2017年8月31日木曜日

『セザンヌと過ごした時間』(Cezanne et moi)

暑い日が続きますが、夜には秋の虫の音が聞こえるようになりました。
「芸術の秋」にふさわしい映画が、9月2日(土)から上映されます。

***********************************************

『セザンヌと過ごした時間』(原題:Cezanne et moi)

 ポール・セザンヌ(ギヨーム・ガリエンヌ)。そしてエミール・ゾラ(ギヨーム・カネ)。二人の出会いは少年時代にさかのぼる。中学校でいじめにあうゾラをセザンヌが助けたことが始まりだった。銀行家の息子として裕福な生活を送るセザンヌ。貧しい母子家庭のゾラ。そんな離れた境遇を超え、お互いの感性に惹かれ合う二人。エクス=アン=プロヴァンスのさんさんと降り注ぐ太陽のもとで、二人は友情を育んでいく。作家として早々と成功をおさめるゾラに対し、セザンヌはサロンに出品するたびに落選を続ける。父親からの仕送りを断たれたセザンヌを、経済的に支えることで友情を示すゾラ。けんかっぱやく荒れた生活をしながらも、セザンヌは絵筆を手放すことはなかった。そしてまた、ゾラの人生に助言を与える誠実さも失わなかった。



フランス映画祭2017で来日した、
ダニエル・トンプソン監督
(2017年6月24日有楽町朝日ホールにて撮影)

 ギヨーム・ガリエンヌに声をかけたダニエル・トンプソン監督は、当初、彼にエミール・ゾラの役を考えていたという。しかし、ガリエンヌが自ら希望したことからセザンヌ役に変更。生命力と躍動感に溢れるセザンヌを演じたガリエンヌの素晴らしいこと!この映画を観た後、セザンヌの絵画を観に行くことができたら、どんなに豊かな時間を過ごせるだろうか。映画の原題” Cezanne et moi” (セザンヌと私)にあるように、この映画に一貫して流れるのはゾラの視点で、脚本はまるでゾラの小説のよう。セザンヌよりも先に成功し、セザンヌよりも先に死を迎えたゾラ。映画は彼の謎の死に直接触れていないが、映画の後の二人を想像させるほどの奥行きを感じさせてくれる。 

****************************************************

※ 1111日にジャック・ドワイヨン監督映画『ロダン カミーユと永遠のアトリエ』(原題:Rodin) の上映が控えています。ここにもセザンヌが登場する1シーンがあります。(別の役者が演じています)。2つの映画を観ると、この時代のフランスの芸術シーンがどれだけ大きな影響を与え続けているか、頭でなく心で知ることができます。


監督: ダニエル・トンプソン
脚本: ダニエル・トンプソン
製作: アルベール・コスキ
撮影: ジャン=マリー・ドルージュ
美術: ミシェル・アベ=バニエ
出演: ギョーム・ガリエンヌ  ギョーム・カネ  アリス・ポル
     デボラ・フランソワ  フレイア・メーバー  ほか

2016/原題: Cezanne et moi/フランス/114

配給:  セテラ・インターナショナル


2017年8月20日日曜日

『エル ELLE』(Elle)

『エル ELLE』(原題:Elle)

 ミシェル(イザベル・ユペール)は、新鋭ゲーム会社の社長として君臨、ひとり息子も成人し、裕福なひとり暮らしを謳歌していた。ある日、自宅に覆面の男が侵入し、レイプされてしまう。

© 2015 SBS PRODUCTIONS – SBS FILMS–
 TWENTY TWENTY VISION FILMPRODUKTION –
 FRANCE 2 CINÉMA – ENTRE CHIEN ET LOUP

 警察への届け出をすすめる別れた夫や友人たち。しかし彼女はそれを拒み、自らの力で身を守る術を探し始める。自分に恨みを持つ人物と言えば……同僚、部下、そして自分の父親が起こした過去のおぞましい事件の被害者たち。毅然とふるまうミシェルだが、心の中には止まった時計を持つ小さな子供がいて、しくしくと泣いているのが見える。東京・有楽町朝日ホールの『フランス映画祭2017』で本作が日本で特別上映された際、来日したイザベル・ユペールは「いちばん印象に残っているシーンは?」という会場からの質問にこうこたえた。「小鳥が死にそうなシーンです」と。殺人や暴力、裏切りが大胆に描かれるこの映画の中で、何の違和感のなく登場する何気ないシーン。小さな命を救おうと尽くすミシェルを知ると、人間の心がいかに複雑でいかに繊細かが伝わってくる。原作は『ベティ・ブルー/愛と激情の日々』で知られるフィリップ・ディジャン。当初、ポール・ヴァーホーヴェン監督は、アメリカでの製作を考えていたが、多くの女優が主人公ミシェルを敬遠、キャスティングは難航していた。そんな中、イザベル・ユペールから「主人公を演じたい」という申し出があり、この作品は原作者のいるフランスへと里帰りすることになった。一歩踏み外すと、血の気の多いサスペンス映画とくくられてしまいがちなストーリー。それが、何層にも積み重ねられた人間ドラマとして完成したところにフランスの土の匂いを感じる。そして、ヴァーホーヴェン監督が第二次世界大戦後のオランダで育ったということも、書き加えておきたい。



© 2015 SBS PRODUCTIONS – SBS FILMS– TWENTY TWENTY VISION FILMPRODUKTION –
 FRANCE 2 CINÉMA – ENTRE CHIEN ET LOUP


原作: フィリップ・ディジャン
製作: サイド・ベン・サイド ミヒェル・メルクト
監督:ポール・ヴァーホーヴェン
脚本:デビッド・バーク
出演:イザベル・ユペール  ロラン・ラフィット  アンヌ・コンシニ  
   シャルル・ベルリング  ヴィルジニー・エフェラ  ジョナ・ブロケ ほか

2016/原題: Elle/フランス/ 131/PG12(映倫区分)

配給: GAGA
http://gaga.ne.jp/elle/


8月25日(金)、TOHOシネマズ シャンテ他全国ロードショー


<本ブログ内リンク>

(イザベル・ユペールさんのコメント)

フランス映画祭速報2『夜明けの祈りが始まる』
http://filmsandmusiconmymind.blogspot.jp/2017/06/2017-les-innocentes.html



(イザベル・ユペールさん主演映画)

『アスファルト』その1(原題:Asphalte)

『ロスト・イン・パリ』(Paris pieds nus)

ヒロシマ、ナガサキ、終戦記念日。歴史だけでなく、大雨の被害や夏休みでの事故など、リアルタイムの悲しいニュース。蝉しぐれが鎮魂歌のように聞こえる毎日です。そして、スペインのテロ事件。こんな時期だからこそ、思い切り笑ってほしい。私たちひとりひとりの「笑い」が集まれば、大きなエネルギーになって、地球の自転の方向だって変えられるかもしれない。そう思うと、世界が平和になることがものすごく簡単に思えてくるのです。
この映画で思い切り笑ってください。

**********************************************

『ロスト・イン・パリ』(原題:Paris pieds nus)

始まりは、カナダの小さな村。降りしきる雪の中にある小さな図書館で、フィオナ(フィオナ・ゴードン)は今日も司書の仕事を地道にこなしている。そんな彼女の生活を一変させたのが、1通の手紙だ。それは、パリに住むおば・マーサ(エマニュエル・リヴァ)からフィオナへのSOSだった。ひっこみ思案のフィオナは、おばを助けるためバックパッカーとなって夏のパリを訪れるが、彼女を迎えてくれたのはマーサではなく、ホームレスのドム(ドミニク・アベル)をはじめとする面白おかしいパリの住人たちだった。監督・脚本・製作・主演は、現役の道化師として活躍するドミニク・アベルとフィオナ・ゴードン。セーヌ川、自由の女神、エッフェル塔・・・・・・そんな当たり前すぎるパリのアイテムたちを、道化師ならではの切り口で演出していくところが気持ちいい。カナダの図書館のポップな色彩もすてき。ジャック・タチが大好きな人は、きっとこの映画も好きになるんじゃないかしら、と思う。アベル&ゴードンの息の合った芝居はもちろんだけれど、見逃してはいけないもうひとりの主役が、おば役のエマニュエル・リヴァ。年を取ってもこんなチャーミングに生きていられるなんて、さすがパリ!




(※エマニュエル・リヴァさんは、映画完成の翌年の2017127日、89歳で天に召されました。映画でのすてきな笑顔、ありがとうございました)


監督: ドミニク・アベル  フィオナ・ゴードン
製作: ドミニク・アベル  フィオナ・ゴードン  シャルル・ジリベール
出演: フィオナ・ゴードン  ドミニク・アベル  エマニュエル・リバ
     ピエール・リシャール  フィリップ・マルツ  ほか

2016/原題: Paris pieds nus/フランス・ベルギー/83

配給: サンリス

<本ブログ内リンク>

大道芸の育つ街、ヨコハマ その2

大道芸の育つ街、ヨコハマ その1

☆下記の2作品は、ジャック・タチ監督作品です。

『プレイ・タイム』( Play Time)  その1
--タチヴィルと横浜みなとみらい21-- 


『ぼくの伯父さん』
--Monsieur Hulot と寅次郎--