2015年8月30日日曜日

『セバスチャン・サルガド / 地球へのラブレター』 (Le sel de la terre)


『セバスチャン・サルガド / 地球へのラブレター』
(原題:Le sel de la terre/2014/ フランス・ブラジル・イタリア合作)

監督:ジュリアーノ・リベイロ・サルガド(Juliano Ribeiro salgado
   ヴィム・ヴェンダース(Wim Wenders


ブラジルの大地のように心が広い妻、レリア。
初めての息子、セバスチャン。(この映画の監督のひとり)
ダウン症の次男、ロドリゴ。

ブラジル出身の報道写真家、セバスチャン・リベイロ・サルガド(Sebastião Ribeiro Salgado)は、家族を愛し、家族を大切にする人であることを、この映画が教えてくれる。

「神の眼を持つ写真家」と言われるサルガド。それでも、彼自身は決して万能の神ではない。ルワンダでの大虐殺(ジェノサイド/genocide)を目の当たりにし、心がぼろぼろになった彼を支えたのは、家族の愛と故郷の大地だった。

1本、1本、木を植える—
「植樹」という簡素な行いでサルガドは自分を癒し、地球を癒し始める。「写真家」であり続けながら、「環境活動家」としての人生をスタートさせた。サルガドは、夫妻でインスティトゥート・テラを設立し、今もブラジルの森林を守る運動を続けている。



ヴィム・ヴェンダース監督(左)とセバスチャン・サルガド氏(右)
©Sebastião Salgado ©Donata Wenders ©Sara Rangel ©Juliano Ribeiro Salgado  


ブラジルのミナスジェライス州の小さな農場主の息子として生まれたサルガドは、1960年代に、独裁政権への反対運動に加わり、パリへ逃れる。
経済学を学んだエコノミストとしての視点と、深い人類愛。この両方がサルガドの写真の根っこにある。人類への愛は、自然への愛、地球への愛へと広がっていく。

難民となって生きることもままならない状況へと追われる人々。
自由を得るために金脈へと向かう人々。
時代の波から逃れ原始の生活を守り続ける人々。
第二次世界大戦の頃に生まれ、20世紀の人類の負の歴史を撮り続けたサルガド。

彼が、21世紀になって始めたライフワークのひとつが、インスティトゥート・テラの森林再生活動であり、もうひとつが、”GENESIS(ジェネシス)”という写真活動だ。
ダーウィンに思いを馳せながら、サルガドは、ガラパゴス、アラスカ、サハラ砂漠やブラジル熱帯雨林などを訪れ、動物が見せる一瞬の美しい姿をカメラにおさめる。

ゾウガメもクジラも、サルガドのカメラの前ではスターになり、また親のまなざしに見守られるこどものようになる。

“GENESIS(ジェネシス)は、私から地球に贈るラブレターです」(サルガド)。

「素晴らしい自然が存在するからこそ、人類は希望を失わずにいられるというメッセージを(この映画では)伝えているのです」(ヴィム・ヴェンダース)

「私の父は、世界から取り残されたようなブラジルの田舎の、とても貧しい村の出身です。だからこそ、彼に写真を撮られる人々は、彼の博愛的な視点を受け入れるのだと思います」(ジュリアーノ・リベイロ・サルガド)


20世紀の人類の歴史、21世紀という時代が私たちに与えた課題、そして、セバスチャン・サルガドとい人間の生きざまと家族の愛……このドキュメンタリー映画の裾野の広さそのものが、「愛」に溢れていて、胸が熱くなってくる。


フランス映画祭2015のために来日したジュリアーノ・リベイロ・サルガド監督
2015年6月30日、有楽町朝日ホールにて撮影

<公式サイト>



監督:ヴィム・ヴェンダース、ジュリアーノ・リベイロ・サルガド 
プロデューサー:デヴィッド・ロジエール 
エグゼクティブプロデューサー:ヴィム・ヴェンダース  
撮影:ヒューゴ・バルビエ、ジュリアーノ・リベイロ・サルガド 
音楽:ローラン・プティガン

2014/フランス・ブラジル・イタリア/110/DCP/カラー/原題:The Salt of The Earth/
配給:RESPECT(レスペ)×トランスフォーマー 

宣伝:Lem

2015年8月21日金曜日

『マッサン』とスコットランド民謡

柳原良平さん他界のニュース。
サントリーの「アンクルトリス」の生みの親として、ウイスキーを日本人にもなじみある存在に変えていきました。

昨年NHKで放送されたドラマ『マッサン』を見たとき、柳原さんのことをふと思い出していました。

***********************************************
『マッサン』の主人公・エリーが歌う、スコットランド民謡


201410月から半年間放送された、NHK連続テレビ小説『マッサン』。
国際結婚がめずらしかった時代、日本でウイスキーづくりをめざす日本人の夫と結婚し、はるばるスコットランドからやってきた女性、エリー(シャーロット・ケイト・フォックス/ Charlotte Kate Fox )が主人公だ。

洗濯物を干しながら口ずさんでいた『麦畑』
そして『蛍の光』、『マイ・ボニー』
夫婦で見つめ合いながら歌った『The Water is Wide ( There is a Ship)』。
晩年、川辺でひとりたたずんで歌う『The Parting Glass』。

エリーがうたう数々のスコットランド民謡に、なぜこんなにも心安らぐんだろうか。

 日本に住む私たちにとって、スコットランドの調べはとても身近だ。『蛍の光』は、多くの学校の卒業式で歌われているが、店が閉店するときに流れることも多くて、その印象の方が強いかもしれない。

 スコットランドの人々とともに新大陸アメリカに渡ったスコットランド民謡が、カントリー、ポップスやロックなどに大きな影響を与えていったことは間違いない。スコットランド民謡が耳に心地よく響くのは、私たちを取り囲む音楽のルーツだからかもしれない。
 あるいは、スコットランドに住んでいたケルト系の人々のルーツをたどると、どこかで日本の私たちと重なることもあり得るのかもしれない。

 大胆で気品あふれるスコットランド女性・エリー。「人生は冒険旅行」という彼女の一途さとその優しい歌声に、荒波を乗り越える勇気を教えてもらった。

******************************************

柳原良平さんと言えば、「ウイスキー」、そして「船」。一見関係のなさそうな2つのものでしたが、『マッサン』を見ていくと、1つの線になっていきました。

2006年、柳原良平さんとお会いし、記事を執筆させていただいたことがあります。
その過去の取材記事の中から、この一節を取り上げたいと思います。


かつて世界中の海原を航海していた海軍の軍艦や日の丸を付けた商船は戦争によって壊滅しました。敗戦によって、日本人は海や船への関心を失ってしまった。このときから日本人の海事思想はなくなったのだと私は思うのです。 資源の乏しい日本は、衣食住の原料を海外に頼り、自分たちの作った製品を海外に輸出して国を成り立たせています。それには船が欠かせない。日本人の生活を支えているのは今でも船なのです。そのことをぜひ忘れないでもらいたいです」

2015年8月19日水曜日

『プレイ・タイム』( Play Time) その1


横浜にゆかりあるイラストレーター、柳原良平さん他界のニュースが入りました。
大の船好きだった柳原さんの船への思いとその言葉が、これからもずっと残っていきますよう。

************************************************
『プレイ・タイム』( Play Time)  その1

--タチヴィルと横浜みなとみらい21--


ジャック・タチ(Jacques Tati)の集大成ともいわれる『プレイ・タイム』(原題:Play Time)。

この映画を観たとき、不思議な懐かしさを感じたのを今でも覚えている。
映画の全編をとおして流れる空気が、とても身近に感じられたからだ。
なぜなんだろう?
しばらく考えた。そして気づいた。

まるで「みなとみらい」を訪れたときのような感覚だったからだ。少なくとも私にはそう感じられた。
 
横浜・みなとみらい21(MM21)…… 地元の人も、そうでない人も、ここでは同じような距離で迎え入れてくれる。温かすぎず、冷たすぎず、そして高級すぎず、かといって庶民的になりすぎない、そんな不思議な場所。

ジャック・タチは、『プレイ・タイム』の撮影にあたり、大がかりなセットをパリの郊外に建築した。まるでひとつの街のようなこのセットを人々は『タチヴィル』と呼んだ。1967年公開の作品で登場するガラス張りの高層ビルは、21世紀の今であっても違和感がまったくない。むしろ今でこそしっくりとなじむ。当時、「モダン」と表現されたであろう風景の中にも、ノスタルジックなパリがちらりと見える、その瞬間が可愛い。グレイッシュなトーンの中で映える街角の花屋もそのひとつ。

エッフェル塔と回転木馬(Paris, France) 


 『プレイ・タイム』には、遊園地の回転木馬を彷彿させる、素敵なシーンがある。近代化に突き進まざるを得ない私たち。それでも、心の片隅にはちゃんと「こどもごころ」が残っていることをタチが教えてくれているような、そんなシーンだ。

 みなとみらいの一角にある小さな遊園地、『よこはまコスモワールド』。入場は無料。アトラクション利用のときにチケットを購入する仕組みになっているため、回転木馬(メリーゴーランド)を間近に見ることができる。回転木馬がさりげなくたたずむ、フランスの街なかのような親近感が嬉しい。回転木馬の前方には、横浜グランドインターコンチネンタルホテルが。ヨットの帆をイメージしてデザインされた曲線と白い外観は、近未来的な魅力にあふれている。この場所に立ったとき、即座に思い出したのが『タチヴィル』だった。

インターコンチネンタルホテルと回転木馬(横浜・みなとみらい)


 ジャック・タチが天へ召されたのは1982年。『みなとみらい21計画』は、ちょうどこの頃から具体的な動きが始まった。そして1989年、この地でYes’89(横浜博覧会)が開催される。できれば、このときまでタチに生きていてほしかった。博覧会でにぎわうみなとみらいを訪れ、感想を聞くことができていたら、とときどき思う。



 (c)  Les Films de Mon Oncle - Specta Films C.E.P.E.C.



2015年8月15日土曜日

名画座『ギンレイホール』

名画座『ギンレイホール』

 ロードショーで見逃してしまった作品、もう一度見直してみたい作品があったとき、名画座にふらりと立ち寄る、そんな時間の過ごし方がある。
Blu-rayDVDという選択肢がある今では、名画座はちょっとだけ贅沢なアイテムのひとつになりつつあるのかもしれない。

そんな名画座のひとつが、飯田橋の『ギンレイホール』。今年で、創立41周年となる。

名画座は、1作品観るともう1作品(あるいはそれ以上)楽しむことができる場合が多い。名画座からおすすめの映画をプレゼントされるような、そんなワクワクした気持ちも楽しめる。

 今日から上映が始まったのは『博士と彼女のセオリー』(原題: The Theory of Everything)と『6才のボクが、大人になるまで。』(原題:BOYHOOD)2本。当館の支配人・久保田芳未さんは、アカデミー賞授賞式で注目された2本を映画を、大きなギフトボックスに1つにまとめ、リボンで束ねてくれた。

「どちらか一方を観たくて来られたお客様が、もう一方の作品の方がよかったと言ってくださることもあります」と語る久保田さん。窓口で、館内で、自由に感想を述べることができるほど、観客とスタッフとの距離は近い。「よかったという感想もあれば、なぜここでこの映画を上映するんだ、といったお叱りもあり、日々学ばせていただいています」。ときにはあの映画がよかったから、ここでもぜひ上映してほしいという声も。
「ギンレイホールは、お客様に支えられ、育てられている映画館です」。ここには、『ギンレイシネマクラブ』というシステムがある。入会して定額を支払うと1年間、自由に映画を鑑賞できるというパスポートだ。多くの会員は、「なじみ」となってさまざまな声をスタッフに届けてくれる。そんな会員たちの支えはとても大きい。

 上映の入れ替え時には、久保田支配人をはじめ、スタッフが館の出入り口で観客を出迎えてくれる。この温かな「おもてなし」も、名画座の魅力のひとつだ。

暑さ続きの毎日、名画座で涼を取るというのも、風情があっていい。

<本ブログ内リンク>

『博士と彼女のセオリー』
http://filmsandmusiconmymind.blogspot.jp/2015/08/8-15-theory-of-everything-67-5-however.html

6才のボクが、大人になるまで。』 その2
http://filmsandmusiconmymind.blogspot.jp/2015/08/12-8-blu-ray-8-15-2-6-boyhood-2014-12.ht

6才のボクが、大人になるまで。』 その1
http://filmsandmusiconmymind.blogspot.jp/2015/07/6boyhood.html

<公式サイト>

ギンレイホール