2017年7月13日木曜日

『歓びのトスカーナ』(原題:La pazza gioia)

神奈川県の津久井やまゆり園の事件から、もうすぐ1年が経とうとしています。

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『歓びのトスカーナ』(原題:La pazza gioia


(C)LOTUS 2015

  イタリアには、”Legge Basaglia”(バザリア法)と呼ばれる法律がある。
正式名称は『イタリア精神保健法』、精神科医のフランコ・バザリアによって提唱され、1978513日に公布された。精神病と診断された患者であっても、本人の意志を尊重し、強制的に精神病院に収容することを禁じ、市民生活を損なわない治療をよしとすることを法的に認める……と説明すれば少しわかりやすいかもしれない。この類いの法律としては、イタリアが世界初だ。
 とはいえ、素晴らしい法律がある国だからといって、そこが理想郷であるとは限らない。この法律を適用できるほどに社会も国民も成熟していないというのが現実だと聞く。例えば、精神病患者の自由を尊重するということは、精神病患者によって暴力をふるわれる家族がいたとしても、被害者家族は簡単に精神病患者から離れることはできないという一面もあるからだ。

 それでも……
 それでも、と思う。こんな映画がつくられ、世界へ輸出されるイタリアという国はやはり素晴らしいと。


(C)LOTUS 2015

 巨匠パオロ・ヴィルズィ監督の最新作『歓びのトスカーナ』。原題は”La pazza gioia”、直訳すると「狂気的な歓び」だ。トスカーナのさんさんと降り注ぐ日差しの中に広がるハーブ畑。女性たちが静かに、ときに笑顔で思い思いの時間を過ごしている。物語は、心に問題を抱える女性たちが集う診療施設「ヴィラ・ビオンディ」での平和な日常からスタートする。自称・伯爵夫人のベアトリーチェ(ヴァレリア・ブルーニ・テデスキ)は、おしゃれでおしゃべり。まるでおひさまのように明るい女性。ただ、虚言癖と過剰な行動さえなければ……そんな彼女のもとに現れたのが、ドナテッラ(ミカエラ・ラマッツォッティ)だ。無口で暗く、破壊的な性格。でも、自分の父親を愛し、離ればなれになった子供に会いたいと願う気持ちには何のくもりもない。
 彼女たちを見ていると、正気と狂気の境目が何なのか、わからなくなってくる。「心の病」とは、それほどに繊細で複雑なのだろう。「愛」が枯渇すると、人はたちまちのうちに心を犯され、正気と狂気の微妙なボーダーラインを降下していく。だから、私たちの誰でもが精神病になり得る可能性があり、誰でもが、人を病気に追い込む可能性があるのだろう。
 この映画から、その事実を感じ取ってほしい。
そして、心の病に苦しむ人を、自分の社会から隔離せず、理解する努力を忘れないでほしいと思う。自戒の念をこめて。


(C)LOTUS 2015

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体の障害も心の障害も、自然に受け入れることができる社会が実現しますよう。


<本ブログ内リンク>

★ブラジルの精神科医、ニーゼ・ダ・シルヴェイラの実話をもとにした映画
『ニーゼと光のアトリエ』
Nise da Silveira: Senhora das Imagens


★ヴァレリア・ブルーニ・テデスキ出演のフランス映画
『アスファルト』その2

<公式サイト>

『歓びのトスカーナ』

http://yorokobino.com



配給:ミッドシップ

78日(土)より、シネスイッチ銀座ほか全国順次公開

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