2017年12月23日土曜日

『ダンシング・ベートーヴェン』( Beethoven par Béjart) その2

『ダンシング・ベートーヴェン』( 原題:Beethoven par Béjart) その2
〜Fraternité への思い〜

(c)Fondation Maurice Béjart, 2015 
(c)Fondation Béjart Ballet Lausanne, 2015
 

  映画の冒頭で映し出されるスイスの雪景色と中盤で流れる紺碧の海のシーンは、まるで人間の心の奥底を映し出すよう。汗を流し、悩みながら人生を歩むダンサーたちのドラマと、ベジャールが追い求めた”Fraternité”の精神が絡み合って混ざり合って、美しい色彩の1作が完成した。Fraternité……私たちはこの言葉をどう訳し、どう理解したらよいのだろうか。日本語の既存の単語に置き換えるのはとても難しいけれど、この映画は”Fraternité”そのものを、私たちの心にダイレクトに届けてくれる。「旧約聖書の時代から、カインとアベルのように兄弟が殺し合う話があります。だからこそ、人間が持つべき理想として、Fraternitéの精神がフランスから生まれました」とアギーレ監督は語る。さらに、それが遠いフランスの精神ではなく、古くから日本で大切にされてきたHarmonization (「調和」の精神)と通じることも教えてくれる。「Fraternitéは、Harmonization(他者との調和)があって初めて成立します」と、アギーレ監督。


(c)Fondation Maurice Béjart, 2015 
(c)Fondation Béjart Ballet Lausanne, 2015
 


   本作には、日本で撮影されたシーンがいくつかある。東京バレエ団の練習風景、そして、評論家の三浦雅士さんのインタビューのシーンだ。三浦さんはそこで、ベジャールが日本文化や禅の精神に関心を持ち理解を深めていったこと、それらがベジャールの作品に影響を与えることになったことを指摘する。クラシック音楽が、harmony(音の調和)によって美を生むように、人間もまた、人と人との調和が、大きな何かを生み出していく。ドイツで生まれた交響曲が、フランス人のベジャールによって舞踊となり、スペイン出身の監督によって映画となった。それぞれの創作の過程で、作者の溢れんばかりのFraternitéの思いが伝わってくる。21世紀。戦争が続いても、テロが耐えなくても、地球の気候が大きく変わり続けても、私たちには「希望」が残されているんじゃないか。映画にはそんなメッセージが見え隠れする。


(c)Fondation Maurice Béjart, 2015 
(c)Fondation Béjart Ballet Lausanne, 2015
 

1223()よりヒューマントラストシネマ有楽町、新宿武蔵野館、
YEBISU GARDEN CINEMA他にて公開




<本ブログ内リンク>

ダンシング・ベートーベン その1
アランチャ・アギーレ監督と会う
https://filmsandmusiconmymind.blogspot.jp/2017/12/beethoven-par-bejart.html

この映画にも、Fraternitéがあふれています。
『ミルピエ ~パリ・オペラ座に挑んだ男~』(Releve: Histoire d'une creation


<公式サイト>
『ダンシング・ベートーヴェン』( Beethoven par Béjart)

振付:モーリス・ベジャール
監督:アランチャ・アギーレ
音楽:ルートヴィヒ・ヴァン・ベートーヴェン作曲『交響曲第9番 ニ短調 作品 125
出演:マリア・ロマン、モーリス・ベジャール・バレエ団、東京バレエ団、モーリス・ベジャールバレエ団芸術監督 ジル・ロマン、イスラエル・フィルハーモニー管弦楽団音楽監督 ズービン・メータ
2016年/スイス・スペイン/83分/フランス語・英語・日本語・スペイン語・ロシア語
配給:シンカ 




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