2016年2月28日日曜日

『エデンの東』 (East Of Eden)


もうすぐ、第88回アカデミー賞授賞式が始まります。
今から60年ほど前の授賞式でオスカーに輝いたひとつが、この作品でした。

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『エデンの東』 (原題:East Of Eden

〜第28回(1955年)米アカデミー賞助演女優賞(ジョー・バン・フリート)受賞〜
若者が抱く愛への渇望と孤独の影


自分はいったい何者なのか?——
誰でも一生のうちに一度は、特に多感な年代にはこの疑問を抱いたことがあるはず。映画はその答を見つけようとするキャル(ジェームズ・ディーン)が、自分を生んだ母親に会いに行くシーンから始まる。父親から「母は死んだ」と聞かされていたキャルだが、ある日、それが事実ではないことを知る。そして、近くの町で酒場を営む生母、ケート(ジョー・バン・フリート)を訪れるのだ。
キャルは、父親と双子の兄弟アロンとの3人家族。正直で品行方正なアロンは父アダム(レイモンド・マッセイ)から大きな期待を寄せられるが、対照的な性格のキャルは家族の中で自分の居場所をみつけられず苦しんでいた。父親から愛されたいと切望するキャルだが、父親に気に入られようと努力してもすべてが裏目に出てしまう。なぜ自分はアロンのように愛されないのか? キャルはその答を、自分たちを産んでから失踪した母親に見出そうとする。自分は真面目な父親ではなく、奔放な母親に似たのだと。
親子、兄弟…… その関係は他人同士の関係よりも難しい。近すぎるお互いの存在はときとして素直な感情をねじ曲げてしまうこともあり得る。父親から何も求められず、期待されないキャルは、その心の傷を埋めようとするあまり、残酷な行動に出て大きな過ちを犯してしまう。
破滅へと向かう家族を救うのは、アロンの恋人アブラ(ジュリー・ハリス)だ。
「愛されないほどつらいことはありません。あなたは彼(キャル)に何も求めなかった。どうか求めてあげてください。そうすれば、彼はあなたの愛を悟ります」と病床のアダムに懇願する。キャルの心の鎖をほどいてあげてくださいと。
そしてキャルに向かって訴える。「お父様の気持ちを確かめずに去って行こうとしないで。手遅れになる前にお父様と話して。お父様の心に届く言葉を探して」と。
世の中には「なぜ?」と繰り返し問いかけたくなるような理不尽な事件が少なくない。自分自身の命を断つ、家族が家族を傷つける、「誰でもよかった」と通りすがりの知らない人に危害を加える…… そこにキャルが抱える深い孤独を垣間見る気がする。しかし、アブラのような存在がある限り、私たちの生きる社会には希望の光が残されているのではないだろうか。

この作品で彗星のごとく現れたジェームズ・ディーンは、本作が公開された年に自動車事故で24歳の生涯を閉じる。愛に飢えたキャルの面影を永遠に携え、彼は伝説のスターとなった。顔にしわの刻まれた、成熟した演技を見ることができないのが残念でならない。

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