2017年8月5日土曜日

『夜明けの祈り』 その2(Les Innocentes) 

フランス映画祭2017で多くの観客の心をつかんだ『夜明けの祈り』の劇場公開が85日から始まりました。
同映画祭のトークショーで「これは過去の出来事ではありません。女性に対する暴力は、今でも戦争が起きている地域で続けられています」と語ったアンヌ・フォンティーヌ監督の言葉が忘れられません。

明日は、ヒロシマ原爆の日。それからナガサキ、終戦記念日と続きます。日本に住む私たちにとって、この時期にこの映画と出会うことは、特別な意味を持つような気がします。

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『夜明けの祈り』 その2(原題:Les Innocentes) 

 この映画は、主人公マチルド役のモデルとなった、若き女性医師・マドレーヌ・ポーリアックの手記をもとに製作された。
 製作者は2人。エリック・アルトメイヤー氏とニコラ・アルトメイヤー氏だ。アンヌ・フォンティーヌ監督は、2人と食事をしながら、こんな誘いを受けた。「こんなすごいテーマがあるんだ。断ることができると思う?」と。
 そのドラマの力強さ、深さ、人間模様に釘付けになった彼女は、迷わず監督を引き受ける。前作のシニカルなコメディ映画(『ボヴァリー夫人とパン屋さん』)とはまったく趣きの違う作品だった。
 マチルド役を決めるにあたっては、ルー・ドゥ・ラージュさんからにじみ出るカリスマ性に賭けた。第二次世界大戦直後、女性の医師は非常に少なかった。そして戦場にすすんで赴く女性はさらに少なかった。ルーさんは、そこまでの強い意志を十分に表現できる女優だった。

© 2015 MANDARIN CINÉMA AEROPLAN FILM / ANNA WLOCH

  この映画には、マチルドのほかにもう一人の主役がいる。それが、シスター・マリアだ。「信仰の始まりは、子供のようなものです。父親が手を引いてくれる。しかしいつか、その手が離され、暗闇を迷子になる。十字架は喜びの背後に必ずあります」。彼女が口を開くと、ポーランドなまりのフランス語は宝石のような輝きを放ち、若い医師マチルドを静かに導く。「信仰とは、24時間の疑念と1秒の希望です」。ルーさんが、映画の中でもっとも印象に残る言葉として挙げたのが、シスター・マリアのこの台詞だった。『夜明けの祈り』は、この映画祭で上映された12作品の中で、観客が選ぶベスト作品『エールフランス観客賞』に輝いた。愛もなく宿ったはずの子でありながら、その子たちの誕生シーンはエネルギッシュで希望に満ちている。自分の背負ったルーツをはじき飛ばすかのような、その大きな泣き声のなんと尊いこと!

  子供たちの命とシスターたちの尊厳の2つを守ろうと、最後まであきらめずに行動したマチルド。彼女が、強い意志を持つだけの人だったら、多くの命を救うことはできなかったと思う。マチルドのすばらしいところは、信念だけでなく、柔軟な発想とひらめきがあったことではないだろうか。

© 2015 MANDARIN CINÉMA AEROPLAN FILM / ANNA WLOCH


原作: フィリップ・メニヤル
監督: アンヌ・フォンテーヌ
脚本: サブリナ・B・カリーヌ
製作: エリック・アルトメイヤー  ニコラ・アルトメイヤー
出演: ルー・ドゥ・ラージュ  アガタ・ブゼク  アガタ・クレシャ  
     バンサン・マケーニュ  ヨアンナ・クーリグ  ほか

2016/原題: Les innocentes/フランス・ポーランド/115

配給: ロングライド



<本ブログ内リンク>

フランス映画祭2017速報 2
『夜明けの祈り』が始まる

フランス映画祭2017速報 1
ルー・ドゥ・ラージュさんと会う


<公式サイト>

『夜明けの祈り』

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