2015年9月27日日曜日

マルチェロ・マストロヤンニと「未来へのノスタルジー」(Marcello Mastroianni)

御嶽山の噴火から、1年が経ちました。
眠っていた何かを呼び覚まされたかのように、日本のさまざまな場所で、火山がざわざわと動き出したように感じられます。
天災をなくすことはできなくても、天災の被害を少なくすることができる力が、私たちに人間にはあります。そのために欠かせない「知恵」と「優しさ」を、自分たちの心の中に育んでいきたいものです。

明日、928日はイタリアの俳優・マルチェロ・マストロヤンニの誕生日です。生きていれば、91歳。

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マルチェロ・マストロヤンニと「未来へのノスタルジー」
 
 初めて訪れた場所なのに、とても懐かしく感じる……そんな経験はないだろうか。
 
 小さい頃、大好きな絵本に描かれていた森。
 夜明けまで語り明かした親友の故郷の海。
 職場に向かう途中で見たポスターの、美しい街並み。
 
 せわしない日々の生活の中にあっても、私たちは小さな憧れという宝石を、少しずつ心の宝石箱の中にしまっていく。そしてあるとき、心の宝石箱にしまっていた景色を訪れ、その空気を吸ったとき、とてつもない懐かしさ”=ノスタルジーで、心がいっぱいになる。

 それはきっと、訪れた場所の空気と、その場所を絵や写真で見ていたときの思い出が、呼応しあったときに生じる感覚なのだろう。絵本を読んでくれた家族の温もり、親友との間で交わした約束、仕事で落ち込んだときに自らが与えた希望……
 だからこう思う。ノスタルジーは、過去ではなく未来で、私たちのことを待っていてくれていると。私たちが夢や憧れを持ち続けている限り、ノスタルジーという心地よい感覚を失うことはないと。

「未来へのノスタルジー」(Nostalgia del futuro)という言葉を残した人がいる。イタリア出身の俳優、マルチェロ・マストロヤンニ(Marcello Mastroianni)。この偉大な名優がこの言葉を語ったとき(確かTVのドキュメンタリーで)、その意味が一瞬にしてわかったような気がした。僭越な物言いだけれど。
 未来へのノスタルジーに思いを馳せるだけの、そんなこんこんと湧き出る泉のような感性を持つ人だったからこそ、あれだけ多くの役柄を演じることができたのだろう。映画の出演作すべてを観ようと思ったら、その間に世界一周クルーズができてしまうかもしれない。それほど多くの作品に出演した人だった。


映画『ひまわり』より (イラスト/さいとうかこみ)


 がんで他界する直前まで、彼は、俳優業を退くことはなかった。
 1996年。チリのラウル・ルイス監督作品『3つの人生とたった1つの死』(Trois vies&une seule mort)の後、ポルトガルのマノエル・デ・オリヴェイラ監督作品『世界の始まりへの旅』(Viagem ao Principio do Mundo)に出演。10月にはイタリアで『最後の月』(フーリオ・ボルドン作)の舞台に立つ。そしてこの年の1219日、彼はパリの自宅で天に召された。パリの自宅で、カトリーヌ・ドヌーヴ、そして娘のキアラが旅立ちを見守っていた。

『甘い生活』(La Dolce vita/1960年)や『ひまわり』(I Girasoli/1970)など、数々の名演があるが、私にとってのマストロヤンニは『黄昏に瞳やさしく』(Verso sera/1990年)の大学教授ブルスキであり、『プレタポルテ』(Prêt-à-Porter/1994年)のセルゲイだった。スクリーンの中の「お茶目で微笑ましいおじさん」は、まるで今でもどこかで生きているんじゃないかと思えるほど、生き生きした印象を私に残してくれた。


参考文献:『マストロヤンニ自伝 わが人生を語る』
(編者:アンナ=マリア・タトー 訳者:押場靖志 発行:小学館)


2015年9月18日金曜日

『カプチーノはお熱いうちに』 (Allacciate le cincture)

10月は、ピンクリボン(Pink Ribbon)月間です。
それに先立つ919日から、この映画の上映が日本で始まります。

乳がんの予防、早期発見、早期治療の大切さを、少しでも多くの人に気づいてもらえますように。

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『カプチーノはお熱いうちに』
(原題:Allacciate le cincture / 2014/イタリア)
監督:フェルザン・オズペテク Ferzan Ozpetek

L'amore (アモーレ)= 愛 

「愛」ってなんだろう?

男と女の愛は、永遠に続くの?

原始の時代に、男女がこんなことを考えながら暮らしたとは思わないけれど、いつからかこの問いかけが生まれ、現在も、そしてこれからもずっと、私たちを悩ませ続けるのだろう。

この映画もまた、この問いかけを登場人物に投げかける。
学校のクラス委員になるようなタイプのエレナ(カシア・スムトゥニアク)と、粗暴で不器用なアントニオ(フランチェスコ・アルコ)。この正反対の2人が惹かれ合うことが、第一の不思議。でも、こういうことは現実世界にもよくある。

そして、お互いにかつての情熱を失いぼろぼろになりながらも、根っこの部分で「愛」を失わずにいることが、第二の不思議。ここまで貫けるカップルは、ほんのひと握りなんじゃないかと思う。多くのカップルは、「ほら、その場の勢いで一緒になったからさ」と、周囲から言われながら、離婚届けを出しに行くのが現状だと思う。
でも、「ほんのひと握り」のカップルは確かに実在していて、私たちに愛すること、結婚することに対して、大きな希望を与えてくれている。


©2013 All rights reserved R&C Produzioni Srl - Faros Film

 こどもが生まれ、生活に追われて外見的な美しさを失い、夫婦の会話もぎこちなくなっていく過程……恋愛にたけていて、口説き上手と口説かれ上手、そんな、イタリア人への憧れは幻想なのだと、この映画で気づく。そして、国が違っても、夫婦の悩みは同じなのだと知る。


乳がん
識字障害(読み書きができないこと)
同性愛への偏見
家族との死別

そんな悲しみが渦巻く映画の中で、元気に生きる脇役の女性たちもまた印象的。

きびきびとした若き女医、ディアーナ(ジュリア・ミケリーニ)
破天荒な生き方を貫くカルメラ(エレナ・ソフィア・リッチ)
闘病の中でもユーモアを忘れないエグレ(パオラ・ミナッチョーニ)

どの登場人物にも、くっきりとした輪郭があって、多様性に富んでいる。

エレナが、カフェの馴染み客だったディアーナと再会したときのセリフが、おしゃれ。


©2013 All rights reserved R&C Produzioni Srl - Faros Film


原題の”Allacciate le cincture (シートベルトをお締めください) “というタイトルも気が利いているけれど、『カプチーノはお熱いうちに』という邦題が、映画にもうひとつの魅力を添えてくれた。

ラストシーンの美しい海と、エンドロールで流れるイタリア語の歌” A mano a mano”
(歌:Rino Gaetano)が、束の間のイタリア旅行を楽しませてくれる。クレヨンで書いたような可愛い手作りの航空券を、心のポケットにしのばせるような気分で、ぜひ。

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美しい海は、アドリア海とイオニア海に挟まれた街、レッチェの海岸で撮影されました。

”Allacciate le cincture (シートベルトをお締めください) というタイトルには、「乱気流が思わぬところで起きるのが人生。そんなとき、シートベルトを締めるように心の準備をして生きなければ」という監督の思いが込められています。

トルコ出身のオズペテク監督は、こんな言葉も残しています。
「希望というのは、未来にだけあるのではなく、過去にも存在すると思う。そんなメランコリックな希望をこの映画で描きたかった」と。レッチェの美しい海を愛でながら、この言葉を思い出してほしいと思います。


<公式サイト>
『カプチーノはお熱いうちに』

http://www.zaziefilms.com/cappuccino/

919()より、シネスイッチ銀座ほか全国順次ロードショー
配給:ザジフィルムズ