2017年1月31日火曜日

『ワーキング・ガール』(Working Girl) 、そして”Let the River Run”

『ワーキング・ガール』(Working Girl) 、そして”Let the River Run”
  
この2週間、仕事に忙殺されていた。
締切間近で、寝不足で、ふらふらになりながら指を動かしている間に、トランプ大統領は就任し、入国禁止の大統領令は発令された。
泣く人、怒る人、不安をあらわにする人……世界中の嘆きが聞こえてくる。

ああ、自由の女神が泣いてる、そんな感じがした。

映画『ワーキング・ガール』(原題:Working Girl/ 監督:マイク・ニコルズMike Nichols)に憧れて、念願のニューヨークを訪れたときのことがよみがえってくる。
エリス島には、異国から訪れた人たちの写真が展示されていた。さまざまな国から、新天地を求めてやってきた人たちだ。

「意気揚々とアメリカに渡る希望に溢れた人たち」のイメージしか持たなかった自分にとって、そこで出会った多くの写真は、悲しかった。そこにあったのは、希望に溢れるまなざしではなかったからだ。
絶望のどん底にいて、でもなんとか生き延びようとしているまなざし。それは、希望とはまた違う類いのものだと知った。「ロシアの未亡人」(Russian widow)と 書かれた1枚の写真は、じっと私のことをみつめていた。

危険な航海に乗り出してまでめざした新天地。無事にたどり着いた人はどれだけいたのか。入国できた人はどれだけいたのか。そして、成功した人はどれだけいたのか。
数字のことはわからない。正確には何もわからない。でも、自由の女神は、今までずっと、訪れた人たちすべてを見下ろして、受け入れてきた。
その、アメリカの歴史は、どこに行こうとしているのだろう。
アメリカはかつて、「世界のアメリカ」だった。多くの人の夢の先にあった。でも、今は、アメリカは既存のアメリカ国民の国になってしまった。

久しぶりに、『ワーキング・ガール』のサントラをまわしてみた。主題歌の”Let The River Run” カーリー・サイモンCarly Simon)に涙が出てくる。
マンハッタンとスタテン島を結ぶフェリーに乗ったとき、この歌が心に浮かんだのを思い出した。スタテン島を離れると、遠くに見える自由の女神とマンハッタンが、ぐんぐんと近づいてくる。船上から見る光景は、この歌そのものだった。
たった数日のニューヨーク滞在だったけれど、私にとってはそれ以上のものだった。

朝、ソーホーのあたりを歩いていたとき、消防署の前でモーニングコーヒーを飲む消防士と話をしたのを覚えている。”Do you like New York?”と聞くと、もちろん!"と答えたときの表情が今でも忘れられない。


マンハッタンのワールドトレードセンターに2機の飛行機が突っ込んだのは、その数ヶ月後のことだった。