2025年4月6日日曜日

映像と音楽の化学反応 ーフランス映画祭2025を終えてー(Festival du film français de Yokohama 2025)



「横浜フランス映画祭2025」では、フランスから来日したゲストたちが桜木町界隈を華やかに彩りました。映画祭が終わって2週間。今は満開の桜がこの場所を彩っています。


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映像と音楽の化学反応

ー横浜フランス映画祭2025を終えてー(Festival du film français de Yokohama 2025)


 映画にはさまざまな「魔法」がある。「化学反応」と言い換えてもよいかもしれない。2025320日から23日かけて開催された「横浜フランス映画祭2025」では「音楽と映像の化学反応」に心躍った。


 オープニング作品として上映された、アレクサンドル・ド・ラ・パトリエール(Alexandre de La Patellière)監督の「モンテ・クリスト伯」(The Count of Monte-Cristo)。両親を失くした娘エデが悲しげに歌う声が屋敷に響く。エデを演じるアナマリア・バルトロメイ(Anamaria Vartolomei)の憂いに満ちた佇まいと相まり、この世のものとは思えない美しさだ。古い詩をベースに書き下ろされたこの曲は、トルコ出身の歌手によるもの。磨き抜かれた声と磨き抜かれた演技による化学反応の瞬間に出会えたことは、何という幸運。

           

                  

                 アナマリア・バルトロメイさん(2025年3月22日撮影)

                     ©︎ Mika TANAKA


アレクサンドル・ローラン(Alexandre Laurent)監督の「キャッツ・アイ」(Cat’s Eyes)。エッフェル塔からセーヌ川に向かってパラシュートが飛び立つシーンで流れたのは、「テイク・オン・ミー」(Take On Me) 、ノルウェー出身のa-haによる、1980年代の大ヒット曲だ。映画の原作となった北条司氏のマンガが世に出たのも1980年代。この時代を生きた人たちは懐かしさでいっぱいだったんじゃないだろうか。ローラン監督自身、この80年代に日本からやってきたアニメ版「キャッツ・アイ」にときめいた人。もちろん、80年代のキラメキを知らない人たちにとっても、心躍るシーンに違いない。


             アレクサンドル・ローラン監督(2025年3月22日撮影)
                       ©︎ Mika TANAKA

                  



「音楽というのは、自分はひとりじゃないと思わせてくれる存在」と語るレオス・カラックス(Leos Carax)監督は、「イッツ・ノット・ミー」(IT’S NOT ME)で、デヴィッド・ボウイ(David Bowie)の曲を使った。映画祭のQ&Aでは「ボウイの曲を聴き始めたのは、9歳か10歳の頃。彼は、ずっと自分と一緒にいてくれた存在だと感じる」。そんな思いが形となった映像が印象的だ。



             レオス・カラックス監督(2025年3月22日撮影)

                     ©︎ Mika TANAKA




レア・トドロフ監督(Léa Todorov)「マリア・モンテッソーリ 愛と創造のメソッド」(Maria Montessori)では、「音楽」の存在が子供たちに大きな影響を与える。

障害を持つ娘を持つリリが弾くピアノを合わせて踊る子供たちのなんとエネルギッシュなこと。実際に障害を持つ子供たちをキャスティングしたトドロフ監督は、何度も施設に足を運び、身体表現などのワークショップを行ったという。その成果が子供たちのこの笑顔なのだろう。


              レア・トドロフ監督(2025年3月22日撮影)
                       ©︎ Mika TANAKA




 映画の制作秘話や監督・俳優たちの思いを生で聞くことができる貴重な機会。震災やコロナ禍で開催が危ぶまれながらも続いてきたこの映画祭をこれからも見守っていきたい。



            レッドカーペットに集ったゲストたち(2025年3月20日撮影)
                      ©︎ Mika TANAKA

 


<本ブログ内リンク>


フランス映画祭2022横浜を終えて

https://filmsandmusiconmymind.blogspot.com/2022/12/2022festival-du-film-francais-au-japon.html




<公式サイト>

横浜フランス映画祭2025

https://unifrance.jp/festival/2025/





「マリア・モンテッソーリ 愛と創造のメソッド」

(全国順次公開中)

http://maria.onlyhearts.co.jp/



2025年2月20日木曜日

「あの歌を憶えている」(原題:MEMORY )

 


本編のキーとなる、プロコルハルムの「青い影」。

この曲にのせて、自分自身の記憶を辿る人もきっと多いのではないでしょうか。

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「あの歌を憶えている」(原題:MEMORY )

監督・脚本:ミシェル・フランコ


 「忘れる」ということ。

 それは何を意味するのだろうか。

 忘れるのはよいことか?悪いことか?

 そのどちらでもないのであれば…… 認知症という病気に対する理解や周りの対策 は、少し違ってくるのかもしれない。


 舞台はニューヨーク。シルヴィア(ジェシカ・チャステイン)。彼女は13歳の娘と暮らすシングルマザー。ソーシャルワーカーの仕事をしている。高校の同窓会で知り合ったシルヴィアになぜか親しみを覚えるソール(ピーター・サースガード)。彼は認知症を患い、多くの記憶を失っている。ケアされるべき存在のソールだが、いつしか彼は、過去を忘れることができず今でも苦しみ続けるシルヴィアを癒す存在となっていく。何が弱者で何が強者か?誰が健常者で誰が障害者か?そんな区別は意味をなさないのだろう。

 ニューヨークは、ゆらゆらとバランスを取る天秤のような街だ。出身も個性もこだわらずに誰でも受け入れるが、街そのものは誰を守ることもしない。人を傷つけるのは人で、人を助けるのも人だ。

 「何らかの理由で社会の隙間に落ちてしまう人々についての映画を作りたかった」と語るミシェル・フランコ監督。「彼らの気持ちは、多くの場合、彼らの記憶の中にしか存在しない出来事に根ざしています」。だから、その記憶の影から逃れられるかどうか、「過去」という影からの脱出できるかどうかが鍵となるのだと。

 忘れてしまう辛さもあれば、忘れられない辛さもある。「記憶に関わる苦しみ」という、共通の痛みがシルヴィアとソールを引き寄せたのかもしれない。過去にも未来にも縛られない喜びを知ることができたら、どれだけ多くの人が救われるだろうかと思う。

 

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 エンドロールにもご注目を。挿入曲の中には「これって日本語じゃない!?」というタイトルがみつかります。


           
© DONDE QUEMA EL SOL S.A.P.I. DE C.V. 2023


原題:MEMORY/2023年/103 分/アメリカ・メキシコ/英語/シネマスコープ/5.1ch /日本語字幕:大西公子/配給・宣伝:セテラ・インターナショナル

2/21(金)より新宿ピカデリー、Bunkamuraル・シネマ 渋谷宮下ほか全国順次公開

<公式サイト>

あの歌を憶えている

https://www.memory-movie-jp.com


2025年2月10日月曜日

横浜で開催中、『手塚治虫 ブラック・ジャック展』

『手塚治虫 ブラック・ジャック展』


 2025年1月16日(木)、そごう横浜店6階にあるそごう美術館で、『手塚治虫 ブラック・ジャック展』が始まった。2023年10月に東京・六本木から始まったこの巡回展、展示内容は基本的には同じだが、展示の最後で「カミカイ」(神回)として挙げられる3作品のうちの1作は、会場がそれぞれ独自の視点で選んでいる。巡回場所によってキャッチコピーが異なるのはそのためだ。そごう美術館が選んだのは「それを聞きたかった」。このコピーで「このセリフがあるのはあの回だ!」のピンとくる人もいるかもしれない。

 今回の会場「横浜」は、ブラック・ジャック にとって大切な場所のひとつ。「港の見える丘公園」が登場するエピソードをはじめ数々のエピソードがテーマごとに展示されていて、懐かしいキャラクターたちとの再会に胸が熱くなる古くからのファンもいれば、作品誕生から50年以上の時を経ても色褪せない魅力に心躍る人もいるのでは。ブラック・ジャックが誕生した頃、作者・手塚治虫はどんな立場に置かれ、どんな心境だったか……ブラック・ジャックの誕生秘話の展示コーナーを歩くと、なぜブラック・ジャックがこんなにも多くの人に愛され続けているのか、その理由がわかるような気がする。

 ヒューマニズムに溢れた偉大な作品『ブラック・ジャック』は同時に、子供たちが思い切り楽しめる、遊び心いっぱいの「マンガ」だった。わくわくしながら、ときにハラハラドキドキしながら夢中になる子供たちの姿こそ、作者が最も大切にしていたことだったのだろう。


     

******展覧会情報************ 


会場:そごう美術館

(横浜市西区高島2-18-1 そごう横浜店 6階)

会期:2025年1月16日(木)~ 2月25日(火) 

開館時間:10:00~20:00 (入館は閉館30分前まで)会期中無休

※そごう横浜店の営業時間に準じ、変更になる可能性あり。

入館料(税込):一般:1,600円/大学生・高校生:1,400円/中学生以下:無料

     ※障がい者手帳提示の場合は、付添者1名を含め無料 

   

問い合わせ:045-465-5515

関連サイト: https://www.sogo-seibu.jp/common/museum/





2024年11月26日火曜日

「ライフ・イズ・クライミング!」(Life is Climbing)

 12月3は国際障がい者デー。

この日にちなみ、カナダ大使館で視覚障がいのある人も鑑賞できるバリアフリーの映画上映会が開催されます。


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「ライフ・イズ・クライミング!」(Life is Climbing) 89分/ 2023年
 監督:中原想吉



 トロント日系カナダ人映画祭で観客賞を受賞したこの映画は、視覚障がい者であり、視力ガイドである鈴木直也(ナオヤ)の声を頼りに岩を登るクライマー、小林幸一郎(コバ)の挑戦を追うドキュメンタリー。コバとナオヤは、IFSCパラクライミング世界選手権の全盲クラスで4度優勝するという快挙を成した最高のコンビだ。勇気、忍耐、友情……障がいがあってもなくても、私たちが生きていく中で「感じる」ことに大きな違いはないのかもしれない。 

 バリアフリー上映、上映後には主人公、小林幸一郎氏が登壇、Q&Aが実施される。


<上映会の詳細>

 

日時: 2024年12月3日(火)午後6時半~8時40分 (開場午後6時)
場所:カナダ大使館 地下2階 オスカー・ピーターソン シアター

言語:日本語(英語と日本語の字幕付)


登録フォーム

https://bit.ly/LifeClimbing

入場無料、要予約、先着順。カナダ大使館入場時には、写真付の身分証明書(運転免許証等)が必要。参加可能な人に順次メールにて通知。

問い合わせ先メールアドレス :  tokyocomm-culture@international.gc.ca



(C) Life Is Climbing 製作委員会(C) Life Is Climbing (C) Life Is Climbing 製作委員会


<映画の公式サイト>


https://synca.jp/lifeisclimbing/


2024年11月25日月曜日

「ゴンドラ」(Gondola )

今日、11月25日は「女性に対する暴力撤廃の国際デー」です。

その言葉を聞いたとき、まっさきに思い浮かんだのが公開中の映画「ゴンドラ」でした。

主人公の彼女たちのようなたくましさとしなやかさはきっと、世界中のどの女性にも備わっている潜在的な能力ではないかと思うのです。

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「ゴンドラ」(Gondola

監督:ファイト・ヘルマー(Veit Helmer


 彼女たちは決してあきらめない。

 権力に屈せず、弱者に優しく、共感することを大切にする。


                      

                       ©VEIT HELMER-FILMPRODUKTION,BERLIN AND NATURA FILM,TBILISI 


 舞台は小さな村。主人公は山の谷間を行ったり来たりする古いゴンドラ(ロープウェイ)で働く、2人の乗務員。決められたコースを単調に行き来する乗り物の窓越しで、彼女たちはお互いにコミュニケーションをとろうと試みる。はじける若さ、果てしない想像力、そしてたくましい行動力。たじろぐことなく、彼女たちは自由を求める。卑屈になることなく、堂々と生きている。

 ジョージア(旧グルジア)南部の「フロ」という小さな村にある実物のゴンドラを用い、ドイツ出身のファイト・ヘルマー監督は詩情溢れる映像をつくりあげた。台詞がないのに、いや台詞がないからこそ、彼女たちは国を超え言語を超えて、私たちの心の中にすっと入ってくるのだろう。

 

 幸せはやってくるものではなくて、自分からつかみとるもの。

 彼女たちを見ていると、自分の中で眠っている強さに気づかされる。


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 撮影はコロナ禍の2021年。ロケ地に出向いてから3ヶ月後、クルーの数は7人。

スピーディーでコンパクトな撮影がもたらした魔法は、この映画のいろいろな場面にちりばめられているようです。




<本ブログ内リンク>


「パワフルな女子2人の映画」というと、まっさきにこの映画を思い出してしまいます。

「ひなぎく」

https://filmsandmusiconmymind.blogspot.com/2015/10/sedmikrasky.html




<公式サイト>

「ゴンドラ」

https://moviola.jp/gondola/#


配給;ムヴィオラ


2024年11月23日土曜日

「チネチッタで会いましょう」(原題:Il sol dell’avvenire )

 2024年11月22日から公開が始まりました。

この映画の脚本が書かれたのは、2021年6月。そしてロシアがウクライナに侵攻したのは2022年2月24日。映画の撮影は3月初旬に始まりました。

この映画が放つメッセージから、私たちは何をみつけるでしょうか。


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「チネチッタで会いましょう」(原題:Il sol dell’avvenire

監督:ナンニ・モレッティ


 とにかくお茶目なのだ。

 この映画の主人公ジョバンニも、そして演じるナンニ・モレッティ監督自身も。

5年に一度、映画をつくるときにはジェラートを食べながらジャック・ドゥミ監督の「ローラ」(原題:LOLA)を見る。そう決めている。妻のパオラ(マルゲリータ・ブイ)も娘も辟易しているが、本人は気づかない。彼が次に撮ろうとしているのは、1956年のヨーロッパが舞台。ソ連のハンガリー侵攻、イタリア共産党員たちの苦悩……作品は重厚だが、撮影現場の状況はコメディそのもの。そのアンバランスさもまたお茶目。こだわりが強すぎて、時代に取り残されつつある老境の映画監督という役どころは、モレッティ監督自身をデフォルメしたかのよう。

 映画好きにとってはたまらなく嬉しい。ジョバンニの口から飛び出す映画の数々。海の向こうのマーティン・スコセッシ監督に電話をかけてコメントを求めるシーンでは、笑いが止まらない。ナンニ・モレッティ作品の大ファンのマチュー・アマルリックが(うさんくさい)プロデューサー、ピエール役で登場し、さらに笑いを増幅させる。フェデリコ・フェリーニへのオマージュも、もちろん。

 過去のモレッティ映画の出演者たちがぞくぞくと登場するシーンもある。モレッティ映画をずっと観てきた人には、同窓会のような懐かしさじゃないだろうか。

 原題の"Il sol dell’avvenire “は、イタリア語で「未来の太陽」という意味。

 70代となった映画監督の、「それでもあきらめない」姿勢と「映画で何かを変えよう」とする姿勢がうれしくてたまらない。


                                    © 2023 Sacher Film–Fandango–Le Pacte–France 3Cinéma 





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「ブルース・ブラザーズ」に出演したアレサ・フランクリンの歌を聴きながらジョバンニとパオラが車の中で踊るシーンと、ジョバンニとピエールが2人並んで自転車で夜の街を行くシーンがとても好きです。



<本ブログ内リンク>

ナンニ・モレッティ監督作品

「3つの鍵」

https://filmsandmusiconmymind.blogspot.com/2022/09/3-tre-piani.html




<公式サイト>


「チネチッタで会いましょう」

https://child-film.com/cinecitta