2023年9月7日木曜日

再)チェコ・ヌーヴェルバーグ『ひなぎく』その5

1964年に開館した「京都みなみ会館」が、2023年9月30日(土)で閉館することを知りました。

最後の1ヶ月の上映作品の中に、ヴェラ・ヒティロヴァー監督の映画『ひなぎく』が名を連ねています。明日、9月8日(金)から上映開始です。

2016年に執筆した記事を一部改稿し、再掲載いたします。

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再)チェコ・ヌーヴェルバーグ『ひなぎく』その5
(原題:Sedmikrásky/チェコ・スロヴァキア/1966年/75分)
監督:ヴェラ・ヒティロヴァー(Věra Chytilová)


©:State Cinematography Fund


 1950年代。チェコは、旧ソ連の社会主義陣営の中にあり、少しでも抵抗すると「死刑」という道が待っていた。
 しかし、1962年頃から、ヒティロヴァーをはじめとする若い世代たちが出現。その抑圧から逃れようとする力が芸術を開花させる。その中のひとつが、 1966年の映画『ひなぎく』だ。
 1968年、「プラハの春」が始まるが、「チェコ事件」と呼ばれるソ連の軍事介入により、はかなく終わりを告げる。100人以上の死者も出たチェコ事件では、国民はその手に武器を持たず、花を持っていたそうだ。非暴力抵抗……ベルリンの壁が崩壊する30年ほど前の時代のできごとだ。
映画『ひなぎく』が世に出て、50年以上が経った。私たちはこの時代より自由になっているだろうか?より成熟した社会に生きているだろうか?

過ちをくり返してはいけないと思う。
そして、時代を逆行してもいけないと思う。

そんな思いとうらはらに、過ちは繰り返され、もしかしたら時代を逆光しているのでは、と感じることがある。

抑圧を軽やかに飛び越えたヒティロヴァー監督の知恵を、この映画から学びたい。



©:State Cinematography Fund


<公式サイト>
映画『ひなぎく』
(※上映に関する最新の情報が、逐次掲載されます)


<本ブログ内リンク>

『ひなぎく その1』

『ひなぎく その2』


『ひなぎく その3』

『ひなぎく その4』

2023年8月26日土曜日

『君は行く先を知らない』(原題:HIT THE ROAD)

 『君は行く先を知らない』(英題:HIT THE ROAD)

監督・脚本・製作:パナー・パナヒ(2021年 イラン)





 


                                                                                           ©JP Film Production, 2021


殺風景な景色。

1台の車。

そして車の中で繰り広げられる、なんということのない家族の会話。

運転席に座るのは寡黙な長男。助手席の母はカーステレオから流れる古い流行歌を口ずさみ、後部座席の父は片足にギブスをつけて不機嫌そうにしている。幼い次男が、3人の大人たちの憂鬱を一掃するかのように、はしゃぎまわっている。はちきれんばかりの笑顔と、万国共通の茶目っ気に心癒される……巨匠として知られるイランの映画監督、ジャファル・パナヒの長男、パナー・パナヒの長編デビュー作。ゆったりしたテンポと抑揚の少ない展開に、小津映画と再会したときのような懐かしさを感じる。「東洋」という大きなくくりの両端にいる私たちを包み込んでくれるような、あたたかい感触が嬉しい。


 

次男の少年が着ている赤いセーターがとても可愛くて、似合っていて、見入っていると、さくらんぼと花の模様が目にうつった。イランでは男の子もこんな柄の服を普通に着ることがあるのだろうかと、イラン出身の人に聞いてみたが、やはりイランでもそのセーターは女の子の柄とのこと。このセーターに奥深いメッセージがあるのか、小津監督のような芸術的こだわりあってのことなのか、たまたま演じた男の子が気に入って着ていたのか、監督に質問することができるなら、まっさきに聞いてみたい。

 

どんな国であっても、どんな時代であっても、子供たちが思い切り笑うことができる社会でありますように。

 

 

 

 

<公式サイト>

『君は行く先を知らない』(英題:HIT THE ROAD)

https://www.flag-pictures.co.jp/hittheroad-movie/

 

配給:フラッグ

8月25日(金)新宿武蔵野館、ヒューマントラストシネマ有楽町ほか全国ロードショー

2023年7月21日金曜日

ジェーン・バーキンとの思い出(Thinking of Jane Birkin )

  ジェーン・バーキンとの思い出(Thinking of Jane Birkin )

 

彼女の歌う “Fuir le bonheur de peur quil ne se sauve” という歌が好きだった。日本語タイトルは”虹の彼方“。フランス語の歌詞の中に”over the rainbow”という英語が入っている。

作詞作曲は、セルジュ・ゲンズブール。

そっと耳打ちするような彼女の声は、どこか寂しげ。その声が子守唄のようなメロディに乗せてフランス語でささやく。「幸せから逃げよう、幸せが逃げてしまわないように」と。やるせない日々が続いても、そんなやるせない気持ちを表現してくれる音楽があれば乗り切れる。“Fuir le bonheur de peur quil ne se sauve”もそんな歌のひとつだった。

 

 2011年の東日本大震災の直後、復興支援のために来日コンサートを開催したことがつい最近のことにように思える。

 

 彼女の訃報が流れた。2023年7月16日に死去。あと少しで娘のシャルロット・ゲンズブールの誕生日(7月21日)だったのに、と思う。

 8月4日には、シャルロット・ゲンズブールの初監督作品となる「ジェーンとシャルロット」(原題:Jane par Charlotte)の日本公開が控えている。ジェーン・バーキンという人が、アーティストであり、時代のアイコンである以前に、1人の女性であったこと、3人の娘の母親であったことをあらためて知る。

 

 

<公式サイト>

 

「ジェーンとシャルロット」(原題:Jane par Charlotte)

https://www.reallylikefilms.com/janeandcharlotte

 

配給:リアリーライクフィルムズ


© 2021 NOLITA CINEMA – DEADLY VALENTINE PUBLISHING / ReallyLikeFilms



2023年7月7日金曜日

『キャロル・オブ・ザ・ベル 家族の絆を奏でる詩(うた)』(原題:Carol of the Bells)

 『キャロル・オブ・ザ・ベル 家族の絆を奏でる詩(うた)』

(原題:Carol of the Bells)

監督:オレシア・モルグレッツ=イサイェンコ 



                                                                      (C)MINISTRY OF CULTURE AND INFORMATION POLICY OF UKRAINE,
                                                                       2020 – STEWOPOL SP.Z.O.O., 2020  



 

ソフィア(ヤナ・コロリョーヴァ)が外から帰ってくる。何か大変なことが起きたらしい。家で待っていたこどもたちは、一瞬、言葉をかけることができない。茫然自失のソフィアは突然、自分のよそゆきの服を脱ぎ捨て、バスタブにつける。固唾を呑む子供たち。すると、ソフィアは3人の子供たちの服も脱がせ始める……白い下着姿の4人が、痛ましい。

 物語の始まりは、1939年1月のポーランド・スタニスワヴフ(現在はウクライナ・イヴァーノ=フランキーウシク)。ユダヤ人親子4人が住む家にウクライナ人とポーランド人の家族が住むことに。ウクライナ人家族のソフィアは子供たちに音楽を教え、3つの家族は交流を深めていく。しかし、第2次世界大戦が勃発すると、つつましくも平和だった暮らしが大きく変わり、次々と悲劇が襲いかかる。

 この映画が撮影されたのは、2019年から2020年。コロナ禍を乗り越えて完成した。

2022年2月には、ロシアがウクライナに侵攻。そして、本国ウクライナでの上映が始まったのは2023年1月のことだ。多くの観客が映画館を訪れたという。

 20世紀には2つの大戦があった。そこから私たちはいったい何を学んだのだろう?21世紀となった今、なぜいまだに戦争によって物事を解決しなければならないのだろう?なぜ、ただ普通に暮らすことができない人たちが今でもいるのだろうか?

映画の中にその答えはない。探せばどこかにあるのだろうか。どこにもないのかもしれない。でも、探し続けることをやめたくはない。

 聖書に「天国は彼らのものである」という一節があるのを思い出した。映画の中に入り込むことができるのなら、まっさきにソフィアにこの言葉を届けたいと思った。


                                                                        (C)MINISTRY OF CULTURE AND INFORMATION POLICY OF UKRAINE,

                                                                       2020 – STEWOPOL SP.Z.O.O., 2020




 

出演:ヤナ・コロリョーヴァ、アンドリー・モストレーンコ、ヨアンナ・オポズダ、ポリナ・グロモヴァ、フルィスティーナ・オレヒヴナ・ウシーツカ

監督:オレシア・モルグレッツ=イサイェンコ 

脚本:クセニア・ザスタフスカ 

撮影:エフゲニー・キレイ 

音楽:ホセイン・ミルザゴリ

プロデューサー:アーテム・コリウバイエフ、タラス・ボサック、マクシム・レスチャンカ    

 

2021/ウクライナ・ポーランド/ウクライナ語/シネマスコープ/122分/ 原題:Carol of the Bells

配給: 彩プロ 後援:ウクライナ大使館 

(C)MINISTRY OF CULTURE AND INFORMATION POLICY OF UKRAINE, 2020 – STEWOPOL SP.Z.O.O., 2020

 

7月7日(金) 新宿武蔵野館、シネスイッチ銀座、アップリンク吉祥寺ほか全国公開

 

 

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『失われた時の中で』(英題:Long Time Passing)

https://filmsandmusiconmymind.blogspot.com/2022/08/long-time-passing.html

 

『長崎の郵便配達』(英題:The Postman from Nagasaki)

https://filmsandmusiconmymind.blogspot.com/2022/08/the-postman-from-nagasaki.html

 

 

<公式サイト>

『キャロル・オブ・ザ・ベル 家族の絆を奏でる詩(うた)』

https://carolofthebells.ayapro.ne.jp

2023年6月21日水曜日

『アシスタント』(原題:The Assistant)

 『アシスタント』(原題 : The Assistant)

監督・脚本・製作・共同編集:キティ・グリーン

 

差別が当たり前に横行する社会の中で、弱者が自分を守るためにできることは、自分自身が加害者になることだ。学校の現場でも、自分の身を守ろうと必死に生きるこどもが、意に反していじめの加害者側に取り込まれかねない危険がある。大人たちも同じだ。家庭で、仕事の現場で、被害者にならないためにできる選択肢は2つだ。その場から離れるか、黙すことで加害に加担するか……



                                                                                         © 2019 Luminary Productions, LLC. All Rights Reserved. 

 


 

ジェーン(ジュリア・ガーナー)は、名門大学出身。映画プロデューサーを目指し、業界有数のエンタテインメント企業でジュニア・アシスタントとして働いている。何百人もの若者が望む仕事を勝ち取ったジェーンは、地味で面倒な作業をてきぱきとこなし動きも機敏だ。しかし、表情はどこか虚だ。激務ゆえの疲れというより、釈然としない何かを抱えているようにみえる。その”釈然としない思い”は、ある出来事がきっかけとなり、はっきりした輪郭となっていく。

自分の夢を、人質のように会社に預けなければならない現実。若い女性が掲げる正義のか弱さ……どれだけの人が、ジェーンに共感できてしまうのだろうか。キティ・グリーンが同業界の多くの女性に話を聞きながら少しずつ積み上げた物語は、フィクションという形を借りているけれど、限りなくノンフィクションに近い。わずか18日で撮影された87分、私がそこから感じるのは、怒りと、それ以上の悲しみだ。娘の体を気遣う両親の存在があることに救われると同時に、娘の仕事を誇らしく思う気持ちが痛々しい。大切な家族だからこそ、言えないことがある。

 

 

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『母の聖戦』

https://filmsandmusiconmymind.blogspot.com/2023/01/la-civil.html



<公式サイト>


アシスタント

https://senlisfilms.jp/assistant/


配給・宣伝:サンリスフィルム

2023年6月11日日曜日

アストラッド・ジルベルトとの思い出 (My Days with Astrud Bilberto)

 

アストラッド・ジルベルトとの思い出

(My Days with Astrud Bilberto)

 

 ある時期、”Beach Samba” (ビーチ・サンバ)ばかり聞いていたことがある。アストラッドがスキャットで”ダーバダバッダバダバ♪“と歌っていて、サビ(というか間奏)の盛り上がるところで胸がキュンとなって、機械化された毎日から感受性を取り戻そうとするかのように、この曲に没頭していたことがあった。その頃、フィリピンの友人がいちばん好きと言っていたアストラッドの曲は、“A Certain Sadness” (ある悲しみ)というタイトルだった。聞かせてもらった後、すぐにCDを買いにいった。

 

それから何年かして、初めてパリを訪れたときとっさに浮かんだのが、アストラッドの歌う”Good bye Sadness(Tristeza)” (トリステーザ)だった。このメロディに日本語の歌詞をのせてときおり歌った。歌うたびに、パリの青い空を思い出していた。

 

アストラッドを知ったきっかけは、ポーランド出身のBasia(バーシア)が歌う”Astrud”(アストラッドへの想い)という歌。Mat Bianco(マット・ビアンコ)の好きな友人にバーシアを紹介したら、その友人がアストラッドのCDを貸してくれた。

 

ブルーノートで彼女のライブを見に行ったことがある。入口で1回目の公演が終わって、バンドメンバーとすーっと通り過ぎて、その自然体がさりげなさすぎて、まるで妖精のような軽やかさだった。

 

ボサノバを深く知っていくにつれ、英語の歌詞が物足りなくなって、やがてはジョアン・ジルベルトに行き着いた。でも、私にとって、アストラッドと過ごした日々はかけがえのない思い出として、心の宝箱にしまってある。

 

 

アストラッド・ジルベルトの訃報を知る。2023年6月5日、享年83歳。

あなたとの出会い、これからも大切にします。

 

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『イパネマの娘』(Garota de Ipanema)

https://filmsandmusiconmymind.blogspot.com/2015/10/garota-de-ipanema.html

2023年6月9日金曜日

『プチ・ニコラ パリがくれた幸せ』( 原題:Le Petit Nicolas - Qu'est-ce qu'on attend pour être heureux?)

 

 今日、6月9日(金)から東京での上映が始まりました。曇り空の1日ですが、

映画館の中は、明るさに溢れています。

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『プチ・ニコラ パリがくれた幸せ』

(原題:Le Petit Nicolas - Qu'est-ce qu'on attend pour être heureux?)



 

(c)2022 Onyx Films – Bidibul Productions – Rectangle Productions – Chapter 2



 

なんて無邪気で、なんて自由なんだろう。

プチ・ニコラに出てくるこどもたちは、やんちゃでいたずら好きで、放っておいたらとんでもないことを考え始める。やってはいけないことをついしてしまう。そしてひとたび反省の意識が芽生えると、とてつもない妄想の中で自分を罰する。それだけ奔放でいられるのは、大人たちへの「絶大な信頼」があるからではないか、と思う。

 

プチ・ニコラが生まれたのは、1955年。パリのカフェで、イラストレーターのジャンージャック・サンペが、新聞に掲載中の自分のイラストをもとに物語を書いてほしいと、盟友のルネ・ゴシニに相談を持ちかけたのが始まりだ。「君が物語を作って、僕が絵を描くのさ!」

映画では、プチ・ニコラの誕生秘話やサンペとゴシニの友情が描かれながら、プチ・ニコラたちの可愛いエピソードが流れる。ニコラの家にテレビが届いた日。親元を離れて向かう臨海学校。友達と学校をサボった日……サブタイトルの”Qu'est-ce qu'on attend pour être heureux ? “ は、「幸せになるために、私たちは何を待てばいいの?」という意味。世界中のこどもたちの幸せのために、自分たちの幸せのために、サンペはペンを走らせ、ゴシニはタイプライターを叩いた。虐待や戦争のない世の中を願って。




(c)2022 Onyx Films – Bidibul Productions – Rectangle Productions – Chapter 2



今、天国にいる2人は何を思ってこの世界をながめているだろう。

こう思った。サンペとゴシニがニコラたちの物語に託した願いをしっかりと受け止め、こどもたちが心から信頼できる大人にならなければ、と。

大人である私たち1人ひとりの意識が変われば、21世紀のこどもたちもニコラたちのようにのびのびと生きていけるはずだと思う。自戒の念を込めて。



                                                                              (c)2022 Onyx Films – Bidibul Productions – Rectangle Productions – Chapter 2


 


 

原作:ルネ・ゴシニ、ジャン=ジャック・サンペ

監督:アマンディーヌ・フルドン、バンジャマン・マスブル

脚本・セリフ・脚色:アンヌ・ゴシニ、ミシェル・フェスレー、

バンジャマン・マスブル

音楽:ルドヴィック・ブールス(『アーティスト』)

出演者:アラン・シャバ、ローラン・ラフィット、シモン・ファリ 他

原題:Le Petit Nicolas - Qu'est-ce qu'on attend pour être heureux?

フランス/2022/仏語/ビスタ/5.1Ch/86分/字幕翻訳:古田由紀子

 配給:オープンセサミ、フルモテルモ 



<本ブログ内リンク>

 

いつの時代も、やんちゃなこどもたちはかけがえのない宝ものです。

 

『プロヴァンス物語 マルセルの夏』(La Gloire de mon père)

https://filmsandmusiconmymind.blogspot.com/2018/08/la-gloire-de-mon-pere.html



<公式サイト>

petit-nicolas.jp


6月9日(金) 新宿武蔵野館、ユーロスペース他全国順次公開