2023年9月26日火曜日

『ジャン=リュック・ゴダール 反逆の映画作家(シネアスト)』 (原題:Godard seul le cinema)

『ジャン=リュック・ゴダール 反逆の映画作家(シネアスト)』

(原題Godard seul le cinema 2022年フランス

監督:シリル・ルティ 

 

「カメラ万年筆ではない、まるでカメラ絵筆のよう」

彼の映像を、こう語る人がいる。

『勝手に逃げろ/人生』<原題:Sauve qui peut (la vie)1シーンがさっと流れる瞬間、「映画」という手法の果てしない可能性にはっと気付かされる。可能性、それは希望。ジャン=リュック・ゴダールという人は、希望を追い続けた人だったのだと知る。

政治活動に熱心な人、反逆の人というイメージを持たれがちだが、「子供のような笑顔が素敵だった」、「彼の笑顔が大好きだった」と語られるように、心の奥に純真無垢で繊細なものを秘めていた人だったのだろう。そんな人だから、カメラの向こうにうつる子供たちの表情も愛おしい。

 映画の冒頭で流れる彼の言葉が忘れられない。

 

ET MÊME SI RIEN NE DEVAIT ÊTRE COMME NOUS L’AVIONS ESPÉRÉ,

CELA NE CHANGERAIT RIEN À NOS ESPÉRANCES 

「たとえ希望が叶わなくても、我々は希望を持ち続ける」(字幕:齋藤敦子)

 



                                         ©10.7 productions/ARTEFrance/INA – 2022

  


出演:マーシャ・メリル、ティエリー・ジュス、アラン・ベルガラ、マリナ・ヴラディ、ロマン・グーピル、ダヴィッド・ファルー、ジュリー・デルピー、

ダニエル・コーン=ベンディット、ジェラール・マルタン、ナタリー・バイ、

ハンナ・シグラ、ドミニク・パイーニ



<公式サイト>


『ジャン=リュック・ゴダール 反逆の映画作家(シネアスト)』

http://mimosafilms.com/godard/


配給:ミモザフィルムズ


               ©10.7 productions/ARTEFrance/INA – 2022



2023年9月16日土曜日

『熊は、いない』(英題:NO BEARS )

 『熊は、いない』(原題خرس نیست/英題:NO BEARS 

監督・脚本・製作:ジャファル・パナヒ2022年 イラン)



                                                     ©2022_JP Production_all rights reserved


 

  映画監督のジャファル・パナヒ(本人役で出演)が簡素な部屋でMacbookを開いている。画面の向こうでは、ドキュメンタリー映画の撮影現場が映っている。オンラインで助監督に指示を出している途中で突然、接続が悪くなって切れてしまう。携帯の電波もつながらない。

ここは、イラン国境近くの小さな村。女の子が生まれると、へその緒を切る前に将来の夫を決めるというしきたりがあるらしい。のどかな風景、素朴な村人たち。映画はゆったりとしたテンポで進む。一瞬、コメディ映画を見ているのかと錯覚してしまう。ドキュメンタリーなのか、フィクションなのか、曖昧な空間を彷徨いながら、事態は深刻な方向へと導かれていく。


                                                     ©2022_JP Production_all rights reserved


  

20227月、ジャファル・パナヒ監督はイラン国内で拘束される。映画の中の話ではなく、実際に起きた事件だ。解放されたのは202323日、約7ヶ月にわたる拘束だった。「イランで映画を撮る」ことの重さをこの映画を通して知る。がんじがらめの状態に置かれ、それでも決して屈することなく自由と信念を貫く姿……映画が届けてくれるメッセージを、残さずしっかりと受け止めたい。



 

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パナー・パナヒ監督の長男、パナー・パナヒ監督の「君は行く先を知らない」が、825日より順次公開されています。2本合わせてぜひ。

 


 

<本ブログ内リンク>

『君は行く先を知らない』

https://filmsandmusiconmymind.blogspot.com/2023/08/hit-road.html

 

 

<公式サイト>

 

『熊は、いない』(英題:NO BEARS 

https://unpfilm.com/nobears/

 

 

『君は行く先を知らない』(英題:HIT THE ROAD

https://www.flag-pictures.co.jp/hittheroad-movie/

2023年9月7日木曜日

再)チェコ・ヌーヴェルバーグ『ひなぎく』その5

1964年に開館した「京都みなみ会館」が、2023年9月30日(土)で閉館することを知りました。

最後の1ヶ月の上映作品の中に、ヴェラ・ヒティロヴァー監督の映画『ひなぎく』が名を連ねています。明日、9月8日(金)から上映開始です。

2016年に執筆した記事を一部改稿し、再掲載いたします。

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再)チェコ・ヌーヴェルバーグ『ひなぎく』その5
(原題:Sedmikrásky/チェコ・スロヴァキア/1966/75分)
監督:ヴェラ・ヒティロヴァー(Věra Chytilová


©State Cinematography Fund


 1950年代。チェコは、旧ソ連の社会主義陣営の中にあり、少しでも抵抗すると「死刑」という道が待っていた。
 しかし、1962年頃から、ヒティロヴァーをはじめとする若い世代たちが出現。その抑圧から逃れようとする力が芸術を開花させる。その中のひとつが、 1966年の映画『ひなぎく』だ。
 1968年、「プラハの春」が始まるが、「チェコ事件」と呼ばれるソ連の軍事介入により、はかなく終わりを告げる。100人以上の死者も出たチェコ事件では、国民はその手に武器を持たず、花を持っていたそうだ。非暴力抵抗……ベルリンの壁が崩壊する30年ほど前の時代のできごとだ。
映画『ひなぎく』が世に出て、50年以上が経った。私たちはこの時代より自由になっているだろうか?より成熟した社会に生きているだろうか?

過ちをくり返してはいけないと思う。
そして、時代を逆行してもいけないと思う。

そんな思いとうらはらに、過ちは繰り返され、もしかしたら時代を逆光しているのでは、と感じることがある。

抑圧を軽やかに飛び越えたヒティロヴァー監督の知恵を、この映画から学びたい。



©State Cinematography Fund


<公式サイト>
映画『ひなぎく』
(※上映に関する最新の情報が、逐次掲載されます)


<本ブログ内リンク>

『ひなぎく その1』

『ひなぎく その2


『ひなぎく その3

『ひなぎく その4