2018年3月28日水曜日

『BPM ビート・パー・ミニット』(120 battements par minute)

BPM ビート・パー・ミニット』  (原題:120 battements par minute

  ”AIDS Coalition to Unleash Power”(力を解き放つためのエイズ連合)、略して “ACT UP”。「アクトアップ」には、「派手にやれ」の意味もある。血にみせかけた真っ赤な液体を製薬会社に投げつけたり、高校に突然押し掛けてコンドームの必要性を訴えたりと、ACT UPの活動は文字通り派手だ。

© Céline Nieszawer

  映画は、ACT UPのミーティングのシーンから始まる。世間を騒がせて目立とうとか、社会に楯突こうとか、集まった彼らの思いは、そんな青臭い気持ちをぽーんと飛び越えたところにあって、いつの間にか、見ている自分もミーティングに参加しているような気持ちになる。生きていたい。生きていてほしい……性別も肌の色も年齢も関係なく、LGBTであっても薬物中毒者であっても、ACT UPのメンバーは「生きぬいて」というメッセージを送り続ける。1990年代前半、ACT UP-Parisの活動に参加していたロパン・カンピヨ監督が、当時の空気をそのまま映像に閉じ込め、フィクションとして再構築した。スマホもSNSもなかったこの時代、彼らは実際にミーティングで顔を合わせ、お互いの意見を出し合い、いいねをクリックする代わりに指をパチンと鳴らして賛同していた。抗議文はEメールではなく、FAX。ほんのりとレトロな感触が漂う。今でこそ、不治の病ではなくなったエイズだが、この当時はまだ画期的な治療法がみつけられていなかったことが思い出される。
  死が忍び寄るの待ち続ける青年。傍らで寄り添うパートナーや同士。彼らにとって、活動は命を救う行為にほかならない。だから私は、この映画を社会派映画というより青春映画と呼びたい。自由と平等のために戦った革命家たちの末裔の青春—— この映画にもフランスの魂がぎっしりとつまっている。



<本ブログ内リンク>

『わたしはロランス』(グザヴィエ・ドラン監督作品)

88回アカデミー賞への願い(LGBTについて)
http://filmsandmusiconmymind.blogspot.jp/2016/02/88.html

『午後8時の訪問者』(BPMに出演するアデル・エネル主演映画)
http://filmsandmusiconmymind.blogspot.jp/2017/04/8la-fille-inconnue.html

<公式サイト>


BPM ビート・パー・ミニット』 


70回カンヌ国際映画祭グランプリ受賞!
3/24()よりヒューマントラストシネマ有楽町、新宿武蔵野館、ユーロスペース他にて
全国ロードショー

2018年3月8日木曜日

『女の一生』(Une vie)


今日、3月8日の「国際女性デー」に紹介したい、もうひとつの映画です。

**************************************
『女の一生』
  自然主義文学の立役者のひとり、モーパッサンのこの長編小説はあまりにも有名で、それゆえ、紋切り型のこんなイメージが先行しているような気がする。「世間知らずのお嬢様が運命に翻弄されながら不幸になる話」。もし言葉をうのみにして映画を観たら、印象はだいぶ変わるのではないだろうか。舞台は19世紀初頭のノルマンディー。自然豊かな故郷で、ジャンヌ(ジュディット・シュムラ)は、自らの意志で伴侶を選ぶ。この時代には珍しいことだ。そして、自ら選んだ夫の不誠実さによって苦しむ。その苦しみの責任を誰に押し付けるでもなく、ジャンヌは自分自身の心で受け止めた。神父の導きを受け入れることもあれば、かたくなに拒むこともある。子供を盲目的に溺愛しているようにも見えるが、ジャンヌの子育て論は理にかなったところもある。「だまされている」と言われながらも、子供の言葉を最後まで信じる……私が思っていた『女の一生』は、受け身的な女性が流されるまま生きる人生だったけれど、ジャンヌの生きざまはそれとは真逆だった。ステファヌ・ブリゼ監督がどれだけジャンヌを愛おしく思っていたか、ジャンヌの美しい横顔からそれが伝わってくる。今でも心に強く残っているのは、「真実と嘘」について語る神父と、迷いながらも自分の意志を曲げないジャンヌのシーン。このときのジャンヌに『婚約者の友人』の主人公・アンナを重ねた。また、原作者のモーパッサンは『セザンヌと過ごした時間』にエミール・ゾラと活動をともにし、『ロダン カミーユと永遠のアトリエ』のロダンと同じ時代を生きた人だ。もしも自由な時間が丸1日取れることがあったら、ここに挙げたすべての作品をまとめて観てほしいと思う。

<本ブログ内リンク>

『婚約者の友人』(Frantz)

『セザンヌと過ごした時間』(Cezanne et moi

『ロダン カミーユと永遠のアトリエ』(Rodin

<公式サイト>
『女の一生』

原作: ギイ・ド・モーパッサン
監督・脚本: ステファヌ・ブリゼ
出演: ジュディット・シュムラ  ジャン=ピエール・ダルッサン  ヨランド・モロー  
スワン・アルロー  ニナ・ミュリス
2016 /フランス/119 /
提供・配給: ドマ、ミモザフィルムズ

『幸福(しあわせ)』(Le Bonheur)


 今日、38日は「国際女性デー」。
 アニエス・ヴァルダ監督の映画を紹介します。
 324日(土)から、早稲田松竹で上映されます。

******************************
『幸福(しあわせ)』(原題: Le Bonheur
(監督:アニエス・ヴァルダ)

 この映画が公開されたのは、1965年。それから、50年ほどが過ぎた。
 男性のわがままを許すことを強要され、受動的に生きるしかなかった女性たちの状況は、改善されただろうか?—— 答えはきっとさまざま。「この映画は過去の話」と思う人もいれば、「大して変わってないじゃない!」と思う人も。
 私は前者。
 この50年間で日本の仕事の現場は少し、いや大きく変わった。男女平等雇用均等法が施行され、セクハラやパワハラという言葉が生まれ、21世紀に入るとイクメンまで登場。
 でも、家庭の現場は?
 女性の立場は、この映画とほとんど同じ。いやまったく同じじゃないだろうか。
 
 女性は仕事をし、家事をこなし、夫を気遣い、こどもたちを育てる。すべてがこなせて当たり前……

 映画の中で、テレーズ(クレール・ドルオー)は、休む間もなく動いていた。夫のフランソワ(ジャン・クロード・ドルオー)に異を唱えることなく、愚痴をこぼすでもなく、野に咲くひまわりのように明るい。こんな良妻賢母に支えられる家族は絵に描いたような「幸福」に満ちている。
 
 でも、「幸福」の維持にはたゆまない努力が必要だ。その努力のすべてを女性が担わなければいけないとしたら? そのどこが男女平等なんだろうか?

 映画は、家族がピクニックを楽しむシーンで始まる。そして、家族がピクニックを楽しむシーンで終わる。
 始まりと終わりの間のドラマを知らない人から見ると、まさに幸福な家族。50年近く経った今も、このシーンは普遍的だ。ということは、幸せそうに見える世の中の多くの家族にもいろいろな秘密があって、それぞれが「幸福」を装うためのたゆまない努力をしているのかもしれない。

(c) agnes varda et enfants 1994


***********************************


<本ブログ内リンク>

《特集上映》ドゥミとヴァルダ、幸せについての5つの物語

『ローラ』(LOLA)その1(反戦への思い)


『ローラ』(LOLA)その2(シングル・マザーへのまなざし)

『天使の入江』(La baie des anges

<関連サイト>

下記のサイトより、『幸福』の上映館を知ることができます。

《特集上映》ドゥミとヴァルダ、幸せについての5つの物語
上映予定

2018年3月2日金曜日

『しあわせの絵の具 愛を描く人 モード・ルイス』(MAUDIE)

 春がやってきました。
 33日の桃の節句。38日、国際女性デー。314日、ホワイトデー。
 女性のためにあるような1ヶ月。明日から上映が始まるこの映画は、監督、脚本、ともに女性。劇中でモードの人生を切り開いたもう1人のキーパーソン、サンドラ(カリ・マチェット)もまた、女性です。女性が稼ぎ、夫が支えるという暮らしを嫌みなく描くことができたのは、女性スタッフの視点があったからかもしれません。
 
****************************************************

『しあわせの絵の具 愛を描く人 モード・ルイス』(原題:MAUDIE


(c)2016 Small Shack Productions Inc. / Painted House Films Inc. /
Parallel Films (Maudie) Ltd.



  20世紀前半のカナダ。小さな港町にこんな夫婦が暮らしていたなんて!

「家政婦募集、掃除用具を持参のこと」

 手書きの小さな募集広告を手に、魚売りのエべレット(イーサン・ホーク)の家の戸を叩いたのは、小柄で手足の動きがぎこちない、風変わりな女性だ。
 関節リウマチを患っていたモード(サリー・ホーキンス)は、不慣れながらも料理と掃除にいそしみ、不器用でかたくななエベレットの心をほぐしていく。体は不自由だが、自由で優しい心を持つモードと、孤児院育ちで素直に自己表現することに慣れていないエベレット。「だまって主人に従え」と命令し、頬を叩いていたのもエベレットだが、モードの描く絵を愛し、彼女の情熱をさりげなく支えたのもまた、エベレットだった。
 モードとエベレット。質素ながら豊かな2人の生活を見ていると、「結婚」の意味がとてもシンプルに伝わってくる。忘れちゃいけないな、と思った。家族の最小単位は「親子」ではなく「夫婦」なんだっていうことを。

Cape-Islander
“Cape Islander Cove” by Maud Lewis. Courtesy of 
the Art Gallery of Nova Scotia, all rights reserved. 



<本ブログ内リンク>

イーサン・ホークの魅力が溢れる映画の数々……

『ビフォア・サンライズ 恋人までの距離(ディスタンス)』 ( BEFORE SUNRISE

『ビフォア・サンセット』

『ビフォア・ミッドナイト』(BEFORE MIDNIGHT)その1

『ビフォア・ミッドナイト』(BEFORE MIDNIGHT)その2


6才のボクが、大人になるまで。』(BOYHOOD)

6才のボクが、大人になるまで。』(BOYHOOD)その2


<公式サイト>

『しあわせの絵の具 愛を描く人 モード・ルイス』


公開表記】 33日(土)新宿ピカデリー、Bunkamuraル・シネマ、東劇ほか全国ロードショー

監督:アシュリング・ウォルシュ
脚本 シェリー・ホワイト
出演:サリー・ホーキンス、イーサン・ホーク
2016年/カナダ・アイルランド/英語/116分/DCP/カラー

配給:松竹