発表当時は、多くの人々が銀幕を通して夢の世界を満喫した。

「眠れない夜には羊ではなく幸せを数えよう……眠ってる子供たちの愛らしい寝顔を1つ1つ数えよう」(挿入歌:”Count Your Blessings Instead of Sheep”より)

 この作品のもうひとつの魅力は、登場人物の誰もがときにはお節介と言われてしまうほど他人思いであること。ストーリーの中には巧妙な駆け引きも裏切りもない。それに代わり、兵士同士の絶対的な友情があり、男女の恋心がすれ違うもどかしさがある。ローズマリー・クルーニー演じるベティが、その心の優しさ故に思わぬ誤解をしてしまうシーンでは、私たちまでハラハラして、お節介にもスクリーンに飛び込みたくなってしまう。


 ローズマリー・クルーニーは、役者・映画監督として活躍するジョージ・クルーニーの叔母にあたる。スーダン・ダルフール地方の紛争解決に取り組み、国連の平和大使(国連ピース・メッセンジャー)として奔走する彼の姿が、素直で一本気なベティの姿とふと重なる。

2015年12月8日火曜日

Happy Xmas (War Is Over) 

フランスで、イギリスで、アメリカで……
「同時多発テロ」という言葉は、いつ死語となるのでしょうか。
「戦争で命を落とす人のいない社会」を、夢物語にしたくありません。

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ハッピー・クリスマス(戦争は終わった)
Happy Xmas (War Is Over) 


 128日。
 この日は何の日?
 歴史の授業では、こう教わる。「太平洋戦争が始まった日」。
 テレビや新聞で、戦争について多くのことが語られる。
 そして同じ日、メディアでは、1人の人物について、多くが語られる。ジョン・レノン(John Lenon)の命日だから。
 
 ビートルズ世代でなくても、ジョン・レノンのファンでなくても、この時期に流れるこの曲を耳にしたことはあるんじゃないだろうか。

 ハッピー・クリスマス(戦争は終わった)
 
♪ War is over, if you want it ♪
(戦争はなくなる。君が望みさえすれば)

 この曲がリリースされたのは1971年。44年が過ぎたけれど、ジョンが願った時代はまだ実現していない。
2001911日、ニューヨークのワールドトレードセンターが、まるで映画のセットのように崩壊した。今では、パリで、ロンドンで「同時多発テロ」という言葉が使われる。どこかの国で内戦は続く。拉致という言葉で泣き濡れる人たちがいる。幼いこどもが命を奪われる事件が後を断たない。

 レストランで豪華なディナーを予約するでなく、家で楽しいホームパーティーをするでもなく、黙々と仕事をこなさなければならない人も多いはずだ。

 残業で疲れ果て、街の喧噪をくぐりぬけ、何の飾り付けもない閑散としたわが家に帰る企業戦士たちもいる……そんな人たちにこそ、この曲を贈りたい。

2015年12月6日日曜日

メニルモンタン 2つの秋と3つの冬(2 automnes 3 hivers)

125日(土)から上映が始まったこの映画もまた、パリの一画が舞台です。
人々の心の痛みが少しでもはやく和らぎますよう。

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メニルモンタン 2つの秋と3つの冬(原題:2 automnes 3 hivers/ 2013/フランス)

『2つの秋、3つの冬』
( Interview with Sebastien Betbeder)

舞台は、パリのはずれにあるメニルモンタンという街。アルベール・ラモリス監督の『赤い風船』の舞台にもなった場所だ。仕事をみつけること。運動を始めること。禁煙すること。美大出身で求職中のアルマン(ヴァンサン・マケーニュ)は、33歳の誕生日を機に、この3つの決意をする。土曜の朝、公園をジョギングしていると、同世代のアメリ(モード・ウィラー)とぶつかり、心ときめいてしまう。が、声をかけるきっかけはなかなかつかめない。うだつのあがらない毎日だけど、美大時代に知り合ったバンジャマン(バスティアン・ブイヨン)という親友がちゃんといる。あるとき、バンジャマンと行きつけのバーを出ると、そこにいたのは……
映画は、2組のカップルの恋物語とその周辺の人々の、さまざまな日常が描かれる。登場人物の独白(モノローグ)や、50章ほどのチャプターに分かれて展開される。
監督は、セバスチャン・ベベデール(Sebastien Betbeder)。 フランスに住む30代の人々の揺れ動く気持ちを描くため、ベベデール監督は撮影手法そのものに変化をつけた。16ミリカメラとデジタルカメラの併用、細かい章立て、クローズアップの多用、カメラ目線でのモノローグ、ストーリーの脱線(脇道にそれる展開)etc.…… そこには、今の世の中に挑もうとする「小さなレジスタンス」の精神がしっかりと刻まれていた。

セバスチャン・ベベデール監督(2014年6月28日撮影)


 「若者たちにもっとも伝えたいことは?」と投げかけた質問に、彼はこう答える。
「”希望”です。今は決して楽しい時代ではないかもしれません。それでも、私たちは、“生活”という現実を通して幸せになれるし、楽しいという気持ちを持ちつつも、理不尽な社会と闘うことができるのではないでしょうか」(※2014628日、フランス映画祭2014のために来日したベベデール監督のインタビューより)

コメディなのに、なぜかメランコリック。不思議な情感が漂う映画。
フランスには”adulescence”という言葉があるらしい。Adulte(大人)とティーンエイジャー(adolescence)を組み合わせた新しい言葉だ。日本語に訳すと「中二病」なのかな?
あきらめず、心の成長を続けようとするアルマンは、私たちのすぐそばにいそうな気がする。


<本ブログ内リンク>

映画監督たちは、暴力の描写とどう向き合っているのか(フランス映画祭2014
http://filmsandmusiconmymind.blogspot.jp/2015/07/2014.html
(ベベデール監督のコメントを掲載しています)

<公式サイト>
メニルモンタン 2つの秋と3つの冬

http://menilmontant-movie.com

2015年12月5日土曜日

『エール!』 (原題:La Famille Bélier)


12月3日から、障害者週間が始まりました。ハンディキャップを抱えながらも自分の人生を明るく生きる多くの人々が、映画の世界でも活躍しています。

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『エール!』 (原題:La Famille Bélier


フランスの農家、ベリエ一家は、4人家族。
明るく笑顔に溢れる家族だが、他の多くの家族と違うことが1つある。
家族のうち3人が聴覚障害者で、コミュニケーションの中心が手話であるということだ。
ただ1人、聞くことと話すことが普通にできるのは、長女のポーラだ。ポーラ(ルアンヌ・エメラ)は、父と母、そして弟の通訳として、手話がわからない健常者との会話をつないでいる。
そんなポーラには、すばらしい才能が秘められていた。
—— 「歌」だ。



 © 2014 – Jerico – Mars Films – France 2 Cinéma – Quarante 12 Films – 

Vendôme Production – Nexus Factory – Umedia


やや低めのトーンで情感たっぷりに歌うポーラに、音楽教師のトマソンは、オーディションを受け、奨学金でパリの学校に通うことをすすめる。自分の才能を開花させたいと願うポーラ。しかし、ポーラに頼って生きる家族の思いはまた別だ。何より、父も母も彼女の歌声を聞くことができない。彼女の才能を信じる術もなければ、親として人生を指南することもできない。

聴覚障害を持ちながらも、政治家として立候補する父。
十代の少年少女に、ミシェル・サルドゥ(Michel Sardou)の激しい愛の歌を伝授する教師。
オーディションの後、「いい選曲だったね」とポーラに告げる審査員。

首都パリで、同時多発テロがあったばかりのフランス。でも、この国の人たちの力強さを、この映画がしっかりと教えてくれる。



 © 2014 – Jerico – Mars Films – France 2 Cinéma – Quarante 12 Films – 
Vendôme Production – Nexus Factory – Umedia





<本ブログ内リンク>


フランス映画祭2015 その1 『エール!』トークショー
http://filmsandmusiconmymind.blogspot.jp/2015/06/2015.html

フランス映画祭2015 その3 --来日ゲストが届けてくれた、フランスの風 --
http://filmsandmusiconmymind.blogspot.jp/2015/07/2015_15.html

<公式サイト>

『エール!』
http://air-cinema.net


 © 2014 – Jerico – Mars Films – France 2 Cinéma – Quarante 12 Films – 
Vendôme Production – Nexus Factory – Umedia