2018年7月20日金曜日

『ファニーとアレクサンデル』 ( FANNY OCH ALEXANDER )

『ファニーとアレクサンデル』 (原題:FANNY OCH ALEXANDER/1982年)

721日から始まる『ベルイマン生誕100年映画祭』の中の1作です。

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 上映時間311分。つまり、鑑賞に5時間以上を要する。途中で休憩が入るが、それでも長い。短めの映画だったら、この時間で3本は見られるだろう。
 それでも、見終わったときに疲れを感じない。
 見ているうちにぐいぐいと物語に引き込まれ、まるで、自分も登場人物たちと共にテーブルに座っていたかのような錯覚を覚える。それはきっと、スウェーデンの巨匠、イングマール・ベルイマンの魔法にかけられたからなのだろう。

 (c) 1982 AB Svensk Filmindustri, Svenska Filminstitutet. All Rights Reserved.

 
 舞台は20世紀初頭のスウェーデン。地方都市・ウプサラにあるエクダール家の物語が、少年アレクサンデルとその妹ファニーを中心に語られる。おばあさんは国民的大女優、そしてお父さんは自分の劇場を持つ俳優で、お母さんも女優として劇場に出演している。5部構成から成るこの映画の第1部では、エクダール家のクリスマス・パーティーが描かれる。豪華な邸宅で、踊り明かす人々。アレクサンデルのおじさんたち、おばさんたち、そして使用人たち……ここで、登場人物ひとりひとりの個性が描かれる。完璧な人などいない。誰もが情けない面を持ち、虚勢を張って生きている。
 第2部でアレクサンデルは父と死別、物語は心髄へと向かっていく。
 
 父を亡くし、悲しみにくれる母。先の見えない人生で手を差し伸べてくれた1人の男性に、母は身を寄せる。しかし、アレクサンデルとファニーにとって、そして母にとって、そこに幸せな生活は存在しなかった。
 危機に瀕した3人を救うため、アレクサンデルの叔父たちが動き出す。第1部でみっともない姿をさらけ出していた、あの叔父たちだ。「夫を失った義姉の悲しみに寄り添ってあげられなかった」ことを悔やんだ叔父たちは、兄を亡しなって途方にくれる3人(アレクサンデル、ファニーと母)を救い出そうと尽力するのだ。
 
 家族同士のつながりがどんどん希薄になっていく21世紀の日本。「大家族」という言葉も死語になりつつある。
 そんな現実を生きる私たちに、ベルイマン監督が、強烈なメッセージを届けてくれる。
「映画」という彼の魔法を使って。

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 長い夏休みを取れない人も、せめて1日でいいから休みを取り、この映画に浸ってほしいと思います。その1日は、きっと一生の宝物になるはずです。
 映画にはそれだけ大きな力があることを、ベルイマン監督が教えてくれます。
 

<本ブログ内リンク>

この映画を見た後、むしょうに小津監督の映画が見たくなりました。
再)『東京物語』(1953/日本)

<公式サイト>
『ベルイマン生誕100年映画祭』



7/21(土)より、YEBISU GARDEN CINEMA他全国順次ロードショー
  
配給:ザジフィルムズ、マジックアワー


2018年7月13日金曜日

『子どもが教えてくれたこと』( Et les mistrals gagnants)

 Le 14 Juillet ( 714)
 フランスの人たちにとって大切なこの日に、この映画の上映が日本で始まります。

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映画の中のこどもたち その6
女性監督が描く、等身大のドキュメンタリー映画 その2

『子どもが教えてくれたこと』 (原題:Et les mistrals gagnants
  フランス映画祭2018上映作品—


©Incognita Films-TF1 Droits Audiovisuels

  映画に出演するのは実在の子どもたち。みんな何かしら病気を持っている。
  アンブルの病気は、動脈性肺高血圧症。命綱のリュックサックを肌身離さず背負っている。
  カミーユは神経芽腫(骨髄)。小児がんの一種だ。
  テュデュアルは左右の目の色が違う。3歳のときに行った手術が原因という。
  イマドは腎臓に障害があって、腹膜透析をしている。
  シャルルは肌がとても弱い。皮膚がはがれたり水泡ができたりする病気(表皮水泡症)で、体を包帯で覆っている。

  みんな遊びたい盛りの子供たち。彼らは、自分の病気と向き合い、現状を理解しながら、自分たちの人生を生きる。この映画は、アンヌ=ドフィーヌ・ジュリアン監督のデビュー作。彼女自身が、2人の子どもを病気で失うという経験を持つ。わが子を失うときの身を切るような、いやそれ以上のつらさを知りながらも、なぜ、ジュリアン監督はこの映画を撮影する強い心を持ち得たのだろうか?
  フランス映画祭2018で本作が上映されたとき、ジュリアン監督は観客からの質問にこう答えている。「つらいことも多くありましたが、発見することも多かった。だから、その発見を皆さんと共有したいという思いで映画をつくりました」。泣いていたかと思うと次の瞬間は笑っている。現場では、そんな子どもたちが大人をリードしていった。彼らの発言はときとして、大人以上に哲学的だったりする。


©Incognita Films-TF1 Droits Audiovisuels


  伴侶を失ったばかりのニワトリを見ながら、テュデュアル君がこんな風に言う。「長生きしてほしい」と。長生きできれば、悲しいことを忘れるための時間もできるからと。

  ああ、そのとおりだ!時間は「大切な人を失った苦しみ」を与えるんじゃなくて「その苦しみを忘れる」チャンスを与えてくれるんだ。テュデュアル君のこの言葉は、アンヌ=ドフィーヌ・ジュリアンさんの子どもたちが、天国からお母さんへ送ってくれたメッセージじゃないかと思った。客観的で冷静なドキュメンタリーもいいけれど、こんな、等身大でほのぼのとするドキュメンタリーもいい。

  アンブル、カミーユ、イマド、シャルル、テュデュアル……みんなが、これからも思い切り笑って過ごせる社会でありますように。


フランス映画祭2018で来日した、ア
ンヌ=ドフィーヌ・ジュリアン監督
(2018年6月23日撮影)
Anne-Dauphine Julliand © Mika Tanaka

  
<本ブログ内リンク>
フランスの女性監督によるドキュメンタリー映画がここにも。
『バベルの学校』(La cour de Babel/ 2013/) その1
  

<公式サイト>
子どもが教えてくれたこと
http://kodomo-oshiete.com


■監督・脚本:アンヌ=ドフィーヌ・ジュリアン
■出演:アンブル、カミーユ、イマド、シャルル、テュデュアル
 2016年/フランス/フランス語/カラー/80分/ヴィスタサイズ/DCP

 配給:ドマ


7月14日(土)より、シネスイッチ銀座 ほか全国順次公開