2023年6月21日水曜日

『アシスタント』(原題:The Assistant)

 『アシスタント』(原題 : The Assistant

監督・脚本・製作・共同編集:キティ・グリーン

 

差別が当たり前に横行する社会の中で、弱者が自分を守るためにできることは、自分自身が加害者になることだ。学校の現場でも、自分の身を守ろうと必死に生きるこどもが、意に反していじめの加害者側に取り込まれかねない危険がある。大人たちも同じだ。家庭で、仕事の現場で、被害者にならないためにできる選択肢は2つだ。その場から離れるか、黙すことで加害に加担するか……



                                                                                         © 2019 Luminary Productions, LLC. All Rights Reserved. 

 


 

ジェーン(ジュリア・ガーナー)は、名門大学出身。映画プロデューサーを目指し、業界有数のエンタテインメント企業でジュニア・アシスタントとして働いている。何百人もの若者が望む仕事を勝ち取ったジェーンは、地味で面倒な作業をてきぱきとこなし動きも機敏だ。しかし、表情はどこか虚だ。激務ゆえの疲れというより、釈然としない何かを抱えているようにみえる。その釈然としない思いは、ある出来事がきっかけとなり、はっきりした輪郭となっていく。

自分の夢を、人質のように会社に預けなければならない現実。若い女性が掲げる正義のか弱さ……どれだけの人が、ジェーンに共感できてしまうのだろうか。キティ・グリーンが同業界の多くの女性に話を聞きながら少しずつ積み上げた物語は、フィクションという形を借りているけれど、限りなくノンフィクションに近い。わずか18日で撮影された87分、私がそこから感じるのは、怒りと、それ以上の悲しみだ。娘の体を気遣う両親の存在があることに救われると同時に、娘の仕事を誇らしく思う気持ちが痛々しい。大切な家族だからこそ、言えないことがある。

 

 

<本ブログ内リンク>

 

『母の聖戦』

https://filmsandmusiconmymind.blogspot.com/2023/01/la-civil.html



<公式サイト>


アシスタント

https://senlisfilms.jp/assistant/


配給・宣伝:サンリスフィルム

2023年6月11日日曜日

アストラッド・ジルベルトとの思い出 (My Days with Astrud Bilberto)

 

アストラッド・ジルベルトとの思い出

My Days with Astrud Bilberto

 

 ある時期、”Beach Samba” (ビーチ・サンバ)ばかり聞いていたことがある。アストラッドがスキャットでダーバダバッダバダバ♪“と歌っていて、サビ(というか間奏)の盛り上がるところで胸がキュンとなって、機械化された毎日から感受性を取り戻そうとするかのように、この曲に没頭していたことがあった。その頃、フィリピンの友人がいちばん好きと言っていたアストラッドの曲は、“A Certain Sadness” (ある悲しみ)というタイトルだった。聞かせてもらった後、すぐにCDを買いにいった。

 

それから何年かして、初めてパリを訪れたときとっさに浮かんだのが、アストラッドの歌う”Good bye Sadness(Tristeza)” (トリステーザ)だった。このメロディに日本語の歌詞をのせてときおり歌った。歌うたびに、パリの青い空を思い出していた。

 

アストラッドを知ったきっかけは、ポーランド出身のBasia(バーシア)が歌う”Astrud”(アストラッドへの想い)という歌。Mat Bianco(マット・ビアンコ)の好きな友人にバーシアを紹介したら、その友人がアストラッドのCDを貸してくれた。

 

ブルーノートで彼女のライブを見に行ったことがある。入口で1回目の公演が終わって、バンドメンバーとすーっと通り過ぎて、その自然体がさりげなさすぎて、まるで妖精のような軽やかさだった。

 

ボサノバを深く知っていくにつれ、英語の歌詞が物足りなくなって、やがてはジョアン・ジルベルトに行き着いた。でも、私にとって、アストラッドと過ごした日々はかけがえのない思い出として、心の宝箱にしまってある。

 

 

アストラッド・ジルベルトの訃報を知る。202365日、享年83歳。

あなたとの出会い、これからも大切にします。

 

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『イパネマの娘』(Garota de Ipanema)

https://filmsandmusiconmymind.blogspot.com/2015/10/garota-de-ipanema.html

2023年6月9日金曜日

『プチ・ニコラ パリがくれた幸せ』( 原題:Le Petit Nicolas - Qu'est-ce qu'on attend pour être heureux?)

 

 今日、69日(金)から東京での上映が始まりました。曇り空の1日ですが、

映画館の中は、明るさに溢れています。

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『プチ・ニコラ パリがくれた幸せ』

(原題Le Petit Nicolas - Qu'est-ce qu'on attend pour être heureux?)



 

(c)2022 Onyx Films – Bidibul Productions – Rectangle Productions – Chapter 2



 

なんて無邪気で、なんて自由なんだろう。

プチ・ニコラに出てくるこどもたちは、やんちゃでいたずら好きで、放っておいたらとんでもないことを考え始める。やってはいけないことをついしてしまう。そしてひとたび反省の意識が芽生えると、とてつもない妄想の中で自分を罰する。それだけ奔放でいられるのは、大人たちへの「絶大な信頼」があるからではないか、と思う。

 

プチ・ニコラが生まれたのは、1955年。パリのカフェで、イラストレーターのジャンージャック・サンペが、新聞に掲載中の自分のイラストをもとに物語を書いてほしいと、盟友のルネ・ゴシニに相談を持ちかけたのが始まりだ。「君が物語を作って、僕が絵を描くのさ!」

映画では、プチ・ニコラの誕生秘話やサンペとゴシニの友情が描かれながら、プチ・ニコラたちの可愛いエピソードが流れる。ニコラの家にテレビが届いた日。親元を離れて向かう臨海学校。友達と学校をサボった日……サブタイトルのQu'est-ce qu'on attend pour être heureux ? “ は、「幸せになるために、私たちは何を待てばいいの?」という意味。世界中のこどもたちの幸せのために、自分たちの幸せのために、サンペはペンを走らせ、ゴシニはタイプライターを叩いた。虐待や戦争のない世の中を願って。




(c)2022 Onyx Films – Bidibul Productions – Rectangle Productions – Chapter 2



今、天国にいる2人は何を思ってこの世界をながめているだろう。

こう思った。サンペとゴシニがニコラたちの物語に託した願いをしっかりと受け止め、こどもたちが心から信頼できる大人にならなければ、と。

大人である私たち1人ひとりの意識が変われば、21世紀のこどもたちもニコラたちのようにのびのびと生きていけるはずだと思う。自戒の念を込めて。



                                                                              (c)2022 Onyx Films – Bidibul Productions – Rectangle Productions – Chapter 2


 


 

原作:ルネ・ゴシニ、ジャン=ジャック・サンペ

監督:アマンディーヌ・フルドン、バンジャマン・マスブル

脚本・セリフ・脚色:アンヌ・ゴシニ、ミシェル・フェスレー、

バンジャマン・マスブル

音楽:ルドヴィック・ブールス(『アーティスト』)

出演者:アラン・シャバ、ローラン・ラフィット、シモン・ファリ 他

原題Le Petit Nicolas - Qu'est-ce qu'on attend pour être heureux

フランス/2022/仏語/ビスタ/5.1Ch86分/字幕翻訳:古田由紀子

 配給:オープンセサミ、フルモテルモ 



<本ブログ内リンク>

 

いつの時代も、やんちゃなこどもたちはかけがえのない宝ものです。

 

『プロヴァンス物語 マルセルの夏』(La Gloire de mon père

https://filmsandmusiconmymind.blogspot.com/2018/08/la-gloire-de-mon-pere.html



<公式サイト>

petit-nicolas.jp


69(新宿武蔵野館、ユーロスペース他全国順次公開