2016年8月2日火曜日

『奇跡の教室〜受け継ぐ者たちへ〜』(Les heritiers)


大阪府の池田小学校での事件から今年(2016)年で15年が経ちました。
他の国では、テロによる問題が深刻となり、今、世界のほとんどの学校は「閉ざされた空間」となっています。「こどもたちを守る」という理由から。
それでも(quand même)、パリ郊外のレオン・ブルム高校(Lycée Léon Blum)の姿勢は、すばらしいと思わずにいられません。

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映画の中のこどもたち その5
『奇跡の教室〜受け継ぐ者たちへ〜』(原題:Les heritiers)

「あなたたちを信じているのは、私だけ?」
アンヌ・ゲゲン先生(アリアンヌ・アスカリッド)のこの台詞が忘れられない。



(c)2014 LOMA NASHA FILMS - VENDREDI FILM - 
TF1 DROITS AUDIOVISUELS - UGC IMAGES -FRANCE 2 CINÉMA - ORANGE STUDIO



アンヌ先生が教鞭をとるのは、パリ郊外にある、レオン・ブルム高校。
出身・宗教などが違う、さまざまな生徒たちが集まっている。
この学校で、「落ちこぼれ」と呼ばれている、荒れたクラスの担任となったのが、このアンヌ先生だ。厳格で情熱的な歴史教師であるアンヌ先生は、クラスの生徒たちに「全国歴史コンクール」への参加をすすめるが、ほとんどの生徒が興味を示さない。アンヌ先生が提示した「ナチス」というテーマは、多くの生徒にとって難しく、身近ではない世界の話だったからだ。
ある日、アンヌ先生は、アウシュヴィッツ強制収容所の生存者であるレオン・ジゲル氏を授業に招く。生き証人の言葉を受け止めた生徒たちは、ナチスの問題を自分たちの歴史の一部として考え、コンクールに真剣に取り組み始める。

 (c)2014 LOMA NASHA FILMS - VENDREDI FILM - 
TF1 DROITS AUDIOVISUELS - UGC IMAGES -FRANCE 2 CINÉMA - ORANGE STUDIO


この映画の誕生は、本作にも出演しているアハメッド・ドゥラメ(当時18歳)が監督に送ったメールから始まる。アハメッド自身が、このクラスの卒業生で、自分自身の体験を監督に語ったことがきっかけだった。そして、映画の中盤で登場する、レオン・ジゲル氏は実名、収容所の体験談も脚色を加えない事実だ。プロの俳優と未経験者が入り交じった教室で、ジゲル氏の「真実」が、彼らの演技に与えた影響はどれだけ大きかったことだろう。

レオン・ブルム高校は実在の学校。フランス映画祭2016で来日したマリー=カスティーユ・マンシオン=シャール監督は、トークショーでこう語る。
「今では、(安全のため)扉や門を閉める学校が多い中、レオン・ブルム高校は40近くもの扉、すべてを開放しています」と。時代を逆行するかのように聞こえるけれど、この寛大さと勇気に、フランスの精神を感じずにいられない。


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つい1週間ほど前にも、神奈川県の津久井やまゆり園で、多くの入所者の命が奪われました。8月2日付の毎日新聞に掲載された、佐藤彰一・国学院大教授はこのように指摘していました。
「今回の事件の背景には、入所型施設の「閉鎖性」という問題もあるはずだ、と。
この事件を契機に施設の閉鎖性が高まれば、障害者はますます人間らしい生活を送れなくなる。地域に開かれた障害者支援を進めることが安全につながるのでは、という佐藤教授のコメントが、レオン・ブルム高校の話と重なりました。

みなさんは、どうお考えでしょうか?



 フランス映画祭2016のために来日した、
マリー=カスティーユ・マンシオン=シャール監督。
2016627日、有楽町朝日ホールにて撮影)


監督:マリー=カスティーユ・マンシオン=シャール
脚本:アハメッド・ドゥラメ マリー=カスティーユ・マンシオン=シャール
出演:アリアンヌ・アスカリッド アハメッド・ドゥラメ ノエミ・メルラン
   ジュヌヴィエーヴ・ムニシュ、ステファン・バック ほか
配給:シンカ    
2014年/原題:Les Heritiers105分/フランス語/シネスコ


<本ブログ内リンク>

『バベルの学校』その2
http://filmsandmusiconmymind.blogspot.jp/2015/07/la-cour-de-babel_6.html


『ソロモンの偽証』(前篇・事件 後篇・裁判)その2
http://filmsandmusiconmymind.blogspot.jp/2015/07/blog-post_58.html



<公式サイト>
『奇跡の教室〜受け継ぐ者たちへ〜』





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