2017年7月31日月曜日

『天使の入江』(La baie des anges)

ジャンヌ・モロー(Jeanne Moreau)さん他界の知らせが入りました。

東京のシアター・イメージフォーラムで上映されている『《特集上映》ドゥミとヴァルダ、幸せについての5つの物語』が始まって1週間あまり。この5つの物語の1つが彼女がヒロインを演じる『天使の入江』です。

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『天使の入江』(原題:La baie des anges  1963年仏)
(監督:ジャック・ドゥミ 音楽:ミシェル・ルグラン)

 「天使の入江」。この美しい名前は、フランス南東部の港町、ニースの地中海に面した湾の名前だ。舞台は、この天使の入江にあるカジノ。ギャンブルにのめり込んで行く2人の男女、ジャン(クロード・マン)とジャッキー(ジャンヌ・モロー)を、ドゥミ監督はまるでアダムとイヴのような無邪気さで描く。

Ccinē tamaris 1994

 平凡な生活から冒険に挑もうとパリからニースにやってきたジャン。厳格な父と決別した彼は、ニースで、ギャンブルが理由で夫と子供を捨てたジャッキーと出会う。孤独と自由を共有しながら、2人はカジノで束の間の勝利に酔いしれるが・・・・・・
映画の節目節目で流れる、ミシェル・ルグランのピアノ曲がなんとも切ない。

 この映画が製作された1963年といえば、ちょうどアメリカでも『酒とバラの日々』(Days of Wine and Roses)がつくられた頃だ(1962)。印象的なのは、どちらの作品も、地獄から最初に這い上がろうとするのは女性でなく男性だということだ。男尊女卑を意味するのでもなく、フェミニズムを否定するのでもなく、男性が男性としての誇りを自然に持つことができたのが、その時代だったのだろうか。古風な人間と言われてしまうかもしれないけれど、そんな「男性の誇り」を、詩的に、さりげなくフィルムにおさめてくれたドゥミ監督に「ありがとう」と言いたい。

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ジャンヌ・モローさん、数々の映画で、すてきな演技をありがとうございました。
  
  

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《特集上映》ドゥミとヴァルダ、幸せについての5つの物語

『ローラ』(LOLA)その1(反戦への思い)


『ローラ』(LOLA)その2(シングル・マザーへのまなざし)


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《特集上映》ドゥミとヴァルダ、幸せについての5つの物語
シアター・イメージフォーラム作品紹介ページ


2017年7月29日土曜日

『ローラ』(LOLA)その2

『ローラ』(原題:LOLA/1961年仏)その2
(監督:ジャック・ドゥミ 音楽:ミシェル・ルグラン)

 港町、ナント。寄港したアメリカの軍艦から降りる水兵たちの前を、1台の高級車が通り過ぎるところから物語は始まる。

 この町の生活に辟易する青年、ローラン(マルク・ミシェル)は、読書に夢中になりすぎて遅刻を重ね、会社をクビになる。自分探しの旅に出ようと考えていたとき、幼なじみのローラことセシル(アヌーク・エーメ)と思わぬ再会をする。幼い息子を抱え、キャバレーの踊り子として生きる彼女に「愛している」と打ち明けるローラン。しかしローラは息子の父親である水兵・ミシェルの帰還を7年間信じ、これからも待ち続けたいと目を輝かせる……わずか3日間の人間模様。主人公のローランとローラの関係を軸に、さまざまな人物が出会い、すれ違う。カフェで、本屋で、街角で、人々が交わす短い会話は、どれもさりげなくて温かい。
 祭りの日、水兵フランキー(アラン・スコット)と少女セシル(アニー・デュペルー)が遊園地で無邪気にはしゃぐシーンが、まるで一編の詩のよう。



(c) mathieu demy 2000

『ローラ』は、東京のシアター・イメージフォーラムで始まった特集上映 ドゥミとヴァルダ、幸福についての5つの物語の中の1作として722日(土)に初上映された。上映後に行われたトークショーで、秦早穂子さんは、ジャック・ドゥミ監督の作風はロマンチックと思われているが、実は当時の社会問題がさりげなく描かれていると語る。主人公のローラはシングルマザー。妊娠や出産、そして堕胎は、当時の女性たちにとって今まで以上に切実な問題だった。この映画を見終わった後、ほっとした気持ちになるのは、ドゥミ監督自身が心の温かい人だったからなのだろう。等身大のドゥミやヴァルダと接し、リアルタイムで見守ってきた秦さんの言葉からも、そのことが十分に伝わってくる。



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《特集上映》ドゥミとヴァルダ、幸せについての5つの物語

『ローラ』(LOLA)その1(反戦への思い)


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2017年7月23日日曜日

柴原薫さん(海外で活躍する日本のアーティストたち)

海外で活躍する日本のアーティストたち

柴原薫さん

初めてこの写真に遭遇した人はどんな印象を持つんだろう。
そこにあるのは、美しい花々……だけではない。
ぎょろりとした大きな目玉が、一人格として存在する。
ああ、この目玉さえなければなあと思う人もいるかもしれない。
でも、この目玉君と逢瀬を重ねるうち、ただ花だけが美しく存在する写真に
物足りなさを感じてくる人の方が多いのではないだろうか。

これは、医療用の義眼。
作者の柴原さんは医療用の歯などでも撮影を試みたが、結果的に義眼で落ち着いた。

1993年、目玉君初登場の作品


この目玉君のシリーズが発表されたのは1993年。2000年には、本格的にシリーズ化された。ゲゲゲの鬼太郎の目玉おやじよりは後だが、モンスターズ・インクのマイク・ワゾウスキよりは先の誕生だ。毎年、年末の銀座で個展が開かれ、ファンたちの年末行事として喜ばれている。

あるとき、柴原さんは、「パリで個展を開かないか?」と現地の画廊商から誘いを受ける。個展は、”Rencontre inttendue avec les yeux charmants!”というタイトルで、2013531日から2013613日までパリのGalerie SATELLITE2で開催され、多くの支持を得た。(英タイトル: ”Encounter with unique lovely eyes!”

 海外のアーティストからこんな話を聞くことがある。
「なぜ日本人は冒険しないんだろうか?」
崖っぷちに立ったぎりぎりのところに、真の芸術があるのに、日本のアーティストはそこに手を伸ばすことをしたがらない、と。崖から落ちて失敗することを「恐れている」のか、あるいは、観客に失敗作を見せるような「失礼」なことをしたくないというプライドか。他の国々のアーティストに比べると、多くの日本のアーティストは作品を無難に落ち着かせる傾向があるように思える。

「義眼」と「花」を組み合わせるという柴原さんの冒険が、少しでも日本の若い世代に勇気を与えますよう。

2000年、目玉君がシリーズとなった記念すべき第1作
ここから、「目玉×花」というアプローチが始まる。


柴原薫さんのクラウドファンディングサイトはこちら


柴原薫さん公式サイト(KAO'RU® Shibahara

2017年7月19日水曜日

ドゥミとヴァルダ、幸せについての5つの物語


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今年のパリ祭は大きな事件も事故もなく、無事に終わったようです。
かつて、この日が近づくとわけもなく嬉しい気分になる私でしたが、この数年は、この日が何事もなく終わることに安堵するようになりました……


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《特集上映》ドゥミとヴァルダ、幸せについての5つの物語
(JACQUES DEMY et AGNES VARDA: 5 FILMS sur le bonheur)

 古くなったもの。時間が経ったもの。
 そんなものがむしょうに恋しくなることがある。
 ダイヤル式の黒電話。
 100年近く前のジャズ。



少し色が変わった分厚い本。古いものには、古いものにしかない味がある。
少しずつ色あせていく藍染めのような風合い。
ノスタルジイと安堵感の混ざり合った優しい刺激……

ジャック・ドゥミとアニエス・ヴァルダの映画は、私たちをそんな世界にいざなってくれる。ヌーヴェルヴァーグを率いた2人は、活躍当時、多くの映画人に影響を与え、多くの映画ファンを喜ばせた。そして時代が経った今も、私たちに「古きよきもの」に対する静かな感動を届けてくれる。

ジャック・ドゥミ監督による『ローラ』と『天使の入江』、そしてアニエス・ヴァルダ『ジャック・ドゥミの少年期』、『5時から7時までのクレオ』、そして『幸福』。この映画を見ようと涼しい映画館に入るときの気持ちは、宝石の入っているオルゴールをそっとあけるときのような気持ちと似ているような気がする。





7月22日(土)より、シアター・イメージフォーラムほか全国順次公開
配給:ザジフィルムズ




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『ローラ』(LOLA

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